134 / 676
134・素人の目利き
しおりを挟む
てっきりレイアも付いてくるものだと思っていたから拍子抜けしたけれど……たまにはこういうのも悪くない。
そんな風に思ってフォルスの方に視線を向けてみると、彼は少し前に訪れた武器屋で、一生懸命武器の方を眺めていた。
店主に許可をもらって、じっくり丁寧に一本のナイフを手に取り観察している彼の姿は、輝いて見える。
「どう? そういうのって具体的に何かわかる要素ってあるの?」
「ああ。剣身の輝き具合とか、切れ味を軽く確かめたりとか……調べようと思ったら、いくらでもあるからな」
少し誇らしげに言っていた。確かに業物というのは、その輝き自体が違うと聞く。私は自分が『人造命具』を使う事が出来るから、あまり興味はなかったけれど……これを機にもう少し興味を持っても良いかもしれない。
今は良いけれど、私だって王族の一員だ。これから先、武器の目利きを問われる事もあるだろうし、貴族同士の話で話題に上がる事もあるだろう。それを考えたら、ある程度は必要だな……と感じた。
息を吐くようにお世辞を言う事が出来れば良いけれど、そういうのはあまり得意じゃないしね。
「エールティアはこういうの好きなのか?」
「好きって訳でもないけど……少しだけ興味があるわね」
「そっか。なら良かった」
少しだけって言ったのに、フォルスは嬉しそうに頰を緩めていた。
「他の奴らは使う事にしか興味ないからな。完璧なんかじゃなくていい。ある程度価値がわかって、それを使いこなせる技術がなきゃあ、武器が泣いちまうからな」
フォルスはまるで子供を見るような優しい眼差しを手に持った武器に向けて言った。
「でも、それは貴方の武器じゃないのよ?」
「関係ねえよ。俺は武器も防具も……そして魔導具も大好きだからな」
「……そういうものなのね」
「エールティアも覚えておいた方が良いぞ。道具ってのは作った奴の魂が見えるんだ。スコップやクワにだって、人が手を加えている以上、何かの思いが詰まってる。良くも悪くも、な」
……一瞬、自分の目を疑いそうになった。それだけ、食事の時や一緒に行動する時の彼とは違って見えたからだ。
「どうした?」
「いや、ちょっとイメージと違うなってね」
「はは、雪風にも同じこと言われたな」
そういえばガンドルグでも雪風と一緒に武器を見に行ってたっけ。
「あいつとは同じクラスだから、余計に驚かれたな」
違うクラスの私から見ても、武器を眺めている時の彼と普段の状態の彼があまり一致しないのだから、当然だろう。
むしろ同じ教室で勉強している雪風には、私以上の違和感があったんじゃないだろうか。
「酷えなぁ……とは思うけど、これが俺だからな! より精密な機械っていう魔導具の製造。武具の精錬。どれも俺達ドワーフ族が得意な分野だ。それを極めて、新しい時代に相応しい逸品を作る!! その為の勉強ならなんでも進んで出来るさ」
「おう坊主、中々でっけえ夢持ってんじゃねえか!」
「へへっ、だろ? これだけはぜってえ叶えてみせる! それが俺の夢だからな!」
店の親父さんと気が合ったように互いに笑い合って夢を語るフォルスに苦笑いが混じるのは……多分私だけなんだろう。
「夢……か」
「エールティアはどんな夢持ってんだ? 俺が教えたんだから、お前も教えてくれよ」
「ないわね」
だって、私の夢は……最後まで叶う事がなかったんだもの。敗れた私が見る夢は、さぞかし苦渋に満ちている事だろう。
人の見る夢の儚さはこの身で経験しているつもりだ。
「ないって……そんなわけないだろ。誰でも一つは持ってるもんだ」
「坊主の言う通りだぜ。嬢ちゃんはまだ、夢が気付いてないだけってやつだな」
二人して言ってくれるのはありがたいけれど、私には本当に何もない。強いて言うなら親の愛情には飢えていたけれど……今はそんな事もないからなぁ…….。
「……そんなものかしらね」
「……よっしゃ、じゃあ、俺が夢を叶えたら、真っ先にお前に報告しに行くぜ!」
「え? なんで?」
いきなり大きく声を上げて力強く拳を握ったフォルスは、何故か興奮した笑顔を私に向けてきた。
「もしかしたらそれでお前の夢が見つかるかもしれないだろ? 夢ってのはやる気の原動力だからな! せっかく友達になるのに、なんの夢も希望もないんじゃあ寂しいじゃねえか!」
「……フォルス。流石にちょっと暑い」
むしろ暑苦しいぐらいだけど、そこまでは言わないでおいてあげた。ドワーフ族っていうのはみんなこんなに暑苦しいのかな?
「熱いぐらいがちょうど良い! 俺の心は今、たたら場よりも熱く、激しく燃え上がってる!!」
「坊主……っ! お前の魂が伝わってくる……! 伝わってくるぞっ!」
「おやっさん!!」
ガシィッとお互い強く手を握りながら、更に暑苦しくなっていく。
軽く引きながら、フォルスが聞いてきた『夢』の話を思い返す。
「夢、か。もし……もしそれが叶うのだとしたら、もう一度――」
そこまで呟いて、馬鹿らしいことを考えてるな……とため息を吐いた。
だってそれは、さっき思っていた……苦い夢がそのものだったから。
そんな風に思ってフォルスの方に視線を向けてみると、彼は少し前に訪れた武器屋で、一生懸命武器の方を眺めていた。
店主に許可をもらって、じっくり丁寧に一本のナイフを手に取り観察している彼の姿は、輝いて見える。
「どう? そういうのって具体的に何かわかる要素ってあるの?」
「ああ。剣身の輝き具合とか、切れ味を軽く確かめたりとか……調べようと思ったら、いくらでもあるからな」
少し誇らしげに言っていた。確かに業物というのは、その輝き自体が違うと聞く。私は自分が『人造命具』を使う事が出来るから、あまり興味はなかったけれど……これを機にもう少し興味を持っても良いかもしれない。
今は良いけれど、私だって王族の一員だ。これから先、武器の目利きを問われる事もあるだろうし、貴族同士の話で話題に上がる事もあるだろう。それを考えたら、ある程度は必要だな……と感じた。
息を吐くようにお世辞を言う事が出来れば良いけれど、そういうのはあまり得意じゃないしね。
「エールティアはこういうの好きなのか?」
「好きって訳でもないけど……少しだけ興味があるわね」
「そっか。なら良かった」
少しだけって言ったのに、フォルスは嬉しそうに頰を緩めていた。
「他の奴らは使う事にしか興味ないからな。完璧なんかじゃなくていい。ある程度価値がわかって、それを使いこなせる技術がなきゃあ、武器が泣いちまうからな」
フォルスはまるで子供を見るような優しい眼差しを手に持った武器に向けて言った。
「でも、それは貴方の武器じゃないのよ?」
「関係ねえよ。俺は武器も防具も……そして魔導具も大好きだからな」
「……そういうものなのね」
「エールティアも覚えておいた方が良いぞ。道具ってのは作った奴の魂が見えるんだ。スコップやクワにだって、人が手を加えている以上、何かの思いが詰まってる。良くも悪くも、な」
……一瞬、自分の目を疑いそうになった。それだけ、食事の時や一緒に行動する時の彼とは違って見えたからだ。
「どうした?」
「いや、ちょっとイメージと違うなってね」
「はは、雪風にも同じこと言われたな」
そういえばガンドルグでも雪風と一緒に武器を見に行ってたっけ。
「あいつとは同じクラスだから、余計に驚かれたな」
違うクラスの私から見ても、武器を眺めている時の彼と普段の状態の彼があまり一致しないのだから、当然だろう。
むしろ同じ教室で勉強している雪風には、私以上の違和感があったんじゃないだろうか。
「酷えなぁ……とは思うけど、これが俺だからな! より精密な機械っていう魔導具の製造。武具の精錬。どれも俺達ドワーフ族が得意な分野だ。それを極めて、新しい時代に相応しい逸品を作る!! その為の勉強ならなんでも進んで出来るさ」
「おう坊主、中々でっけえ夢持ってんじゃねえか!」
「へへっ、だろ? これだけはぜってえ叶えてみせる! それが俺の夢だからな!」
店の親父さんと気が合ったように互いに笑い合って夢を語るフォルスに苦笑いが混じるのは……多分私だけなんだろう。
「夢……か」
「エールティアはどんな夢持ってんだ? 俺が教えたんだから、お前も教えてくれよ」
「ないわね」
だって、私の夢は……最後まで叶う事がなかったんだもの。敗れた私が見る夢は、さぞかし苦渋に満ちている事だろう。
人の見る夢の儚さはこの身で経験しているつもりだ。
「ないって……そんなわけないだろ。誰でも一つは持ってるもんだ」
「坊主の言う通りだぜ。嬢ちゃんはまだ、夢が気付いてないだけってやつだな」
二人して言ってくれるのはありがたいけれど、私には本当に何もない。強いて言うなら親の愛情には飢えていたけれど……今はそんな事もないからなぁ…….。
「……そんなものかしらね」
「……よっしゃ、じゃあ、俺が夢を叶えたら、真っ先にお前に報告しに行くぜ!」
「え? なんで?」
いきなり大きく声を上げて力強く拳を握ったフォルスは、何故か興奮した笑顔を私に向けてきた。
「もしかしたらそれでお前の夢が見つかるかもしれないだろ? 夢ってのはやる気の原動力だからな! せっかく友達になるのに、なんの夢も希望もないんじゃあ寂しいじゃねえか!」
「……フォルス。流石にちょっと暑い」
むしろ暑苦しいぐらいだけど、そこまでは言わないでおいてあげた。ドワーフ族っていうのはみんなこんなに暑苦しいのかな?
「熱いぐらいがちょうど良い! 俺の心は今、たたら場よりも熱く、激しく燃え上がってる!!」
「坊主……っ! お前の魂が伝わってくる……! 伝わってくるぞっ!」
「おやっさん!!」
ガシィッとお互い強く手を握りながら、更に暑苦しくなっていく。
軽く引きながら、フォルスが聞いてきた『夢』の話を思い返す。
「夢、か。もし……もしそれが叶うのだとしたら、もう一度――」
そこまで呟いて、馬鹿らしいことを考えてるな……とため息を吐いた。
だってそれは、さっき思っていた……苦い夢がそのものだったから。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる