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21・嵐の前の静けさ
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私がクリム先輩と決闘の約束をしてから数日。学園の日常を楽しんでると、ベルーザ先生の方に決闘に関する書類が届いたようで、また私は呼び出されてた。
「あのな、ただでさえ新入生が上級生と決闘を行うなんて非常識なのに、それに関する書類を二度も寄越された方の気持ちを考えて欲しい」
「ごめんなさい。それはちょっと……」
私はそんな目に遭った事がないからそういう気分を考えるのはちょっと難しい。むしろ上級生が率先して私に向かって色々やってくる今の状況をなんとかして欲しいって気持ちを理解してもらいたい。
「はぁ……とりあえず、これが今回の申請書だ」
私に向けて無造作に渡されたそれに目を通すと――
――
『決闘申請書』
内容:一対一による真剣の戦闘。
勝利条件:命を奪う。もしくは対戦者が降参する。
場所:リーティファ学園にある訓練場。
ルール:対戦者以外の他者への干渉、もしくはそれを仄めかす行為の一切を禁ずる。
――
……正直、ルドゥリア先輩の時とあまり変わらないような気がする。強いて言うなら……勝負が決まった後の事が少し違ってるくらいかな。
クリムが勝利した場合、私を一日自由に出来る権利を獲得できる事になっていて、私が勝利した場合は、何でも二つ命令出来る権利を得る……ってなってた。しかも但し書きで『命令権を行使した際、対戦者(クリム)と同じ条件を指示した場合、命令権は一つとなる』って書かれてて、どれだけ力を入れて書いたかがわかるくらい。
まあ、どういう風に書かれてても、受けないって選択肢はないんだけどね。
「ちょっ、エールティア! 君は正気なのか?」
「はい?」
さらさらっと自分の名前を記入した私を見たベルーザ先生は、心底驚いた表情で私と決闘申請書を交互に眺めてる。それがなんだか少しおかしく思えてきた。本人は相当真面目な顔をしてるから、迂闊に先生の前で笑う事は出来ないけどね。
「ルドゥリア先輩の時も同じような内容だったじゃないですか」
「いや、あれはあくまで鋳潰した武器での戦闘――いわば、訓練の延長線みたいなものだ。だけど今回は……下手をしたら死ぬかもしれないんだぞ?」
「はぁ……」
私のいまいちわかってないような要領の得ない返事に、ベルーザ先生は不満そうっていうか、やきもきしてる感じの表情でこっちを見てた。
「『はぁ……』って本当にわかってるのか?」
「そもそも戦うという行為自体が命のやりとりではないでしょうか。ルドゥリア先輩の時も打ちどころが悪ければ死んでいましたし……」
「あれ以上だって言ってるんだ」
ベルーザ先生は心配して言ってくれてるけれど……それで私の決心が変わることはない。今更ここで怖気づいて……なんて言える訳ないし、元々この決闘は私が挑んだものだしね。
「大丈夫ですよ。もっと生徒を信頼してください」
「……入学早々、ここまでの騒動を引き起こす生徒の何を信頼しろと言うのかな?」
その事については、なんとも言えず……苦笑いを浮かべて誤魔化す事にする。
「はぁ……わかった。こうして決闘申請書を受け取った以上、僕があまり何かを言うべきではないだろうからな。ただ……絶対に死ぬな。それだけは伝えておく。もう戻っていいぞ」
ベルーザ先生に言われて職員室を出た私は、教室に戻る途中にレイアとばったり顔を合わせてしまった。
「あ……」
彼女は何か言いたそうな顔で声を上げてきたけど……私はそれを無視して彼女の横を通り過ぎた。
「ティ、ティアさん! 待って――」
背中から彼女のどこか必死な声が聞こえたけれど……彼女と話すことはない。何を話したって、彼女との関係が修正されることはない。だったら、距離を取った方がずっと良かった。
教室の中に入ると、リュネーが心配そうな顔で私を見つめてた。
「……レイアと、喧嘩した?」
私がどう言おうか悩んでると、それを肯定したと受け取ったのか、彼女は俯いて悲しそうにしてる。
「シルケットじゃ、友達なんて出来なかったから……二人が喧嘩するなんて、悲しいよ」
「……大丈夫。ちょっと詰まらない事で揉めてるだけだから。この件が解決したら――」
――その時はきっと、と思ったけれど……それからは彼女次第だと思う。それはつまり、少し前までの中が良かった三人には戻れないかもしれないって事だった。
だから……あまり期待させる事は言わない方が良い。その方がリュネーの為にもなると思う。
そんな風にレイアの事について話してると、授業の始まるチャイムが鳴って、ベルーザ先生が教室に入ってきた。
「さあ、授業を始めるぞ。みんな席に着けー」
先生の言葉で他のみんなと一緒に自分の席に着いて、ベルーザ先生の授業を聞いた。
「よし、それではまず参考書を――」
相変わらず退屈……と言ったら悪いけれど、何度か通った道のおさらいをしてる先生に目を向けながら、眠たい授業の時間を過ごす。世間体の問題もあって、あからさまな態度を取るわけにはいかないから、授業は真面目に聞いてる様子を演じてるだけにしてるけどね。
「あのな、ただでさえ新入生が上級生と決闘を行うなんて非常識なのに、それに関する書類を二度も寄越された方の気持ちを考えて欲しい」
「ごめんなさい。それはちょっと……」
私はそんな目に遭った事がないからそういう気分を考えるのはちょっと難しい。むしろ上級生が率先して私に向かって色々やってくる今の状況をなんとかして欲しいって気持ちを理解してもらいたい。
「はぁ……とりあえず、これが今回の申請書だ」
私に向けて無造作に渡されたそれに目を通すと――
――
『決闘申請書』
内容:一対一による真剣の戦闘。
勝利条件:命を奪う。もしくは対戦者が降参する。
場所:リーティファ学園にある訓練場。
ルール:対戦者以外の他者への干渉、もしくはそれを仄めかす行為の一切を禁ずる。
――
……正直、ルドゥリア先輩の時とあまり変わらないような気がする。強いて言うなら……勝負が決まった後の事が少し違ってるくらいかな。
クリムが勝利した場合、私を一日自由に出来る権利を獲得できる事になっていて、私が勝利した場合は、何でも二つ命令出来る権利を得る……ってなってた。しかも但し書きで『命令権を行使した際、対戦者(クリム)と同じ条件を指示した場合、命令権は一つとなる』って書かれてて、どれだけ力を入れて書いたかがわかるくらい。
まあ、どういう風に書かれてても、受けないって選択肢はないんだけどね。
「ちょっ、エールティア! 君は正気なのか?」
「はい?」
さらさらっと自分の名前を記入した私を見たベルーザ先生は、心底驚いた表情で私と決闘申請書を交互に眺めてる。それがなんだか少しおかしく思えてきた。本人は相当真面目な顔をしてるから、迂闊に先生の前で笑う事は出来ないけどね。
「ルドゥリア先輩の時も同じような内容だったじゃないですか」
「いや、あれはあくまで鋳潰した武器での戦闘――いわば、訓練の延長線みたいなものだ。だけど今回は……下手をしたら死ぬかもしれないんだぞ?」
「はぁ……」
私のいまいちわかってないような要領の得ない返事に、ベルーザ先生は不満そうっていうか、やきもきしてる感じの表情でこっちを見てた。
「『はぁ……』って本当にわかってるのか?」
「そもそも戦うという行為自体が命のやりとりではないでしょうか。ルドゥリア先輩の時も打ちどころが悪ければ死んでいましたし……」
「あれ以上だって言ってるんだ」
ベルーザ先生は心配して言ってくれてるけれど……それで私の決心が変わることはない。今更ここで怖気づいて……なんて言える訳ないし、元々この決闘は私が挑んだものだしね。
「大丈夫ですよ。もっと生徒を信頼してください」
「……入学早々、ここまでの騒動を引き起こす生徒の何を信頼しろと言うのかな?」
その事については、なんとも言えず……苦笑いを浮かべて誤魔化す事にする。
「はぁ……わかった。こうして決闘申請書を受け取った以上、僕があまり何かを言うべきではないだろうからな。ただ……絶対に死ぬな。それだけは伝えておく。もう戻っていいぞ」
ベルーザ先生に言われて職員室を出た私は、教室に戻る途中にレイアとばったり顔を合わせてしまった。
「あ……」
彼女は何か言いたそうな顔で声を上げてきたけど……私はそれを無視して彼女の横を通り過ぎた。
「ティ、ティアさん! 待って――」
背中から彼女のどこか必死な声が聞こえたけれど……彼女と話すことはない。何を話したって、彼女との関係が修正されることはない。だったら、距離を取った方がずっと良かった。
教室の中に入ると、リュネーが心配そうな顔で私を見つめてた。
「……レイアと、喧嘩した?」
私がどう言おうか悩んでると、それを肯定したと受け取ったのか、彼女は俯いて悲しそうにしてる。
「シルケットじゃ、友達なんて出来なかったから……二人が喧嘩するなんて、悲しいよ」
「……大丈夫。ちょっと詰まらない事で揉めてるだけだから。この件が解決したら――」
――その時はきっと、と思ったけれど……それからは彼女次第だと思う。それはつまり、少し前までの中が良かった三人には戻れないかもしれないって事だった。
だから……あまり期待させる事は言わない方が良い。その方がリュネーの為にもなると思う。
そんな風にレイアの事について話してると、授業の始まるチャイムが鳴って、ベルーザ先生が教室に入ってきた。
「さあ、授業を始めるぞ。みんな席に着けー」
先生の言葉で他のみんなと一緒に自分の席に着いて、ベルーザ先生の授業を聞いた。
「よし、それではまず参考書を――」
相変わらず退屈……と言ったら悪いけれど、何度か通った道のおさらいをしてる先生に目を向けながら、眠たい授業の時間を過ごす。世間体の問題もあって、あからさまな態度を取るわけにはいかないから、授業は真面目に聞いてる様子を演じてるだけにしてるけどね。
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