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118・初めて出会う者
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「ティア様。それが気になるんですか?」
私が何を見ているのか気付いたジュールの方も、初めて見るそれに興味が湧いてきたようだ。
「そうね。多分武器だと思うけれど……一体どんな使い方をするのかしら?」
「……それは魔導銃『アガノン』だ」
いきなり聞こえてきた見知らぬ声に振り向くと、そこには少し背の高い男の子がいた。ぱっと見は魔人族なんだけど、少し肌が焼けているような褐色をしている。黒いコートから少し見えるよく鍛えられた腕が、彼の身体が相当引き締められている事を教えてくれる。
「……誰ですか?」
いきなり現れた男の子に警戒心を剥き出しにして、私の前に立ったジュール。それを見た男の子は、軽くため息を吐いて、全く動じずにジュールを見下ろしていた。
「尋ねるなら、まずはそっちから名乗りな」
「なんですって……!」
「よしなさい」
野良犬に噛みつこうとする飼い犬みたいな構図を思い浮かべながら、彼らがこれ以上面倒な事を起こさないように間に割り込んだ。
「私はティア。そっちの子はジュールよ。それで、貴方は?」
「……カイゼルだ」
カイゼル……聞いた事のない名前だ。明らかに普通じゃない空気を纏っているけれど、彼も観光か何かに来ているのかもしれない。
「ティア様! なんでそんなぶれ――」
「よしなさい。……それで、これは魔導銃と呼ばれる道具なのね?」
「そうだ。弾丸に魔石が使われていて、魔力を込めると魔導が発動する。部品の一つ一つに魔力が込めて作られているからこそ、少ない魔力で高威力の攻撃を放つ事を可能にしている」
淡々とだけれど、説明には熱が込もって力強い程だ。……もっとも、あまりに詳しく語ってくるから、半分くらいはわからないんだけど。
ジュールなどは首を傾げてさっぱり理解出来てないみたいだった。
「なるほど。魔導、という事はある程度威力や軌道、効果を変えることが出来るというわけね」
「そうだ。本人のイメージで変わる魔導の魔力は、多くなる場合がある。それを必要以上の消費を抑え、高威力を実現させるのがこの魔導具だ」
そんな魔導具があるなんて……この時代の機械には、本当に感心させられる。こういう事を思いつくのだからね。
「あの、それって普通に魔導使ったほうが良いんじゃないですか? わざわざ魔導具を使わないでも……」
「これがあれば、より簡素なイメージで魔導を放つ事が出来て、魔力の消費量を抑える――つまり、長く戦う事が出来るという訳よ」
「イメージが乏しくても、魔力量が少なくても……戦いに絶対なんて有りはしない。力がないなら技術で埋める――それが『銃』と呼ばれる武器に宿っている想いだ」
カイゼルは、どこか愛おしそうに店先のアルガスと呼んだ銃に視線を向けている。強い思いを宿している彼に引き換え、ジュールは「へぇ、そうなんですね」と適当に返していた。
気持ちはわかる。カイゼルの説明通りの想いが込められているのなら、私達には無縁の代物に近い。聖黒族の魔力量は他種族の追随を許さない。その血を分けて【契約】したジュールもまた同じだ。
だからこそ、関心が薄いのだろう。私としては非常に興味深いから残念なんだけどね。
「力がないなら技術で、ね……。諦めない姿勢は素晴らしいと思うわ。だけど、物事には決して乗り越えられない壁があるんじゃないかしら?」
「だろうな。だけど……そう言われて『はい、そうですか』と納得できるほど、上等な頭していないんでな」
ニヤリと笑うカイゼルは、今まで見てきた人物とは全く違う輝きを持っているように思えた。それはとてもまぶしくて……とても、羨ましかった。その魂の煌めきは、私には決して手に入らないものだから。
暗くて血塗られた過去。無意識に抱いてしまう悪感情。それが私の根幹に深く、とても深く根付いているから。
「ティア様?」
心配そうに私の顔を覗き込むジュールに向かって軽く片手をかざして『大丈夫』だとアピールした。
「カイゼル。貴方のおかげで良い時間を過ごすことが出来たわ。ありがとう」
「気にするな。俺もお前みたいな理解ある奴に出会えて嬉しかったからな」
「良かったら食事でもいかが? ほんのお礼、という事で」
ここでただお礼を言うだけでは、リシュファス家の一員としての名が廃る。そう考えての言葉だったんだけれど、ジュールにはどうも気に入らない物があるみたいだった。
「ティア様。あんな無礼な男と食事を共にするなんて……」
「彼からは色々と教えてもらったわ。そんな人に言葉だけなんて、家の名に反するというものでしょう?」
「それは……」
納得したのかしていないのか、ジュールは微妙そうな表情で私とカイゼルを交互に見ていた。
「気持ちだけもらっておく。俺も、護衛の連中を巻いてきたばかりだからな。そろそろ行かないと、捕まっちまうからな」
にやりと笑ったカイゼルは、そのままどこかに去っていった。唐突やってきて、慌ただしくいなくなってしまった。
「なんだか、随分騒がしい男でしたね」
「……そうね。ま、気にしなくてもいいでしょう」
そういえば、護衛から逃げてきたって言っていたけれど……彼も貴族の子息かなにかなのだろうか? とてもそんな風には思えなかったけれど。
今はそんな事より、昼食に行こう。すっかり時間が掛かってしまったしね。
私が何を見ているのか気付いたジュールの方も、初めて見るそれに興味が湧いてきたようだ。
「そうね。多分武器だと思うけれど……一体どんな使い方をするのかしら?」
「……それは魔導銃『アガノン』だ」
いきなり聞こえてきた見知らぬ声に振り向くと、そこには少し背の高い男の子がいた。ぱっと見は魔人族なんだけど、少し肌が焼けているような褐色をしている。黒いコートから少し見えるよく鍛えられた腕が、彼の身体が相当引き締められている事を教えてくれる。
「……誰ですか?」
いきなり現れた男の子に警戒心を剥き出しにして、私の前に立ったジュール。それを見た男の子は、軽くため息を吐いて、全く動じずにジュールを見下ろしていた。
「尋ねるなら、まずはそっちから名乗りな」
「なんですって……!」
「よしなさい」
野良犬に噛みつこうとする飼い犬みたいな構図を思い浮かべながら、彼らがこれ以上面倒な事を起こさないように間に割り込んだ。
「私はティア。そっちの子はジュールよ。それで、貴方は?」
「……カイゼルだ」
カイゼル……聞いた事のない名前だ。明らかに普通じゃない空気を纏っているけれど、彼も観光か何かに来ているのかもしれない。
「ティア様! なんでそんなぶれ――」
「よしなさい。……それで、これは魔導銃と呼ばれる道具なのね?」
「そうだ。弾丸に魔石が使われていて、魔力を込めると魔導が発動する。部品の一つ一つに魔力が込めて作られているからこそ、少ない魔力で高威力の攻撃を放つ事を可能にしている」
淡々とだけれど、説明には熱が込もって力強い程だ。……もっとも、あまりに詳しく語ってくるから、半分くらいはわからないんだけど。
ジュールなどは首を傾げてさっぱり理解出来てないみたいだった。
「なるほど。魔導、という事はある程度威力や軌道、効果を変えることが出来るというわけね」
「そうだ。本人のイメージで変わる魔導の魔力は、多くなる場合がある。それを必要以上の消費を抑え、高威力を実現させるのがこの魔導具だ」
そんな魔導具があるなんて……この時代の機械には、本当に感心させられる。こういう事を思いつくのだからね。
「あの、それって普通に魔導使ったほうが良いんじゃないですか? わざわざ魔導具を使わないでも……」
「これがあれば、より簡素なイメージで魔導を放つ事が出来て、魔力の消費量を抑える――つまり、長く戦う事が出来るという訳よ」
「イメージが乏しくても、魔力量が少なくても……戦いに絶対なんて有りはしない。力がないなら技術で埋める――それが『銃』と呼ばれる武器に宿っている想いだ」
カイゼルは、どこか愛おしそうに店先のアルガスと呼んだ銃に視線を向けている。強い思いを宿している彼に引き換え、ジュールは「へぇ、そうなんですね」と適当に返していた。
気持ちはわかる。カイゼルの説明通りの想いが込められているのなら、私達には無縁の代物に近い。聖黒族の魔力量は他種族の追随を許さない。その血を分けて【契約】したジュールもまた同じだ。
だからこそ、関心が薄いのだろう。私としては非常に興味深いから残念なんだけどね。
「力がないなら技術で、ね……。諦めない姿勢は素晴らしいと思うわ。だけど、物事には決して乗り越えられない壁があるんじゃないかしら?」
「だろうな。だけど……そう言われて『はい、そうですか』と納得できるほど、上等な頭していないんでな」
ニヤリと笑うカイゼルは、今まで見てきた人物とは全く違う輝きを持っているように思えた。それはとてもまぶしくて……とても、羨ましかった。その魂の煌めきは、私には決して手に入らないものだから。
暗くて血塗られた過去。無意識に抱いてしまう悪感情。それが私の根幹に深く、とても深く根付いているから。
「ティア様?」
心配そうに私の顔を覗き込むジュールに向かって軽く片手をかざして『大丈夫』だとアピールした。
「カイゼル。貴方のおかげで良い時間を過ごすことが出来たわ。ありがとう」
「気にするな。俺もお前みたいな理解ある奴に出会えて嬉しかったからな」
「良かったら食事でもいかが? ほんのお礼、という事で」
ここでただお礼を言うだけでは、リシュファス家の一員としての名が廃る。そう考えての言葉だったんだけれど、ジュールにはどうも気に入らない物があるみたいだった。
「ティア様。あんな無礼な男と食事を共にするなんて……」
「彼からは色々と教えてもらったわ。そんな人に言葉だけなんて、家の名に反するというものでしょう?」
「それは……」
納得したのかしていないのか、ジュールは微妙そうな表情で私とカイゼルを交互に見ていた。
「気持ちだけもらっておく。俺も、護衛の連中を巻いてきたばかりだからな。そろそろ行かないと、捕まっちまうからな」
にやりと笑ったカイゼルは、そのままどこかに去っていった。唐突やってきて、慌ただしくいなくなってしまった。
「なんだか、随分騒がしい男でしたね」
「……そうね。ま、気にしなくてもいいでしょう」
そういえば、護衛から逃げてきたって言っていたけれど……彼も貴族の子息かなにかなのだろうか? とてもそんな風には思えなかったけれど。
今はそんな事より、昼食に行こう。すっかり時間が掛かってしまったしね。
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