上 下
66 / 676

66・気付かなかった感情

しおりを挟む
 何度となく金剛覇刀を避けて、それを掻い潜るように剣で応戦していく……のだけど、少し精彩に欠いてしまう事は先程の言葉が尾を引いていたからだ。

「どうした? 動きが鈍ってるじゃねぇか!」

 決して彼の動きについて来れない訳じゃない。乱された心の中でも戦えてるのはそれだけ彼と能力の差があるという事なんだけれど……それでも、いつまでも続けていい事じゃない。
 なら――

「だったら……もっと私を本気にさせてみなさい。もっと……貴方の本気を見せてみなさいな」
「……面白え。ならば――」

 刀での斬り合いや避け合いには飽きたと言うかのように後ろに下がった。次に繰り出すのは……魔導か。

「『焔嵐えんらん炎之戦風ほむらのせんぷう』!!」

 雪雨から繰り出された炎の竜巻は凄まじい勢いで激しい炎が膨らんでいく。これは凄い。今まで見た中でこれに並ぶのはハクロ先輩の『殺生石』くらいじゃないかな。

 それに対抗するイメージを私の中で構築する。炎を消し、風を吹き飛ばす……水の竜巻のイメージ。

「『アクアサイクロン』!」

 丁度彼の魔導を打ち消す程度の魔力を込めて繰り出したそれは、激しくぶつかりあって拮抗して……あっという間に消滅した。

「『焔地えんち火土龍鳳演舞かどりゅうほうえんぶ』!!」

 互いの魔導が消滅したと同時に斬りかかってくると思っていたのだけれど……予想とはかなり違った展開になってきた。
 雪雨の魔導で現れたのは炎の鳥と土の龍。どちらもさっきの魔導より強化されている。

「……ここまでの魔導を見せてくれるなんてね」

 白に近い色で燃える鳥は、まるで太陽の化身みたいな感じだし、土の龍は、そのどっしりとした色合いに形で、大地の守護者のようでもある。

 一瞬魅入られた私は、このまま直撃を許しても良いかもしれない……そう思う程度には心が動かされていた。
 でも――

「ふ、ふふふ、ふふふふふふ……」

 知らず知らず笑みが溢れていった。私を倒そうと、殺そうとさえしている程の力を感じて……それがすっごくおかしくて……。

「……どうした?」

 ここで挑発しようと思っていたのか、笑みを浮かべていた雪雨は、不審そうな顔をして私を見ていた。

 ――そうね。ちょっとだけ、教えてあげましょう。

 全てが緩やかに感じる。炎の鳥も、地の龍も……雪雨自身でさえも。

 ――こんなにも飢えていて、どうしようもなく渇いている彼に。

 放つ魔導は決まっていた。イメージは私の武器となり、力となる。あらゆるものを滅する魔導を。全てを白く塗り潰す……最高傑作の一撃!

「『エアルヴェ――』」

 魔導を発動させる瞬間……私は昔の事を思い出していた。あの日の絶望。希望すら見出せなかった暗闇。射した光は身を焼くほどだった。あの日の怒りを、苦しみを……悲しさを忘れた事はない。それらを全て思い出しながら、最後のキーワードを発動させた。

「『――シュネイス』」

 瞬間に世界は脈動した。範囲を絞り、魔力を抑えて尚、有り余る力の胎動。

『な、なんじゃ……あれは……』

 呟く視線に合わせる事なく、その発動を見届ける。
 ぎりぎり雪雨は範囲に入らなかったけれど、炎の鳥と土の龍は問題ない。
 上空がまるでガラスのようにひび割れ、そこから僅かに光が差し込んできた。そして……光が触れた部分は全て掻き消えてしまう。白一色に塗り潰されたそこには、炎の鳥と地の龍と白い光が激しくぶつかり合うような音が聞こえて、私ごと全てを真っ白に染め上げる。

 白以外一切存在しない世界の光景を、私はどこか懐かしい気持ちで見つめていた。しばらくしたらこの白も薄まって……元の彩り溢れる世界に戻るだろう。私以外の全てをその白の中に包み込んで……。

「久しぶり……本当にいつぶりだろう。これを発動させたのは」

 昔……地面も空も、あらゆるものが白に染まった光景を強引に突き破った男がいた。彼は私と全く真逆で、その全てを黒に染める魔導を使っていて……まるで私の心の中に入り込んでくるような、そんな気がしていた。
 相反するからこそ、わかってしまった。彼もまた私と同じように生きてきたんだって。

 ――そんな彼はここにはいない。この脆弱を破れる人は……存在しない。

 改めてわかっていた事を思い知らされた気分になった。威力を出来る限り抑えたこの魔導ですら雪雨は打ち破る事は出来ないだろう。結局……私はここでも一人きりなんだね。
 心に寄り添ってくれる人はいても、この力は……戦いの場では誰もついて来れないんだって事を。

 本当に静かな場所。ここにいると少しずつ気分が落ち着いてくる。だけどそれもそろそろ晴れる。

 ……ここで少しだけ、意識を切り替えよう。ハクロ先輩の時もそうだったけど、雪雨の実力は大体わかった。正直な話、彼はハクロ先輩よりもずっと強い。あの大きな刀――金剛覇刀から繰り出される重い一撃。臨機応変な動きを可能にする反応速度。そこから繰り出される魔導……どれを取っても彼は今まであった中でも一番だ。

 ……本当に、力を隠そうとか、上手くやろうとか思っていた事が嘘のように戦う事を考えてる。やっぱり私は……雪雨が言った通りだったのかも知れない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...