上 下
132 / 676

132・空で吐露する気持ち

しおりを挟む
ウォルカと博物館に行った次の日。特にする事もなかった私は、リュネーとレイアの二人と適当に歩いて、食事をして……後は体が鈍らないように訓練するだけと、結構惰性に過ごしてしまった。

自由行動と言えば聞こえはいいけれど、そればっかりなのは流石に考えものだと思う。
結局適当に過ごしてしまって、その次の日。ガンドルグのワイバーン発着場に集合した私達は、それぞれ昨日何をやっていたか聞く事にした。

フォルスは新しい機械を考案。雪風は刀の手入れと素振り。
ウォルカはまた博物館に行っていたみたいだった。彼は本当にああいう、昔のロマンみたいなものに憧れるのだろう。

「全員、揃ったか?」

最後に現れたベルーザ先生は、一人一人確かめるように視線を向けて、全員がいる事に満足そうに頷いていた。

「よし、今からガンドルグを離れ、ドラグニカに向かうが……中継都市で一泊して、更に進む事になる。ワイバーンの背はそれほど快適じゃないから、あまりはしゃいで体力を消費しない事。先は長いんだからな」
「大丈夫っすよ。みんな子供じゃないっすから」
「ね、フォルス。もう無理して敬語使おうとしなくていいと思うよ。そっちの方が失礼に聞こえるよ」
「……そうか?」

きょろきょろと私達を見ていたフォルスを、ベルーザ先生は少し憐れむような視線で眺めていた。
そのままため息交じりに「それで構わない」とか言ってたから先生の方も諦めたようだ。

「……そろそろ時間だ。二人一組になってワイバーンに乗れ。わかったな?」
「はーい」
「わかりました」

動き出した私達は、私とレイア。リュネーと雪風。ベルーザ先生とフォルスでそれぞれのワイバーンに乗り込むことになった。ちなみにウォルカは小さいから先生達と同じワイバーンで十分だった。
ワイバーンが助走をつけて勢いよく空へと舞い上がった時に感じる浮遊感を楽しみながら、私達はドラグニカを目指すのだった。

――

「やっぱり、空って気持ちいい……」

後ろからぽつりと聞こえた呟きに耳を傾ける。

「レイアは竜人族なのよね?」
「う、うん。正確に行ったら黒竜人族なんだけどね」
「やっぱり空には何か思うところがある?」

竜人族って言うのは、竜の力を濃く受け継いだ者は空を飛ぶことも出来るらしい。多分、黒竜人族も同じのはずだ。だからこそ、空への憧れとかあるんじゃないのかな? って思ったのだ。

「……うん。そうだね。空ってすごく大きくて、こんなに広い場所を自由に飛び回れるなら……って思う。それが私が黒竜人族だからかは、わからないんだけどね」

えへへ、と照れるような笑い声が聞こえてくる。どこか遠慮がちなその声音だけが伝わってくるけれど、それだけで彼女の想いも響いてくるようだった。

「空も大地もこんなに広くて、私達はとてもちっぽけで……村での事とか、お兄様の事とか、全部小さく見えるような気がするの」

心に受けた傷は、決して消える事はない。癒えたとしても、必ず傷跡が残る物なのだから。
きっと、レイアは一生背負って生きて行くことになるのだろう。

「レイア。あまり思い悩まないようにしなさいね。貴女は自分の人生を精一杯楽しむ権利があるんだから」
「……ありがとう。ティアちゃんにそう言われると、すごく救われた気分になる」
「言い過ぎ」
「ううん」

あまりにも恥ずかしい事を言ってきたから、少し不服気に言ったんだけど、レイアは穏やかな口調でそれを否定した。

「ティアちゃんは私にとって、その……光みたいなものだから」

後ろにいるからわからないけど、多分照れているんだろうな。私の方が恥ずかしくなってくるような台詞を言ってくるんだもの。
だけど、私はそんな風に言われるほど、レイアを助けたつもりはない。

むしろレイアのお兄様との決闘の時なんて、結構突き放した事ばかり言ってたような気がする。

「私、大分きつい言葉を浴びせたと思うけれど?」
「でも、私の事をちょっとは考えてくれてたでしょ。そうじゃなかったら、あんな知り合って間もない頃にあそこまで言えないよ」
「それは……」

ただ、あの頃のレイアの姿が、私の昔に被って見えて……それに、いくら裏切られたとはいえ、あんな泣きそうな顔をした子に無関心でいられる訳なかったから。だから冷たくても叱るような言葉を選んだ。

「あの言葉がなかったら、私はずっと暗闇の奥底に沈んだままだったの。ティアちゃんが私を引き上げてくれた。だから……貴女は私にとって、大切な光なの。ちょっと、口にするのは恥ずかしいけれどね」

本当に、聞いてるこっちの方が顔を赤くなる。多分……私とレイアの二人っきりだから、こんな恥ずかしい事が言えるのだろう。

ワイバーンはそれなりに距離を取って飛んでいるから、他の誰かに聞かれる事なんてまずないだろうからね。

「そこまで思ってくれてるのなら、私も貴女の『光』でいられるように頑張らないとね」
「ティアちゃん……」

どうやら、レイアの気持ちが少しだけ私に移ったみたいだ。少しだ――結構恥ずかしい思いをしながら、私達は空の旅を進んでいくのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

処理中です...