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58・ぶちぎれスライム
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「なんだ?」
短い言葉だけど、雪雨の一言には威圧感があった。ちらっと後ろを見ると、それだけで未熟な彼女は気後れしてしまっていた。けれど、私が平気そうなのを見て、慌てるように持ち直す。
「いくらなんでも、エールティア様を馬鹿にしすぎなのではないですか?」
「他国の貴族に殺気を向けてきたお前ほどではないさ。それに……躾のなっていない眷属を連れてくる方にこそ落ち度がある。こうなることはわかっていたはずだからな」
ちらっと挑発するような視線を向けてくるけど、その事に関しては私も何も言えなかった。ここで出雲様に言われたから……と言うのも簡単だけど、もしそれを否定されたら……。
あくまでお父様づてでしか聞いてない以上、そういう可能性は十分にある以上、迂闊な事は言えなくて……傍観するしか手がなかった。
「そんな間抜けの謝罪など、心に響くわけがない」
「……い…………さい……」
「ん? なんだ。言いたい事があるならば、はっきり言ったらどうだ?」
「エールティア様を間抜けだと言った事を……訂正しなさい!」
今まで色々と我慢していたのだろう。それが一気に噴き出した彼女は、もはやここに私や出雲様がいるのも忘れたかのようにブチ切れしていた。
「ほう、今度は暴言か」
「暴言を吐いてるのは貴方ではありませんか! 小娘だと嘲笑って、間抜けだと罵って……!」
「しかし、事実ではないか。お前のような者をこの場に連れてくる未熟者には相応しい」
「なんですって……!」
「そこまでにしろ」
完全に頭に血が上ってるジュールと、挑発することをやめない雪雨の間に入ったのは、出雲様だった。
とうとう……というかやっと介入してくれた。とはいえ、互いに引っ込みがつかなくなったこの状況をどう治めるつもりなのだろう……?
「父上!」
雪雨は抗議するように声を荒げて、ジュールは『邪魔をするな』と言いたげな視線を出雲様に向けていた。
「お主ら、二人とも落ち着け。これ以上はここで言い合う事は許さん」
びりびりと伝わってくる怒気と闘気。それだけで並みの人なら卒倒してもおかしくない程の威圧を放っていた。だからこそ、ジュールも不満げに黙ってしまったのだろう。
「……確かに、双方に悪いところはある。雪雨。それはわかっておるな?
「いいえ。全くわかりません。常識のない者に礼を尽くすような真似は出来ませんからね」
雪雨はあくまでも、自分は被害者だというスタンスを貫くつもりのようだ。
その発言のせいでジュールの怒気がより一層強くなったんだけど、私は気にしない事にした。そろそろ疲れてきたっていうのが本音だけど。
「エールティア様は何も悪くありません。それを殊更に責め立てて……!」
「貴殿はどう思う?」
「そうですね。私としてはこちらにも非があるとは思いますが……彼が引かないのであれば、平行線を辿るしかないでしょう」
「その通り。であるならば、決闘にてお互いの力を持って制するしかあるまい。敗者は勝者に黙って従う。譲る気がないのであれば、自ら勝ち取れ」
……やや強引な気がするけれど、そうしなければ二人とも引っ込む事はなさそうだ。
事実、二人とも出雲様の話を聞いてやる気満々な表情をしていた。
「いいでしょう。父上が仰るのであれば……。ただ、こちらは俺が出て、そちらはその眷属が出るだけ……という訳ではありませんよね?」
ジュールはそれの何が悪いの? みたいな顔してるけど、公式の場で戦う決闘で、それは流石に体裁が悪い。かと言って私とただ決闘するだけでは向こうも納得しないだろう。
「当然だ。決闘の内容は三番勝負。スライムと主を一組とし、先に二勝した組の勝利とする」
「ちょ、ちょっと待ってください! これは元々――」
多分、自分一人だけで戦うつもりだったのか、ジュールはとんとん進んでいく話に待ったをかけようとして……出雲様にそれを拒否される。
「ジュール……と呼ばれているな。お前は自分の主人の顔に泥を塗ったのだ。従者というものは時に諌め、時に寄り添い付き従う者の事を言う。エールティア殿の事をどう思っているのかは知らぬが……お前のやっている事は、主に余計な仕事を増やしているだけにしか過ぎない。上の者は、下の者に対して責任を負わなければならないのだから」
出雲様はきっぱりと言い切った。否定する事を一切認めない空気が周囲に立ち込めて、ジュールは圧倒されるかのようにのけぞって言葉を失ってしまった。
「エールティア殿も決闘の内容はそれで良いな?」
「……わかりました。雪雨様がそれで納得するのでしたら、こちらに断る意思はありません」
ここまで事が進んだ以上、私が反対しても意味がない。余計に状況が悪くなる要求を提示されるだけに決まってるのだから。
「会場は決闘申請書はこちらで手を回しておこう。その日まで、この雪桜花の暮らしを楽しんでくれ」
笑みを浮かべてる出雲様に、せめて心の中で悪態を吐いた。こんな状況になって、楽しめるわけがないでしょう! ってね。
短い言葉だけど、雪雨の一言には威圧感があった。ちらっと後ろを見ると、それだけで未熟な彼女は気後れしてしまっていた。けれど、私が平気そうなのを見て、慌てるように持ち直す。
「いくらなんでも、エールティア様を馬鹿にしすぎなのではないですか?」
「他国の貴族に殺気を向けてきたお前ほどではないさ。それに……躾のなっていない眷属を連れてくる方にこそ落ち度がある。こうなることはわかっていたはずだからな」
ちらっと挑発するような視線を向けてくるけど、その事に関しては私も何も言えなかった。ここで出雲様に言われたから……と言うのも簡単だけど、もしそれを否定されたら……。
あくまでお父様づてでしか聞いてない以上、そういう可能性は十分にある以上、迂闊な事は言えなくて……傍観するしか手がなかった。
「そんな間抜けの謝罪など、心に響くわけがない」
「……い…………さい……」
「ん? なんだ。言いたい事があるならば、はっきり言ったらどうだ?」
「エールティア様を間抜けだと言った事を……訂正しなさい!」
今まで色々と我慢していたのだろう。それが一気に噴き出した彼女は、もはやここに私や出雲様がいるのも忘れたかのようにブチ切れしていた。
「ほう、今度は暴言か」
「暴言を吐いてるのは貴方ではありませんか! 小娘だと嘲笑って、間抜けだと罵って……!」
「しかし、事実ではないか。お前のような者をこの場に連れてくる未熟者には相応しい」
「なんですって……!」
「そこまでにしろ」
完全に頭に血が上ってるジュールと、挑発することをやめない雪雨の間に入ったのは、出雲様だった。
とうとう……というかやっと介入してくれた。とはいえ、互いに引っ込みがつかなくなったこの状況をどう治めるつもりなのだろう……?
「父上!」
雪雨は抗議するように声を荒げて、ジュールは『邪魔をするな』と言いたげな視線を出雲様に向けていた。
「お主ら、二人とも落ち着け。これ以上はここで言い合う事は許さん」
びりびりと伝わってくる怒気と闘気。それだけで並みの人なら卒倒してもおかしくない程の威圧を放っていた。だからこそ、ジュールも不満げに黙ってしまったのだろう。
「……確かに、双方に悪いところはある。雪雨。それはわかっておるな?
「いいえ。全くわかりません。常識のない者に礼を尽くすような真似は出来ませんからね」
雪雨はあくまでも、自分は被害者だというスタンスを貫くつもりのようだ。
その発言のせいでジュールの怒気がより一層強くなったんだけど、私は気にしない事にした。そろそろ疲れてきたっていうのが本音だけど。
「エールティア様は何も悪くありません。それを殊更に責め立てて……!」
「貴殿はどう思う?」
「そうですね。私としてはこちらにも非があるとは思いますが……彼が引かないのであれば、平行線を辿るしかないでしょう」
「その通り。であるならば、決闘にてお互いの力を持って制するしかあるまい。敗者は勝者に黙って従う。譲る気がないのであれば、自ら勝ち取れ」
……やや強引な気がするけれど、そうしなければ二人とも引っ込む事はなさそうだ。
事実、二人とも出雲様の話を聞いてやる気満々な表情をしていた。
「いいでしょう。父上が仰るのであれば……。ただ、こちらは俺が出て、そちらはその眷属が出るだけ……という訳ではありませんよね?」
ジュールはそれの何が悪いの? みたいな顔してるけど、公式の場で戦う決闘で、それは流石に体裁が悪い。かと言って私とただ決闘するだけでは向こうも納得しないだろう。
「当然だ。決闘の内容は三番勝負。スライムと主を一組とし、先に二勝した組の勝利とする」
「ちょ、ちょっと待ってください! これは元々――」
多分、自分一人だけで戦うつもりだったのか、ジュールはとんとん進んでいく話に待ったをかけようとして……出雲様にそれを拒否される。
「ジュール……と呼ばれているな。お前は自分の主人の顔に泥を塗ったのだ。従者というものは時に諌め、時に寄り添い付き従う者の事を言う。エールティア殿の事をどう思っているのかは知らぬが……お前のやっている事は、主に余計な仕事を増やしているだけにしか過ぎない。上の者は、下の者に対して責任を負わなければならないのだから」
出雲様はきっぱりと言い切った。否定する事を一切認めない空気が周囲に立ち込めて、ジュールは圧倒されるかのようにのけぞって言葉を失ってしまった。
「エールティア殿も決闘の内容はそれで良いな?」
「……わかりました。雪雨様がそれで納得するのでしたら、こちらに断る意思はありません」
ここまで事が進んだ以上、私が反対しても意味がない。余計に状況が悪くなる要求を提示されるだけに決まってるのだから。
「会場は決闘申請書はこちらで手を回しておこう。その日まで、この雪桜花の暮らしを楽しんでくれ」
笑みを浮かべてる出雲様に、せめて心の中で悪態を吐いた。こんな状況になって、楽しめるわけがないでしょう! ってね。
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