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146・激戦の本選会場
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様々な国から集められた数十人が、たった一つの闘技場で覇を競い合う魔王祭。それは毎日昼を過ぎて、試合と休憩を夕方まで繰り返して進行していく。何日も時間を掛けて進んでいくこれは、最初の日から既に五日を経過していった。
最初の一戦は、あっけなくアルフが勝ったけれど……その後の展開はかなり見物だった。
激しい魔導の応戦が繰り広げられたり、互いの斬撃を重ね合うように切り結んだり……流石魔王祭本選。予選で見た一戦とは比べ物にならない程の濃密な試合内容が進んでいった。一つの試合を全力で応援する者も多いから、間に挟まる休憩は非常に効率的だった。
軽く食事をする時間もあるから、露店で何かを買っているの者も多い。今も私の手には、溶いた小麦粉を薄く延ばして焼いた物に刻んだ肉を乗っけて包んだ物が握られている。
ほんのり味のする皮に、香辛料で強く味付けされた肉がまた美味しい。辛すぎたり、香辛料の使い方が下手だったりすることも多いんだけれど……これは中々に良い味をしている。かなり研究を重ねて作られた『苦労』と『努力』の味がする。
「エールティア様。次の試合がそろそろ始まりますよ」
「ん。……次は誰の試合?」
「まだ半分くらいですから……私達が知らない選手ですね」
私が知っている内の一人である雪雨は、既に別の対戦者と戦って勝利している。以前見た時は……確か魔王祭予選の決勝だったけれど、あの時よりもずっと強く成長していた。
流石鬼人族。戦う事に関しての成長速度が相当早い。一試合ごとに確実に力を付けて行く彼がアルフと戦う頃にどこまで行けるか……楽しみの一つでもある。
「雪風ちゃん、まだベルン兄様が残ってるよ」
「ベルン……ああ、リュネー殿の兄上でしたね。確かに彼もまだ残っていましたね」
うっかりしていた様子の雪風に何かを言おうとしたのだけれど、会場が再び騒がしくなってきたからやめておこう。なんだかんだ言って、あの二人のやり取りが楽しみになっている自分がいるのを感じた。
『はい、今日も始まりました! 魔王祭の実況はこのあたし、シューリアと――』
『ガルドラ・カイゼルードだ』
『相変わらずガルちゃんは味気の無い自己紹介してるけど、あたしは元気いっぱい実況していくからよろしくねー!』
シューリアが愛想を振りまくと、歓声が上がって「シューリアちゃーん」と観客席のいたるところから声が響く。
『ありがとー! それじゃ、魔王祭五日目の最初の一戦――その対戦カードは、ベルンくんVSアイシアちゃんです!』
妙に敬語が混じった話し方をするシューリアが告げたこの日の最初の戦いは、正に今話していたベルンのようだ。
「お兄様ー! 頑張ってにゃー!」
にゃあにゃあ騒ぎ出したリュネーが手をぶんぶん振ってベルンを応援していた。興奮しているのか、普段隠してる語尾も全然隠せてない。
「リュネーさん、こんな性格なんだね……」
普段見られないリュネーに、ウォルカは唖然としている。彼女に取って、家族というのはなによりも大事なんだろう。だからこそ、普段以上に気合を入れて応援したくもなるんだろうね。
『二人共今会場に入りました! ベルンくんはシルケットの王子様で、かっこカワイイ感じの容姿と、人懐こい性格が女の子に人気です! 今度あたしともデートしてくださーい!』
『魔王祭が終わったらにゃー』
テンションが上がってとんでもないことを口にしているシューリアに、軽く手を振って流しているところを見ると、結構手馴れている感があ――
「リュネー、ちょっとうるさい」
「あ、にゃ、はは。ごめんなさい。つい……」
バツが悪そうに照れ笑いをして誤魔化すリュネーに苦笑しながら、再び視線を会場の方に向ける。
ベルンに相対するように出てきたのは、ドワーフ族の赤毛の女の子。少しだけそばかすがついていて、なんというか……牧場とかが似合いそうな子だ。だけど手には彼女の身の丈と同じくらいの大槌を持ってて、アンバランスな感じがする。
『さって、それじゃあ元気に解説いってみましょうかー』
デート発言から揉め事でも起こるんじゃないかと思ったけれど、彼女のファンはかなり冷静だった。近くの席に座ってる男の人の話では、頻繁にそういう事を言う女の子とのことだ。ファンは訓練されているから動じることはないとか。
よくわからないけれど、訓練してまで慣れる必要があるのだろうか? それだけ好きって事なのかもしれない。
『ガルちゃん、どうみる?』
『ベルン・シルケットは魔導の使い手で、中~遠距離からの攻撃には相当の自信があるだろう。アイシア・ルッセンドが勝利するには、魔導も使えない程の近距離戦に持ち込むしかあるまい』
『おおー、最初の一回の適当さが嘘のように色々教えてくれますね! 果たしてアイシアちゃんはベルンくんの懐に潜り込めるんでしょうか!? それじゃあ……試合、はじめちゃってください!』
シューリアの号令と共に、もう何度も見て見慣れた結界がガルドラから放たれる。
それが全てを覆い尽くしたと同時に、ガルドラの『決闘開始』の声が聞こえる。先手を打ったのは――アイシアの方だった。
最初の一戦は、あっけなくアルフが勝ったけれど……その後の展開はかなり見物だった。
激しい魔導の応戦が繰り広げられたり、互いの斬撃を重ね合うように切り結んだり……流石魔王祭本選。予選で見た一戦とは比べ物にならない程の濃密な試合内容が進んでいった。一つの試合を全力で応援する者も多いから、間に挟まる休憩は非常に効率的だった。
軽く食事をする時間もあるから、露店で何かを買っているの者も多い。今も私の手には、溶いた小麦粉を薄く延ばして焼いた物に刻んだ肉を乗っけて包んだ物が握られている。
ほんのり味のする皮に、香辛料で強く味付けされた肉がまた美味しい。辛すぎたり、香辛料の使い方が下手だったりすることも多いんだけれど……これは中々に良い味をしている。かなり研究を重ねて作られた『苦労』と『努力』の味がする。
「エールティア様。次の試合がそろそろ始まりますよ」
「ん。……次は誰の試合?」
「まだ半分くらいですから……私達が知らない選手ですね」
私が知っている内の一人である雪雨は、既に別の対戦者と戦って勝利している。以前見た時は……確か魔王祭予選の決勝だったけれど、あの時よりもずっと強く成長していた。
流石鬼人族。戦う事に関しての成長速度が相当早い。一試合ごとに確実に力を付けて行く彼がアルフと戦う頃にどこまで行けるか……楽しみの一つでもある。
「雪風ちゃん、まだベルン兄様が残ってるよ」
「ベルン……ああ、リュネー殿の兄上でしたね。確かに彼もまだ残っていましたね」
うっかりしていた様子の雪風に何かを言おうとしたのだけれど、会場が再び騒がしくなってきたからやめておこう。なんだかんだ言って、あの二人のやり取りが楽しみになっている自分がいるのを感じた。
『はい、今日も始まりました! 魔王祭の実況はこのあたし、シューリアと――』
『ガルドラ・カイゼルードだ』
『相変わらずガルちゃんは味気の無い自己紹介してるけど、あたしは元気いっぱい実況していくからよろしくねー!』
シューリアが愛想を振りまくと、歓声が上がって「シューリアちゃーん」と観客席のいたるところから声が響く。
『ありがとー! それじゃ、魔王祭五日目の最初の一戦――その対戦カードは、ベルンくんVSアイシアちゃんです!』
妙に敬語が混じった話し方をするシューリアが告げたこの日の最初の戦いは、正に今話していたベルンのようだ。
「お兄様ー! 頑張ってにゃー!」
にゃあにゃあ騒ぎ出したリュネーが手をぶんぶん振ってベルンを応援していた。興奮しているのか、普段隠してる語尾も全然隠せてない。
「リュネーさん、こんな性格なんだね……」
普段見られないリュネーに、ウォルカは唖然としている。彼女に取って、家族というのはなによりも大事なんだろう。だからこそ、普段以上に気合を入れて応援したくもなるんだろうね。
『二人共今会場に入りました! ベルンくんはシルケットの王子様で、かっこカワイイ感じの容姿と、人懐こい性格が女の子に人気です! 今度あたしともデートしてくださーい!』
『魔王祭が終わったらにゃー』
テンションが上がってとんでもないことを口にしているシューリアに、軽く手を振って流しているところを見ると、結構手馴れている感があ――
「リュネー、ちょっとうるさい」
「あ、にゃ、はは。ごめんなさい。つい……」
バツが悪そうに照れ笑いをして誤魔化すリュネーに苦笑しながら、再び視線を会場の方に向ける。
ベルンに相対するように出てきたのは、ドワーフ族の赤毛の女の子。少しだけそばかすがついていて、なんというか……牧場とかが似合いそうな子だ。だけど手には彼女の身の丈と同じくらいの大槌を持ってて、アンバランスな感じがする。
『さって、それじゃあ元気に解説いってみましょうかー』
デート発言から揉め事でも起こるんじゃないかと思ったけれど、彼女のファンはかなり冷静だった。近くの席に座ってる男の人の話では、頻繁にそういう事を言う女の子とのことだ。ファンは訓練されているから動じることはないとか。
よくわからないけれど、訓練してまで慣れる必要があるのだろうか? それだけ好きって事なのかもしれない。
『ガルちゃん、どうみる?』
『ベルン・シルケットは魔導の使い手で、中~遠距離からの攻撃には相当の自信があるだろう。アイシア・ルッセンドが勝利するには、魔導も使えない程の近距離戦に持ち込むしかあるまい』
『おおー、最初の一回の適当さが嘘のように色々教えてくれますね! 果たしてアイシアちゃんはベルンくんの懐に潜り込めるんでしょうか!? それじゃあ……試合、はじめちゃってください!』
シューリアの号令と共に、もう何度も見て見慣れた結界がガルドラから放たれる。
それが全てを覆い尽くしたと同時に、ガルドラの『決闘開始』の声が聞こえる。先手を打ったのは――アイシアの方だった。
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