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18・裏切りの証
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夕暮れの教室の中でも、一層映える赤と黒の男の人は、私よりもずっと背が高い。私に気付いて浮かべた笑顔は明るく、爽やかな印象を与えてくれる。……だけど、その目が全てを台無しにしてた。
傲慢な色を宿した彼の目は、欲望に塗れてて、見るからに人を騙しそうな顔をしてる。
「君がエールティアさん……だよね。レイアから話しを聞いて、会ったみたいと思ってたんだ」
「……貴方は?」
「僕はこのリーティファ学園の二年生。クリム・アレフといいます。初めまして」
深々と頭を下げる彼は、一歩引いた私に不思議そうな顔を浮かべていた。
「……どうしたのですか?」
「レイア。アレが、貴女が紹介したかった相手? だとしたら残念ね」
「ティ、ティアさん?」
レイアに失望した視線を向けると、彼女はおどおどとした表情で私の様子を窺ってきた。
……なんで私がこんな態度を取っているか、本当にわかっていないみたいに。
「どうして僕から離れようとしてるんだ? 少し話したいだけ――」
「上手くやってるようだけれど、私の目は誤魔化せないわよ? 貴方のそのギラギラした視線。もう少し抑えたら?」
「あ、あはは。何を言ってるかわからないな」
「とぼけるならそれでもいいけど、私は帰らせてもらうわ」
私の言葉に目をすうぅっと細めたクリムは、一気に雰囲気を豹変させる。他の人から見れば激変したって思われるくらいにはがらっと変わってる。
「……なんでわかった? 今までバレたことがねぇのにな」
「上手くやれてるのは認めてあげる。だけど……それが誰にでも通用するとは思わないことね」
ここで私が何度も見てきた目だって言っても、彼には信じてもらえないだろうから、敢えて伏せたけどね。
「ははっ! 小娘かと思ったら中々やるもんだな。褒めてやるよ」
「貴方に褒められても微塵も嬉しくないわ」
私に通じないってわかった途端、人を小馬鹿にした笑みを浮かべて、威圧的な態度を取ってきてる。ここに来て一気に不遜な振舞いをしてきたなぁ……。
「ふん、だったら隠す必要もないわけだ。なぁ、レイア?」
びくっとレイアが肩を震わせて怯えてるようだけど……私はレイアに半分くらい興味を失いかけてた。
どんな事情があったとしても、彼女が私の事を裏切ったのは事実で、それは私が最も嫌いな……憎むべき行為だった。あの時感じた彼女の孤独に同情した気持ちを吹き飛ばすには十分で……半分残ったのは、やっぱり仲が良かった思い出が私の心の中に残ってるからだった。
「ティ、アさん……」
「……で、私に何の用?」
どこか助けて欲しそうな目で見てくるレイアを無視して、クリムを見据える。
「なに、簡単な事だ。あんたはこの国の王家の一員。出来れば仲良くなっておきたいと思ってな」
「……そう『仲良く』ね」
この手の男の言葉は文字通りの意味じゃない。大概何か裏がある。
「ああ。だから、仲良くしようぜ?」
近寄って私の腕を掴んできた。強く掴まれた腕が痛む。思わず顔をしかめて思いっきり振り払うと、クリムは不満そうな顔をして私の事を睨んできた。
「お前……」
「……なんでもかんでも、自分の思い通りになるとは思わないことね」
「俺が優しいうちに言う事聞いてた方がいいぞ。そこの女みたいにな」
ちらっとクリムはレイアの方を見る。レイアがびくりと震えて怖がりながらクリムの事を見てる。
だけど……そういうのは私の苛立ちを余計に煽らせるだけだ。気に入らない。何もかもが……気に食わない。
「『優しい』? 笑わせないでよ。レイアの顔を見てればよくわかるわ。暴力と権力に訴えるしかない男が調子に乗らないことね」
「……そのセリフ。そのまま返してやるよ。たかだかルドゥリア如きに買ったくらいでいい気になるなよ」
「だったらどうする? 私に手を上げて、力尽くで言う事聞かせる?」
「そうだな。その分、レイアを酷い目に遭うことになる。お前も『友達』の事は大切だろう?」
「そうね。友達は大切ね」
言っててクリムの顔が醜く歪んで、私にまた手を伸ばそうとしてくる。もう私を手に入れた気になってるところ悪いけど、この男は一つだけ勘違いしてる。
「でもね。裏切り者は友達とは言わないのよ」
レイアは酷く傷ついた顔で、捨てられた子犬のような目をしてた。逆にクリムは嗜虐的な笑みを浮かべてる。別にレイアの事は……半分くらいはどうでもいい。だけど――それを見過ごすかはまた別問題だ。
「……だけど敢えて貴方の甘言に乗ってあげる。そうね……決闘で決着をつけましょう。私を一日自由に出来たら、いくらでも弱みは握れる……でしょう?」
「ははっ、後悔することになるぞ。俺は黒竜人族で最も力を持つ男だぜ?」
「くすくす、強がることくらい誰でも出来るわ。それとも……そんなに自分に自信がないの?」
「……いい度胸だ。俺様の事を舐めてるとどうなるか……思い知らせてやる」
クリムは苛立ったように目をランランとさせてちろりと舌なめずりをしてきた。自分の実力によほど自信を持ってるんだろう。
……それでも私は負けるつもりはない。こんな男に、負けてやるなんて絶対にあり得ない。
傲慢な色を宿した彼の目は、欲望に塗れてて、見るからに人を騙しそうな顔をしてる。
「君がエールティアさん……だよね。レイアから話しを聞いて、会ったみたいと思ってたんだ」
「……貴方は?」
「僕はこのリーティファ学園の二年生。クリム・アレフといいます。初めまして」
深々と頭を下げる彼は、一歩引いた私に不思議そうな顔を浮かべていた。
「……どうしたのですか?」
「レイア。アレが、貴女が紹介したかった相手? だとしたら残念ね」
「ティ、ティアさん?」
レイアに失望した視線を向けると、彼女はおどおどとした表情で私の様子を窺ってきた。
……なんで私がこんな態度を取っているか、本当にわかっていないみたいに。
「どうして僕から離れようとしてるんだ? 少し話したいだけ――」
「上手くやってるようだけれど、私の目は誤魔化せないわよ? 貴方のそのギラギラした視線。もう少し抑えたら?」
「あ、あはは。何を言ってるかわからないな」
「とぼけるならそれでもいいけど、私は帰らせてもらうわ」
私の言葉に目をすうぅっと細めたクリムは、一気に雰囲気を豹変させる。他の人から見れば激変したって思われるくらいにはがらっと変わってる。
「……なんでわかった? 今までバレたことがねぇのにな」
「上手くやれてるのは認めてあげる。だけど……それが誰にでも通用するとは思わないことね」
ここで私が何度も見てきた目だって言っても、彼には信じてもらえないだろうから、敢えて伏せたけどね。
「ははっ! 小娘かと思ったら中々やるもんだな。褒めてやるよ」
「貴方に褒められても微塵も嬉しくないわ」
私に通じないってわかった途端、人を小馬鹿にした笑みを浮かべて、威圧的な態度を取ってきてる。ここに来て一気に不遜な振舞いをしてきたなぁ……。
「ふん、だったら隠す必要もないわけだ。なぁ、レイア?」
びくっとレイアが肩を震わせて怯えてるようだけど……私はレイアに半分くらい興味を失いかけてた。
どんな事情があったとしても、彼女が私の事を裏切ったのは事実で、それは私が最も嫌いな……憎むべき行為だった。あの時感じた彼女の孤独に同情した気持ちを吹き飛ばすには十分で……半分残ったのは、やっぱり仲が良かった思い出が私の心の中に残ってるからだった。
「ティ、アさん……」
「……で、私に何の用?」
どこか助けて欲しそうな目で見てくるレイアを無視して、クリムを見据える。
「なに、簡単な事だ。あんたはこの国の王家の一員。出来れば仲良くなっておきたいと思ってな」
「……そう『仲良く』ね」
この手の男の言葉は文字通りの意味じゃない。大概何か裏がある。
「ああ。だから、仲良くしようぜ?」
近寄って私の腕を掴んできた。強く掴まれた腕が痛む。思わず顔をしかめて思いっきり振り払うと、クリムは不満そうな顔をして私の事を睨んできた。
「お前……」
「……なんでもかんでも、自分の思い通りになるとは思わないことね」
「俺が優しいうちに言う事聞いてた方がいいぞ。そこの女みたいにな」
ちらっとクリムはレイアの方を見る。レイアがびくりと震えて怖がりながらクリムの事を見てる。
だけど……そういうのは私の苛立ちを余計に煽らせるだけだ。気に入らない。何もかもが……気に食わない。
「『優しい』? 笑わせないでよ。レイアの顔を見てればよくわかるわ。暴力と権力に訴えるしかない男が調子に乗らないことね」
「……そのセリフ。そのまま返してやるよ。たかだかルドゥリア如きに買ったくらいでいい気になるなよ」
「だったらどうする? 私に手を上げて、力尽くで言う事聞かせる?」
「そうだな。その分、レイアを酷い目に遭うことになる。お前も『友達』の事は大切だろう?」
「そうね。友達は大切ね」
言っててクリムの顔が醜く歪んで、私にまた手を伸ばそうとしてくる。もう私を手に入れた気になってるところ悪いけど、この男は一つだけ勘違いしてる。
「でもね。裏切り者は友達とは言わないのよ」
レイアは酷く傷ついた顔で、捨てられた子犬のような目をしてた。逆にクリムは嗜虐的な笑みを浮かべてる。別にレイアの事は……半分くらいはどうでもいい。だけど――それを見過ごすかはまた別問題だ。
「……だけど敢えて貴方の甘言に乗ってあげる。そうね……決闘で決着をつけましょう。私を一日自由に出来たら、いくらでも弱みは握れる……でしょう?」
「ははっ、後悔することになるぞ。俺は黒竜人族で最も力を持つ男だぜ?」
「くすくす、強がることくらい誰でも出来るわ。それとも……そんなに自分に自信がないの?」
「……いい度胸だ。俺様の事を舐めてるとどうなるか……思い知らせてやる」
クリムは苛立ったように目をランランとさせてちろりと舌なめずりをしてきた。自分の実力によほど自信を持ってるんだろう。
……それでも私は負けるつもりはない。こんな男に、負けてやるなんて絶対にあり得ない。
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