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103・夏の終わり
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楽しい時間はあっという間に過ぎる……その言葉はかなり真に迫っているんじゃないかと思う。
ジュールの手作りのお菓子を食べたり、リュネーと一緒に魔導の探求をして、彼女やジュールの力を底上げしたり……色んな事をやった。
海で泳いだりとかはしなかったけれど、私が住んでいるアルファスは港町だし、暑い時期は大体泳いでいる。偶にはそういうのがなくてもいいかな、と思う事にしておく。
唯一、なにか貴族の方で騒動が起こったようだけれど、私達には何の関わりもなく事態が収束していったから、あまり知る事はなかった。
ただ、猫人族至上主義の【純血派】が、ベルン率いる【混血派】に淘汰されてしまった……という事実だけ、後でリュネーが教えてもらったそうだ。
なんでも、私達に暗殺者を送ったのも彼ららしい。あんな遊びのような戦いが消える原因になるなんて、【純血派】というのはどこまでも哀れな生き物だったのだろう。
貴族が減った分、【混血派】の領土を持たない准男爵が領土を下賜されて、正式に伯爵としての地位を得たりとかしたらしいけど……その辺の詳細はあまり知らない。
流石に私は他国の者だし、内政に干渉してしまったらかなり不味い事になるから、それで良い。
ただ、その騒動が落ち着いた後日。ベルンが改めて謝罪に訪れたのには驚いた。
今回の騒動が起こったのは私がいれば問題ないだろうと判断した空が見逃した結果らしい。わざわざまっすぐ伝えてきたのに誠意を感じた私は、それを許す事にした。
ただ、もう二度とやらない事を条件にはしたけれどね。
いくらリュネーをお兄さんと言っても、何度も囮のように使われるのは気分良くなかったからだ。
とまあ、そんなこんなで騒動を含めながら時間は過ぎていき……今はペストラの25の日。後五日で月が変わり、新しい学園生活が始まる。
そんな時に私はある危機に直面していた。
――
「ティアちゃーん……終わらないにゃー……」
切なそうな声を上げているリュネーがこなしているのは、夏休みの課題。読書感想文だった。
私の方は彼女の自由研究を手伝っているけれど……後になると面倒そうなものばかりが残っている。
「……あのね、私も手伝ってあげてるんだから、そんな声上げないで早くしなさい」
自由研究は、とりあえず適当なもので済ませられるけれど、読書感想文だけは私が手伝ったらバレてしまう。流石にそれはリュネーの体裁が悪い為、なるべく彼女に頑張ってもらってるのだけれど……感想を書く、という行為自体があまり得意じゃないそうらしくて、かなり手こずっていた。
私の方は色と熱について軽く触れる程度に書いているけれど、この調子ならなんなく終わりそうだ。というか、まさか自分の以外の課題をこなさないといけないとは思わなかった。
リュネーが読書感想文に苦戦している丁度その時。ノックの音が響いて、ジュールが部屋に入ってきた。
「エールティア様、リュネー様、一休みしませんか?」
彼女の手にはトレイが乗っていて、そこには深紅茶のポットとカップが二つ。それとジュールが作ったのだろうロールケーキがあった。
「賛成にゃ! 助かったにゃー……」
一も二もなく大喜びするリュネーに白い目を向けるけれど、彼女は全く気にしていないようだった。
「……仕方ないわね。ちょっとだけよ」
結局、私が折れるような形で課題は一時中断。そろそろアルファスに帰らないといけない時が近づいてきているっていうのに、本当に大丈夫なのかな?
「わかりました。こちら、私が作ったロールケーキです。よろしかったら召し上がってください」
テーブルの上に置いていた課題を片付けた私達の前に、次々とお茶とお菓子が置かれていく。
「ジュールちゃん、いつの間にこんなものを作れるようになったのにゃ?」
「ここの厨房の方が教えてくれました。まだこれだけしか作れませんけどね」
笑っているジュールに違和感があるのは、彼女がリュネーに対する態度を軟化させているからだろう。
大分成長しているように思うけれど、日々成長していってくれて私は嬉しい。
「あの……エールティア様。良かったら……」
「ん、ありがとう」
ジュールがちらちらと私とロールケーキを見比べてきたから、にっこりと笑ってロールケーキの方に手を付ける事にした。ふわふわした生地はフォークで容易く切れる。
そのまま口に入れると、ロールケーキ自体の甘さが程よく口に広がって、そのままミルクの風味を強く残した生クリームが口の中に広がっていった。
「……どうですか?」
「ええ。かなり美味しいわよ。流石ジュールね」
不安げに聞いてきたジュールに笑顔で答えてあげると、彼女は本当に嬉しそうに笑ってくれた。
「うん、美味しいにゃ! ジュールちゃん、上手くなったにゃー」
リュネーはロールケーキを食べながら笑顔を振りまいていた。さっきまでうんうん唸っていたのに、現金な子だ。
二人が笑い合ってる姿を見ながら、私も自然に笑いが溢れた。来年も……こんな風に楽しい夏が過ごせればいい。そう思うほどに。
ジュールの手作りのお菓子を食べたり、リュネーと一緒に魔導の探求をして、彼女やジュールの力を底上げしたり……色んな事をやった。
海で泳いだりとかはしなかったけれど、私が住んでいるアルファスは港町だし、暑い時期は大体泳いでいる。偶にはそういうのがなくてもいいかな、と思う事にしておく。
唯一、なにか貴族の方で騒動が起こったようだけれど、私達には何の関わりもなく事態が収束していったから、あまり知る事はなかった。
ただ、猫人族至上主義の【純血派】が、ベルン率いる【混血派】に淘汰されてしまった……という事実だけ、後でリュネーが教えてもらったそうだ。
なんでも、私達に暗殺者を送ったのも彼ららしい。あんな遊びのような戦いが消える原因になるなんて、【純血派】というのはどこまでも哀れな生き物だったのだろう。
貴族が減った分、【混血派】の領土を持たない准男爵が領土を下賜されて、正式に伯爵としての地位を得たりとかしたらしいけど……その辺の詳細はあまり知らない。
流石に私は他国の者だし、内政に干渉してしまったらかなり不味い事になるから、それで良い。
ただ、その騒動が落ち着いた後日。ベルンが改めて謝罪に訪れたのには驚いた。
今回の騒動が起こったのは私がいれば問題ないだろうと判断した空が見逃した結果らしい。わざわざまっすぐ伝えてきたのに誠意を感じた私は、それを許す事にした。
ただ、もう二度とやらない事を条件にはしたけれどね。
いくらリュネーをお兄さんと言っても、何度も囮のように使われるのは気分良くなかったからだ。
とまあ、そんなこんなで騒動を含めながら時間は過ぎていき……今はペストラの25の日。後五日で月が変わり、新しい学園生活が始まる。
そんな時に私はある危機に直面していた。
――
「ティアちゃーん……終わらないにゃー……」
切なそうな声を上げているリュネーがこなしているのは、夏休みの課題。読書感想文だった。
私の方は彼女の自由研究を手伝っているけれど……後になると面倒そうなものばかりが残っている。
「……あのね、私も手伝ってあげてるんだから、そんな声上げないで早くしなさい」
自由研究は、とりあえず適当なもので済ませられるけれど、読書感想文だけは私が手伝ったらバレてしまう。流石にそれはリュネーの体裁が悪い為、なるべく彼女に頑張ってもらってるのだけれど……感想を書く、という行為自体があまり得意じゃないそうらしくて、かなり手こずっていた。
私の方は色と熱について軽く触れる程度に書いているけれど、この調子ならなんなく終わりそうだ。というか、まさか自分の以外の課題をこなさないといけないとは思わなかった。
リュネーが読書感想文に苦戦している丁度その時。ノックの音が響いて、ジュールが部屋に入ってきた。
「エールティア様、リュネー様、一休みしませんか?」
彼女の手にはトレイが乗っていて、そこには深紅茶のポットとカップが二つ。それとジュールが作ったのだろうロールケーキがあった。
「賛成にゃ! 助かったにゃー……」
一も二もなく大喜びするリュネーに白い目を向けるけれど、彼女は全く気にしていないようだった。
「……仕方ないわね。ちょっとだけよ」
結局、私が折れるような形で課題は一時中断。そろそろアルファスに帰らないといけない時が近づいてきているっていうのに、本当に大丈夫なのかな?
「わかりました。こちら、私が作ったロールケーキです。よろしかったら召し上がってください」
テーブルの上に置いていた課題を片付けた私達の前に、次々とお茶とお菓子が置かれていく。
「ジュールちゃん、いつの間にこんなものを作れるようになったのにゃ?」
「ここの厨房の方が教えてくれました。まだこれだけしか作れませんけどね」
笑っているジュールに違和感があるのは、彼女がリュネーに対する態度を軟化させているからだろう。
大分成長しているように思うけれど、日々成長していってくれて私は嬉しい。
「あの……エールティア様。良かったら……」
「ん、ありがとう」
ジュールがちらちらと私とロールケーキを見比べてきたから、にっこりと笑ってロールケーキの方に手を付ける事にした。ふわふわした生地はフォークで容易く切れる。
そのまま口に入れると、ロールケーキ自体の甘さが程よく口に広がって、そのままミルクの風味を強く残した生クリームが口の中に広がっていった。
「……どうですか?」
「ええ。かなり美味しいわよ。流石ジュールね」
不安げに聞いてきたジュールに笑顔で答えてあげると、彼女は本当に嬉しそうに笑ってくれた。
「うん、美味しいにゃ! ジュールちゃん、上手くなったにゃー」
リュネーはロールケーキを食べながら笑顔を振りまいていた。さっきまでうんうん唸っていたのに、現金な子だ。
二人が笑い合ってる姿を見ながら、私も自然に笑いが溢れた。来年も……こんな風に楽しい夏が過ごせればいい。そう思うほどに。
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