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44・スラファムの風景

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「アルファスよりもやっぱり田舎なのね」
「田舎……というのは少々語弊があるな。アルファスは商業が盛んな都市で、このスラファムは農業が盛んな都市だ。エールティアもよく覚えておけ。このスラファムがある限り、リシュファス領は決して飢える事はない。それだけ、ここは大切な都市というわけだ」

 田園風景って言えばいいのかな? そんなのどかな光景が広がっているのを見て、思わずぽつりと呟いたんだけど……お父様にばっちりと聞かれて、お小言を貰ってしまった。

「はい、わかりました。お父様」
「よし。ここはティリアース全土の食糧の一部を賄っている。ここがなくなれば何人――いや、何千人の餓死者が出ると思っているのか……血筋だけの凡夫共は何もわかっていない」

 餓死者の話し辺りから独り言のように声が小さくなってたけど、私の耳にはばっちりと聞こえてしまった。お父様の方も相当苦労しているみたい。

「……それで目的の場所はどこですか?」

 ちょっとあからさまだけど、話題を逸らした私に申し訳なさそうな顔をしたお父様は行くべき道の方を向いていた。

「この通りを少し歩いた先にある。本当はそこまでラントルオで行っても良かったのだが……せっかく娘と二人でここまで来たんだ。エールティアにもこの都市の良さを知ってもらいたかったのだ」

 お父様にそう言われたら、私もあまり色々と言うことは出来ない。というか、私と一緒に歩きたいなんて言われて嬉しくない訳がなかった。

「ありがとう。お父様」

 思わず出た言葉に、お父様は照れくさそうに笑ってくれた。それからは親子二人で、スラファムの景色を楽しむ様に歩いて行く。見るからに丸いフォルムのぷよぷよしたのが私達を見つけてぺこりと頭(?)を下げるような仕草を見せてくれた。身体とか全くなくて、ただただ丸い塊に線みたいな目が付いてて……すごく不思議なものを見ているみたい。

 転生前の世界にもスライムはいたけれど、こんなに愛くるしい姿はしてなかった。なんだかぶよぶよの塊が、ひたすら死体を掃除しているとか……そんな感じ。

「……あの目で本当に見えているのかしら?」
「はーい。見えてますよー」

 私の呟きが聞こえたのか、近くを通りかかっていたスライム族の……方が話しかけてきた。男とも女とも取れるような中性的な声をしてて、思わず身体がびくっとなった。

「アルスラか。調子はどうだ?」
「こーしゃくさまのおかげで、今年も豊作ですよー。他の場所よりすごく住みやすいですしねー」

 なんだか間延びしたその話し方は、誰かに似ているような気がする。というか――

「お父様、この方がどなたかお分かりになるのですか?」
「勿論だ。ただ、中々難しいと思うぞ。私も正確にわかるようになるまで五年は掛かった」

 そんなに歳月をかけてようやく……なんて、スライム鑑定士って職業があっても良いのかもしれない。

「他の貴族の方々はー、わたし達のことー、覚えてくださいませんからねー」
「彼らはそれが普通なのだ。庶民の暮らしより、自分達の名誉の方がよっぽど重要なのだからな」

 せっかくあの時話題を逸らしたのに、また同じような状況に戻ってしまった。

「あの、お父様?」
「ん? あ、ああ。済まなかったな」

 私の声に一瞬疑問が湧いて出たようだけど、自分がどんな藩士をしていたのか思い出して、慌てて謝ってくれた。

「いいえ。謝る事なんて、ありませんよ。ほら、早く行きましょう?」
「……そうだな。アルスラ、他の者達にもよろしく伝えてくれ」
「はーい。こーしゃくさまも、ちょーろうをよろしくお願いしますー」

 ぺこりとお辞儀みたいなことをしたアルスラは、それだけ言うと私達の前からいなくなってしまった。
 なんというか……まだ不思議な体験をしたという気持ちで満ちていて……私の中で、スライム族の評価が大きく上がっていった。

「あれがスライム族……」

 呟いて周囲を見て回ると――あの丸っこい姿から長い触手のようなものが生えてて、その先にはくわが握られて(?)た。

「……あれでどうやって物を掴んでるんだろう?」

 見れば見るほど不思議というか……珍しい生き物だと思った。これほど不思議な生き物を少なくとも私は見たことなかった。

「あれはな。触手の先端が吸い付くように出来ているそうだ。だから他の種族には出来ないことも出来る。その代わり――かなり弱い」
「弱い?」
「そうだ。スライム族は素のままでは扱える魔力もそう多くなく、脆い身体も相まって種族としては非常に弱い。それを補うのが【契約】というわけだ」

 それからもお父様の説明や、スラファムの広がる畑を眺めながらのんびり歩いていると……やがて他の建物とは明らかに違う――場違いにも感じる家にたどり着いた。
 立派な木造建築の家はちょっとした屋敷みたいになっていて、その全てが木で出来てて、色合いが時代を感じさせる。

 それに……家全体に魔力が漂っているような感じがする。ただの家じゃない事は目に見えて明らかで……ここが私達が目指していた場所だという事がすぐにわかった。
 まあ、私達が乗ってたラントルオの鳥車が停まってたっていうのもあるんだけどね。
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