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39・九尾の狐
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『これは……』
『素晴らしいにゃ……』
司会の二人も我を忘れたような呆然とした呟きをしてるけれど、それも仕方がない。
白銀の髪に相変わらず切れ長の瞳。だけど白かったそれは、澄んだ青色が宿るようになってた。銀狐族の象徴とも言える尻尾は九本生えてて……そのどれもが立派にふさふさしていた。
自分の身体の感触を確かめるように両手を握ったり開いたりして、しっかりと確かめていた。
「これは……なるほど、これが……!!」
しっかりと自分が目覚めた力を確認したハクロ先輩の顔は喜色満面……っていった感じ。私の方は内心で思わず歯噛みしてしまった。彼の能力は大体把握していた。それがこの【覚醒】のせいで全て計り直し。おまけにだけど……多分『ミラーアバター』を最大まで強化しても、善戦するのが良いところだと思った。
鏡の私は、私本来の力を最大限活かせる訳じゃない。明確な上限があって、ぱっと見た感じでは、その上限よりも少し上な気がする。
「『ファイアボール』……!」
期待を込めるように魔導名を唱えたハクロ先輩の周りで幾つもの炎の玉が浮かみあがって、一斉に鏡の私目掛けて放ってきた。
それを避けて、迎撃して……なんとか一撃受けるのを防いだ鏡の私は攻勢に出るんだけど、最大強化された『ミラーアバター』ですら善戦でせいぜいなのに、強化されてない今の鏡の私では、あっという間に主導権を握られてしまった。炎や風の剣、氷の矢と多彩な魔導を放ってくる。
徐々に圧されるように後退させられた鏡の私は、眩い光の玉で目くらましをさせられた挙句、最期に待ち構えていたのは、ハクロ先輩が直前まで迫ってきているという不運だった。
「な……!?」
「『狐火』」
鏡の私の上げた驚愕の声に反応を返す事なく、ハクロ先輩は青い炎の魔導を発動させて――鏡の私を一気に焼き払ってしまった。
『き、決まったぁぁぁぁぁぁっっ! これで両者お守りはあと一つ! 勝負はいよいよわからなくなってきました!』
『うーん、でも【覚醒】された時点で勝ち目なんてないと思うのにゃ』
『その通りです! 先程までとは打って変わって怒涛の攻め! 絶えず行われた魔導の数々に苦しめられたエールティア選手は成す術も無く倒される光景が目に浮かぶようです!』
散々色々と言われてるけれど、それも仕方ない事だろう。『シャドウハイド』で隠れるのも限界あるし、こうなったら……。
私は鏡の私が完全に燃え尽きる前に、その影から飛び出すようにハクロ先輩に襲い掛かっていく。流石にそれは予想していなかったのか、かなり動揺してるようだった。これを逃すわけにはいかない――!
「『ガシングフレア』!」
私の得意技の一つ。黒い毒のガスを広範囲にまき散らし、それでハクロ先輩の動きが鈍ったところで――一気に炎の爆発が広がっていく。
「ちっ、まさかここで粘ってくるとはね」
忌々しい……と言った様子のハクロ先輩は、魔導による相殺をしようと風の魔導で毒ガスをまき散らそうとしたけれど……私が魔力で出現させたものがその程度でどうにか出来る訳がないじゃない。
「『フレアバースト』!」
引き起こされた炎の爆発に重ねるように魔力を込めて放たれた爆発系の魔導。それでも最大威力よりかなり下回ってる『ガシングフレア』を完全に打ち消すことが出来ずに逃げ回る事で当たらずに済ませていた。
どうやら身体に魔力を纏わせると、身体能力の方もかなり上がるみたいで、さっきまでとは違って素早い動きで私の方に迫ってきた。
確かにすごい。単純な戦闘能力で比べたら、確実に今のハクロ先輩は、昔の彼を超えていて……学園の中でも随一って言われても不思議じゃないくらいの力を身に着ける事に成功してる。
「『ファイアウィップ』!」
なんとか爆発の有効範囲から逃れたハクロ先輩は、炎の鞭を生み出す魔導を発動させた。それをしなるように振り回してきたけれど、別に鞭の修練を積んでるわけじゃない以上、容易に回避することが出来た。
私が炎の鞭を掻い潜りながら迫ってくることが分かっていたかのように魔導で風の槍を放ってきた。
「このっ……!」
「その程度!」
目前に迫ってきた風の槍を間一髪で避けながら、私は炎の牢獄をイメージした。灼熱の炎が閉じ込められた者の体力を奪う。悪夢の檻――!
「『カルケルフランマ』!」
出現した炎の牢獄に閉じ込められたハクロ先輩は、何度も魔導をぶつけて炎の牢獄を打ち破ろうとしてる。
「……っ、僕の力は……!」
事ここに至ってもまだ、闘志が全く萎えないなんてね。牢獄で隔離され、炎の熱で体力を奪われる……そんな状況になったら、大体は積んだって諦めると思う。そんな状況でも諦めないハクロ先輩の姿は、私の胸を高鳴らせてくる。その姿は……昔私を殺した彼の事を思い出させてくれたから。
しばらくの沈黙。その後に放たれた魔導は、綿密にイメージされ、練り上げられたもの。すごい音がしたかと思うと、牢獄の炎の一部分が水で消されて、再び燃え広がる前にハクロ先輩は脱出してしまった。
疲れた様子を見せないように踏ん張ってるハクロ先輩と再び対峙する。最後の攻防の為に、力を練り上げながら――
『素晴らしいにゃ……』
司会の二人も我を忘れたような呆然とした呟きをしてるけれど、それも仕方がない。
白銀の髪に相変わらず切れ長の瞳。だけど白かったそれは、澄んだ青色が宿るようになってた。銀狐族の象徴とも言える尻尾は九本生えてて……そのどれもが立派にふさふさしていた。
自分の身体の感触を確かめるように両手を握ったり開いたりして、しっかりと確かめていた。
「これは……なるほど、これが……!!」
しっかりと自分が目覚めた力を確認したハクロ先輩の顔は喜色満面……っていった感じ。私の方は内心で思わず歯噛みしてしまった。彼の能力は大体把握していた。それがこの【覚醒】のせいで全て計り直し。おまけにだけど……多分『ミラーアバター』を最大まで強化しても、善戦するのが良いところだと思った。
鏡の私は、私本来の力を最大限活かせる訳じゃない。明確な上限があって、ぱっと見た感じでは、その上限よりも少し上な気がする。
「『ファイアボール』……!」
期待を込めるように魔導名を唱えたハクロ先輩の周りで幾つもの炎の玉が浮かみあがって、一斉に鏡の私目掛けて放ってきた。
それを避けて、迎撃して……なんとか一撃受けるのを防いだ鏡の私は攻勢に出るんだけど、最大強化された『ミラーアバター』ですら善戦でせいぜいなのに、強化されてない今の鏡の私では、あっという間に主導権を握られてしまった。炎や風の剣、氷の矢と多彩な魔導を放ってくる。
徐々に圧されるように後退させられた鏡の私は、眩い光の玉で目くらましをさせられた挙句、最期に待ち構えていたのは、ハクロ先輩が直前まで迫ってきているという不運だった。
「な……!?」
「『狐火』」
鏡の私の上げた驚愕の声に反応を返す事なく、ハクロ先輩は青い炎の魔導を発動させて――鏡の私を一気に焼き払ってしまった。
『き、決まったぁぁぁぁぁぁっっ! これで両者お守りはあと一つ! 勝負はいよいよわからなくなってきました!』
『うーん、でも【覚醒】された時点で勝ち目なんてないと思うのにゃ』
『その通りです! 先程までとは打って変わって怒涛の攻め! 絶えず行われた魔導の数々に苦しめられたエールティア選手は成す術も無く倒される光景が目に浮かぶようです!』
散々色々と言われてるけれど、それも仕方ない事だろう。『シャドウハイド』で隠れるのも限界あるし、こうなったら……。
私は鏡の私が完全に燃え尽きる前に、その影から飛び出すようにハクロ先輩に襲い掛かっていく。流石にそれは予想していなかったのか、かなり動揺してるようだった。これを逃すわけにはいかない――!
「『ガシングフレア』!」
私の得意技の一つ。黒い毒のガスを広範囲にまき散らし、それでハクロ先輩の動きが鈍ったところで――一気に炎の爆発が広がっていく。
「ちっ、まさかここで粘ってくるとはね」
忌々しい……と言った様子のハクロ先輩は、魔導による相殺をしようと風の魔導で毒ガスをまき散らそうとしたけれど……私が魔力で出現させたものがその程度でどうにか出来る訳がないじゃない。
「『フレアバースト』!」
引き起こされた炎の爆発に重ねるように魔力を込めて放たれた爆発系の魔導。それでも最大威力よりかなり下回ってる『ガシングフレア』を完全に打ち消すことが出来ずに逃げ回る事で当たらずに済ませていた。
どうやら身体に魔力を纏わせると、身体能力の方もかなり上がるみたいで、さっきまでとは違って素早い動きで私の方に迫ってきた。
確かにすごい。単純な戦闘能力で比べたら、確実に今のハクロ先輩は、昔の彼を超えていて……学園の中でも随一って言われても不思議じゃないくらいの力を身に着ける事に成功してる。
「『ファイアウィップ』!」
なんとか爆発の有効範囲から逃れたハクロ先輩は、炎の鞭を生み出す魔導を発動させた。それをしなるように振り回してきたけれど、別に鞭の修練を積んでるわけじゃない以上、容易に回避することが出来た。
私が炎の鞭を掻い潜りながら迫ってくることが分かっていたかのように魔導で風の槍を放ってきた。
「このっ……!」
「その程度!」
目前に迫ってきた風の槍を間一髪で避けながら、私は炎の牢獄をイメージした。灼熱の炎が閉じ込められた者の体力を奪う。悪夢の檻――!
「『カルケルフランマ』!」
出現した炎の牢獄に閉じ込められたハクロ先輩は、何度も魔導をぶつけて炎の牢獄を打ち破ろうとしてる。
「……っ、僕の力は……!」
事ここに至ってもまだ、闘志が全く萎えないなんてね。牢獄で隔離され、炎の熱で体力を奪われる……そんな状況になったら、大体は積んだって諦めると思う。そんな状況でも諦めないハクロ先輩の姿は、私の胸を高鳴らせてくる。その姿は……昔私を殺した彼の事を思い出させてくれたから。
しばらくの沈黙。その後に放たれた魔導は、綿密にイメージされ、練り上げられたもの。すごい音がしたかと思うと、牢獄の炎の一部分が水で消されて、再び燃え広がる前にハクロ先輩は脱出してしまった。
疲れた様子を見せないように踏ん張ってるハクロ先輩と再び対峙する。最後の攻防の為に、力を練り上げながら――
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