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67・溢れ出す衝動
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私の発動した『エアルヴェ・シュネイス』の効果がなくなり、再び世界に色が戻った瞬間――雪雨に向かって魔導を解き放つ。
「『ガシングフレア』」
さっきは白一色に染め上げる魔導だったから、次は少し色を変えよう――そう思って選んだ。
周囲に立ち込める毒ガスに炎が加わり、爆発という名の艶やかな花を幾たびも咲かせる。
「っ……! 『流嵐・清風陣』!!」
一瞬驚いた表情を見せた雪雨は、それでも防御のために魔導を構築する事が出来たみたいだった。
彼の下に何か紋様が浮かび上がって、上空に向かって涼しげな風が吹き上げる。
紫色の爆発をぎりぎり防いでいるのを見届けたと同時に、駆け出しながら魔導の構築をしていく。
イメージは鋭い毒の槍。融解させ、溶解させる。じわじわと死に至る猛毒の塊。
「『トキシックスピア』!」
生み出された槍の形状をした数本の毒が雪雨に襲い掛かって行く。一応防御系の魔導の力を見極め、あれが突き破れない程度の魔力を込めて。
「はっ! その程度の魔導でどうにかなるかよ!」
決して油断せず、戦いを挑んでくる彼にはこれは不満だろう。だけど――
「『マジカルシュトライヒ』」
だからこそ、今回の魔導が役に立つ。イメージは魔力を誤魔化す子どもの悪戯。これは次に放つ魔導に影響を与える。だけど……雪雨には今、私が何をしようとしているかわからないだろう。
「『トキシックスピア』!」
「ちっ…… 『流嵐・清風陣』」
私が再び放った毒の槍の魔導を見て、雪雨はがっかりしたような表情を浮かべる。でも、それは私の作戦通りだ。
放たれた毒の槍を見ても、雪雨はまるで動じていない。私があれに込めた魔力が先程と全く変わっていないからだろう。
「くすくす、お粗末ね」
「なんだと……!」
苛立つ瞳を向けるのは良いけれど、まだ私の行動の意図に気付かないなんてね。
……イメージするのは混沌から這い出る蛇。望むままに喰らい尽くす暴食の一族。
「『カオティックコアトル』!!」
私は『トキシックスピア』が着弾する前にもう一つの魔導を発動させる。周囲から闇が点々と出現して、幾つもの細い蛇が姿を現した。
「それがほんめ――!?」
ようやく満足のいく魔導を放ってきたと感じていただろう雪雨の表情は驚愕に歪んで、私は思わず『やった』と笑みが溢れた。
さっきの『トキシックスピア』は彼の魔導で作り出された防御結界を突破できなかった。だけど……今回はそれを容易く凌駕する。毒の槍が二本当たったくらいで彼の結界は完全に砕かれ、残りはまっすぐ命を奪おうと迫っていく。
辛うじて一つは避けて、ご自慢の金剛覇刀で残りを防いでも……最後に残ったのは一切削れていない『カオティックコアトル』。
防いだ時に飛び散って付着した毒液が、雪雨の肌を焼き、異臭をあげる。痛みを堪えるようにより一層獰猛な笑みを深めていた。
「『ガシングフレア』」
「『じ――ぐ――』」
ダメ押しで放った追撃の毒ガスと炎の合わせ技による爆発で、雪雨の言葉が上手く聞き取れなかった。……今の言葉は意味があるものだと直感で判断する。恐らく……彼の切り札的魔導。この局面でそれを使ってきた、という事は絶対的な自信があるということだ。
決して油断できない。だけどそれ以上に、私の心は高揚を覚えていた。【覚醒】を成し遂げたハクロの時に覚えたソレ以上の感覚を。
……一体、何をしてくるのだろう? もっと、見せて欲しい。
――私に見せて。貴方の命の煌めきを。そして感じさせて。貴方の全てを。
一度知覚したものはもう拭いされない。思い出したものは私の感情に火を灯す。
ここまでの激しい戦いのおかげで、私は本当の自分を取り戻した。……取り、戻してしまった。
全て忘れていた。満たされていたから。
思い出さないようにしていた。戻れなくなりそうだから。
あの時の世界は冷たくて、生きる意味が見出せなくて、生きているかわからなくて、世界が確かに存在してるか理解できなくて……苦痛が、殺気が、悪意が、向けられるものがあるって事が、生きてる何よりの証だった。
この世界は優しくて、お父様もお母様も……私に優しくしてくれた。だから、忘れたかったのかも。
雪雨がそれを思い出させくれた。違和感の正体を突き止めてくれた。
戦いこそが、私が生きているって証になるって。
だから溢れ出す。目の前の敵は何をしてくれるんだろう?
そんな興味が湧いてきた私に雪雨が魅せてくれたのは……想像以上のものだった。
爆発と混沌の蛇を切り裂いて、二つの剣を手にした雪雨が姿を現した。
片方はさっきまで見ていた『金剛覇刀』。だけどもう一つは――
「もしかして……『人造命具』?」
「へぇ……これを知ってるって事は、お前も造れるのか。それでこそ俺が見込んだ女だ」
雪雨は自慢げにもう一つの大刀を掲げる。感じる魔力と突如現れた武器。間違いない。これは魔導の一つの到達点。自分の精神に宿る内なる自分を持って武器や防具として造り出す魔導。使える人がいるとは思ってもいなかった。
「そうだ。これが俺の切り札――『人造命剣・飢渇絶刀』だ」
妖しく煌めく黒と赤に彩られ、金剛覇刀とは対照的に銀の装飾が施された大きな刀。見るからにときめくそれは、確かに切り札に相応しい姿だった。
「『ガシングフレア』」
さっきは白一色に染め上げる魔導だったから、次は少し色を変えよう――そう思って選んだ。
周囲に立ち込める毒ガスに炎が加わり、爆発という名の艶やかな花を幾たびも咲かせる。
「っ……! 『流嵐・清風陣』!!」
一瞬驚いた表情を見せた雪雨は、それでも防御のために魔導を構築する事が出来たみたいだった。
彼の下に何か紋様が浮かび上がって、上空に向かって涼しげな風が吹き上げる。
紫色の爆発をぎりぎり防いでいるのを見届けたと同時に、駆け出しながら魔導の構築をしていく。
イメージは鋭い毒の槍。融解させ、溶解させる。じわじわと死に至る猛毒の塊。
「『トキシックスピア』!」
生み出された槍の形状をした数本の毒が雪雨に襲い掛かって行く。一応防御系の魔導の力を見極め、あれが突き破れない程度の魔力を込めて。
「はっ! その程度の魔導でどうにかなるかよ!」
決して油断せず、戦いを挑んでくる彼にはこれは不満だろう。だけど――
「『マジカルシュトライヒ』」
だからこそ、今回の魔導が役に立つ。イメージは魔力を誤魔化す子どもの悪戯。これは次に放つ魔導に影響を与える。だけど……雪雨には今、私が何をしようとしているかわからないだろう。
「『トキシックスピア』!」
「ちっ…… 『流嵐・清風陣』」
私が再び放った毒の槍の魔導を見て、雪雨はがっかりしたような表情を浮かべる。でも、それは私の作戦通りだ。
放たれた毒の槍を見ても、雪雨はまるで動じていない。私があれに込めた魔力が先程と全く変わっていないからだろう。
「くすくす、お粗末ね」
「なんだと……!」
苛立つ瞳を向けるのは良いけれど、まだ私の行動の意図に気付かないなんてね。
……イメージするのは混沌から這い出る蛇。望むままに喰らい尽くす暴食の一族。
「『カオティックコアトル』!!」
私は『トキシックスピア』が着弾する前にもう一つの魔導を発動させる。周囲から闇が点々と出現して、幾つもの細い蛇が姿を現した。
「それがほんめ――!?」
ようやく満足のいく魔導を放ってきたと感じていただろう雪雨の表情は驚愕に歪んで、私は思わず『やった』と笑みが溢れた。
さっきの『トキシックスピア』は彼の魔導で作り出された防御結界を突破できなかった。だけど……今回はそれを容易く凌駕する。毒の槍が二本当たったくらいで彼の結界は完全に砕かれ、残りはまっすぐ命を奪おうと迫っていく。
辛うじて一つは避けて、ご自慢の金剛覇刀で残りを防いでも……最後に残ったのは一切削れていない『カオティックコアトル』。
防いだ時に飛び散って付着した毒液が、雪雨の肌を焼き、異臭をあげる。痛みを堪えるようにより一層獰猛な笑みを深めていた。
「『ガシングフレア』」
「『じ――ぐ――』」
ダメ押しで放った追撃の毒ガスと炎の合わせ技による爆発で、雪雨の言葉が上手く聞き取れなかった。……今の言葉は意味があるものだと直感で判断する。恐らく……彼の切り札的魔導。この局面でそれを使ってきた、という事は絶対的な自信があるということだ。
決して油断できない。だけどそれ以上に、私の心は高揚を覚えていた。【覚醒】を成し遂げたハクロの時に覚えたソレ以上の感覚を。
……一体、何をしてくるのだろう? もっと、見せて欲しい。
――私に見せて。貴方の命の煌めきを。そして感じさせて。貴方の全てを。
一度知覚したものはもう拭いされない。思い出したものは私の感情に火を灯す。
ここまでの激しい戦いのおかげで、私は本当の自分を取り戻した。……取り、戻してしまった。
全て忘れていた。満たされていたから。
思い出さないようにしていた。戻れなくなりそうだから。
あの時の世界は冷たくて、生きる意味が見出せなくて、生きているかわからなくて、世界が確かに存在してるか理解できなくて……苦痛が、殺気が、悪意が、向けられるものがあるって事が、生きてる何よりの証だった。
この世界は優しくて、お父様もお母様も……私に優しくしてくれた。だから、忘れたかったのかも。
雪雨がそれを思い出させくれた。違和感の正体を突き止めてくれた。
戦いこそが、私が生きているって証になるって。
だから溢れ出す。目の前の敵は何をしてくれるんだろう?
そんな興味が湧いてきた私に雪雨が魅せてくれたのは……想像以上のものだった。
爆発と混沌の蛇を切り裂いて、二つの剣を手にした雪雨が姿を現した。
片方はさっきまで見ていた『金剛覇刀』。だけどもう一つは――
「もしかして……『人造命具』?」
「へぇ……これを知ってるって事は、お前も造れるのか。それでこそ俺が見込んだ女だ」
雪雨は自慢げにもう一つの大刀を掲げる。感じる魔力と突如現れた武器。間違いない。これは魔導の一つの到達点。自分の精神に宿る内なる自分を持って武器や防具として造り出す魔導。使える人がいるとは思ってもいなかった。
「そうだ。これが俺の切り札――『人造命剣・飢渇絶刀』だ」
妖しく煌めく黒と赤に彩られ、金剛覇刀とは対照的に銀の装飾が施された大きな刀。見るからにときめくそれは、確かに切り札に相応しい姿だった。
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