122 / 676
122・一人演舞
しおりを挟む
シニアン決闘官が的を作り出した魔導具を見て、ふんふんと頷いていた。多分、あれで破壊された的の数がわかるんだろう。私が転生する前に生きていた世界よりもずっと道具が発展してるから、魔導と違って新鮮な目で物事を見れる。
『にゃー……ただ今の計測は60にゃ!』
おおー、と大きな歓声が沸き上がっていたけれど、それが凄いのかどうか全くわからない。
『んー、この歳にしてはかなり健闘した方だとは思うが……シニアン決闘官、そこのところは?』
『事前に知っていれば、もー少しのびたと思うのにゃ。後はより精密なイメージを練って狙えば、100はいっただろーにゃ』
シニアン決闘官の解説に、ハルヴィアスはうんうん頷いていた。
「本当ですかね?」
「そうね。これ以上のアドバイスがあるとしたら、最後の方にペースを乱さない事くらいね。爆風で魔力量を減らすのは良かったけれど、あれじゃ余計に消耗しただけ。矢の方も大きかったし、必要以上に魔力を込めすぎね」
もっとも、そこまで求めるのは酷な話だろう。獣人族と狼人族は、身体能力と引き換えに魔力が若干低い傾向がある。中には例外もいるけれど、ルディルはそれに該当しない。
おまけに私と違ってまだ子供。どうあがいても修練の時間が足りないだろう。
唯一の例外は聖黒族なんだけど……なんでこの種族だけ、他と違って魔力も身体能力も高いんだろう? 他の種族はバランスが取れているのに、この種族だけが異質に見える。前世では寿命と引き換えに常軌を逸した能力を持っていたからこそ、今の肉体に振り回されずに済んでるけれど……普通の人がこんな身体に転生したら、間違いなく持て余すだろう。
考えれば考えるほど、不思議なんだけど……周囲の怒号のような歓声が、思考の渦に潜り込むことを遮ってくる。
『さあ、次はいよいよ挑戦者、カイゼルのお出ましだ! ……おお? カイゼルは何か持ってるみたいだが……なんだあれはぁ?』
『あれは魔導銃と呼ばれる魔導具にゃ。最近、ドワーフ族の国ガンラスミスで開発された物で、魔力を凝縮して、弾として撃ち出すから、魔力の消費量も抑えられるにゃ。ついでにこれを介して魔導を放つことも出来るのにゃ!』
やけに詳しい解説が飛んできたけれど、それに対して『えっへん』と胸を張ってる姿が台無しにしていた。
『シニアン決闘官、やたらと詳しいな?』
『ぼく、魔導具の収集に凝ってるのにゃ。それにぼくの大好きな王様が、これに似たような魔導を使っていたのにゃ』
確か……初代魔王様を助けたと言われるフェーシャ王が使った『ガン』系の魔導の事を指してるんだろう。猫人族が【覚醒】した英猫族の王様で、その生き様は猫人族の憧れだったりする。特に操られたことを後悔して、強い王様へと成長するお話――『賢猫栄光物語』はベストセラーを記録している。
『だけど魔導銃は、広範囲を攻撃する事にはあまり向いてないのにゃ。それだけを見ると今回の決闘では、相性が悪いだろうにゃ』
『そんな武器で戦いを挑むのは無謀かも知れないな。だが、なんの策もなしに持ってくるとも思えない。どうなるかわくわくするな!』
『それでは、決闘……開始にゃ!』
シニアン決闘官の魔導具で、再び生成された的を前にして、カイゼルは全く動かない。既に開始を宣言されているのに、微動だにしない彼を見て、観客からは不満の声が漏れ始める。
『ああっと、どうしたカイゼルー? まるで諦めたかのように動かないぞー?』
『んー、どうしたのかにゃ? 調子でも悪いのかにゃー?』
解説の二人も困惑しているけれど、それは間違っていると思う。後ろ姿しか見えないけれど……あれが諦めるようには到底思えなかった。
「大丈夫ですかね? 全く動きませんけど……」
心配するジュールの疑問をぶち壊すように、彼は動き始めた。
一つ、二つ、三つ……立て続けに次々と的を撃ち落としていく。ようやく動き出したかと安心した観客は、その動きにどこか失笑していた。確実に壊して行っているとはいえ、ルディルの魔導に比べたら、明らかに地味だったからだ。
「まるで玄人好みのやり方ね」
「え? そうなんですか?」
不思議そうなジュールの声を上げている。確かに地味だけれど、動きは正確で素早い。そのどれもが一撃という事は、彼の攻撃は全て中央を撃ち抜いているという事だ。
「精確に真ん中を撃ち抜き続けるなんて真似、そうそう出来る事じゃない。あんな道具を使ってなんて、私にだって無理ね。それくらい、彼の射撃は素晴らしいって事よ」
単純に魔導を使うだけなら、似たような真似は可能だけれど、同じ状況でしろと言われたら無理だとはっきり言える。
しかも途中から何らかの魔導を使っているようで、的を射抜いた弾がそのまま別の的を射抜いたり、当たったと同時に別の的に跳ね返ったり……特殊な攻撃で徐々に撃墜する的を増やしていく。
数打てば当たるだったルディルと違って、一切外さずに最初の速度を維持し続けるカイゼルの凄さは、自然と周囲を静かにしていく。
まるで踊っているかのようなその姿に魅せられるように、騒がしかった声は収まって、解説の二人ですら静かに彼の演舞に魅入ってしまっていた。
『にゃー……ただ今の計測は60にゃ!』
おおー、と大きな歓声が沸き上がっていたけれど、それが凄いのかどうか全くわからない。
『んー、この歳にしてはかなり健闘した方だとは思うが……シニアン決闘官、そこのところは?』
『事前に知っていれば、もー少しのびたと思うのにゃ。後はより精密なイメージを練って狙えば、100はいっただろーにゃ』
シニアン決闘官の解説に、ハルヴィアスはうんうん頷いていた。
「本当ですかね?」
「そうね。これ以上のアドバイスがあるとしたら、最後の方にペースを乱さない事くらいね。爆風で魔力量を減らすのは良かったけれど、あれじゃ余計に消耗しただけ。矢の方も大きかったし、必要以上に魔力を込めすぎね」
もっとも、そこまで求めるのは酷な話だろう。獣人族と狼人族は、身体能力と引き換えに魔力が若干低い傾向がある。中には例外もいるけれど、ルディルはそれに該当しない。
おまけに私と違ってまだ子供。どうあがいても修練の時間が足りないだろう。
唯一の例外は聖黒族なんだけど……なんでこの種族だけ、他と違って魔力も身体能力も高いんだろう? 他の種族はバランスが取れているのに、この種族だけが異質に見える。前世では寿命と引き換えに常軌を逸した能力を持っていたからこそ、今の肉体に振り回されずに済んでるけれど……普通の人がこんな身体に転生したら、間違いなく持て余すだろう。
考えれば考えるほど、不思議なんだけど……周囲の怒号のような歓声が、思考の渦に潜り込むことを遮ってくる。
『さあ、次はいよいよ挑戦者、カイゼルのお出ましだ! ……おお? カイゼルは何か持ってるみたいだが……なんだあれはぁ?』
『あれは魔導銃と呼ばれる魔導具にゃ。最近、ドワーフ族の国ガンラスミスで開発された物で、魔力を凝縮して、弾として撃ち出すから、魔力の消費量も抑えられるにゃ。ついでにこれを介して魔導を放つことも出来るのにゃ!』
やけに詳しい解説が飛んできたけれど、それに対して『えっへん』と胸を張ってる姿が台無しにしていた。
『シニアン決闘官、やたらと詳しいな?』
『ぼく、魔導具の収集に凝ってるのにゃ。それにぼくの大好きな王様が、これに似たような魔導を使っていたのにゃ』
確か……初代魔王様を助けたと言われるフェーシャ王が使った『ガン』系の魔導の事を指してるんだろう。猫人族が【覚醒】した英猫族の王様で、その生き様は猫人族の憧れだったりする。特に操られたことを後悔して、強い王様へと成長するお話――『賢猫栄光物語』はベストセラーを記録している。
『だけど魔導銃は、広範囲を攻撃する事にはあまり向いてないのにゃ。それだけを見ると今回の決闘では、相性が悪いだろうにゃ』
『そんな武器で戦いを挑むのは無謀かも知れないな。だが、なんの策もなしに持ってくるとも思えない。どうなるかわくわくするな!』
『それでは、決闘……開始にゃ!』
シニアン決闘官の魔導具で、再び生成された的を前にして、カイゼルは全く動かない。既に開始を宣言されているのに、微動だにしない彼を見て、観客からは不満の声が漏れ始める。
『ああっと、どうしたカイゼルー? まるで諦めたかのように動かないぞー?』
『んー、どうしたのかにゃ? 調子でも悪いのかにゃー?』
解説の二人も困惑しているけれど、それは間違っていると思う。後ろ姿しか見えないけれど……あれが諦めるようには到底思えなかった。
「大丈夫ですかね? 全く動きませんけど……」
心配するジュールの疑問をぶち壊すように、彼は動き始めた。
一つ、二つ、三つ……立て続けに次々と的を撃ち落としていく。ようやく動き出したかと安心した観客は、その動きにどこか失笑していた。確実に壊して行っているとはいえ、ルディルの魔導に比べたら、明らかに地味だったからだ。
「まるで玄人好みのやり方ね」
「え? そうなんですか?」
不思議そうなジュールの声を上げている。確かに地味だけれど、動きは正確で素早い。そのどれもが一撃という事は、彼の攻撃は全て中央を撃ち抜いているという事だ。
「精確に真ん中を撃ち抜き続けるなんて真似、そうそう出来る事じゃない。あんな道具を使ってなんて、私にだって無理ね。それくらい、彼の射撃は素晴らしいって事よ」
単純に魔導を使うだけなら、似たような真似は可能だけれど、同じ状況でしろと言われたら無理だとはっきり言える。
しかも途中から何らかの魔導を使っているようで、的を射抜いた弾がそのまま別の的を射抜いたり、当たったと同時に別の的に跳ね返ったり……特殊な攻撃で徐々に撃墜する的を増やしていく。
数打てば当たるだったルディルと違って、一切外さずに最初の速度を維持し続けるカイゼルの凄さは、自然と周囲を静かにしていく。
まるで踊っているかのようなその姿に魅せられるように、騒がしかった声は収まって、解説の二人ですら静かに彼の演舞に魅入ってしまっていた。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる