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1・終わりと始まり
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――ギィィン。
激しい剣戟を打ち鳴らして、あたしは後ろへと下がった。少し荒い息をゆっくりと整え、きっと目の前の男を睨む。
全身を白の鎧で包んでいるソレは、色鮮やかな緑の目で力強く私を睨んでいた。もうどれくらいこんな戦いを続けているのだろう? あたしはボロボロになりながら、それでも剣を振い続けた。下らない、意味のない世界。その最後の幕を下ろすために。なのに――
「どうしても……邪魔をしたいようね。……残念ね」
「……魔王と勇者――お前と俺は相容れない。出会った時から、こうなる運命だった」
「相容れない? いいえ、違うわ。貴方が現実を見てないだけ。その無知が……すぐに――お前を食い破る。あたしがそうされたように、お前もそうなる」
「……言葉遣いが乱れてるぞ。戦いは余裕をなくした方が負ける」
こいつ……。
ギリっと歯軋りをして、睨む。今ここに弓と矢があったら射殺したくなる。そんな思いをぐっと堪えると、その隙を狙うような斬撃が飛んできた。
「……はっ、あはは! 同類のくせに」
「いいや、俺はお前とは違う。俺は――」
「いいえ、おんなじよ! 何を取り繕ったって、あんたはあたしと同じ、この世界からのはみ出し者だもの!」
威勢よく斬りかかったそれを、目の前の男は難なくいなして、あたしを徐々に追い詰めていく。
――悔しい。
そんな感情が漏れるのは、きっとこの男から同じ匂いがするからだ。何にもない。空っぽ。がらんどうの中身。
愛してくれる人も、守りたい人も、大切に思える人もいない。それでも戦い続けられる孤独。一つ剣を振るうごとに、一つ刃を合わせるごとに……伝わってくる。
「俺は……!」
「何にもないその心を、あたしなら埋めてあげられる。もう、何も探す事はない。貴方が応えてくれるなら、あたしも望む物を差し出してあげる。だから――」
「それでも俺は、誰かの為に戦う。この世界の未来の為に戦う!」
――違うでしょう? そんなんじゃない。あんたはそんな崇高な目的なんて持ってない。あたしと同じだ。愛されたくて、でも愛されなくて……あたしは……!
「だったら……その世界ごと消えてしまえ!」
何にもない世界。『女』としてしか価値を見られなかった自分。化け物を見る目で石を投げてきた奴ら。
――全部……全部要らない! 何もかも! それが……それがどうしてわからないの!?
「『ガシングフレア』!」
毒霧が周囲に広がり、暗い炎が誘爆するようにあちこちで爆発を起こす。いつも以上に魔力を込めたそれは、あっという間に彼を飲み込んだ。
「『プロトンサンダー』!」
追撃にあたしの周りに雷の球を出現させる。漂うそれらは一つになって、巨大な光線を放って、彼の全てを――
「っ!?」
『ガシングフレア』も『プロトンサンダー』も彼を殺すまで至らなかった。ぶすぶすと煙を上げて、あたしに迫ってきて――
「あ……」
彼の剣が、あたしの胸を貫いた。血の代わりに出てくる白い粒が、あたしの命が消えていくのを教えてくれた。
「いつ、か。こ……かい、する。や、らは……てき、なん……だから……」
「それでも……それでも俺は、信じてる」
――馬鹿。そんな顔して、言っても……説得力、ないから。
沈み込んでいく意識の中で、あたしは――
――
目を覚ました時、いつもの城じゃないベッドの上にいた。天蓋をぼんやりと見つめながら、さっきまでの事を思い出してた。
「夢……」
あれだけ鮮明に覚えてるなんて珍しい。身体だけ起こして頭を振ると、ノックの音が聞こえてきた。
「……どうぞ」
がちゃっと扉が開くと一緒に、ピンと背筋を伸ばしたいかにもメイドって感じの女の人が立ってた。
「おはようございます。昨晩は不安そうな顔をされておられましたが、眠られましたか?」
「ええ。ぐっすりとね」
「それはようございました。エールティア様でしたら、きっとご学友にも恵まれます。ですから安心なさってください」
優しく微笑んでくれるこのメイドに、内心ため息を吐きそうになる。あたし――私が考えている事とは全く別のことを言って元気付けようとしているからだ。
「ありがとう。着替えを用意してくれる? お父様やお母様にも早くあの服を着て見せてあげたいの」
「はい。用意しておりますので、すぐにお待ちいたしますね」
それだけ言うと、メイドは引っ込んで私の学生服を取りに行ってくれた。流石にこのまま戻ってくるまでベッドの上……というのもあれだから、抜け出して窓の方に歩み寄る。柔らかい日差しが照らしてきて、窓を開けると潮の香る風が運ばれてくる。
「今日も良い天気になりそう」
思わずそんな言葉が漏れ出る程には、今の状況を冷静に受け止められていた。
……あの日。魔王として最強の名を欲しいままにしていた勇者と戦い、私は死んだ。そのままで良いとは思わなかったけど、まさか死んですぐに赤ん坊の身体になってるなんて思いもしなかったけど。
死ぬ直前、誰かの声を聞いた気がする。それが誰かは思い出せないけど、お陰で私は……エールティア・リシュファスは生きている。不思議な気分、だけどね。
激しい剣戟を打ち鳴らして、あたしは後ろへと下がった。少し荒い息をゆっくりと整え、きっと目の前の男を睨む。
全身を白の鎧で包んでいるソレは、色鮮やかな緑の目で力強く私を睨んでいた。もうどれくらいこんな戦いを続けているのだろう? あたしはボロボロになりながら、それでも剣を振い続けた。下らない、意味のない世界。その最後の幕を下ろすために。なのに――
「どうしても……邪魔をしたいようね。……残念ね」
「……魔王と勇者――お前と俺は相容れない。出会った時から、こうなる運命だった」
「相容れない? いいえ、違うわ。貴方が現実を見てないだけ。その無知が……すぐに――お前を食い破る。あたしがそうされたように、お前もそうなる」
「……言葉遣いが乱れてるぞ。戦いは余裕をなくした方が負ける」
こいつ……。
ギリっと歯軋りをして、睨む。今ここに弓と矢があったら射殺したくなる。そんな思いをぐっと堪えると、その隙を狙うような斬撃が飛んできた。
「……はっ、あはは! 同類のくせに」
「いいや、俺はお前とは違う。俺は――」
「いいえ、おんなじよ! 何を取り繕ったって、あんたはあたしと同じ、この世界からのはみ出し者だもの!」
威勢よく斬りかかったそれを、目の前の男は難なくいなして、あたしを徐々に追い詰めていく。
――悔しい。
そんな感情が漏れるのは、きっとこの男から同じ匂いがするからだ。何にもない。空っぽ。がらんどうの中身。
愛してくれる人も、守りたい人も、大切に思える人もいない。それでも戦い続けられる孤独。一つ剣を振るうごとに、一つ刃を合わせるごとに……伝わってくる。
「俺は……!」
「何にもないその心を、あたしなら埋めてあげられる。もう、何も探す事はない。貴方が応えてくれるなら、あたしも望む物を差し出してあげる。だから――」
「それでも俺は、誰かの為に戦う。この世界の未来の為に戦う!」
――違うでしょう? そんなんじゃない。あんたはそんな崇高な目的なんて持ってない。あたしと同じだ。愛されたくて、でも愛されなくて……あたしは……!
「だったら……その世界ごと消えてしまえ!」
何にもない世界。『女』としてしか価値を見られなかった自分。化け物を見る目で石を投げてきた奴ら。
――全部……全部要らない! 何もかも! それが……それがどうしてわからないの!?
「『ガシングフレア』!」
毒霧が周囲に広がり、暗い炎が誘爆するようにあちこちで爆発を起こす。いつも以上に魔力を込めたそれは、あっという間に彼を飲み込んだ。
「『プロトンサンダー』!」
追撃にあたしの周りに雷の球を出現させる。漂うそれらは一つになって、巨大な光線を放って、彼の全てを――
「っ!?」
『ガシングフレア』も『プロトンサンダー』も彼を殺すまで至らなかった。ぶすぶすと煙を上げて、あたしに迫ってきて――
「あ……」
彼の剣が、あたしの胸を貫いた。血の代わりに出てくる白い粒が、あたしの命が消えていくのを教えてくれた。
「いつ、か。こ……かい、する。や、らは……てき、なん……だから……」
「それでも……それでも俺は、信じてる」
――馬鹿。そんな顔して、言っても……説得力、ないから。
沈み込んでいく意識の中で、あたしは――
――
目を覚ました時、いつもの城じゃないベッドの上にいた。天蓋をぼんやりと見つめながら、さっきまでの事を思い出してた。
「夢……」
あれだけ鮮明に覚えてるなんて珍しい。身体だけ起こして頭を振ると、ノックの音が聞こえてきた。
「……どうぞ」
がちゃっと扉が開くと一緒に、ピンと背筋を伸ばしたいかにもメイドって感じの女の人が立ってた。
「おはようございます。昨晩は不安そうな顔をされておられましたが、眠られましたか?」
「ええ。ぐっすりとね」
「それはようございました。エールティア様でしたら、きっとご学友にも恵まれます。ですから安心なさってください」
優しく微笑んでくれるこのメイドに、内心ため息を吐きそうになる。あたし――私が考えている事とは全く別のことを言って元気付けようとしているからだ。
「ありがとう。着替えを用意してくれる? お父様やお母様にも早くあの服を着て見せてあげたいの」
「はい。用意しておりますので、すぐにお待ちいたしますね」
それだけ言うと、メイドは引っ込んで私の学生服を取りに行ってくれた。流石にこのまま戻ってくるまでベッドの上……というのもあれだから、抜け出して窓の方に歩み寄る。柔らかい日差しが照らしてきて、窓を開けると潮の香る風が運ばれてくる。
「今日も良い天気になりそう」
思わずそんな言葉が漏れ出る程には、今の状況を冷静に受け止められていた。
……あの日。魔王として最強の名を欲しいままにしていた勇者と戦い、私は死んだ。そのままで良いとは思わなかったけど、まさか死んですぐに赤ん坊の身体になってるなんて思いもしなかったけど。
死ぬ直前、誰かの声を聞いた気がする。それが誰かは思い出せないけど、お陰で私は……エールティア・リシュファスは生きている。不思議な気分、だけどね。
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