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36・努力の天才(ハクロside)
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本格的に決闘の日取りが決まって以降、ハクロは町の外で人知れず剣を振り続け、魔導を唱え続けていた。
「くっ……!」
全身から噴き出る汗を拭おうともせず、荒い息を整えながら、何度も頭の中で魔導のイメージを繰り返し、魔力が回復するのと同時にまた動き回りながら何かと戦うように魔導を唱える。
銀狐族のハクロ・コウランは、毎日欠かさず訓練をし続けてきた。限界まで剣を振るい、限界まで魔力を絞りつくし、自分を虐め抜いて今の成績を得てきた。
「僕は……僕は、まだ……やれる……!」
ハクロがそう呟いたと同時に表れたのは一匹の狼。しかし、黒くて凶暴そうな顔つきに角が生えてるその姿は動物のそれではなかった。ダークエルフ族のせいで産み出された魔物。その血を引く一匹である事には間違いなかった。
町から少し離れた森の中。動物以外にも魔物が現れても当然だったし、ハクロも何度も遭遇した事がある。今更驚くこともなかった。
「……ふん、ホーンウルフか。身の程知らずの雑魚が」
見下すような視線を向けられたホーンウルフは、怒りを感じたかのように襲い掛かってきた。星明りの中でも白く輝く剥き出しの牙。それに噛みつかれた者はあっという間に命を落としてしまうであろう鋭さを宿していたが……ハクロにとってその一連の行動は、一笑に付す程度の出来事には違いなかった。
「『クロスファイア』」
ハクロが魔導を唱えた瞬間、左右から炎が交差するように放たれ、中央にいたホーンウルフを焼き払う。まさに一瞬。あっという間に炎に包まれ動けなくなったホーンウルフに向かって、今度は水属性の魔導を放ち、消火すると同時に自身の魔力に磨きをかける。
「……ちっ。もっと、はっきりと具体的なイメージを練らないと――」
本来の――万全なハクロであれば、ちりも残さず焼き払えたはずだから。今の自分がどれだけ疲労しているかそれだけでわかる……のだが、ハクロはそれを気にせずに更に魔導を行使し続ける。
(そうだ。もっと頑張らないと。僕は……誰よりも頑張らないといけないんだ……!)
学園の中は基本的に貴族も平民も対等だ。だが、それをよく思わない貴族はもちろんいる。そういう存在は得てして抜きんでた平民を叩きたがる傾向にある。
そういう貴族にとって、平民にしては力のあるハクロは格好の的だったろう。それにも負けず、彼は努力した。昔、父親に言われた『努力すれば必ず報われる』という言葉を信じて。
少しの才能と多大な努力。それがハクロの全てだった。
だからこそ、才能だけで力を振り回すような者が彼は嫌いだった。
(僕は絶対に認めない。何の努力もしないで、王家の血で――才能だけで特待生クラスに上がってきた彼女を絶対に……!)
ハクロはエールティアが戦った二度の決闘を見ていた。その事を思い出すだけで彼の胸の中は怒りに満ちていく。とても下らない、笑い話にもならない理由で戦ったエールティアは……ハクロから見ると明らかに手を抜いていたからだ。
手加減すること自体にハクロはなんとも思っていない。実力が釣り合わないのであれば、全力で当たる必要もない。だが、エールティアはまるでお遊びでもやっているかのような動きをしていた。
ハクロはそれを『才能があるから、少し遊んでも問題ない』と思っているように見えたのだ。自分は特別なんだという傲慢さが見え隠れするようで、嫌いだった。
だからこそハクロはエールティアの事を憎むように見ていたし、敵意を剥き出しにしてきた。
(あんな才能だけで特待生クラスに来た女に、僕が負けるわけが無い)
「はぁ……はぁ……」
今回の決闘の肝である魔導の訓練。放った炎がそっくりそのまま跳ね返ってきて、それを素早く回避する。
更に続けて魔導を放って、まるで対戦相手が自分に攻撃してるような演出をする。たった一人で倍以上の魔導を使い仮想敵とひたすら戦うこのやり方は、常人ではあっという間に魔力を使い切って倒れてしまう事だろう。
小さな頃から魔力を使い切っては回復させて、筋肉を鍛えるように保有量を増やしていった彼みたいな修練者くらいにしか出来ない芸当だろう。
魔力・技術・イメージ・対応力……その全てを鍛え上げ、更に今現在ですら努力を欠かさない。並の者には負けないという気持ちがあっても尚、ハクロは自分に何か足りない物があると感じていた。
他の特待生――蒼鬼やシェイン……ドワーフ族のエンドレや同じ銀狐族のシロクと戦っても、何かが満たされない思い。欠けたピースが噛み合わないもどかしい思いが続いていて、それがより一層修行に打ち込む結果に繋がっていた。
やがて疲れ果て、地面に寝っ転がったハクロが見上げた空に移るのは、綺麗な月。そして一面に広がる星模様。森はざわめき、誰にもいない暗闇の中に一人だけの世界。
そんな中でしばらくそのまま涼んでいたハクロはゆっくりと起き上がり、また魔導を発動させて訓練を始める。自らの枷を解き放つ為に一心不乱で己を鍛えながら――
そしてそれは彼の予想とは違う展開で叶う事になる。ハクロがそれに気付く事になるのは……もうまもなく。
「くっ……!」
全身から噴き出る汗を拭おうともせず、荒い息を整えながら、何度も頭の中で魔導のイメージを繰り返し、魔力が回復するのと同時にまた動き回りながら何かと戦うように魔導を唱える。
銀狐族のハクロ・コウランは、毎日欠かさず訓練をし続けてきた。限界まで剣を振るい、限界まで魔力を絞りつくし、自分を虐め抜いて今の成績を得てきた。
「僕は……僕は、まだ……やれる……!」
ハクロがそう呟いたと同時に表れたのは一匹の狼。しかし、黒くて凶暴そうな顔つきに角が生えてるその姿は動物のそれではなかった。ダークエルフ族のせいで産み出された魔物。その血を引く一匹である事には間違いなかった。
町から少し離れた森の中。動物以外にも魔物が現れても当然だったし、ハクロも何度も遭遇した事がある。今更驚くこともなかった。
「……ふん、ホーンウルフか。身の程知らずの雑魚が」
見下すような視線を向けられたホーンウルフは、怒りを感じたかのように襲い掛かってきた。星明りの中でも白く輝く剥き出しの牙。それに噛みつかれた者はあっという間に命を落としてしまうであろう鋭さを宿していたが……ハクロにとってその一連の行動は、一笑に付す程度の出来事には違いなかった。
「『クロスファイア』」
ハクロが魔導を唱えた瞬間、左右から炎が交差するように放たれ、中央にいたホーンウルフを焼き払う。まさに一瞬。あっという間に炎に包まれ動けなくなったホーンウルフに向かって、今度は水属性の魔導を放ち、消火すると同時に自身の魔力に磨きをかける。
「……ちっ。もっと、はっきりと具体的なイメージを練らないと――」
本来の――万全なハクロであれば、ちりも残さず焼き払えたはずだから。今の自分がどれだけ疲労しているかそれだけでわかる……のだが、ハクロはそれを気にせずに更に魔導を行使し続ける。
(そうだ。もっと頑張らないと。僕は……誰よりも頑張らないといけないんだ……!)
学園の中は基本的に貴族も平民も対等だ。だが、それをよく思わない貴族はもちろんいる。そういう存在は得てして抜きんでた平民を叩きたがる傾向にある。
そういう貴族にとって、平民にしては力のあるハクロは格好の的だったろう。それにも負けず、彼は努力した。昔、父親に言われた『努力すれば必ず報われる』という言葉を信じて。
少しの才能と多大な努力。それがハクロの全てだった。
だからこそ、才能だけで力を振り回すような者が彼は嫌いだった。
(僕は絶対に認めない。何の努力もしないで、王家の血で――才能だけで特待生クラスに上がってきた彼女を絶対に……!)
ハクロはエールティアが戦った二度の決闘を見ていた。その事を思い出すだけで彼の胸の中は怒りに満ちていく。とても下らない、笑い話にもならない理由で戦ったエールティアは……ハクロから見ると明らかに手を抜いていたからだ。
手加減すること自体にハクロはなんとも思っていない。実力が釣り合わないのであれば、全力で当たる必要もない。だが、エールティアはまるでお遊びでもやっているかのような動きをしていた。
ハクロはそれを『才能があるから、少し遊んでも問題ない』と思っているように見えたのだ。自分は特別なんだという傲慢さが見え隠れするようで、嫌いだった。
だからこそハクロはエールティアの事を憎むように見ていたし、敵意を剥き出しにしてきた。
(あんな才能だけで特待生クラスに来た女に、僕が負けるわけが無い)
「はぁ……はぁ……」
今回の決闘の肝である魔導の訓練。放った炎がそっくりそのまま跳ね返ってきて、それを素早く回避する。
更に続けて魔導を放って、まるで対戦相手が自分に攻撃してるような演出をする。たった一人で倍以上の魔導を使い仮想敵とひたすら戦うこのやり方は、常人ではあっという間に魔力を使い切って倒れてしまう事だろう。
小さな頃から魔力を使い切っては回復させて、筋肉を鍛えるように保有量を増やしていった彼みたいな修練者くらいにしか出来ない芸当だろう。
魔力・技術・イメージ・対応力……その全てを鍛え上げ、更に今現在ですら努力を欠かさない。並の者には負けないという気持ちがあっても尚、ハクロは自分に何か足りない物があると感じていた。
他の特待生――蒼鬼やシェイン……ドワーフ族のエンドレや同じ銀狐族のシロクと戦っても、何かが満たされない思い。欠けたピースが噛み合わないもどかしい思いが続いていて、それがより一層修行に打ち込む結果に繋がっていた。
やがて疲れ果て、地面に寝っ転がったハクロが見上げた空に移るのは、綺麗な月。そして一面に広がる星模様。森はざわめき、誰にもいない暗闇の中に一人だけの世界。
そんな中でしばらくそのまま涼んでいたハクロはゆっくりと起き上がり、また魔導を発動させて訓練を始める。自らの枷を解き放つ為に一心不乱で己を鍛えながら――
そしてそれは彼の予想とは違う展開で叶う事になる。ハクロがそれに気付く事になるのは……もうまもなく。
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