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41・銀狐族の仲間
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決闘はかなりの盛り上がりを見せて幕を下ろすことになった。私が圧勝してしまったとはいえ、ハクロ先輩の【覚醒】に加え、猛攻を見せて私を追い詰めた彼の功績は非常に大きい……らしかった。私としてはついやってしまった感が大きかったけれど。
勝者としての権利は……とりあえず保留することにしておいた。この場合、決闘委員会に後で権利の執行を伝える為の文書を発行する必要が出てくるんだけど、特に彼に何か命令することもないから構わない。……これがちょっと前までだったら何か命令してただろうけどね。
リュネーやレイアにも祝福してもらって、今まで以上に嫉妬や羨望の視線を集める事になったけど……これはまあ、仕方ない。有名税ってやつなんだろうし、悪意のある視線には慣れてる。好意の視線の方が不慣れな方だからね。
――
決闘が終わった翌日。まだ興奮冷めやらぬと言った様子の生徒達の間では、私とハクロ先輩の決闘の話題で持ちきりだった。
「ハクロの奴。まさかあそこで【覚醒】するなんてな。俺なんてあそこにいて『それなに?』って感じで呆然としてたけど」
「わかる。学園でも滅多に見られない出来事なんだってよ」
「……それでも、あのエールティアには勝てなかったんだよなぁ」
「あの子……っていうかあの方は一体どれだけ強いんだか……流石、この国の王族って感じだよなぁ」
特待生クラスに行く途中、少し遠くで話していた二年生の言葉が偶々耳に入って――思わず私は眉をひそめていた。
どんなに私が強くても『王族』だからで終わってしまう。ある意味、それは私の運命なのかもしれないけれど、釈然としない。
「エールティア」
後ろから声を掛けられたから振り向いてみると、そこにはハクロ先輩がいた。彼は私達に気付いていない生徒の子達を見て、軽く舌打ちをした。
「所詮、自ら努力をする事もない凡人の戯言だ。言わせておけ」
「え、はい……」
まさかあんなにいがみ合ってきた私にそんな事を言ってくれるなんて思ってもみなかったから、思わずしどろもどろしてしまった。
「僕が君にこんな事を言ったのが意外か?」
「それはまあ……」
今までの態度を考えたら、急に心変わりしすぎのような気がする。私がそんな風に思ってるのが通じたのか、ハクロ先輩はため息を吐いて私の前を歩き始める。
「ここで立っていても仕方がない。教室に行くぞ」
「ええ、わかったわ」
どう会話していいのかわからなかった私は、とりあえず頷いてハクロ先輩の後ろをついて歩く。そういえば、彼の尻尾は元の――よりはかなり大きいけれど一つに戻ってるみたい。髪とか目とかはそのままだけど。
「どうした?」
そんな私の視線に気付いたのか、ハクロ先輩は訝しむようにちらっと視線を私に向けてきた。
「え、いや……」
「……ああ、尻尾か」
私の考えてる事を読んだハクロ先輩は、急に立ち止まって尻尾をもぞもぞと動かして……一本だった尻尾が九本に分かれた。道理で異様にもこもこしてると思ったら……。
「あれ、でもサイズが違いませんか?」
「尻尾は僕の意思で少しなら小さくできる。意識しないと出来ないから、戦うときは無理だけどな」
なるほど、っと思わず感心するように尻尾を見つめてしまうと、ハクロ先輩は居心地悪そうに一本に纏めてしまった。
「あー……」
思わず残念そうな声が出てしまって……ハクロ先輩は苦笑いを浮かべてまた歩き出した。それに従うようにまた歩くことになって……少しの間沈黙が続いた。
「悪かったな」
「え?」
いきなり謝ってきたハクロ先輩に、呆けたような声が出てしまった。
「戦う前まではわからなかった。あの魔導の数々……ただ、才能があるから、天才だから出せたものじゃない。その中に確か築き上げられた物がなければ到達できない境地だ」
今までいがみ合ってきたハクロ先輩にそんな風に言われると、なんだか気恥ずかしい。だけどそれと同時に嬉しさがこみ上げてくる。少しでも彼に認められた……それがはっきりとわかったから。
「それじゃあ――」
「ああ。僕は君の事を誤解していた。許してくれ――とは言えないが、何かあったら僕が君の力になろう。もちろん……決闘での権利を除いて、な」
私としては、別に助けてくれるなら決闘で手に入れた権利を使う必要もないんだけど……それは彼のプライドが許さないんだろう。
「それじゃあ、必要な時は頼りにさせてもらうわね」
「ああ。期待には応えてやるさ」
いつの間にか教室の扉まで来てたハクロ先輩は、私に向かってクールな微笑みを見せて……そのまま教室の中へと入っていった。
「……ふふっ、こういうのもいいものね」
嫌な相手とばかり決闘することになって、不愉快な気分になったけれど……ハクロ先輩との決闘は、やって良かったと思えた。
その事実を噛み締めるように、私は教室の扉を開けて中に入ると……特待生クラスの先輩方が挨拶をしてくれる。
「おはよー」
「おはようは少し違うではありませんか?」
「その日初めて会ったらおはよーなんだってー。かーさんが言ってたー」
シェイン先輩と蒼鬼先輩の平穏な言い合いや、他の先輩方と楽しく話して……今日も楽しい一日が送れそうな気がする。
勝者としての権利は……とりあえず保留することにしておいた。この場合、決闘委員会に後で権利の執行を伝える為の文書を発行する必要が出てくるんだけど、特に彼に何か命令することもないから構わない。……これがちょっと前までだったら何か命令してただろうけどね。
リュネーやレイアにも祝福してもらって、今まで以上に嫉妬や羨望の視線を集める事になったけど……これはまあ、仕方ない。有名税ってやつなんだろうし、悪意のある視線には慣れてる。好意の視線の方が不慣れな方だからね。
――
決闘が終わった翌日。まだ興奮冷めやらぬと言った様子の生徒達の間では、私とハクロ先輩の決闘の話題で持ちきりだった。
「ハクロの奴。まさかあそこで【覚醒】するなんてな。俺なんてあそこにいて『それなに?』って感じで呆然としてたけど」
「わかる。学園でも滅多に見られない出来事なんだってよ」
「……それでも、あのエールティアには勝てなかったんだよなぁ」
「あの子……っていうかあの方は一体どれだけ強いんだか……流石、この国の王族って感じだよなぁ」
特待生クラスに行く途中、少し遠くで話していた二年生の言葉が偶々耳に入って――思わず私は眉をひそめていた。
どんなに私が強くても『王族』だからで終わってしまう。ある意味、それは私の運命なのかもしれないけれど、釈然としない。
「エールティア」
後ろから声を掛けられたから振り向いてみると、そこにはハクロ先輩がいた。彼は私達に気付いていない生徒の子達を見て、軽く舌打ちをした。
「所詮、自ら努力をする事もない凡人の戯言だ。言わせておけ」
「え、はい……」
まさかあんなにいがみ合ってきた私にそんな事を言ってくれるなんて思ってもみなかったから、思わずしどろもどろしてしまった。
「僕が君にこんな事を言ったのが意外か?」
「それはまあ……」
今までの態度を考えたら、急に心変わりしすぎのような気がする。私がそんな風に思ってるのが通じたのか、ハクロ先輩はため息を吐いて私の前を歩き始める。
「ここで立っていても仕方がない。教室に行くぞ」
「ええ、わかったわ」
どう会話していいのかわからなかった私は、とりあえず頷いてハクロ先輩の後ろをついて歩く。そういえば、彼の尻尾は元の――よりはかなり大きいけれど一つに戻ってるみたい。髪とか目とかはそのままだけど。
「どうした?」
そんな私の視線に気付いたのか、ハクロ先輩は訝しむようにちらっと視線を私に向けてきた。
「え、いや……」
「……ああ、尻尾か」
私の考えてる事を読んだハクロ先輩は、急に立ち止まって尻尾をもぞもぞと動かして……一本だった尻尾が九本に分かれた。道理で異様にもこもこしてると思ったら……。
「あれ、でもサイズが違いませんか?」
「尻尾は僕の意思で少しなら小さくできる。意識しないと出来ないから、戦うときは無理だけどな」
なるほど、っと思わず感心するように尻尾を見つめてしまうと、ハクロ先輩は居心地悪そうに一本に纏めてしまった。
「あー……」
思わず残念そうな声が出てしまって……ハクロ先輩は苦笑いを浮かべてまた歩き出した。それに従うようにまた歩くことになって……少しの間沈黙が続いた。
「悪かったな」
「え?」
いきなり謝ってきたハクロ先輩に、呆けたような声が出てしまった。
「戦う前まではわからなかった。あの魔導の数々……ただ、才能があるから、天才だから出せたものじゃない。その中に確か築き上げられた物がなければ到達できない境地だ」
今までいがみ合ってきたハクロ先輩にそんな風に言われると、なんだか気恥ずかしい。だけどそれと同時に嬉しさがこみ上げてくる。少しでも彼に認められた……それがはっきりとわかったから。
「それじゃあ――」
「ああ。僕は君の事を誤解していた。許してくれ――とは言えないが、何かあったら僕が君の力になろう。もちろん……決闘での権利を除いて、な」
私としては、別に助けてくれるなら決闘で手に入れた権利を使う必要もないんだけど……それは彼のプライドが許さないんだろう。
「それじゃあ、必要な時は頼りにさせてもらうわね」
「ああ。期待には応えてやるさ」
いつの間にか教室の扉まで来てたハクロ先輩は、私に向かってクールな微笑みを見せて……そのまま教室の中へと入っていった。
「……ふふっ、こういうのもいいものね」
嫌な相手とばかり決闘することになって、不愉快な気分になったけれど……ハクロ先輩との決闘は、やって良かったと思えた。
その事実を噛み締めるように、私は教室の扉を開けて中に入ると……特待生クラスの先輩方が挨拶をしてくれる。
「おはよー」
「おはようは少し違うではありませんか?」
「その日初めて会ったらおはよーなんだってー。かーさんが言ってたー」
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