上 下
37 / 676

37・激戦の銀狐

しおりを挟む
『さあ、いよいよやってまいりました! 特待生クラス二年生のハクロ・コウラン。そして一年生のエールティア・リシュファスの両者が出そろい、決闘開始を待つばかりです! まずは本日の決闘官をご紹介します!』
『どーもなのにゃ。今回の決闘を見届ける事になった、シニアン・ケシルですにゃ』

 決闘当日の訓練場。司会のヘリッド先輩が盛り上げてくれてる光景はもう見慣れたものだった。隣にいる決闘官が猫人族だったのは意外だったけど。あんなにもふもふしてて暑くないのかな? って思う。観客は前よりまた増えたみたいだし、リュネーとレイアは今回は観客席の最前線にいるようだった。そんな中、私は一人……ハクロ先輩と睨み合っている。眼鏡の奥底に宿っている冷たくも怒りの宿るそれに晒されながら、私はただまっすぐ彼を射貫くように視線を向けていた。

『今回は直接攻撃を禁止し、魔導のみの決闘らしいですが……シニアン決闘官、周囲への影響は大丈夫なのでしょうか?』
『それは問題ないにゃ。ぼくが魔導で結界を張るし、結界具には周囲を守る効果もあるのにゃ。二重の結界で防げない魔導なんて、まずありえないのにゃ!』

 自信満々に胸を張るシニアン決闘官は、どこか微笑ましいものがある。なんていうか、癒される。

『うーん! これです! 決闘が始まる前の問答はこうでなくては!』

 ……なんでかヘリッド先輩は感動したようだけど、そこに感動するのはおかしいような気がする。

『さ、それじゃあそろそろ決闘を始めるにゃ。二人とも、準備は良いかにゃ?』

 私達に確認を取るような視線を向けたシニアン決闘官に、ゆっくりと頷く。準備なんて初めから出来てる。それは……ハクロ先輩の方も同じだった。

『よし、それじゃあ結界具を起動するにゃ。司会くん、後はお願いにゃ』
『それでは任されました! 両者決闘……開始!』

「『クロスファイア』!」

 ヘリッド先輩の開始の合図と同時に、ハクロ先輩は魔導を発動させてきた。彼の左右から放たれる炎は、まっすぐ私に向かって伸びてくる。

 ――いきなり先制攻撃なんて……やってくれるじゃない!

「『アクアカーテン』!」

 炎には水。ということで水の壁――というよりもカーテンを強くイメージして魔導を放つ。同時に放たれた炎を防いだその後ろで、更にイメージを――

「遅い……!」

 私の作り出した『アクアカーテン』を突き破ってハクロ先輩は襲い掛かってきた。

「なっ……!」
「物理攻撃は禁止だが、近接攻撃は禁止されていない……! 『フレアショット』!」

 私の目の前に突き出されたその魔導からは、無数の炎の弾が放たれた。それに私は一瞬驚くけれど……同時に妙に納得した。それはそうだ。魔導による攻撃なら、何しても構わないんだから。

「……『ミラー・アバター』」

 炎弾が命中する寸前、私は魔導で鏡を作り出し、鏡の中の私と交代する。今の二度の魔導で見定めた彼の強さに合ったほど良い私。きちんと影もついていて、本物と見分けはつかない……んだけど、利き手が左右逆になる。
 ハクロ先輩には悪いけれど、まずは実力を測らせてもらう。その上で、彼とどう戦うか決めさせてもらおう。どんな相手でも決して侮らない。しっかりと実力を見せてもらうのが私のやり方だ。『フレアショット』で立ち込めた煙が止む前に、私は『シャドウハイド』って魔導で鏡の私の影に隠れた。

「……何をした?」

 私の様子が変わった事に気付いたのか、ハクロ先輩は怪訝そうな顔で鏡の私を睨みつけていた。

「何って、見てわからない?」

 私がするように、少し小馬鹿にするような笑みを浮かべてる鏡の私に対して、ハクロ先輩は怒りを覚えてるようだった。

「『アイシクルストーム』!」

 鏡の私に放たれたのは、鋭い氷の塊が混じった嵐。吹き荒ぶ風が、鏡の私に襲い掛かるけれど、それに応戦するように魔導を発動させる。

「『ガシングフレア』!」

 それに対抗するように周囲に黒い霧――ガスが立ち込めて、嵐を飛ばす勢いで炎が爆発していく。ハクロ先輩と戦うために生み出したとはいえ、私の得意としてる魔導がこの程度の威力に下がるなんてがっかりしてしまう。だけど、あれくらいの威力で丁度良かった。ハクロ先輩は目の色を変えたようだった。

「……なるほど。才能だけで成り上がってきた割には、やるじゃないか」
「……才能?」
「王家の血があるからこそ、お前の力に価値がある。その血筋のおかげで、お前は力を手にしたんだ」

 まるで非難するような視線を向けてくるけど……ハクロ先輩のそれは私が『努力をしていない』と言いたいみたいだ。確かに私自身は他の――凡人と呼ばれる人物とは違う。それでも……努力をしなかったわけじゃない。

「そう。なら本当に血筋だけのものか、確かめさせてあげる……!」

 あまりの言い方に、私も少しカチンと来た。鏡の私にもそれが伝わったようで、好戦的な笑みを浮かべて、ハクロ先輩と対峙していた。それからの戦いは――炎が燃え盛り、風が吹き荒ぶ……激闘と呼ぶに相応しい展開に発展していった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...