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157・一日の終わりの夜

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 今日の最後の決闘も終えて、魔王祭の一日が終わったと実感した。
 思い返してみれば、リーティファ学園に入って以降、今まで以上に濃密な一日だった。

 昔の彼によく似た人まで見つけたし、名前も同じだった。雪雨ゆきさめとアルフの激闘を目にすることが出来て、改めて自分の非常識さを知る事が出来た。

 ……いや、知識面では常識的だと思うけど。あくまで力に関してね。

「今日は凄かったね。アルフくんと雪雨ゆきさめくんの決闘も見れたしね」
「……そうだね」

 どこか複雑そうに相槌を打っていたレイアだけれど、ため息を吐いて嫌そうな顔をした。

「悔しいけれど、認めないといけないのかも……」
「? 何が?」
「ううん、こっちの話」

 多分、レイアはアルフの実力を改めて確認して、今の自分には敵わないとでも思ったのだろう。何かと彼の事を敵視している雰囲気があったしね。
 それでも諦めた様子がないのは好ましい。向上心があるということはいい事だからね。

「レイア」
「な、なに?」

 なんでか驚いたような顔で私のことを見てきたけど、別に咎めようって気は全くないのに……。

「もし私の力が必要になったら、いつでも言ってね。鍛えてあげる事くらいは出来るから」

 私に出来る事と言ったら、それぐらいしかない。それがレイアの為なのかはわからないけど……友達として、少しは何かをしてあげたかった。

「ティアちゃん……ありがとう!」

 レイアが感激したような笑みを浮かべていた。実際は何もしてないんだけど、喜んでくれてなによりだ。

「あー、ずるい! 私も混ぜて!」
「その時は僕もお願いします!」

 そこにリュネーと雪風が加わって、たちまち賑やかになる。対してウォルカの方は、若干青ざめた表情で私の方に視線を向けていた。多分、初めて訓練の授業をした時の事を思い出したのだろう。

「どうしたんだ? そんな辛気臭い顔してたら気持ちも暗くなるぞ!」

 フォルスが元気づけようとウォルカの背中を叩くように平手打ちを繰り出して――ぎょっと驚いたウォルカが慌てて避けていた。

「ちょ! 何するんだ!?」

 驚いたまま怒鳴ったウォルカの気持ちが全くわかってないようで、むしろなんで避けるのか不思議そうな顔をしている。

「いや、元気がない時はこうやったら少しは出るだろ?」
「一般的なサイズの人と違って、打たれ弱いんだからもう少し気を遣ってくれないかな」

 ウォルカは小妖精族だから、身体が他の種族よりもずっと小さい。私達にするように背中を叩いたら、痛いどころじゃないだろう。

「そうなのか?」
「ちょっと考えたら分かると思うんだけど。ドワーフ族の男って筋肉しか詰まってないのかな?」
「そりゃあ筋肉がないと、ハンマーは振るえないからな!」

 力こぶを見せつけるようなポーズを取ってるけど、違うそうじゃない。と口に出したくなってくる。

「あの二人は何やってんだろう?」
「フォルス殿がまた見当違いな事を言っているのでしょう。学はそれなりにあるのですが、行動が伴ってないですからね」

 行動が――っていうより、本当にあの順位が正しいのか疑いそうになる程なんだけれど。あれで学年三位なんだから、世の中どうなっているのかわからない。

「なんで君が僕より成績いいのか全くわからないよ」
「授業はしっかり聞いてるからな! 数字に強くないとぼったくられるし、地理がわかってれば、自分がどこにいるかわかる。どれが役に立つかわかんねえから、しっかり覚えておかないとな!」

 わっはっは、と笑ってるその言葉には一理あるけれど、だったらもう少し真面目な発言をして欲しいものだ。

「お前ら、それくらいにしてそろそろ寮に戻るぞ」
「えー」

 アルフと雪雨ゆきさめの決闘を見た熱気が未だに冷めないのか、帰りたくない不満が周りから噴出した。

「あまりエンドラル学園の方に迷惑をかけるな。遅くなったら、食事も風呂もその分遅くなる。お前達の気持ちもわかるが、働いている者の気持ちも少しは考えろ」
「って言ってもなぁ……」

 ベルーザ先生の説得もあまり効果がなかったのか、不満そうに文句を口にするフォルス。
 どうにも子供っぽい事を言うな……とも思ったけれど、そういえば私達はまだ子供だったことを思い出した。

「だったら、私達は学園に戻りましょう。外で見てきたい人はそうすればいいわ。私だって闘技場を途中で抜け出たんだしね」
「それなら、私はティアちゃんと一緒に行く!」
「私もー」

 何気なしに口に出た言葉だけれど、なぜかフォルス以外のみんなが私の方に寄ってきてしまって、文句を言っていたフォルスが一人だけ残ってしまった。

「えー……そりゃあねえだろ」
「私はお兄様の応援もしたから疲れちゃって……」
「あの熱気にあてられて、元気なのはむしろフォルスだけだと思うよ」

 みんなに言われて流石にバツがが悪くなったのか、フォルスは頭を掻いて、気まずそうな表情を浮かべていた。

「……わかったよ。みんな帰るってのに、一人ってのもな」
「だったら最初から言わなきゃいいのに」
「うるせえ」

 茶化すリュネーに対して、フォルスは嫌そうな顔をしていたけれど、そこら辺は自業自得としか言いようがない。ちょっとひと悶着起こったけど、何事もなく学園の方に戻れそうだ。

 お腹も減ったし、少しは身体を休めたい。今日は色々な事が起こりすぎたしね。
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