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110・暗がりの向こう
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暗い路地を進んでいく私は、息を潜めて静かに先に進んでいく。どんどん闇が深くなってきているけれど、私は真っ暗闇や眩い光の中でも、いつもの視界を保てる魔導『ヴィシディリティ・ノーマリゼーション』を使って何不自由ない視界のまま歩いて行く。
最初は黒い影のようなものが動いているように見えたけれど、視界を正常化したおかげではっきりとそれを見る事が出来た。
……まさかそれが本当に悪魔族だとは思いもしなかったけれどね。
あの特徴的な角がうっすらぼけて見えるところから、何かしらの魔導具を使っているのは間違いない。
こういう風に悪用されているのを見つけると、主に魔導具を作っているドワーフ族に文句を言いたくなるんだけど、別に彼らがこれを作ったわけじゃないから何とも言えないんだけどね……。
でも、こんなのを作る人は、少しは悪用される事を考えて作って欲しい。
「影の奥へ」
「更なる闇に包まれん」
路地裏の奥いた魔人族と妙な合言葉を交わし合った悪魔族の男は、更に奥へと進んでいく。どっちもいかにもな風貌をしているからか、余計に怪しさが増していく。
私の方は『シャドウウォーク』を保ちながら、静かに魔人族の男の横を通り抜けて行く。
見張りの男を置いて奥に進んだ先には……小さな建物があって、そこの扉に悪魔族の男が入り込んでいるのが見えた。建物の間に隠されるようにあるそこは、悪い奴の隠れ家と呼ぶのに相応しい佇まいをしていた。
ここまで来るのは簡単だったけれど、これからどうするか悩んでしまって、動きを止めてしまった。
尾行している間に冷静さを取り戻したからこそだけれど……私は結局、先に進むことにした。
慎重に、ゆっくりと扉を開けると、中からは何とも言えない臭いが溢れ出してきた。思わず鼻を覆いたくなるようなそれは、血の臭いも混じっていた。
部屋の中に入ってしまった事によって『シャドウウォーク』の効果はかなり下がってしまったけれど、一度発動したおかげで、効果は持続している。気配などに敏感な人には見つかるだろうけれど、今はまだ大丈夫だ。
建物の中を歩いていると、食糧庫代わりになっている部屋があった。明らかに一人二人じゃ多すぎる量だ。それだけで嫌な感じが伝わってくる。探索を続けていくと、部屋の一つから話し声が聞こえてきた。
「……ら、……きは」
「……てる。だ……て」
大声だ話さずに、ぼそぼそと話しているからか、よく聞き取れない。割り込んでも良いけれど、あまりよくわからないのに突っ込む事はしたくなかった。ここまで来た私が何を言っているんだって話だけどね。
この部屋には二人ほど敵がいるって覚えておけばいい。
更に奥に進んでみると、地下の方に続く階段があった。音が出ないように慎重に降りていくと、壁が無機質な石になっていて、扉は分厚く重たそうな物が佇んでいた。
ちょっと錆びているような感じはするけれど、使われていない訳じゃない。上の方に覗き穴があって、下の方には食事などを入れる穴が空いている。
中を覗いてみると――そこには何人もの子供が監禁されていた。男女問わず、私よりも幼いであろうその子達の腕には、例外なく腕輪が装着されている。
何かの認識用の装具かとも思うけれど、その姿はまるで……。
「――奴隷」
苦々しい言葉が私の口から漏れ出てきた。みんなが虚空を見つめていて、見るに耐えない姿を晒している。
この世界では、原則奴隷は禁止されている。無理に過酷を敷いたところで、生産性が低くなるだけだと初代魔王様が各国の王と話し合って決めたルールの一つだ。戦争に負けたとしてもそれは例外じゃなく、今の世界では『奴隷』というのは犯罪を犯した者に限る。
約束事に絶対的な決闘においても、一日や二日はともかく、その人の生涯を奴隷として扱う事は認められていない。それだけ重たい世界の法――界法だ。
でもこれは……目の前のこれは、そんな法を嘲笑っている。初代魔王様の時代に蔓延したと言われている奴隷の姿そのものだ。
血が滲みそうなほど拳を握りしめて、悔しくて歯噛みしてしまう。先人が苦労して作り出した法を、こうも容易く破ってしまう彼らに激しい怒りを覚える。
だけど、それを決して出さないように、静かに息を吸って、吐いて――心を落ち着かせる。
――怒りに任せた戦いは出来る限りしない。判断を鈍らせて、必要のない危険を背負い込む必要はない。
頭の中で必死にそう言い聞かせる。私は誰か? どうするべきか? それを心の中ではっきりとさせる為に。
「……あん? おい! おま――」
だからそう、ちょうど良く下に降りてきて、鉢合わせした男の足を蹴飛ばして、拳で顎を打ち抜くのも、大声を出されるのが面倒だったから。
私はエールティア。アルファスの生まれ。お父様やお母様に大切にされていて、町のみんなとも仲が良い。だから――
「よくも……よくも私の町で、こんな薄汚い真似を……!!」
お父様が必死でこの町を守ってきた事を誰よりも知っている。だからこそ、こんな事を許してはいけない。
頭の中をフル回転させる。今まで見てきた相手は、どれも私の足元にも及ばない。なら……これ以上、不必要な様子見は必要ないだろう。
冷静に、残酷に、無慈悲に、冷酷に……潰す。それだけだ。
最初は黒い影のようなものが動いているように見えたけれど、視界を正常化したおかげではっきりとそれを見る事が出来た。
……まさかそれが本当に悪魔族だとは思いもしなかったけれどね。
あの特徴的な角がうっすらぼけて見えるところから、何かしらの魔導具を使っているのは間違いない。
こういう風に悪用されているのを見つけると、主に魔導具を作っているドワーフ族に文句を言いたくなるんだけど、別に彼らがこれを作ったわけじゃないから何とも言えないんだけどね……。
でも、こんなのを作る人は、少しは悪用される事を考えて作って欲しい。
「影の奥へ」
「更なる闇に包まれん」
路地裏の奥いた魔人族と妙な合言葉を交わし合った悪魔族の男は、更に奥へと進んでいく。どっちもいかにもな風貌をしているからか、余計に怪しさが増していく。
私の方は『シャドウウォーク』を保ちながら、静かに魔人族の男の横を通り抜けて行く。
見張りの男を置いて奥に進んだ先には……小さな建物があって、そこの扉に悪魔族の男が入り込んでいるのが見えた。建物の間に隠されるようにあるそこは、悪い奴の隠れ家と呼ぶのに相応しい佇まいをしていた。
ここまで来るのは簡単だったけれど、これからどうするか悩んでしまって、動きを止めてしまった。
尾行している間に冷静さを取り戻したからこそだけれど……私は結局、先に進むことにした。
慎重に、ゆっくりと扉を開けると、中からは何とも言えない臭いが溢れ出してきた。思わず鼻を覆いたくなるようなそれは、血の臭いも混じっていた。
部屋の中に入ってしまった事によって『シャドウウォーク』の効果はかなり下がってしまったけれど、一度発動したおかげで、効果は持続している。気配などに敏感な人には見つかるだろうけれど、今はまだ大丈夫だ。
建物の中を歩いていると、食糧庫代わりになっている部屋があった。明らかに一人二人じゃ多すぎる量だ。それだけで嫌な感じが伝わってくる。探索を続けていくと、部屋の一つから話し声が聞こえてきた。
「……ら、……きは」
「……てる。だ……て」
大声だ話さずに、ぼそぼそと話しているからか、よく聞き取れない。割り込んでも良いけれど、あまりよくわからないのに突っ込む事はしたくなかった。ここまで来た私が何を言っているんだって話だけどね。
この部屋には二人ほど敵がいるって覚えておけばいい。
更に奥に進んでみると、地下の方に続く階段があった。音が出ないように慎重に降りていくと、壁が無機質な石になっていて、扉は分厚く重たそうな物が佇んでいた。
ちょっと錆びているような感じはするけれど、使われていない訳じゃない。上の方に覗き穴があって、下の方には食事などを入れる穴が空いている。
中を覗いてみると――そこには何人もの子供が監禁されていた。男女問わず、私よりも幼いであろうその子達の腕には、例外なく腕輪が装着されている。
何かの認識用の装具かとも思うけれど、その姿はまるで……。
「――奴隷」
苦々しい言葉が私の口から漏れ出てきた。みんなが虚空を見つめていて、見るに耐えない姿を晒している。
この世界では、原則奴隷は禁止されている。無理に過酷を敷いたところで、生産性が低くなるだけだと初代魔王様が各国の王と話し合って決めたルールの一つだ。戦争に負けたとしてもそれは例外じゃなく、今の世界では『奴隷』というのは犯罪を犯した者に限る。
約束事に絶対的な決闘においても、一日や二日はともかく、その人の生涯を奴隷として扱う事は認められていない。それだけ重たい世界の法――界法だ。
でもこれは……目の前のこれは、そんな法を嘲笑っている。初代魔王様の時代に蔓延したと言われている奴隷の姿そのものだ。
血が滲みそうなほど拳を握りしめて、悔しくて歯噛みしてしまう。先人が苦労して作り出した法を、こうも容易く破ってしまう彼らに激しい怒りを覚える。
だけど、それを決して出さないように、静かに息を吸って、吐いて――心を落ち着かせる。
――怒りに任せた戦いは出来る限りしない。判断を鈍らせて、必要のない危険を背負い込む必要はない。
頭の中で必死にそう言い聞かせる。私は誰か? どうするべきか? それを心の中ではっきりとさせる為に。
「……あん? おい! おま――」
だからそう、ちょうど良く下に降りてきて、鉢合わせした男の足を蹴飛ばして、拳で顎を打ち抜くのも、大声を出されるのが面倒だったから。
私はエールティア。アルファスの生まれ。お父様やお母様に大切にされていて、町のみんなとも仲が良い。だから――
「よくも……よくも私の町で、こんな薄汚い真似を……!!」
お父様が必死でこの町を守ってきた事を誰よりも知っている。だからこそ、こんな事を許してはいけない。
頭の中をフル回転させる。今まで見てきた相手は、どれも私の足元にも及ばない。なら……これ以上、不必要な様子見は必要ないだろう。
冷静に、残酷に、無慈悲に、冷酷に……潰す。それだけだ。
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