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63・恐怖の敗北(ジュールside)
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「ジュール。いざとなったら、すぐに降伏しなさい。必ず生きて帰る事。いいわね?」
エールティアは下がる前に『死ぬな』という思いを込めた言葉を残した。それを聞いて、エールティアの背中を見たジュールは、頼りにされていない事がはっきりとわかってしまい……どうしようもなく悲しい気持ちになった。
(エールティア様……私は……)
ラディンと話し合って以降、どうにも心の中がもやもやしているジュールは、未だ気持ちに整理をつける事が出来ずに闘技場で雪雨と対峙していた。
彼女には本来きちんとエールティアと話し合う時間が――本当に求められてる事を探す時間がなければならなかったのだが、そんなものはあるはずもなく……。
『よし、互いに準備はいいな? それでは……試合、開始!!』
グレッセン決闘官の合図と同時に決闘が始まってしまった。
未だ準備の整わないジュールに向かって、雪雨は拳を振りかぶって殴りかかっていた。
「っ!?」
攻勢への反応が間に合わず、ギリギリ防御するように腕を交差させると……ジュールは思いっきり吹き飛んで闘技場の壁に激突した。
「かっ……!」
「前菜にもならねぇ雑魚は引っ込んでろよ」
吐き捨てるように言葉を投げかけた雪雨は、ほんの数瞬の間にジュールに詰め寄り、拳を彼女の身体に打ち付ける。
びきびきと闘技場にヒビが入り、ジュールの身体は更に壁の中へと沈み込む。
圧倒的。観客側からは一切の慈悲を感じさせない一撃を与え続けるように見えるが、エールティアのみは雪雨があまり本気で戦っていない事がわかった。
雪雨がどうにも本気になれない理由。それはジュールのやる気のなさが原因だった。迷いを生じたまま戦いに赴き、開始の合図が聞こえても行動が遅れていたからだ。
「てめえは何の為にここに来た?」
ひとしきり殴ったのか、洋服の襟首を掴んで宙吊りのような状態にした雪雨は、睨みつけながらジュールに問いかけた。
「な、なに、を……って?」
「俺はてめえなんざどうでもいい。最初から、狙いはあの女一人だからな。だがよ……こんなしけた戦いされたら、なぁ?」
「わ、たし、は……」
「主人の為、か? 笑わせるな。お前には全てが足りてねぇんだよ。主を守る力も、知恵も、信念も敬愛も覚悟も何一つな」
首を横に振ろうとするジュールは地面に叩きつけられてしまった。
「がっ……かはっ……」
意識を辛うじて手放さなかったのは、雪雨の言葉が気に入らなかったからだ。ジュールにとって、エールティアに仕えることこそが全てだ。誰よりも彼女を尊敬しているし、敬愛している。彼女に全てを捧げる覚悟すらある。そんな自分に対し、全てが足りないと言い放った雪雨に負ける訳にはいかないとジュールは自らを奮い立たせる。
……が、それが上手くいくのは物語の話のみだ。未知なる力に目覚め、窮地から敵を打倒しうる奇跡を起こすには、彼女では明らかな役不足であった。
「わだじ、は、ぁぁ……エ、エール、ティ、アざまに、す、全てを……ささげ――」
「てめえの動き、反応速度からロクに武術や戦闘訓練を積んでいない事がわかる。思慮に欠けた言動には主人の立場を一切考慮していない頭の中身の少なさが現れている。そんなのが全てを捧げるだぁ? 笑わせるな。お前のは自己満足にしか過ぎねぇんだよ。エールティアに仕えてる自分に酔ってるだけの屑。それがてめえの正体だよ」
嘲笑い、全てを否定する。髪の毛を掴まれ、血に塗れたジュールはそれを懸命に否定する。だが、彼女が歩んできた道程がそれを許さない。
エールティアが特待生クラスに行く時などは、あまり本気で戦闘訓練を行わなかった。今現在、こんな事になっているのは雪雨との諍いが原因だった。
(私は、ただ……エールティア、様に……)
迫りくる拳を目の前にして、ジュールは初めて後悔を覚えた。
――ただ、喜んで貰いたかった。それだけが、ジュールの思っていた事だった。
殴り飛ばされたジュールは……為す術無く直撃を受け、ボロ雑巾のように吹き飛んでしまった。
辛うじて息はあるが、彼女はその場で一歩も動く事はなく、立ち上がる事も無かった。
『……勝負あり、じゃな。これ以上の戦闘行為を不能と判断するぞ。 第一戦の勝者は……雪雨選手じゃ』
一瞬全てが静まり返り……爆発的な歓声を上げる。
『流石雪雨選手。鬼人族としての強さを完璧に見せつけてくれました。これでエールティア選手側は後がありませんね』
『しかし、契約したスライムがあれでは……本人の方も期待出来んのではないか? これは雪雨選手の勝利は揺るぎないじゃろう』
淡々と話している司会の飯綱に向かって、グレッセン決闘官はため息混じりに首を振るった。
確かに、普通であるならばそうだろう。【決闘】をしたスライムは主人の血を得て、主人に近しい力を備える。それを知っているからこその発言だった。
だが、ジュールはその力に驕って修練を積む事がなかった。しかし……エールティアは違う。その差が今……明らかになる。
エールティアは下がる前に『死ぬな』という思いを込めた言葉を残した。それを聞いて、エールティアの背中を見たジュールは、頼りにされていない事がはっきりとわかってしまい……どうしようもなく悲しい気持ちになった。
(エールティア様……私は……)
ラディンと話し合って以降、どうにも心の中がもやもやしているジュールは、未だ気持ちに整理をつける事が出来ずに闘技場で雪雨と対峙していた。
彼女には本来きちんとエールティアと話し合う時間が――本当に求められてる事を探す時間がなければならなかったのだが、そんなものはあるはずもなく……。
『よし、互いに準備はいいな? それでは……試合、開始!!』
グレッセン決闘官の合図と同時に決闘が始まってしまった。
未だ準備の整わないジュールに向かって、雪雨は拳を振りかぶって殴りかかっていた。
「っ!?」
攻勢への反応が間に合わず、ギリギリ防御するように腕を交差させると……ジュールは思いっきり吹き飛んで闘技場の壁に激突した。
「かっ……!」
「前菜にもならねぇ雑魚は引っ込んでろよ」
吐き捨てるように言葉を投げかけた雪雨は、ほんの数瞬の間にジュールに詰め寄り、拳を彼女の身体に打ち付ける。
びきびきと闘技場にヒビが入り、ジュールの身体は更に壁の中へと沈み込む。
圧倒的。観客側からは一切の慈悲を感じさせない一撃を与え続けるように見えるが、エールティアのみは雪雨があまり本気で戦っていない事がわかった。
雪雨がどうにも本気になれない理由。それはジュールのやる気のなさが原因だった。迷いを生じたまま戦いに赴き、開始の合図が聞こえても行動が遅れていたからだ。
「てめえは何の為にここに来た?」
ひとしきり殴ったのか、洋服の襟首を掴んで宙吊りのような状態にした雪雨は、睨みつけながらジュールに問いかけた。
「な、なに、を……って?」
「俺はてめえなんざどうでもいい。最初から、狙いはあの女一人だからな。だがよ……こんなしけた戦いされたら、なぁ?」
「わ、たし、は……」
「主人の為、か? 笑わせるな。お前には全てが足りてねぇんだよ。主を守る力も、知恵も、信念も敬愛も覚悟も何一つな」
首を横に振ろうとするジュールは地面に叩きつけられてしまった。
「がっ……かはっ……」
意識を辛うじて手放さなかったのは、雪雨の言葉が気に入らなかったからだ。ジュールにとって、エールティアに仕えることこそが全てだ。誰よりも彼女を尊敬しているし、敬愛している。彼女に全てを捧げる覚悟すらある。そんな自分に対し、全てが足りないと言い放った雪雨に負ける訳にはいかないとジュールは自らを奮い立たせる。
……が、それが上手くいくのは物語の話のみだ。未知なる力に目覚め、窮地から敵を打倒しうる奇跡を起こすには、彼女では明らかな役不足であった。
「わだじ、は、ぁぁ……エ、エール、ティ、アざまに、す、全てを……ささげ――」
「てめえの動き、反応速度からロクに武術や戦闘訓練を積んでいない事がわかる。思慮に欠けた言動には主人の立場を一切考慮していない頭の中身の少なさが現れている。そんなのが全てを捧げるだぁ? 笑わせるな。お前のは自己満足にしか過ぎねぇんだよ。エールティアに仕えてる自分に酔ってるだけの屑。それがてめえの正体だよ」
嘲笑い、全てを否定する。髪の毛を掴まれ、血に塗れたジュールはそれを懸命に否定する。だが、彼女が歩んできた道程がそれを許さない。
エールティアが特待生クラスに行く時などは、あまり本気で戦闘訓練を行わなかった。今現在、こんな事になっているのは雪雨との諍いが原因だった。
(私は、ただ……エールティア、様に……)
迫りくる拳を目の前にして、ジュールは初めて後悔を覚えた。
――ただ、喜んで貰いたかった。それだけが、ジュールの思っていた事だった。
殴り飛ばされたジュールは……為す術無く直撃を受け、ボロ雑巾のように吹き飛んでしまった。
辛うじて息はあるが、彼女はその場で一歩も動く事はなく、立ち上がる事も無かった。
『……勝負あり、じゃな。これ以上の戦闘行為を不能と判断するぞ。 第一戦の勝者は……雪雨選手じゃ』
一瞬全てが静まり返り……爆発的な歓声を上げる。
『流石雪雨選手。鬼人族としての強さを完璧に見せつけてくれました。これでエールティア選手側は後がありませんね』
『しかし、契約したスライムがあれでは……本人の方も期待出来んのではないか? これは雪雨選手の勝利は揺るぎないじゃろう』
淡々と話している司会の飯綱に向かって、グレッセン決闘官はため息混じりに首を振るった。
確かに、普通であるならばそうだろう。【決闘】をしたスライムは主人の血を得て、主人に近しい力を備える。それを知っているからこその発言だった。
だが、ジュールはその力に驕って修練を積む事がなかった。しかし……エールティアは違う。その差が今……明らかになる。
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