88 / 676
88・シルケット流
しおりを挟む
ペストラの18の日。リュクレイン一家に別れを告げた私は、ワイバーンを使ってシルケットまで向かった。
正直、かなり強引に行ったとは思うけれど、これ以上リュネーを待たせる訳にはいかない。だから、半ば強行軍で先に進む事にしたというわけだ。
「エールティア様。やっと……着きましたね。本当によろしかったのですか?」
少しは疲れた様子でワイバーンを降りたジュールは、まだあの中央都市に心を残してるみたいだった。
「仕方ないでしょう。これ以上約束に遅れるのは嫌だったんですもの。世の中にはね、一回遅れたら何回遅れても同じ……そういう考え方をする人もいるけれど、それは違うの。一度遅れたからこそ、二度目はないようにしないといけないの」
「な、なるほど……!」
力説する私に感動したジュールが拍手しているところに、丸くてふわふわした物体が現れた。
後ろには同じくらいの大きさの猫人族が大勢従っていて、まるで道でも作るように左右に分かれた。
「シルケットにようこそですにゃ。エールティア殿下」
ぺこりと頭を下げたそれは、白色の毛をした真っ赤な目の猫。器用に二本足で立ってて、赤いローブを羽織ってる。シルケット王家の紋章が金の刺繍でローブの胸元に刻まれてる。多分、背中も同じなんだろう。
猫の肉球と、その真下に杖と雷が描かれてる特徴的な紋章だ。確か、この服装は猫人族の外交官の証だっけ。
しかも王家の紋章を入れてるって事は、位の高い人物? 猫物? どっちなんだろう……。
「ありがとうございます。貴方は?」
「私はフェッツ・ジルガと申しますにゃ。シルケットの外交及び内政に携わっておりますにゃ」
ジルガ家は現王家であるシルケット家に代々使えてる一族だっけ。初代当主は……確かケットシーだったはず。
「わざわざ貴方ほどの人材を寄越してくれるなんて、シルケットは随分と張り切ってるのね」
「当然ですにゃ。友好国であるティリアース王家の方。それも直系に返り咲く可能性のある方なら尚更ですにゃ」
……この猫。どこまで知ってるんだろう? 今の言葉で動揺した私は、上手く取り繕うことが出来なかった。
「それ、私以外には――」
「もちろん、承知しておりますにゃ。こちらとしても、不要な揉め事をするつもりはございませんにゃ」
――どうだか。
思わず口に出かかったのをなんとか飲み込んだ。
にゃーにゃー言ってるけど、思った以上に強かな猫だ。一応私を盛大にもてなしておけば、恩を売れるとでも考えてるんだろう。
とりあえずティリアースの王族には色目を使っておけば、誰が次代の王になっても問題ない。有力そうなのには後から別枠で支援すれば良いわけだしね。
「それでは、こちらの方にどうぞですにゃ。リュネー殿下もお待ちしておりますにゃ」
「ええ。……行くわよ、ジュール」
「はい」
フェッツの案内を受けながら、私達は猫人族の道を歩いた。
ワイバーン発着場を出ると、そこには綺麗なラントルオの鳥車があった。
その鳥車の前には綺麗なドレスに身を包んだリュネーがいた。爽やかな淡いグリーンが目に鮮やかで、煌びやかさと清楚さが合わさってとても美しい。
丁寧にカーテシー――お辞儀をしたリュネーは、学園でどこか弱気だったり、私にくっついてきた彼女とはどこか違って見える。
「エールティア殿下。ようこそおいでくださいましたにゃ! ……あ、ました」
語尾に『にゃ!』とつけた後、恥ずかしがって言い直さなければ完璧だったと思う。
「リュネー王女殿下。無理に言い直さなくてもいいですにゃ。ここは他国じゃないですにゃ。シルケットにいる時はいつも通りに振る舞ってくださいにゃ」
フェッツの言葉に少しは自分を取り戻したのか、表情が明るくなってきた。
「それでは、こちらの鳥車にお乗り下さいですにゃ。しばらく滞在していただく館に案内させていただきますにゃ」
器用に鳥車の扉を開けて、乗るように催促された私達は、リュネーも含めて全員で乗り込む。不備がないか確認していたフェッツは、満足そうに頷いて、ゆっくりと鳥車を出発させた。
緩やかに流れていく景色を見ながら、この沈黙をどうやって解消しようか悩む。
「え、えっと……おかしいかにゃ? ……おかしいかな?」
なんとか沈黙を打破しようとしたリュネーは、一人になった事で恥ずかしさを思い出したのか、若干顔を赤くしていた。
「おかしくはないけど……急にどうしたの?」
「猫人族はいつもこういう風に話してるにゃ。ティアちゃんも知ってるかにゃ?」
「……そうね。語尾に何か付けるのは知ってるけど……」
「にゃは、私ね、他の国に行くって聞いたから、ずっと我慢してたのにゃ。向こうじゃ私みたいな姿をしてる人は、語尾に『にゃ』とか『みゃ』とかつけないって聞いてにゃ」
もじもじしてるその姿は、どこかあざとく感じる部分もあるけど……確かに、シルケットで育ったんだから本来ならそういう喋り方になるんだろう。
猫が猫被りしてたという訳だけど、彼女の本当の姿を垣間見た気がして、少しだけ嬉しかった。
正直、かなり強引に行ったとは思うけれど、これ以上リュネーを待たせる訳にはいかない。だから、半ば強行軍で先に進む事にしたというわけだ。
「エールティア様。やっと……着きましたね。本当によろしかったのですか?」
少しは疲れた様子でワイバーンを降りたジュールは、まだあの中央都市に心を残してるみたいだった。
「仕方ないでしょう。これ以上約束に遅れるのは嫌だったんですもの。世の中にはね、一回遅れたら何回遅れても同じ……そういう考え方をする人もいるけれど、それは違うの。一度遅れたからこそ、二度目はないようにしないといけないの」
「な、なるほど……!」
力説する私に感動したジュールが拍手しているところに、丸くてふわふわした物体が現れた。
後ろには同じくらいの大きさの猫人族が大勢従っていて、まるで道でも作るように左右に分かれた。
「シルケットにようこそですにゃ。エールティア殿下」
ぺこりと頭を下げたそれは、白色の毛をした真っ赤な目の猫。器用に二本足で立ってて、赤いローブを羽織ってる。シルケット王家の紋章が金の刺繍でローブの胸元に刻まれてる。多分、背中も同じなんだろう。
猫の肉球と、その真下に杖と雷が描かれてる特徴的な紋章だ。確か、この服装は猫人族の外交官の証だっけ。
しかも王家の紋章を入れてるって事は、位の高い人物? 猫物? どっちなんだろう……。
「ありがとうございます。貴方は?」
「私はフェッツ・ジルガと申しますにゃ。シルケットの外交及び内政に携わっておりますにゃ」
ジルガ家は現王家であるシルケット家に代々使えてる一族だっけ。初代当主は……確かケットシーだったはず。
「わざわざ貴方ほどの人材を寄越してくれるなんて、シルケットは随分と張り切ってるのね」
「当然ですにゃ。友好国であるティリアース王家の方。それも直系に返り咲く可能性のある方なら尚更ですにゃ」
……この猫。どこまで知ってるんだろう? 今の言葉で動揺した私は、上手く取り繕うことが出来なかった。
「それ、私以外には――」
「もちろん、承知しておりますにゃ。こちらとしても、不要な揉め事をするつもりはございませんにゃ」
――どうだか。
思わず口に出かかったのをなんとか飲み込んだ。
にゃーにゃー言ってるけど、思った以上に強かな猫だ。一応私を盛大にもてなしておけば、恩を売れるとでも考えてるんだろう。
とりあえずティリアースの王族には色目を使っておけば、誰が次代の王になっても問題ない。有力そうなのには後から別枠で支援すれば良いわけだしね。
「それでは、こちらの方にどうぞですにゃ。リュネー殿下もお待ちしておりますにゃ」
「ええ。……行くわよ、ジュール」
「はい」
フェッツの案内を受けながら、私達は猫人族の道を歩いた。
ワイバーン発着場を出ると、そこには綺麗なラントルオの鳥車があった。
その鳥車の前には綺麗なドレスに身を包んだリュネーがいた。爽やかな淡いグリーンが目に鮮やかで、煌びやかさと清楚さが合わさってとても美しい。
丁寧にカーテシー――お辞儀をしたリュネーは、学園でどこか弱気だったり、私にくっついてきた彼女とはどこか違って見える。
「エールティア殿下。ようこそおいでくださいましたにゃ! ……あ、ました」
語尾に『にゃ!』とつけた後、恥ずかしがって言い直さなければ完璧だったと思う。
「リュネー王女殿下。無理に言い直さなくてもいいですにゃ。ここは他国じゃないですにゃ。シルケットにいる時はいつも通りに振る舞ってくださいにゃ」
フェッツの言葉に少しは自分を取り戻したのか、表情が明るくなってきた。
「それでは、こちらの鳥車にお乗り下さいですにゃ。しばらく滞在していただく館に案内させていただきますにゃ」
器用に鳥車の扉を開けて、乗るように催促された私達は、リュネーも含めて全員で乗り込む。不備がないか確認していたフェッツは、満足そうに頷いて、ゆっくりと鳥車を出発させた。
緩やかに流れていく景色を見ながら、この沈黙をどうやって解消しようか悩む。
「え、えっと……おかしいかにゃ? ……おかしいかな?」
なんとか沈黙を打破しようとしたリュネーは、一人になった事で恥ずかしさを思い出したのか、若干顔を赤くしていた。
「おかしくはないけど……急にどうしたの?」
「猫人族はいつもこういう風に話してるにゃ。ティアちゃんも知ってるかにゃ?」
「……そうね。語尾に何か付けるのは知ってるけど……」
「にゃは、私ね、他の国に行くって聞いたから、ずっと我慢してたのにゃ。向こうじゃ私みたいな姿をしてる人は、語尾に『にゃ』とか『みゃ』とかつけないって聞いてにゃ」
もじもじしてるその姿は、どこかあざとく感じる部分もあるけど……確かに、シルケットで育ったんだから本来ならそういう喋り方になるんだろう。
猫が猫被りしてたという訳だけど、彼女の本当の姿を垣間見た気がして、少しだけ嬉しかった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる