40 / 676
40・決着の刻
しおりを挟む
「『ファントムフレア』!」
最初に動いたのはハクロ先輩だった。一気に私との距離を詰めて、新しい魔導を発動させてきた。ファントム……という事は幻みたいな魔導って事になるんだろうか……。
例え幻影だとしても、まっすぐ向かってくる黒い炎を無視するわけにはいかない。
「『ガイアクラスター』!」
出現した土の塊をハクロ先輩の放ってきた『ファントムフレア』にぶつけると……大きな爆発が起きて、小さな黒い炎がかなりの速度で私に向かって襲い掛かってきた。
「……なるほど。二段構えって事ね」
あれは防ごうとしたらそれに反応して爆発する類の魔導って事か。もしかしたら、避けるだけで簡単に対処できたかもしれない。
「甘いっ!」
私がハクロ先輩の魔導に気を取られているうちに彼は私に詰め寄ってきていた。
「どこが?」
だけど、そんな事くらいわからない私じゃない。既に頭の中には魔導のイメージが構築されている。それはハクロ先輩の方も同じだろう。
「『フレアショット』!」
「『アイシクルバラージ』!」
ハクロ先輩は炎。私は氷。それぞれ真逆の弾幕を張る魔導を放った。私も彼も、手数の多い攻撃方法を考えていたみたいで……しばらくの間、互いの魔導を相殺しあって、埒が明かないと判断して一度距離を取る。
弾幕を張るタイプの魔導はどうしても威力が下がる。おまけにハクロ先輩の方がより多く魔力を注ぎ込んでるのだから、尚更膠着する。
……いくら彼が【覚醒】したって言っても、それでも私の本気に遠く及ばないっていうのは悲しい事なのかもしれない。それでもこの世界で戦った中では一番強い存在には違いなかった。
だからこそ、本気の片鱗を見せてあげる事にした。イメージするのは細胞すらも残さず分解する雷。原子の力を秘めた全てを消し飛ばす一撃!
「『プロトンサンダー』!」
魔導によって生まれた白に近い黄色い雷の球が私の周囲にいくつも浮かんで……互いに共振するようにバチバチと音を立てながら雷を中心に集めて、一気に解き放つ。それは全てを分解する魔力の雷。
「『殺生石』!」
ハクロ先輩は迎え撃つように大きくて透き通ってる鉱石のような塊を放ってきた。それの周囲には小さくて鋭く加工されてる同じ鉱石が回るように浮いていて……それよりなにより、その石が纏っている闇――というよりも死の気配が少し恐ろしく感じる。
あれは当たれば、かなり不味い事になってただろう。もちろん……当たれば、だけどね。
「……くっ!」
私の『プロトンサンダー』と激しくぶつかり合ったけれど、ハクロ先輩の『殺生石』では、私の魔導は止められない。出力・イメージ・魔力の全てにおいて今までの彼が出してきた魔導から、大まかに検討した最大出力の攻撃よりも上回るようにしてる。
互いに轟音を立てていたけれど……やがて『殺生石』は粉々に砕け散って、驚愕したハクロ先輩の身体を『プロトンサンダー』が蹂躙した。本来なら命中した相手を跡形もなく吹き飛ばす程の火力を持つ魔導だけれど、多少魔力を抑えて、ハクロ先輩の『殺生石』とぶつかった結果なのか、はたまた結界具のお守りの効果は知らないけれど、清らかな音が響いて、身体を訓練場の壁に叩きつけられる程度で済んだ。
もっとも、その衝撃を殺す事は出来なかったから、肺が圧迫されて酷い事になったしまったけど。
『……はっ! き、きき、決まったぁぁぁ! 勝者、エールティア・リシュファスゥゥゥゥ!!』
訓練場全体がしーんとした沈黙の中、呆けるような顔をしてた司会のヘリッド先輩が正気を取り戻して、大声で決闘終了を宣言してくれた。
それにほっと一息ついて……倒れてるハクロ先輩に近寄って、彼の容態を確認する。かなりボロボロだけど、生死に関わる傷はない。これくらいなら――
「『アクアキュア』」
魔導で癒しの力を持つ水を呼び出して、ハクロ先輩をそっと包み込む。水が傷口に触れると、しゅわしゅわと音を立てて塞がっていって――私は自分が感じていたら非難の目が、和らいでいくのを感じた。
『これは素晴らしい…….エールティア選手は傷付いたハクロ先輩の身体を治療しているみたいです』
「なんの……真似だ……」
「決まってるでしょう? 傷を治してるのよ。黙って治療受けなさい」
「なん……で?」
――さっきまで怒りを向けた自分をなんで?
そんな風に考えてるんだろうけど、私にとって、それは過ぎたことだ。明確な敵意はあった。けれど私が『プロトンサンダー』を使う前まで、彼は死ぬ可能性のある『殺生石』を使う事はなかった。はっきりとした殺意がない人を殺すなんて……後味が悪い。
「貴方は中々見所があるからね。それに……貴方の戦い。結構楽しかったわ。またしましょうね」
この戦いで、彼が私にどんな思いを向けてきたのか伝わってきた気がした。血筋だけの――才能だけの女。努力もなしに特待生クラスにやってきたと思われたら、彼のように努力をする人は面白くなかっただろう。
だけど、この戦いを通して……私の事も少しは彼に伝わったはずだ。
その証拠に……ハクロ先輩は呆れたような苦笑いを浮かべてくれたのだから――
最初に動いたのはハクロ先輩だった。一気に私との距離を詰めて、新しい魔導を発動させてきた。ファントム……という事は幻みたいな魔導って事になるんだろうか……。
例え幻影だとしても、まっすぐ向かってくる黒い炎を無視するわけにはいかない。
「『ガイアクラスター』!」
出現した土の塊をハクロ先輩の放ってきた『ファントムフレア』にぶつけると……大きな爆発が起きて、小さな黒い炎がかなりの速度で私に向かって襲い掛かってきた。
「……なるほど。二段構えって事ね」
あれは防ごうとしたらそれに反応して爆発する類の魔導って事か。もしかしたら、避けるだけで簡単に対処できたかもしれない。
「甘いっ!」
私がハクロ先輩の魔導に気を取られているうちに彼は私に詰め寄ってきていた。
「どこが?」
だけど、そんな事くらいわからない私じゃない。既に頭の中には魔導のイメージが構築されている。それはハクロ先輩の方も同じだろう。
「『フレアショット』!」
「『アイシクルバラージ』!」
ハクロ先輩は炎。私は氷。それぞれ真逆の弾幕を張る魔導を放った。私も彼も、手数の多い攻撃方法を考えていたみたいで……しばらくの間、互いの魔導を相殺しあって、埒が明かないと判断して一度距離を取る。
弾幕を張るタイプの魔導はどうしても威力が下がる。おまけにハクロ先輩の方がより多く魔力を注ぎ込んでるのだから、尚更膠着する。
……いくら彼が【覚醒】したって言っても、それでも私の本気に遠く及ばないっていうのは悲しい事なのかもしれない。それでもこの世界で戦った中では一番強い存在には違いなかった。
だからこそ、本気の片鱗を見せてあげる事にした。イメージするのは細胞すらも残さず分解する雷。原子の力を秘めた全てを消し飛ばす一撃!
「『プロトンサンダー』!」
魔導によって生まれた白に近い黄色い雷の球が私の周囲にいくつも浮かんで……互いに共振するようにバチバチと音を立てながら雷を中心に集めて、一気に解き放つ。それは全てを分解する魔力の雷。
「『殺生石』!」
ハクロ先輩は迎え撃つように大きくて透き通ってる鉱石のような塊を放ってきた。それの周囲には小さくて鋭く加工されてる同じ鉱石が回るように浮いていて……それよりなにより、その石が纏っている闇――というよりも死の気配が少し恐ろしく感じる。
あれは当たれば、かなり不味い事になってただろう。もちろん……当たれば、だけどね。
「……くっ!」
私の『プロトンサンダー』と激しくぶつかり合ったけれど、ハクロ先輩の『殺生石』では、私の魔導は止められない。出力・イメージ・魔力の全てにおいて今までの彼が出してきた魔導から、大まかに検討した最大出力の攻撃よりも上回るようにしてる。
互いに轟音を立てていたけれど……やがて『殺生石』は粉々に砕け散って、驚愕したハクロ先輩の身体を『プロトンサンダー』が蹂躙した。本来なら命中した相手を跡形もなく吹き飛ばす程の火力を持つ魔導だけれど、多少魔力を抑えて、ハクロ先輩の『殺生石』とぶつかった結果なのか、はたまた結界具のお守りの効果は知らないけれど、清らかな音が響いて、身体を訓練場の壁に叩きつけられる程度で済んだ。
もっとも、その衝撃を殺す事は出来なかったから、肺が圧迫されて酷い事になったしまったけど。
『……はっ! き、きき、決まったぁぁぁ! 勝者、エールティア・リシュファスゥゥゥゥ!!』
訓練場全体がしーんとした沈黙の中、呆けるような顔をしてた司会のヘリッド先輩が正気を取り戻して、大声で決闘終了を宣言してくれた。
それにほっと一息ついて……倒れてるハクロ先輩に近寄って、彼の容態を確認する。かなりボロボロだけど、生死に関わる傷はない。これくらいなら――
「『アクアキュア』」
魔導で癒しの力を持つ水を呼び出して、ハクロ先輩をそっと包み込む。水が傷口に触れると、しゅわしゅわと音を立てて塞がっていって――私は自分が感じていたら非難の目が、和らいでいくのを感じた。
『これは素晴らしい…….エールティア選手は傷付いたハクロ先輩の身体を治療しているみたいです』
「なんの……真似だ……」
「決まってるでしょう? 傷を治してるのよ。黙って治療受けなさい」
「なん……で?」
――さっきまで怒りを向けた自分をなんで?
そんな風に考えてるんだろうけど、私にとって、それは過ぎたことだ。明確な敵意はあった。けれど私が『プロトンサンダー』を使う前まで、彼は死ぬ可能性のある『殺生石』を使う事はなかった。はっきりとした殺意がない人を殺すなんて……後味が悪い。
「貴方は中々見所があるからね。それに……貴方の戦い。結構楽しかったわ。またしましょうね」
この戦いで、彼が私にどんな思いを向けてきたのか伝わってきた気がした。血筋だけの――才能だけの女。努力もなしに特待生クラスにやってきたと思われたら、彼のように努力をする人は面白くなかっただろう。
だけど、この戦いを通して……私の事も少しは彼に伝わったはずだ。
その証拠に……ハクロ先輩は呆れたような苦笑いを浮かべてくれたのだから――
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる