89 / 676
89・夏の猫人族の国
しおりを挟む
鳥車で案内された私達が辿り着いたのは、屋根が赤く、壁が白い綺麗な館だった。太陽の光を受けてきらきらしてるそこは、シルケットの本気度合いが窺い知れる場所だった……んだけど、そこで私の頭の中から疑問が湧き出してきた。
「そういえば、ここにはお父様の別荘はないのかしら?」
「えっと、ラディン公爵閣下の別荘はあるにゃ。シルケットはティリアースの王族と仲がいいにゃ。王座に就きそうな家の別荘は大体あるにゃ」
シルケットにとって、ティリアースとの仲を深めるのは最も重要な事だからね。これでティリアース側が暗君だった時の対応も決めてるらしいんだから、かなり準備がいい。
「でも、今日は私達の館に案内しますにゃ。お父様やお母様にもティアちゃんを紹介したいし……あ、だめ、かにゃ?」
こてんと可愛らしく首を傾けるリュネーは、本当に可愛い。
「全くだめじゃない。むしろ貴方のお父様とお母様って言えば……」
「うん。この国の現国王と王妃なのにゃ」
「……私が会ってもいいの?」
今の私はアルファスに在住しているリシュファス公爵家の娘であって、まだ王位を継承すると決まったわけじゃない。
国家の父とも言えるような存在と簡単に会えるような立場じゃないと思うんだけど……。
「そこは大丈夫なのにゃ。館の中はプライベート。城の中で会わないなら影響も少ないのにゃ」
呑気に言ってくれるけど……まあ、あんまり気にしても仕方ないか。リュネーが良いと言っているんだし、良いんだろう。
「それでは、中までご案内致しますのにゃ。どうぞこちらに」
今まで空気だったフェッツが先導を取るように歩き始めて、私達も彼の後に続いた。
「あの、エールティア様」
「ん、なに?」
話が中断したのを見計らうようにジュールが話しかけてきた。その姿は、少し前に見せたあの姿はすっかり引っ込んで、雪雨との決闘が終わった辺りのジュールに戻ったみたいな気がした。
「え、えっと……ですね。きょ……いいえ、明日の夜にでも、少しお話をしませんか?」
「……別に今日でもいいけれど」
「明日! ……で、お願いします。ちょ、ちょっと館の中を見てきてますね」
ジュールはそれだけ言って何処かに行ってしまった。残された私は、フェッツの方に視線を向けた。
「大丈夫なの?」
「今日は行って欲しくないところにはメイドや兵士を配置しておりすから問題ありませんにゃ」
まるでこうなる事がわかっていたかのような口調だ。だけど、彼も意外そうな顔してたし、多分私を想定していたのかもしれない。
「ジュールちゃん、どうしたのかにゃ?」
「……色々あったのよ」
「そっか……ジュールちゃん、ちょっと変わったにゃ」
ジュールはリュネーにも、かなり嫌な態度を取っていたから、シルケットで久しぶりに見た彼女の変化に驚いているんだろう。
……私も、リュネーがこんな言葉遣いするなんて思ってもみなかったから、大分驚いてるけれどね。
「リュネーだって猫、被ってたじゃない」
脱いだ後は更に猫になったけどね。
「や、やっぱり変なのかな?」
「私は学園でのリュネーしか知らないから違和感があるけれど、ここではそれが貴女の本当なんでしょう? だったらそのままでいて欲しいな。そんなリュネーも可愛いからね」
「かわ……っ!?」
私が何か不味い事を言ったのか知らないけれど、リュネーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。しかも、フェッツはなんだか生暖かい笑みでこっちを見てきてる。
「あまり王女殿下で遊ばないで下さいにゃ」
「遊んだつもりはないのだけれども……」
ただ、本当の事を言っただけなんだけどなぁ。
どんな言葉遣いでも、リュネーが可愛いのは事実だもの。私は一人っ子だけど、もし妹がいたらこんな気持ちになるのかな? って思うほどだ。
「王女殿下はそういう褒め言葉を聞き慣れてませんのにゃ。王妃殿下や国王陛下――身内の方々にならまだしも、他の――」
「フェッツ!」
「……これは失礼しましたにゃ。私とした事が……」
遮るように声を荒げたリュネーに対して、フェッツは申し訳なさそうに頭を下げる。
なんとなく居心地の悪さを感じてしまった私は、とりあえず誤魔化すように何か言うことにした。
「とりあえず、まずは館の中を案内してもらえない? ルールがあるなら、それに従った方がいいでしょう?」
「……わかりましたにゃ。ちょっと時間が掛かりますが、それでもよろしいですかにゃ?」
フェッツも空気が悪くなった事に思うところがあったのか、すぐに私の提案に乗っかったきた。
「そ、それじゃ、私は……」
「リュネー殿下はお庭の方で少しお休みになられた方が良いと思いますにゃ。深紅茶を届けさせますので、ゆっくりと心を休めて下さいにゃ」
「……わかったにゃ」
ダイレクトに『来るな』と言われたリュネーは、落ち込みながらも納得した様子で庭の方に向かって歩いていった。
「良かったの? あんな風に言って」
「本当は良くないですにゃ。ですが……私の失言に傷ついたあの方を連れ回すような趣味はありませんにゃ」
どこか力が抜けたように答えたフェッツは、気を取り直したような顔つきで、私に向き直った。
「それでは、案内いたしますにゃ。まずはこちらの方にどうぞですにゃ」
ちょっと色々とあったけど、とりあえず今はフェッツについて行こう。リュネーには……後で少し言葉をかけてあげないとね。
「そういえば、ここにはお父様の別荘はないのかしら?」
「えっと、ラディン公爵閣下の別荘はあるにゃ。シルケットはティリアースの王族と仲がいいにゃ。王座に就きそうな家の別荘は大体あるにゃ」
シルケットにとって、ティリアースとの仲を深めるのは最も重要な事だからね。これでティリアース側が暗君だった時の対応も決めてるらしいんだから、かなり準備がいい。
「でも、今日は私達の館に案内しますにゃ。お父様やお母様にもティアちゃんを紹介したいし……あ、だめ、かにゃ?」
こてんと可愛らしく首を傾けるリュネーは、本当に可愛い。
「全くだめじゃない。むしろ貴方のお父様とお母様って言えば……」
「うん。この国の現国王と王妃なのにゃ」
「……私が会ってもいいの?」
今の私はアルファスに在住しているリシュファス公爵家の娘であって、まだ王位を継承すると決まったわけじゃない。
国家の父とも言えるような存在と簡単に会えるような立場じゃないと思うんだけど……。
「そこは大丈夫なのにゃ。館の中はプライベート。城の中で会わないなら影響も少ないのにゃ」
呑気に言ってくれるけど……まあ、あんまり気にしても仕方ないか。リュネーが良いと言っているんだし、良いんだろう。
「それでは、中までご案内致しますのにゃ。どうぞこちらに」
今まで空気だったフェッツが先導を取るように歩き始めて、私達も彼の後に続いた。
「あの、エールティア様」
「ん、なに?」
話が中断したのを見計らうようにジュールが話しかけてきた。その姿は、少し前に見せたあの姿はすっかり引っ込んで、雪雨との決闘が終わった辺りのジュールに戻ったみたいな気がした。
「え、えっと……ですね。きょ……いいえ、明日の夜にでも、少しお話をしませんか?」
「……別に今日でもいいけれど」
「明日! ……で、お願いします。ちょ、ちょっと館の中を見てきてますね」
ジュールはそれだけ言って何処かに行ってしまった。残された私は、フェッツの方に視線を向けた。
「大丈夫なの?」
「今日は行って欲しくないところにはメイドや兵士を配置しておりすから問題ありませんにゃ」
まるでこうなる事がわかっていたかのような口調だ。だけど、彼も意外そうな顔してたし、多分私を想定していたのかもしれない。
「ジュールちゃん、どうしたのかにゃ?」
「……色々あったのよ」
「そっか……ジュールちゃん、ちょっと変わったにゃ」
ジュールはリュネーにも、かなり嫌な態度を取っていたから、シルケットで久しぶりに見た彼女の変化に驚いているんだろう。
……私も、リュネーがこんな言葉遣いするなんて思ってもみなかったから、大分驚いてるけれどね。
「リュネーだって猫、被ってたじゃない」
脱いだ後は更に猫になったけどね。
「や、やっぱり変なのかな?」
「私は学園でのリュネーしか知らないから違和感があるけれど、ここではそれが貴女の本当なんでしょう? だったらそのままでいて欲しいな。そんなリュネーも可愛いからね」
「かわ……っ!?」
私が何か不味い事を言ったのか知らないけれど、リュネーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。しかも、フェッツはなんだか生暖かい笑みでこっちを見てきてる。
「あまり王女殿下で遊ばないで下さいにゃ」
「遊んだつもりはないのだけれども……」
ただ、本当の事を言っただけなんだけどなぁ。
どんな言葉遣いでも、リュネーが可愛いのは事実だもの。私は一人っ子だけど、もし妹がいたらこんな気持ちになるのかな? って思うほどだ。
「王女殿下はそういう褒め言葉を聞き慣れてませんのにゃ。王妃殿下や国王陛下――身内の方々にならまだしも、他の――」
「フェッツ!」
「……これは失礼しましたにゃ。私とした事が……」
遮るように声を荒げたリュネーに対して、フェッツは申し訳なさそうに頭を下げる。
なんとなく居心地の悪さを感じてしまった私は、とりあえず誤魔化すように何か言うことにした。
「とりあえず、まずは館の中を案内してもらえない? ルールがあるなら、それに従った方がいいでしょう?」
「……わかりましたにゃ。ちょっと時間が掛かりますが、それでもよろしいですかにゃ?」
フェッツも空気が悪くなった事に思うところがあったのか、すぐに私の提案に乗っかったきた。
「そ、それじゃ、私は……」
「リュネー殿下はお庭の方で少しお休みになられた方が良いと思いますにゃ。深紅茶を届けさせますので、ゆっくりと心を休めて下さいにゃ」
「……わかったにゃ」
ダイレクトに『来るな』と言われたリュネーは、落ち込みながらも納得した様子で庭の方に向かって歩いていった。
「良かったの? あんな風に言って」
「本当は良くないですにゃ。ですが……私の失言に傷ついたあの方を連れ回すような趣味はありませんにゃ」
どこか力が抜けたように答えたフェッツは、気を取り直したような顔つきで、私に向き直った。
「それでは、案内いたしますにゃ。まずはこちらの方にどうぞですにゃ」
ちょっと色々とあったけど、とりあえず今はフェッツについて行こう。リュネーには……後で少し言葉をかけてあげないとね。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる