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第二十四節・未来へ向かって
第396幕・初めての口づけ
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シアロルとの戦争はグランセストが勝利し、これにより、ジパーニグ、アリッカル、イギランスを合わせた四カ国はグランセストとある条約を結ぶ事になった。
人と魔人は互いに差別し合わず、これからの世の中を協力して生き抜く事だ。
あくまで国同士が交わした約束だから、あまり効果はないのだろうけど、それでも世界は少しずつマシな方へ変わっていく。
ヘンリーはルーシーと一緒にアリッカルを収め、ジパーニグと上手く付き合っているようだ。
武龍はナッチャイスが国としての体をなさなくなった事に思うところがあるのか、復興を手伝っている。
ミルティナ女王は相変わらずグランセストで活躍しているし、その下には銀狼騎士団の面々がついていて、彼女を支えてくれている。
セイルはくずはと一緒に冒険家として各地を旅して回っているんだとか。くずはがそれを文字に起こして本として売る予定があるとか言っていたな。
この十年。様々な事があった。戦勝パレードで、居心地の悪さを感じたり、ミルティナ女王の勧誘をなんとか振り切ったり……振り返れば大変なことばかり起こっていたような気がする。
そんな俺でも、戦いが終われば多少の事を融通してくれるようになって……今はそれほど大きくない町で暮らしている。地下都市の技術が徐々にこちらの方に流れてきているから、ここもじきに賑やかになるだろうけれど……それでも他の町よりは居心地が良かった。
町の者たちも俺がグレリアであることを気にせずに気軽に接してくれる。たまにパンや肉をくれたり……逆に俺が貰ったり、な。
「グレリアくーん」
町の外に行こうとした俺の背後から声が聞こえた。後ろを振り返ると……そこにいたのはやっぱりエセルカだった。彼女は結局……俺についてきてしまった。全く、困ったものだ。
「……エセルカ。お前、いつまで俺についてくるつもりだ?」
「どこまで……って、どこまでもだよ?」
こてん、と軽く首を傾げる姿はなんとも可愛らしい。だが、それをされても俺が困るだけだ。
「エセルカ。俺は……」
「グレリアくん。私ね、グレリアくんが私の事避けてるの、知ってるよ。でもね……そんなの、関係ないんだよ」
ゆっくり首を振って、まっすぐ俺の事を見据えてくる彼女のその顔は、真剣さを帯びていた。
「それでも、私は貴方の側にいたいの。……ダメ?」
潤んだ瞳で見つめてくる彼女のその姿に、俺は何も言うことが出来なかった。十年経った今も少女のような姿をしているエセルカは、ずっと俺に付いてきてくれた。俺が彼女の事を意図的に避けているのがわかっているはずなのに。
「……わかった。仕方ないな」
「やった! それで、グレリアくんはこれから狩りに行くの?」
「ああ。ちょっと遠くにな。たまには別の肉も食べたいだろう?」
「だったら私も付いて行くよ! 付いて……行くからね?」
「好きにしろ」
エセルカが俺の腕に纏わりつくようにしなだれかかり、優しげに微笑んでくれる。その姿に昔の彼女の姿がダブって見えて……どこか居心地が悪い。
そんな風に感じながら町の外へと歩いて行くと、エセルカは呟くように俺に話しかけてきた。
「私ね。知ってるんだ。グレリアくんが私の事を避けようとしてる理由」
「それは……」
「だって、みんな『私が変わった』って言うんだもの。知りたいって思うのが普通、でしょ?」
それもそうだろうな。俺たちは出来るだけ彼女に気付かれないようにしてたけれど、他の奴らはそうじゃない。どれだけ抑えても、情報というものは漏れるように出来ているのだろうな。
「だから……」
エセルカが突然前の方にやってきて、俺の肩に手を置く。そのまま……一生懸命足を伸ばして、軽く、唇に触れるキスをしてきた。
「だから、昔の私を忘れちゃうくらい、グレリアくんの事を好きでいるの。これが、私の初めてのキスだよ」
頬が……顔が熱くなるのを感じる。その表情はどこか小悪魔のようで、どこか色気すら感じるほどだ。十年も経てば、幼い子供のような容姿だったエセルカも、少しは大人へと成長するものだな。今なら十六~七と言われても通じるだろう。そんな彼女が目の前に迫り、軽く触れるだけとはいえキスをしたのだから、少しはドキドキしても不思議ではないだろう。
「エセルカ」
「……あ、ほ、ほら、いこ?」
「あ、ああ」
お互いに赤い顔でそっぽを向いて、歩こうとしたけど……その前に――
「エセルカ」
「な、なに? ……んっ」
彼女が慌てて誤魔化すようにこっちを振り向いた隙を狙ってお返しの口づけをした。今まで抱いていた罪悪感じゃない。本気の彼女に対し、応えようとした俺の精一杯だった。
「グ、グレリアくん……」
「……いこう」
まだ、あのエセルカの事は吹っ切れないだろう。多分それは一生俺の頭の中に付き纏う……拭い去れない罪の形だ。それでも……こんな俺を、それでも『好き』だと言ってくれた彼女の好意だけは、無碍にはしたくなかった。
だから……この罪を背負って。血塗られた手でも何かを掴めると手を伸ばして。前に進もう。
こんな俺でも――英雄でも構わないと言ってくれた彼女の為に。
――明日は、もっと楽しい日が待っているかもしれない。
隣を見れば、エセルカの笑顔があって……分不相応かもしれないけれど、そんな平和な毎日が、続けばいい。英雄は……もうここにはいないのだから。
人と魔人は互いに差別し合わず、これからの世の中を協力して生き抜く事だ。
あくまで国同士が交わした約束だから、あまり効果はないのだろうけど、それでも世界は少しずつマシな方へ変わっていく。
ヘンリーはルーシーと一緒にアリッカルを収め、ジパーニグと上手く付き合っているようだ。
武龍はナッチャイスが国としての体をなさなくなった事に思うところがあるのか、復興を手伝っている。
ミルティナ女王は相変わらずグランセストで活躍しているし、その下には銀狼騎士団の面々がついていて、彼女を支えてくれている。
セイルはくずはと一緒に冒険家として各地を旅して回っているんだとか。くずはがそれを文字に起こして本として売る予定があるとか言っていたな。
この十年。様々な事があった。戦勝パレードで、居心地の悪さを感じたり、ミルティナ女王の勧誘をなんとか振り切ったり……振り返れば大変なことばかり起こっていたような気がする。
そんな俺でも、戦いが終われば多少の事を融通してくれるようになって……今はそれほど大きくない町で暮らしている。地下都市の技術が徐々にこちらの方に流れてきているから、ここもじきに賑やかになるだろうけれど……それでも他の町よりは居心地が良かった。
町の者たちも俺がグレリアであることを気にせずに気軽に接してくれる。たまにパンや肉をくれたり……逆に俺が貰ったり、な。
「グレリアくーん」
町の外に行こうとした俺の背後から声が聞こえた。後ろを振り返ると……そこにいたのはやっぱりエセルカだった。彼女は結局……俺についてきてしまった。全く、困ったものだ。
「……エセルカ。お前、いつまで俺についてくるつもりだ?」
「どこまで……って、どこまでもだよ?」
こてん、と軽く首を傾げる姿はなんとも可愛らしい。だが、それをされても俺が困るだけだ。
「エセルカ。俺は……」
「グレリアくん。私ね、グレリアくんが私の事避けてるの、知ってるよ。でもね……そんなの、関係ないんだよ」
ゆっくり首を振って、まっすぐ俺の事を見据えてくる彼女のその顔は、真剣さを帯びていた。
「それでも、私は貴方の側にいたいの。……ダメ?」
潤んだ瞳で見つめてくる彼女のその姿に、俺は何も言うことが出来なかった。十年経った今も少女のような姿をしているエセルカは、ずっと俺に付いてきてくれた。俺が彼女の事を意図的に避けているのがわかっているはずなのに。
「……わかった。仕方ないな」
「やった! それで、グレリアくんはこれから狩りに行くの?」
「ああ。ちょっと遠くにな。たまには別の肉も食べたいだろう?」
「だったら私も付いて行くよ! 付いて……行くからね?」
「好きにしろ」
エセルカが俺の腕に纏わりつくようにしなだれかかり、優しげに微笑んでくれる。その姿に昔の彼女の姿がダブって見えて……どこか居心地が悪い。
そんな風に感じながら町の外へと歩いて行くと、エセルカは呟くように俺に話しかけてきた。
「私ね。知ってるんだ。グレリアくんが私の事を避けようとしてる理由」
「それは……」
「だって、みんな『私が変わった』って言うんだもの。知りたいって思うのが普通、でしょ?」
それもそうだろうな。俺たちは出来るだけ彼女に気付かれないようにしてたけれど、他の奴らはそうじゃない。どれだけ抑えても、情報というものは漏れるように出来ているのだろうな。
「だから……」
エセルカが突然前の方にやってきて、俺の肩に手を置く。そのまま……一生懸命足を伸ばして、軽く、唇に触れるキスをしてきた。
「だから、昔の私を忘れちゃうくらい、グレリアくんの事を好きでいるの。これが、私の初めてのキスだよ」
頬が……顔が熱くなるのを感じる。その表情はどこか小悪魔のようで、どこか色気すら感じるほどだ。十年も経てば、幼い子供のような容姿だったエセルカも、少しは大人へと成長するものだな。今なら十六~七と言われても通じるだろう。そんな彼女が目の前に迫り、軽く触れるだけとはいえキスをしたのだから、少しはドキドキしても不思議ではないだろう。
「エセルカ」
「……あ、ほ、ほら、いこ?」
「あ、ああ」
お互いに赤い顔でそっぽを向いて、歩こうとしたけど……その前に――
「エセルカ」
「な、なに? ……んっ」
彼女が慌てて誤魔化すようにこっちを振り向いた隙を狙ってお返しの口づけをした。今まで抱いていた罪悪感じゃない。本気の彼女に対し、応えようとした俺の精一杯だった。
「グ、グレリアくん……」
「……いこう」
まだ、あのエセルカの事は吹っ切れないだろう。多分それは一生俺の頭の中に付き纏う……拭い去れない罪の形だ。それでも……こんな俺を、それでも『好き』だと言ってくれた彼女の好意だけは、無碍にはしたくなかった。
だから……この罪を背負って。血塗られた手でも何かを掴めると手を伸ばして。前に進もう。
こんな俺でも――英雄でも構わないと言ってくれた彼女の為に。
――明日は、もっと楽しい日が待っているかもしれない。
隣を見れば、エセルカの笑顔があって……分不相応かもしれないけれど、そんな平和な毎日が、続けばいい。英雄は……もうここにはいないのだから。
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