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134・素人の目利き

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 てっきりレイアも付いてくるものだと思っていたから拍子抜けしたけれど……たまにはこういうのも悪くない。
 そんな風に思ってフォルスの方に視線を向けてみると、彼は少し前に訪れた武器屋で、一生懸命武器の方を眺めていた。

 店主に許可をもらって、じっくり丁寧に一本のナイフを手に取り観察している彼の姿は、輝いて見える。

「どう? そういうのって具体的に何かわかる要素ってあるの?」
「ああ。剣身の輝き具合とか、切れ味を軽く確かめたりとか……調べようと思ったら、いくらでもあるからな」

 少し誇らしげに言っていた。確かに業物というのは、その輝き自体が違うと聞く。私は自分が『人造命具』を使う事が出来るから、あまり興味はなかったけれど……これを機にもう少し興味を持っても良いかもしれない。

 今は良いけれど、私だって王族の一員だ。これから先、武器の目利きを問われる事もあるだろうし、貴族同士の話で話題に上がる事もあるだろう。それを考えたら、ある程度は必要だな……と感じた。

 息を吐くようにお世辞を言う事が出来れば良いけれど、そういうのはあまり得意じゃないしね。

「エールティアはこういうの好きなのか?」
「好きって訳でもないけど……少しだけ興味があるわね」
「そっか。なら良かった」

 少しだけって言ったのに、フォルスは嬉しそうに頰を緩めていた。

「他の奴らは使う事にしか興味ないからな。完璧なんかじゃなくていい。ある程度価値がわかって、それを使いこなせる技術がなきゃあ、武器が泣いちまうからな」

 フォルスはまるで子供を見るような優しい眼差しを手に持った武器に向けて言った。

「でも、それは貴方の武器じゃないのよ?」
「関係ねえよ。俺は武器も防具も……そして魔導具も大好きだからな」
「……そういうものなのね」
「エールティアも覚えておいた方が良いぞ。道具ってのは作った奴の魂が見えるんだ。スコップやクワにだって、人が手を加えている以上、何かの思いが詰まってる。良くも悪くも、な」

 ……一瞬、自分の目を疑いそうになった。それだけ、食事の時や一緒に行動する時の彼とは違って見えたからだ。

「どうした?」
「いや、ちょっとイメージと違うなってね」
「はは、雪風にも同じこと言われたな」

 そういえばガンドルグでも雪風と一緒に武器を見に行ってたっけ。

「あいつとは同じクラスだから、余計に驚かれたな」

 違うクラスの私から見ても、武器を眺めている時の彼と普段の状態の彼があまり一致しないのだから、当然だろう。
 むしろ同じ教室で勉強している雪風には、私以上の違和感があったんじゃないだろうか。

「酷えなぁ……とは思うけど、これが俺だからな! より精密な機械っていう魔導具の製造。武具の精錬。どれも俺達ドワーフ族が得意な分野だ。それを極めて、新しい時代に相応しい逸品を作る!! その為の勉強ならなんでも進んで出来るさ」

「おう坊主、中々でっけえ夢持ってんじゃねえか!」
「へへっ、だろ? これだけはぜってえ叶えてみせる! それが俺の夢だからな!」

 店の親父さんと気が合ったように互いに笑い合って夢を語るフォルスに苦笑いが混じるのは……多分私だけなんだろう。

「夢……か」
「エールティアはどんな夢持ってんだ? 俺が教えたんだから、お前も教えてくれよ」
「ないわね」

 だって、私の夢は……最後まで叶う事がなかったんだもの。敗れた私が見る夢は、さぞかし苦渋に満ちている事だろう。

 人の見る夢の儚さはこの身で経験しているつもりだ。

「ないって……そんなわけないだろ。誰でも一つは持ってるもんだ」
「坊主の言う通りだぜ。嬢ちゃんはまだ、夢が気付いてないだけってやつだな」

 二人して言ってくれるのはありがたいけれど、私には本当に何もない。強いて言うなら親の愛情には飢えていたけれど……今はそんな事もないからなぁ…….。

「……そんなものかしらね」
「……よっしゃ、じゃあ、俺が夢を叶えたら、真っ先にお前に報告しに行くぜ!」
「え? なんで?」

 いきなり大きく声を上げて力強く拳を握ったフォルスは、何故か興奮した笑顔を私に向けてきた。

「もしかしたらそれでお前の夢が見つかるかもしれないだろ? 夢ってのはやる気の原動力だからな! せっかく友達になるのに、なんの夢も希望もないんじゃあ寂しいじゃねえか!」
「……フォルス。流石にちょっと暑い」

 むしろ暑苦しいぐらいだけど、そこまでは言わないでおいてあげた。ドワーフ族っていうのはみんなこんなに暑苦しいのかな?

「熱いぐらいがちょうど良い! 俺の心は今、たたら場よりも熱く、激しく燃え上がってる!!」
「坊主……っ! お前の魂が伝わってくる……! 伝わってくるぞっ!」
「おやっさん!!」

 ガシィッとお互い強く手を握りながら、更に暑苦しくなっていく。
 軽く引きながら、フォルスが聞いてきた『夢』の話を思い返す。

「夢、か。もし……もしそれが叶うのだとしたら、もう一度――」

 そこまで呟いて、馬鹿らしいことを考えてるな……とため息を吐いた。
 だってそれは、さっき思っていた……苦い夢がそのものだったから。
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