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50・対処方法の相談
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終業式が無事に終わったその日の夜。ジュールが私から離れて自分の寝室に戻ったぐらいに私は行動を起こす事にした。もうかなり夜も深まってきて……普通だったら私も眠ってる頃なんだけれど、無理して起きていた。
目的の部屋にたどり着いた私は、軽くノックして扉の主――お父様の反応を待つ。
「誰だ?」
「私です。エールティアです」
「……入れ」
お父様の反応を確認した私は、なるべく静かに扉を開けて中に入る。そこでは……お父様が机に山ほど置いてある書類と向かい合っていた。
「申し訳ありません。こんな夜更けに……」
「構わない。大体予想はつくからな。……ジュールの事、だろう?」
いきなり私の聞きたいことを見抜いたお父様に、驚きの視線を向けてしまう。
「なぜ? そう聞きたいようだが……彼女のお前への態度を見ていればわかるさ」
「そう……ですか」
「大方、ジュールが他者に対して問題のある行動を取っている……そんな感じか」
これまた私が何を知りたいかも予知したお父様は、書類に目を通すのをやめて、困ったような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「よく……おわかりですね」
「メイド達やコックの方から陳情が上がっていたからな。真面目なのは良いが、お前に関する事で少しでも否定されると機嫌が悪くなってやりづらい、と」
いずれ問題になるとは思っていたけれど、まさか既になっていたなんて……。いいや、それもおかしくなかったのかも知れない。
「彼女は私の事を絶対だと思っているようでして」
「だろうな。彼らからの話では『好き嫌い』について話題になった時も、エールティアの嫌いな物は根こそぎ殲滅する、といったような事を話していたそうだからな」
お父様の話から思わず引き攣った笑みを浮かべてしまった。そこまで過激な事を言っているとは思わなかった。
「それ以外にも色々と、な。あのような性格では学園の雰囲気に反発するであろう事は目に見えていた」
「まだ具体的に何かをやった……というのは聞いてはいないが……」
「それも時間の問題だと思います。私の友人の事もあまり……」
最後まで言わなかったのは、告げ口みたいな真似をしているような気がして、気が引けた。
お父様は何か考え込むように頭を悩ませていた。
「エールティアから言っても聞かない……となると……身を持ってわからせてやった方が良かろう」
「お父様?」
どうやらお父様は何かを思いついたようだけれど、私が聞きたそうにしていても教えてくれなかった。
「なにも知らない方がお前の為にもなるだろう。せっかくだ、この長期休暇を楽しんでくると良い」
「は、はあ……」
「今日はもう遅い。部屋に戻って休みなさい」
何かを閃いたお父様は楽しそうな様子を見せながら、私を嗜めるように言ってきた。何も言ってくれない以上、私も帰るしかない。
「わかりました。おやすみなさい、お父様」
「ああ。おやすみ、私の可愛いエールティア」
軽く頰に親愛のキスを交わして、部屋へと戻る事にした。何か妙案を思いついた事だし、後はお父様に任せておく事にしよう。
――
お父様と話をして五日。特に何か事態が発展する事もなく、ビーリラ最後の日を部屋の中でジュールの作ったクッキーを食べながらお茶を楽しんでいた。
その時、丁度ノックの音が聞こえて、入ってくるように指示を出した。
「お嬢様」
やってきたのは長年お父様に仕えている老年の執事――エンデだった。丁寧な仕草が彼の執事歴の長さを窺わせる。ジュールが雛鳥ならエンデは成鳥ぐらいはある。
「どうしたの?」
「ラディン――お父上様がお呼びです。至急、執務室にいらっしゃるように、と」
「わかったわ。すぐに向かいますと伝えて」
静かに頭を下げて部屋から出て行くエンデを見送って、私は真紅茶を飲み干す。口の中に残ったクッキーの甘さが真紅茶の苦味と混ざり合って、更なる美味しさの境地へと向かっていく。
「……よろしかったのですか?」
ジュールが微妙に不満そうな顔で部屋から出て行ったエンデの方を眺めていた。さっきまでクッキーが美味しいと褒めた時の幸せそうな顔があったはずなのに、感情の起伏が激しいことだ。
「いいも悪いも……お父様に呼ばれたのですもの。行くのが当然、でしょう?」
「それは……そうですが……」
どこか歯切れの悪い彼女だけど、一体どうしたのだろうか?
エンデがお父様の言葉を伝えに来たのは一度や二度じゃない。私がエンデに言伝を頼んだことだってある。
「ジュール。行きましょう」
「は、はい!」
少しの間、ちらっと私の事を見たり、視線を逸らしたりしてたけど……キリがないからと呼びかけたら、勢いよく返事をしてくれた。そこにはさっきまであった不満そうな表情は全くない。
どうしたのか問い詰めたい気持ちもあったけど……今はそれよりもお父様の話の方が大切だと思って、後回しにする事にした。少し前に打ち明けた悩みの回答も貰ってないし、この呼び出しは私やジュールにとっても関係のある事だと思うしね。
目的の部屋にたどり着いた私は、軽くノックして扉の主――お父様の反応を待つ。
「誰だ?」
「私です。エールティアです」
「……入れ」
お父様の反応を確認した私は、なるべく静かに扉を開けて中に入る。そこでは……お父様が机に山ほど置いてある書類と向かい合っていた。
「申し訳ありません。こんな夜更けに……」
「構わない。大体予想はつくからな。……ジュールの事、だろう?」
いきなり私の聞きたいことを見抜いたお父様に、驚きの視線を向けてしまう。
「なぜ? そう聞きたいようだが……彼女のお前への態度を見ていればわかるさ」
「そう……ですか」
「大方、ジュールが他者に対して問題のある行動を取っている……そんな感じか」
これまた私が何を知りたいかも予知したお父様は、書類に目を通すのをやめて、困ったような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「よく……おわかりですね」
「メイド達やコックの方から陳情が上がっていたからな。真面目なのは良いが、お前に関する事で少しでも否定されると機嫌が悪くなってやりづらい、と」
いずれ問題になるとは思っていたけれど、まさか既になっていたなんて……。いいや、それもおかしくなかったのかも知れない。
「彼女は私の事を絶対だと思っているようでして」
「だろうな。彼らからの話では『好き嫌い』について話題になった時も、エールティアの嫌いな物は根こそぎ殲滅する、といったような事を話していたそうだからな」
お父様の話から思わず引き攣った笑みを浮かべてしまった。そこまで過激な事を言っているとは思わなかった。
「それ以外にも色々と、な。あのような性格では学園の雰囲気に反発するであろう事は目に見えていた」
「まだ具体的に何かをやった……というのは聞いてはいないが……」
「それも時間の問題だと思います。私の友人の事もあまり……」
最後まで言わなかったのは、告げ口みたいな真似をしているような気がして、気が引けた。
お父様は何か考え込むように頭を悩ませていた。
「エールティアから言っても聞かない……となると……身を持ってわからせてやった方が良かろう」
「お父様?」
どうやらお父様は何かを思いついたようだけれど、私が聞きたそうにしていても教えてくれなかった。
「なにも知らない方がお前の為にもなるだろう。せっかくだ、この長期休暇を楽しんでくると良い」
「は、はあ……」
「今日はもう遅い。部屋に戻って休みなさい」
何かを閃いたお父様は楽しそうな様子を見せながら、私を嗜めるように言ってきた。何も言ってくれない以上、私も帰るしかない。
「わかりました。おやすみなさい、お父様」
「ああ。おやすみ、私の可愛いエールティア」
軽く頰に親愛のキスを交わして、部屋へと戻る事にした。何か妙案を思いついた事だし、後はお父様に任せておく事にしよう。
――
お父様と話をして五日。特に何か事態が発展する事もなく、ビーリラ最後の日を部屋の中でジュールの作ったクッキーを食べながらお茶を楽しんでいた。
その時、丁度ノックの音が聞こえて、入ってくるように指示を出した。
「お嬢様」
やってきたのは長年お父様に仕えている老年の執事――エンデだった。丁寧な仕草が彼の執事歴の長さを窺わせる。ジュールが雛鳥ならエンデは成鳥ぐらいはある。
「どうしたの?」
「ラディン――お父上様がお呼びです。至急、執務室にいらっしゃるように、と」
「わかったわ。すぐに向かいますと伝えて」
静かに頭を下げて部屋から出て行くエンデを見送って、私は真紅茶を飲み干す。口の中に残ったクッキーの甘さが真紅茶の苦味と混ざり合って、更なる美味しさの境地へと向かっていく。
「……よろしかったのですか?」
ジュールが微妙に不満そうな顔で部屋から出て行ったエンデの方を眺めていた。さっきまでクッキーが美味しいと褒めた時の幸せそうな顔があったはずなのに、感情の起伏が激しいことだ。
「いいも悪いも……お父様に呼ばれたのですもの。行くのが当然、でしょう?」
「それは……そうですが……」
どこか歯切れの悪い彼女だけど、一体どうしたのだろうか?
エンデがお父様の言葉を伝えに来たのは一度や二度じゃない。私がエンデに言伝を頼んだことだってある。
「ジュール。行きましょう」
「は、はい!」
少しの間、ちらっと私の事を見たり、視線を逸らしたりしてたけど……キリがないからと呼びかけたら、勢いよく返事をしてくれた。そこにはさっきまであった不満そうな表情は全くない。
どうしたのか問い詰めたい気持ちもあったけど……今はそれよりもお父様の話の方が大切だと思って、後回しにする事にした。少し前に打ち明けた悩みの回答も貰ってないし、この呼び出しは私やジュールにとっても関係のある事だと思うしね。
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