上 下
128 / 676

128・どこか見覚えのある顔

しおりを挟む
 自由行動の一日が終わった私達は、ベルーザ先生に連れられて魔王祭の会場に訪れていた。

「うわぁ……すごい人がいっぱい」

 リュネーが思わず驚きながら周囲を見回している。それもそうか。左を見ても右を見ても、様々な種族が溢れているのだから。
 一昨日に見に行った時は、会場の半分くらいしか埋まってなかったけれど、今は全ての席が埋まってる。

「これだけの人の前で戦うとは……すごく、心躍りますね」

 好戦的な笑みを浮かべている雪風は、自分の得物である刀に手を掛けようとしている。流石闘争本能の塊のような鬼人族だけある。こんな可愛い女の子も例に漏れないみたいだ。

「来年は俺達もこんな会場で……」
「感動しているところなんだが、たかだかこの程度の会場を埋めただけで満足するな」

 レイアが言葉も出せずに驚いていると、ベルーザ先生は無感動のまま、ため息を吐きだしていた。

「ティリアース、雪桜花、ドラグニカ、エンドラル……この四つの国の王都にある闘技場はこれの比じゃないぞ。お前達はそこを目指して、頂点に立つ程の目的を持て」
「先生、でもそれって、難しいんじゃないですか? 僕達妖精族なんて体格もまるで違うし、種族的な差だってありますよ?」
「小さい妖精族でも魔王祭本選に勝ち残った生徒はいるぞ。決して不可能という訳じゃない。お前達の努力次第だ」

 ウォルカがベルーザ先生に諭されている間に準備が整ったのか、会場の照明がいきなり消えて、真っ暗の中に司会席だけが浮き上がるように光が灯る。

「び、びっくりしたー……」
「魔導具だからな。こういう使い方も出来るってわけか」

 ただの照明器具なのに、こんな風な演出をされると、別の魔導具を使っているようにも見えそうだ。

『魔王祭最終予選……このガンドルグに吹いた嵐も今は収まり、残るは一陣の風のみ。この戦いで本選に進む者が決まる!』

 少し臭い台詞回しの司会は、一昨日担当していた男の人とは違って、大きい方の妖精族の男の人だった。

『歴史に名を刻む栄光に挑む若人わこうどの戦いを紡ぐ語り部はこの私、記憶を読み取る者、シュナイド・ハワード! そして――』
『この最終予選の決闘官は魔人族のアルデ・エクジアです。よろしくお願いします』

 挨拶と同時に丁寧に頭を下げるアルデ決闘官は確か……私が初めて決闘した時に来てくれた決闘官だ。いきなり開始宣言をされてあの時は驚いたけれど、今回は流石にそれはしないみたいだ。

『まず、今回のルールの説明を行います。魔王祭最終予選は、本選と同じく……先に相手の命を奪った者を勝者とします』
「は……?」
「え? ど、どういう事?」

 アルデ決闘官の説明に戸惑いを覚えているのは、フォルスを始めとした、ここに来た殆どが戸惑っているけれど、私とリュネーの二人だけは落ち着いていた。
 以前、結界具の話をベルーザ先生から聞いたことがある。それと同じものなんだろうと思ったからだけど……なんでリュネーも知ってるのかは謎だった。

「よく聞いておけ。決してお前達も無関係じゃないんだからな」

 ベルーザ先生の言葉に誰も頷く事はなく、説明の方は着々と進んでいく。

『今から私が魔導具を通して会場に結界を張ります。観客の方々の身を守り、決闘者の死を無効にするものです。……とは言っても、それまでに受けた傷が無かったことになるわけではありません。あくまで致命傷に届きうる攻撃を肩代わりするだけのものなので、その点だけは理解しておいてください』

 アルデ決闘官はあまり抑揚のない声でさっさと告げると、懐から四角い箱みたいな魔導具を取り出して、それを展開させる。
 それは彼の手から離れて、キュルキュルと音を立てながら光を浴びて宙に浮かんで……その周囲に白い丸状の線を浮かび上がらせる。それが少しずつ広がっていって、会場全体を覆っていった。

『死からその身を遠ざける結界が私達の身体を包み込み、新たな戦士の誕生を祝う舞台が整う……。さあ、共に名を謳おう! 遥かなる高みに挑むその英雄の名を!』

 どこか拗らせているような発言と共に照明の一つが会場の一角を照らす。そこに現れたのは、一昨日私が見たオーク族の生徒で……確か名前は――

『南ゲートから現れたるは、豊かな大地に育まれ、そびえ立つ山のように磨き上げたその身は、崩れる事を知らぬ――ジーガス・クワルディア!』

 大きな歓声と共に大きな戦斧を片手で振り上げて、強気のアピールをしていた。彼の戦いは見ているし、これは相手次第だな……なんて思っていると……次に照らされた姿を見て、驚いてしまう。そこにいたのは――

『続いて北ゲート。世界に名だたるその血潮。遍く知れ渡るその剛腕が、あらゆる敵の悉くを握り潰す! 声高らかに叫べ! かの名は――出雲 雪雨ゆきさめ!!』

 不敵な笑顔で相手を見つめている雪雨ゆきさめがいて、思わず自分の目を疑いたくなった。確か、魔王祭に参加するにはどこかの学園に所属しているのが条件で――つまり、雪雨ゆきさめは私の一つ年上ということになる。

 ……なんだか色々と複雑な気分だけれど、なんで彼がこんなところにいるんだろう?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...