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152・戸惑う者(アルフside)
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アルフは【ドラゴティックロア】が雪雨に向かっていくのを確認して、終わった……と確信めいた感情を抱いていた。『人造命具』を装備した状態の彼の一撃。それはあらゆるものを屠る混沌の咆哮。
だが――
「あめえ!」
鋭い一撃と共に切り裂いた雪雨は、もう一つの大刀『飢渇絶刀』を抜き放って、アルフの【ドラゴティックロア】を切り裂いた。
「なん……だって……!?」
「切り札を切るにはちょっと早かったな。その魔導は、お前だけの専売じゃないってことだ」
にやりと、笑った雪雨は、そのまま信じられないと目を疑っていたアルフに強襲を掛ける。
「おらぁぁ!」
「――っ! 【フレアミスト】!」
アルフは咄嗟に後ろに下がりながら魔導を発動させ、反撃しようとしてくる雪雨を迎撃する。炎を纏った霧が雪雨の身体を包み込むように襲い掛かる――が、それすらも彼の人造命剣によって切り裂かれてしまう。
驚愕と苦渋に満ちた表情のアルフの目に怒りの炎が灯る。
(あの御方が見ている。僕達黒竜人族が敬う聖黒族の姫君が! 敗北なんて無様を晒せる訳がない!!)
「あああああ!! 【化身解放】!!」
瞬間、アルフの全身から黒い光が放たれ、衝撃波によって雪雨を吹き飛ばしてしまう。
「な、なんだ!?」
「認めるよ、雪雨。僕は普段の状態で本気の一撃を打てば、君に勝てると思ってた。だけど――」
雪雨が動揺して足に力を入れて踏ん張っている間に、アルフの姿は変わっていく。一回り以上大きくなった彼の姿は、まさに人型の竜そのもの。リザードマン族のような爬虫類の身体に似ているが、そこに秘められた力はそれの比ではなかった。
「我が敬愛すべき姫の前で、これ以上無様な真似は見せられん。故に、この形態で相手をしよう。喜べ、黒竜人族の本気――その身体に刻み付けてやる」
【化身解放】で身体と口調が変わった彼は、その身体に合わせて大きくなった『ドラゴニティソウル』を握った。爬虫類特有の目で見下ろされた雪雨は、更なる闘志を漲らせていた。喜ぶべき強敵との戦い。それがさらに強くなるのだから、鬼神族の彼は内心から滾っていた。
わざとらしくゆっくりと起き上がって二つの大刀を構えた雪雨は、迷うことなくアルフに向かって走り出した。
「やってみろ!! てめえの全力、一滴残らず俺にぶつけてこいよぉぉぉぉ!!」
「征くぞ、雪雨ぇぇぇ!」
迎撃するように振り下ろされた一撃を、雪雨は『飢渇絶刀』で受け止め、残ったもう一太刀で首を狩る為に動く。以前のような未熟な二刀流ではなく、そこには洗練された流れがあった。
エールティアも思わず感心する程の鮮やかさで襲い掛かる斬撃をアルフは片腕を犠牲にするように防御に回した。
「甘い! 【人造命盾・ウルブライド】!」
アルフの詠唱によって発動した魔導は、防御に回った腕は似合う大きさの盾を出現させた。銀に縁取られた柔らかな白いそれには、青白い騎士の紋章が刻まれていた。気品溢れるそれは、芸術品のようにも見える。
彼の誇りを表しているかのような【ウルブライド】で『金剛覇刀』を受け止めたアルフは、口を開いて魔導を発動させる。
「【ドラゴティックロア】!」
「ちっ……!」
咄嗟に『飢渇絶刀』を引いて防御に回した雪雨だったが、それは彼にとってより事態を悪化させるだけだった。
「【オーバーアビリティ】」
アルフは【ドラゴティックロア】を囮にして、自分の身体能力を遥かに凌駕させる魔導を発動させ、瞬時に雪雨の死角に潜り込み、一気に振り上げるように斬撃を放つ。
「ぐっ……が、あああああ!!」
アルフの一閃で深い傷を負った雪雨は、決して二つの大刀を手放さず、ふらふらとよろけながらアルフを睨んでいた。
アルフは更に追撃を仕掛け、右胸に『ドラゴニティソウル』を突き刺す事に成功した。
『これは……決まりましたか!?』
『いや、まだだ!』
解説席のシューリアが身を乗り出して食い入るように見ているところ、ガルドラがゆっくりと目を閉じ、カッと見開いていた。
彼らの視線の先――そこには血を流しながらも未だに戦意が衰えない雪雨の姿があった。
「ば、馬鹿な……その傷でなおも挑もうというのか……!」
「冗談じゃねえ。やっと面白くなってきたんじゃねえか。俺は……俺はまだ戦えるぅぅぅ!!」
何も知らない者から見たら狂気のように思えるだろう。普通ならば負けを認めるであろう傷。いくら致命傷になるのを防ぐとはいえ、血が戻る訳ではない。確実に後に響く。それをわかっていてもなお、雪雨は攻撃の手を緩める事はない。
「くっ、なぜ……何故そうまでして戦いを好む」
「……ってんだろうが」
「何?」
「勝ちたいからに、決まってんだろうがぁぁぁぁぁ!!」
困惑するような声と共に放たれた魔導を、雪雨は気合と共に斬り裂いて、雄叫びと共に斬撃を続ける。それは魂の叫び。
――勝ちたい。渇き、飢えるほどに欲する程の、心の、魂の奥底から求めて止まない欲求。渇望するからこそ、何度でも立ち上がる。傷つき、ボロボロになっても、最後には必ず勝つ。それこそが雪雨だった。
アルフにはそれが理解出来ない。彼にとって、勝利とは常に誰かに――いずれ仕えるであろう聖黒族の女王に捧げる物だからだ。仕える主を守り、例えそれで散ったとしても……主が勝利したならば、アルフにとっては自分の勝利と同じものだった。
勝利とは、決して自らの為だけに死力を尽くしてもぎ取るものではない。そんな彼だからこそ、貪欲なまでに勝利を渇望する雪雨の姿が理解出来ず、戸惑うばかりだった。
そして……【オーバーアビリティ】の効果が切れ、反動がアルフに襲い掛かる。
限界を超えて酷使した身体を引きずるアルフと、死に体になりながらも戦い続ける雪雨。お互い満身創痍に近い状態になりながらも、決して足を止める事をやめない。そして……最後の攻防の幕が今、開ける。
だが――
「あめえ!」
鋭い一撃と共に切り裂いた雪雨は、もう一つの大刀『飢渇絶刀』を抜き放って、アルフの【ドラゴティックロア】を切り裂いた。
「なん……だって……!?」
「切り札を切るにはちょっと早かったな。その魔導は、お前だけの専売じゃないってことだ」
にやりと、笑った雪雨は、そのまま信じられないと目を疑っていたアルフに強襲を掛ける。
「おらぁぁ!」
「――っ! 【フレアミスト】!」
アルフは咄嗟に後ろに下がりながら魔導を発動させ、反撃しようとしてくる雪雨を迎撃する。炎を纏った霧が雪雨の身体を包み込むように襲い掛かる――が、それすらも彼の人造命剣によって切り裂かれてしまう。
驚愕と苦渋に満ちた表情のアルフの目に怒りの炎が灯る。
(あの御方が見ている。僕達黒竜人族が敬う聖黒族の姫君が! 敗北なんて無様を晒せる訳がない!!)
「あああああ!! 【化身解放】!!」
瞬間、アルフの全身から黒い光が放たれ、衝撃波によって雪雨を吹き飛ばしてしまう。
「な、なんだ!?」
「認めるよ、雪雨。僕は普段の状態で本気の一撃を打てば、君に勝てると思ってた。だけど――」
雪雨が動揺して足に力を入れて踏ん張っている間に、アルフの姿は変わっていく。一回り以上大きくなった彼の姿は、まさに人型の竜そのもの。リザードマン族のような爬虫類の身体に似ているが、そこに秘められた力はそれの比ではなかった。
「我が敬愛すべき姫の前で、これ以上無様な真似は見せられん。故に、この形態で相手をしよう。喜べ、黒竜人族の本気――その身体に刻み付けてやる」
【化身解放】で身体と口調が変わった彼は、その身体に合わせて大きくなった『ドラゴニティソウル』を握った。爬虫類特有の目で見下ろされた雪雨は、更なる闘志を漲らせていた。喜ぶべき強敵との戦い。それがさらに強くなるのだから、鬼神族の彼は内心から滾っていた。
わざとらしくゆっくりと起き上がって二つの大刀を構えた雪雨は、迷うことなくアルフに向かって走り出した。
「やってみろ!! てめえの全力、一滴残らず俺にぶつけてこいよぉぉぉぉ!!」
「征くぞ、雪雨ぇぇぇ!」
迎撃するように振り下ろされた一撃を、雪雨は『飢渇絶刀』で受け止め、残ったもう一太刀で首を狩る為に動く。以前のような未熟な二刀流ではなく、そこには洗練された流れがあった。
エールティアも思わず感心する程の鮮やかさで襲い掛かる斬撃をアルフは片腕を犠牲にするように防御に回した。
「甘い! 【人造命盾・ウルブライド】!」
アルフの詠唱によって発動した魔導は、防御に回った腕は似合う大きさの盾を出現させた。銀に縁取られた柔らかな白いそれには、青白い騎士の紋章が刻まれていた。気品溢れるそれは、芸術品のようにも見える。
彼の誇りを表しているかのような【ウルブライド】で『金剛覇刀』を受け止めたアルフは、口を開いて魔導を発動させる。
「【ドラゴティックロア】!」
「ちっ……!」
咄嗟に『飢渇絶刀』を引いて防御に回した雪雨だったが、それは彼にとってより事態を悪化させるだけだった。
「【オーバーアビリティ】」
アルフは【ドラゴティックロア】を囮にして、自分の身体能力を遥かに凌駕させる魔導を発動させ、瞬時に雪雨の死角に潜り込み、一気に振り上げるように斬撃を放つ。
「ぐっ……が、あああああ!!」
アルフの一閃で深い傷を負った雪雨は、決して二つの大刀を手放さず、ふらふらとよろけながらアルフを睨んでいた。
アルフは更に追撃を仕掛け、右胸に『ドラゴニティソウル』を突き刺す事に成功した。
『これは……決まりましたか!?』
『いや、まだだ!』
解説席のシューリアが身を乗り出して食い入るように見ているところ、ガルドラがゆっくりと目を閉じ、カッと見開いていた。
彼らの視線の先――そこには血を流しながらも未だに戦意が衰えない雪雨の姿があった。
「ば、馬鹿な……その傷でなおも挑もうというのか……!」
「冗談じゃねえ。やっと面白くなってきたんじゃねえか。俺は……俺はまだ戦えるぅぅぅ!!」
何も知らない者から見たら狂気のように思えるだろう。普通ならば負けを認めるであろう傷。いくら致命傷になるのを防ぐとはいえ、血が戻る訳ではない。確実に後に響く。それをわかっていてもなお、雪雨は攻撃の手を緩める事はない。
「くっ、なぜ……何故そうまでして戦いを好む」
「……ってんだろうが」
「何?」
「勝ちたいからに、決まってんだろうがぁぁぁぁぁ!!」
困惑するような声と共に放たれた魔導を、雪雨は気合と共に斬り裂いて、雄叫びと共に斬撃を続ける。それは魂の叫び。
――勝ちたい。渇き、飢えるほどに欲する程の、心の、魂の奥底から求めて止まない欲求。渇望するからこそ、何度でも立ち上がる。傷つき、ボロボロになっても、最後には必ず勝つ。それこそが雪雨だった。
アルフにはそれが理解出来ない。彼にとって、勝利とは常に誰かに――いずれ仕えるであろう聖黒族の女王に捧げる物だからだ。仕える主を守り、例えそれで散ったとしても……主が勝利したならば、アルフにとっては自分の勝利と同じものだった。
勝利とは、決して自らの為だけに死力を尽くしてもぎ取るものではない。そんな彼だからこそ、貪欲なまでに勝利を渇望する雪雨の姿が理解出来ず、戸惑うばかりだった。
そして……【オーバーアビリティ】の効果が切れ、反動がアルフに襲い掛かる。
限界を超えて酷使した身体を引きずるアルフと、死に体になりながらも戦い続ける雪雨。お互い満身創痍に近い状態になりながらも、決して足を止める事をやめない。そして……最後の攻防の幕が今、開ける。
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