157 / 676
157・一日の終わりの夜
しおりを挟む
今日の最後の決闘も終えて、魔王祭の一日が終わったと実感した。
思い返してみれば、リーティファ学園に入って以降、今まで以上に濃密な一日だった。
昔の彼によく似た人まで見つけたし、名前も同じだった。雪雨とアルフの激闘を目にすることが出来て、改めて自分の非常識さを知る事が出来た。
……いや、知識面では常識的だと思うけど。あくまで力に関してね。
「今日は凄かったね。アルフくんと雪雨くんの決闘も見れたしね」
「……そうだね」
どこか複雑そうに相槌を打っていたレイアだけれど、ため息を吐いて嫌そうな顔をした。
「悔しいけれど、認めないといけないのかも……」
「? 何が?」
「ううん、こっちの話」
多分、レイアはアルフの実力を改めて確認して、今の自分には敵わないとでも思ったのだろう。何かと彼の事を敵視している雰囲気があったしね。
それでも諦めた様子がないのは好ましい。向上心があるということはいい事だからね。
「レイア」
「な、なに?」
なんでか驚いたような顔で私のことを見てきたけど、別に咎めようって気は全くないのに……。
「もし私の力が必要になったら、いつでも言ってね。鍛えてあげる事くらいは出来るから」
私に出来る事と言ったら、それぐらいしかない。それがレイアの為なのかはわからないけど……友達として、少しは何かをしてあげたかった。
「ティアちゃん……ありがとう!」
レイアが感激したような笑みを浮かべていた。実際は何もしてないんだけど、喜んでくれてなによりだ。
「あー、ずるい! 私も混ぜて!」
「その時は僕もお願いします!」
そこにリュネーと雪風が加わって、たちまち賑やかになる。対してウォルカの方は、若干青ざめた表情で私の方に視線を向けていた。多分、初めて訓練の授業をした時の事を思い出したのだろう。
「どうしたんだ? そんな辛気臭い顔してたら気持ちも暗くなるぞ!」
フォルスが元気づけようとウォルカの背中を叩くように平手打ちを繰り出して――ぎょっと驚いたウォルカが慌てて避けていた。
「ちょ! 何するんだ!?」
驚いたまま怒鳴ったウォルカの気持ちが全くわかってないようで、むしろなんで避けるのか不思議そうな顔をしている。
「いや、元気がない時はこうやったら少しは出るだろ?」
「一般的なサイズの人と違って、打たれ弱いんだからもう少し気を遣ってくれないかな」
ウォルカは小妖精族だから、身体が他の種族よりもずっと小さい。私達にするように背中を叩いたら、痛いどころじゃないだろう。
「そうなのか?」
「ちょっと考えたら分かると思うんだけど。ドワーフ族の男って筋肉しか詰まってないのかな?」
「そりゃあ筋肉がないと、ハンマーは振るえないからな!」
力こぶを見せつけるようなポーズを取ってるけど、違うそうじゃない。と口に出したくなってくる。
「あの二人は何やってんだろう?」
「フォルス殿がまた見当違いな事を言っているのでしょう。学はそれなりにあるのですが、行動が伴ってないですからね」
行動が――っていうより、本当にあの順位が正しいのか疑いそうになる程なんだけれど。あれで学年三位なんだから、世の中どうなっているのかわからない。
「なんで君が僕より成績いいのか全くわからないよ」
「授業はしっかり聞いてるからな! 数字に強くないとぼったくられるし、地理がわかってれば、自分がどこにいるかわかる。どれが役に立つかわかんねえから、しっかり覚えておかないとな!」
わっはっは、と笑ってるその言葉には一理あるけれど、だったらもう少し真面目な発言をして欲しいものだ。
「お前ら、それくらいにしてそろそろ寮に戻るぞ」
「えー」
アルフと雪雨の決闘を見た熱気が未だに冷めないのか、帰りたくない不満が周りから噴出した。
「あまりエンドラル学園の方に迷惑をかけるな。遅くなったら、食事も風呂もその分遅くなる。お前達の気持ちもわかるが、働いている者の気持ちも少しは考えろ」
「って言ってもなぁ……」
ベルーザ先生の説得もあまり効果がなかったのか、不満そうに文句を口にするフォルス。
どうにも子供っぽい事を言うな……とも思ったけれど、そういえば私達はまだ子供だったことを思い出した。
「だったら、私達は学園に戻りましょう。外で見てきたい人はそうすればいいわ。私だって闘技場を途中で抜け出たんだしね」
「それなら、私はティアちゃんと一緒に行く!」
「私もー」
何気なしに口に出た言葉だけれど、なぜかフォルス以外のみんなが私の方に寄ってきてしまって、文句を言っていたフォルスが一人だけ残ってしまった。
「えー……そりゃあねえだろ」
「私はお兄様の応援もしたから疲れちゃって……」
「あの熱気にあてられて、元気なのはむしろフォルスだけだと思うよ」
みんなに言われて流石にバツがが悪くなったのか、フォルスは頭を掻いて、気まずそうな表情を浮かべていた。
「……わかったよ。みんな帰るってのに、一人ってのもな」
「だったら最初から言わなきゃいいのに」
「うるせえ」
茶化すリュネーに対して、フォルスは嫌そうな顔をしていたけれど、そこら辺は自業自得としか言いようがない。ちょっとひと悶着起こったけど、何事もなく学園の方に戻れそうだ。
お腹も減ったし、少しは身体を休めたい。今日は色々な事が起こりすぎたしね。
思い返してみれば、リーティファ学園に入って以降、今まで以上に濃密な一日だった。
昔の彼によく似た人まで見つけたし、名前も同じだった。雪雨とアルフの激闘を目にすることが出来て、改めて自分の非常識さを知る事が出来た。
……いや、知識面では常識的だと思うけど。あくまで力に関してね。
「今日は凄かったね。アルフくんと雪雨くんの決闘も見れたしね」
「……そうだね」
どこか複雑そうに相槌を打っていたレイアだけれど、ため息を吐いて嫌そうな顔をした。
「悔しいけれど、認めないといけないのかも……」
「? 何が?」
「ううん、こっちの話」
多分、レイアはアルフの実力を改めて確認して、今の自分には敵わないとでも思ったのだろう。何かと彼の事を敵視している雰囲気があったしね。
それでも諦めた様子がないのは好ましい。向上心があるということはいい事だからね。
「レイア」
「な、なに?」
なんでか驚いたような顔で私のことを見てきたけど、別に咎めようって気は全くないのに……。
「もし私の力が必要になったら、いつでも言ってね。鍛えてあげる事くらいは出来るから」
私に出来る事と言ったら、それぐらいしかない。それがレイアの為なのかはわからないけど……友達として、少しは何かをしてあげたかった。
「ティアちゃん……ありがとう!」
レイアが感激したような笑みを浮かべていた。実際は何もしてないんだけど、喜んでくれてなによりだ。
「あー、ずるい! 私も混ぜて!」
「その時は僕もお願いします!」
そこにリュネーと雪風が加わって、たちまち賑やかになる。対してウォルカの方は、若干青ざめた表情で私の方に視線を向けていた。多分、初めて訓練の授業をした時の事を思い出したのだろう。
「どうしたんだ? そんな辛気臭い顔してたら気持ちも暗くなるぞ!」
フォルスが元気づけようとウォルカの背中を叩くように平手打ちを繰り出して――ぎょっと驚いたウォルカが慌てて避けていた。
「ちょ! 何するんだ!?」
驚いたまま怒鳴ったウォルカの気持ちが全くわかってないようで、むしろなんで避けるのか不思議そうな顔をしている。
「いや、元気がない時はこうやったら少しは出るだろ?」
「一般的なサイズの人と違って、打たれ弱いんだからもう少し気を遣ってくれないかな」
ウォルカは小妖精族だから、身体が他の種族よりもずっと小さい。私達にするように背中を叩いたら、痛いどころじゃないだろう。
「そうなのか?」
「ちょっと考えたら分かると思うんだけど。ドワーフ族の男って筋肉しか詰まってないのかな?」
「そりゃあ筋肉がないと、ハンマーは振るえないからな!」
力こぶを見せつけるようなポーズを取ってるけど、違うそうじゃない。と口に出したくなってくる。
「あの二人は何やってんだろう?」
「フォルス殿がまた見当違いな事を言っているのでしょう。学はそれなりにあるのですが、行動が伴ってないですからね」
行動が――っていうより、本当にあの順位が正しいのか疑いそうになる程なんだけれど。あれで学年三位なんだから、世の中どうなっているのかわからない。
「なんで君が僕より成績いいのか全くわからないよ」
「授業はしっかり聞いてるからな! 数字に強くないとぼったくられるし、地理がわかってれば、自分がどこにいるかわかる。どれが役に立つかわかんねえから、しっかり覚えておかないとな!」
わっはっは、と笑ってるその言葉には一理あるけれど、だったらもう少し真面目な発言をして欲しいものだ。
「お前ら、それくらいにしてそろそろ寮に戻るぞ」
「えー」
アルフと雪雨の決闘を見た熱気が未だに冷めないのか、帰りたくない不満が周りから噴出した。
「あまりエンドラル学園の方に迷惑をかけるな。遅くなったら、食事も風呂もその分遅くなる。お前達の気持ちもわかるが、働いている者の気持ちも少しは考えろ」
「って言ってもなぁ……」
ベルーザ先生の説得もあまり効果がなかったのか、不満そうに文句を口にするフォルス。
どうにも子供っぽい事を言うな……とも思ったけれど、そういえば私達はまだ子供だったことを思い出した。
「だったら、私達は学園に戻りましょう。外で見てきたい人はそうすればいいわ。私だって闘技場を途中で抜け出たんだしね」
「それなら、私はティアちゃんと一緒に行く!」
「私もー」
何気なしに口に出た言葉だけれど、なぜかフォルス以外のみんなが私の方に寄ってきてしまって、文句を言っていたフォルスが一人だけ残ってしまった。
「えー……そりゃあねえだろ」
「私はお兄様の応援もしたから疲れちゃって……」
「あの熱気にあてられて、元気なのはむしろフォルスだけだと思うよ」
みんなに言われて流石にバツがが悪くなったのか、フォルスは頭を掻いて、気まずそうな表情を浮かべていた。
「……わかったよ。みんな帰るってのに、一人ってのもな」
「だったら最初から言わなきゃいいのに」
「うるせえ」
茶化すリュネーに対して、フォルスは嫌そうな顔をしていたけれど、そこら辺は自業自得としか言いようがない。ちょっとひと悶着起こったけど、何事もなく学園の方に戻れそうだ。
お腹も減ったし、少しは身体を休めたい。今日は色々な事が起こりすぎたしね。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる