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74・送魂祭③
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焼きそばなどの料理で舌を楽しませ、花火のように夜空に咲く魔導で目を楽しませる。なるほど。これほどの祭だとは思ってもみなかった。
花火を楽しんだ後も金魚すくいや輪投げで遊んで、わたあめの雲のような白さと甘さに感動して、くじの内容で一喜一憂したりした。
時間はあっという間に過ぎて、雪雨も少し疲れたような素振りをみせるようになった。
「ちょっとはしゃぎ過ぎたな」
空を見上げて誰に言うでもなく呟いた雪雨は、何かを考えるような素振りを見せていた。
「どうする? そろそろ帰る準備するか?」
「……そうね。でも、準備する必要あるの?」
「帰る前に『霊船流し』をするんだよ。次の日からはしなくてもいいけどな」
あー、それはすっかり忘れてた。あんまりにも新鮮な出来事ばかりだったから、ついね。
だけど、ここで一つ疑問が湧いた。確かこれは鬼人族の祭のはずだ。その総仕上げみたいな行為をやっても良いのかな?
「私は他国の人なんだけど……大丈夫なの?」
「当たり前だ。現世に留まってる魂ってのは何も鬼人族だけじゃない。聖黒族に魔人族。あらゆる種族がそうだと言える。だからお前にも十分資格はあるさ」
雪雨は『気にするな』とでも言うような素振りを見せて、笑いかけて来た。
「そういうものなのね」
「ああ。だから行くぞ。早くしないと長蛇の列が出来て面倒くさいからな」
まるでちょっとそこまで行くような気軽さがあるけど……そんなノリで良いのかな?
ちょっと思うところはあるけれど、まあいいか。
鬼人族である彼がそう言うのであれば、それで構わないのだろうしね。
――
そこに着いたのは帰ると決めてからしばらく歩いた後の事。既に長い列が作られていて、最先端は川の方という感じだ。
「これに並ばないといけないのね……」
少しげんなりした雰囲気で言葉が出て来たけれど……そう言わざるを得ない程の長い列。今から並んでどれくらい時間が掛かるだろうか? と思うくらいだ。
「やっぱり遅かったか。しょうがねぇなぁ……」
頭を軽く掻いてから諦めるような言葉が漏れ出た。雪雨ならその立場を使ってこの列を無視していけるような気がするけれど……彼のこの言葉からはそういう事は出来ないようになっている事がわかる。
「先に来る訳には……行かなかったんでしょうね」
「当たり前だろう。死者と騒いで、最期を悼むんだ。先に黄泉幽世に送ったら意味がないだろう」
わかりきった質問だった。やっぱりこの運命は変えられそうになかったのかもね。
「それにしても……」
先程の祭りの雰囲気とは明らかに空気が一変してる。後ろの方では今もなお、あの心地よい喧騒が続いている。だけど、ここにはそれが一切ない。
まるでここだけ世界を切り取って隔絶してるんじゃないか? と思う程だ。
「ここには去年の祭り以降から今年の祭りまでの間に死んだ奴の家族もいる。そういうのが本当の……真の別れを告げるには、あの騒がしさは無粋……だろう?」
雪雨の言う事ももっともだと、頷きながら列を眺める。
中には年寄りが「あいつと私はよく張り合っていてな……」とか女の人が目に薄く涙を溜めてたりしてた。
その光景を見て、私は少しだけ……ほんの少しだけ胸が締め付けられる。この光景を産んだのは私じゃない。でも……今見ているこれに思うところがあるなら、それは昔の私も、他の誰かにこれだけの悲しみを与えていたんだ……という事になるから。
今列を作っている彼らはある意味幸せなのかもしれない。葬式と祭りで弔われ、最後に笑って過ごして……お別れが言えるのだから。
「……思うところがあるのか?」
「え……?」
真剣な声が聞こえて、思わず雪雨の方を見ると、そこには真面目な顔をしている彼の姿があった。
「鬼人族ってのは戦いを好む。だから、それによって死ぬのが一番多いんだ。俺だって死にかけた事くらいあるし、殺してはないけど、少しやりすぎる事だってある。だけどな……」
上手い言葉が見つからないのか、感情が溢れて中々口に出せないのか……雪雨は少しの間に黙ったまま、一番前で小船を川に流してる人達の姿を見ていた。
「死んだ奴らの事を悼む気持ちなんて俺は必要ないと思ってる。奴らは……明日――未来を夢見て生きていた。赤ん坊だってそうだ。生きる為に精一杯だ。だったら……死んだ奴らの分も夢見て、叶える為に生きていくのが残った奴らがしてやれる事なんだと思うんだ」
雪雨は「あー! どう言ったらいいんだか……」なんて言いながら頭を抱えてるけれど、彼が私に伝えたい事はなんとなく理解出来たような気がする。あまり気に病むなって事なんだろう。
「ありがとう。心配してくれて」
「……別にそんなんじゃねぇよ。ただ、お前が関係ない奴の死で悲しん――なんでもねぇよ」
からかわれるのが嫌だったのか、雪雨は最後まで口にせずにそっぽを向いてしまった。
……改めて、今日は本当に来て良かったと思った。だから、最後まで……船を流すまでしっかりやろう。
それが私の出来る……弔いなんだと思うから。
花火を楽しんだ後も金魚すくいや輪投げで遊んで、わたあめの雲のような白さと甘さに感動して、くじの内容で一喜一憂したりした。
時間はあっという間に過ぎて、雪雨も少し疲れたような素振りをみせるようになった。
「ちょっとはしゃぎ過ぎたな」
空を見上げて誰に言うでもなく呟いた雪雨は、何かを考えるような素振りを見せていた。
「どうする? そろそろ帰る準備するか?」
「……そうね。でも、準備する必要あるの?」
「帰る前に『霊船流し』をするんだよ。次の日からはしなくてもいいけどな」
あー、それはすっかり忘れてた。あんまりにも新鮮な出来事ばかりだったから、ついね。
だけど、ここで一つ疑問が湧いた。確かこれは鬼人族の祭のはずだ。その総仕上げみたいな行為をやっても良いのかな?
「私は他国の人なんだけど……大丈夫なの?」
「当たり前だ。現世に留まってる魂ってのは何も鬼人族だけじゃない。聖黒族に魔人族。あらゆる種族がそうだと言える。だからお前にも十分資格はあるさ」
雪雨は『気にするな』とでも言うような素振りを見せて、笑いかけて来た。
「そういうものなのね」
「ああ。だから行くぞ。早くしないと長蛇の列が出来て面倒くさいからな」
まるでちょっとそこまで行くような気軽さがあるけど……そんなノリで良いのかな?
ちょっと思うところはあるけれど、まあいいか。
鬼人族である彼がそう言うのであれば、それで構わないのだろうしね。
――
そこに着いたのは帰ると決めてからしばらく歩いた後の事。既に長い列が作られていて、最先端は川の方という感じだ。
「これに並ばないといけないのね……」
少しげんなりした雰囲気で言葉が出て来たけれど……そう言わざるを得ない程の長い列。今から並んでどれくらい時間が掛かるだろうか? と思うくらいだ。
「やっぱり遅かったか。しょうがねぇなぁ……」
頭を軽く掻いてから諦めるような言葉が漏れ出た。雪雨ならその立場を使ってこの列を無視していけるような気がするけれど……彼のこの言葉からはそういう事は出来ないようになっている事がわかる。
「先に来る訳には……行かなかったんでしょうね」
「当たり前だろう。死者と騒いで、最期を悼むんだ。先に黄泉幽世に送ったら意味がないだろう」
わかりきった質問だった。やっぱりこの運命は変えられそうになかったのかもね。
「それにしても……」
先程の祭りの雰囲気とは明らかに空気が一変してる。後ろの方では今もなお、あの心地よい喧騒が続いている。だけど、ここにはそれが一切ない。
まるでここだけ世界を切り取って隔絶してるんじゃないか? と思う程だ。
「ここには去年の祭り以降から今年の祭りまでの間に死んだ奴の家族もいる。そういうのが本当の……真の別れを告げるには、あの騒がしさは無粋……だろう?」
雪雨の言う事ももっともだと、頷きながら列を眺める。
中には年寄りが「あいつと私はよく張り合っていてな……」とか女の人が目に薄く涙を溜めてたりしてた。
その光景を見て、私は少しだけ……ほんの少しだけ胸が締め付けられる。この光景を産んだのは私じゃない。でも……今見ているこれに思うところがあるなら、それは昔の私も、他の誰かにこれだけの悲しみを与えていたんだ……という事になるから。
今列を作っている彼らはある意味幸せなのかもしれない。葬式と祭りで弔われ、最後に笑って過ごして……お別れが言えるのだから。
「……思うところがあるのか?」
「え……?」
真剣な声が聞こえて、思わず雪雨の方を見ると、そこには真面目な顔をしている彼の姿があった。
「鬼人族ってのは戦いを好む。だから、それによって死ぬのが一番多いんだ。俺だって死にかけた事くらいあるし、殺してはないけど、少しやりすぎる事だってある。だけどな……」
上手い言葉が見つからないのか、感情が溢れて中々口に出せないのか……雪雨は少しの間に黙ったまま、一番前で小船を川に流してる人達の姿を見ていた。
「死んだ奴らの事を悼む気持ちなんて俺は必要ないと思ってる。奴らは……明日――未来を夢見て生きていた。赤ん坊だってそうだ。生きる為に精一杯だ。だったら……死んだ奴らの分も夢見て、叶える為に生きていくのが残った奴らがしてやれる事なんだと思うんだ」
雪雨は「あー! どう言ったらいいんだか……」なんて言いながら頭を抱えてるけれど、彼が私に伝えたい事はなんとなく理解出来たような気がする。あまり気に病むなって事なんだろう。
「ありがとう。心配してくれて」
「……別にそんなんじゃねぇよ。ただ、お前が関係ない奴の死で悲しん――なんでもねぇよ」
からかわれるのが嫌だったのか、雪雨は最後まで口にせずにそっぽを向いてしまった。
……改めて、今日は本当に来て良かったと思った。だから、最後まで……船を流すまでしっかりやろう。
それが私の出来る……弔いなんだと思うから。
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