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第二十一節・凍てつく大地での戦い編
第353幕 悠久の刻を経て
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ミシェラとレグルの二人に連れられてやってきたのは兵士たちの詰め所となっている場所の中でも奥まったところにある部屋だった。司令官クラスの魔人が使っている部屋……と言ったほうが良いかも知れないな。
「ここだよー」
「こら、ミシェラ!」
意気揚々と扉を開けて入っていくミシェラを咎めるレグルだが、そういえば昔も似たような事があったな。確か……昇級試験で職員室に向かうときだったはずだ。用紙に名前を書いたミシェラが走って行くのを、レグルが追いかけていたな。
我ながら、よく覚えているものだ。なんて思いながら部屋の中に入ると――
「お待ちしておりました」
そこにいたのは銀狼騎士団の一人の……確かグルジェイドという名前だったはずだ。緑色の髪でどこか憂いを帯びている藍色の目が印象的な優男、といった感じの魔人だ。そんな彼は大事に両手で抱えるように布を巻いた細長い物を持っていた。
「貴方は……」
「しっかりと話すのはこれが初めてでしたね。グレリアさん」
「あ、ああ――」
確かに、彼とまともに話したことは今までの事を思い返しても全くない。というか俺自身、他の騎士団員との接点があまりないという問題があるのだけれどな。というか、グルジェイドにも『グレリア』が伝わってるってことは、俺の名前は大体知れ渡ってるのかも知れないな。帰る気はさらさらないが、再びあの都に戻ったらどんな事態になるか……想像がつかない。
「まずは軽く雑談でもしましょう。私としても、同僚である貴方の事を少しは知りたいですしね」
なんて言いながら考え込むように顎に指を添えてじっとこっちを見ていた。それがなにか吸い込まれそうなような気がする。というか、そんな時間もあまりないと思うのだけれど……。
「ねー、そんな話よりも早く言われた事やった方が良いと思うよ?」
「グルジェイドさん、話ならまた次の機会にもできますから……」
「……そう、ですか? いえ、そうですね。私としたことが……では、こちらを」
二人に諭されて苦笑していたグルジェイドは、その手にもった物を俺の手に渡してくれた。
布を剥ぎ取ると、白色の鞘に収められた剣のようだった。派手な装飾は一切なく、その簡素さがむしろ美しく見える。しかし……どこかで見たことがあるような剣だ。一体どこで見ただろうか?
「抜いてみても良いか?」
「ええ。どうぞ」
俺の周囲にいたみんなが一歩下がったのを確認して、ゆっくりと鞘から剣を抜き放つ。その白い鞘と同じくらい美しい剣だ。剣身にはうっすらと紋様が浮かんでいて……これは恐らく起動式だ。初めて見るこれは――『古代』だな。『炎』や『雷』とは違った力を感じる。まず間違いなく原初の起動式だ。
「この紋様は……」
「え? おにいちゃん、なにか見えるの?」
「……ミシェラには見えないのか?」
「なんにも見えないよー。レグルくんは?」
「いや、俺にも普通の剣にしか見えないな」
ミシェラは頷いた後、ちらっとレグルを見たけど、彼の方も首を振ってミシェラに同調していた。
「やはり、グレリアさんには見えたのですね」
「……グルジェイド。これは一体」
「ミルティナ女王の家系に代々伝わる剣だそうです。最古の英雄と呼ばれるグレリア・エルデ様以降の時代に造られた一本だそうで……『メテオルダイム』と海の底に存在するという『ディシタルダイト』の二種類の鉱石を使われた……ということだけが伝わっている一本です。選ばれた者にしか見ることの出来ない起動式が存在するらしいのですが、我らが女王陛下以外に見ることが出来たのは貴方だけです」
グルジェイドが並べ立てるように説明してきているのを聞きながら、俺はじっくりとそれを眺め続けた。
「これほどの名剣がまだ残っていたとはな。なんで造られたのか……というのはわかっていないのか?」
「何分古い文献は大半が無くなってしまってますので……先人が暗号化してわかりにくくしているのも相まって、これ以上のことはわかっていません。少なくとも、グレリア様の時代に近い代物だとはわかっております」
ということは、これも長い年月を過ごしてきた一品ということになる。よくも今まで見つからずに済んだな。ミルティナ女王の事だから、こっそり隠していたのだろうけど。
それを俺に託してくれる……ということは、それだけ信頼してくれているのだろう。
「グルジェイドはこれからどうするんだ?」
「私は首都防衛の要の部隊を任される予定ですので、このまま帰ることになるでしょうね」
「なら、心配いらないな。俺が……必ず片をつける」
「……期待しておりますよ」
「ああ。女王陛下にも伝えてくれ。『貴女の思いは受け取りました』とな」
「ええ。しっかりお伝え致します」
これならばきっと『神』の魔方陣の効力に耐えることも可能だろう。それとは別の『古代』の起動式……。
きっと今後の――皇帝やヘルガとの戦いの時に力を発揮してくれることだろう。彼らが攻めて来る前にできる限りの事はしたい。この現状で何を鍛えたって、やりすぎってことは無いからな。
「ここだよー」
「こら、ミシェラ!」
意気揚々と扉を開けて入っていくミシェラを咎めるレグルだが、そういえば昔も似たような事があったな。確か……昇級試験で職員室に向かうときだったはずだ。用紙に名前を書いたミシェラが走って行くのを、レグルが追いかけていたな。
我ながら、よく覚えているものだ。なんて思いながら部屋の中に入ると――
「お待ちしておりました」
そこにいたのは銀狼騎士団の一人の……確かグルジェイドという名前だったはずだ。緑色の髪でどこか憂いを帯びている藍色の目が印象的な優男、といった感じの魔人だ。そんな彼は大事に両手で抱えるように布を巻いた細長い物を持っていた。
「貴方は……」
「しっかりと話すのはこれが初めてでしたね。グレリアさん」
「あ、ああ――」
確かに、彼とまともに話したことは今までの事を思い返しても全くない。というか俺自身、他の騎士団員との接点があまりないという問題があるのだけれどな。というか、グルジェイドにも『グレリア』が伝わってるってことは、俺の名前は大体知れ渡ってるのかも知れないな。帰る気はさらさらないが、再びあの都に戻ったらどんな事態になるか……想像がつかない。
「まずは軽く雑談でもしましょう。私としても、同僚である貴方の事を少しは知りたいですしね」
なんて言いながら考え込むように顎に指を添えてじっとこっちを見ていた。それがなにか吸い込まれそうなような気がする。というか、そんな時間もあまりないと思うのだけれど……。
「ねー、そんな話よりも早く言われた事やった方が良いと思うよ?」
「グルジェイドさん、話ならまた次の機会にもできますから……」
「……そう、ですか? いえ、そうですね。私としたことが……では、こちらを」
二人に諭されて苦笑していたグルジェイドは、その手にもった物を俺の手に渡してくれた。
布を剥ぎ取ると、白色の鞘に収められた剣のようだった。派手な装飾は一切なく、その簡素さがむしろ美しく見える。しかし……どこかで見たことがあるような剣だ。一体どこで見ただろうか?
「抜いてみても良いか?」
「ええ。どうぞ」
俺の周囲にいたみんなが一歩下がったのを確認して、ゆっくりと鞘から剣を抜き放つ。その白い鞘と同じくらい美しい剣だ。剣身にはうっすらと紋様が浮かんでいて……これは恐らく起動式だ。初めて見るこれは――『古代』だな。『炎』や『雷』とは違った力を感じる。まず間違いなく原初の起動式だ。
「この紋様は……」
「え? おにいちゃん、なにか見えるの?」
「……ミシェラには見えないのか?」
「なんにも見えないよー。レグルくんは?」
「いや、俺にも普通の剣にしか見えないな」
ミシェラは頷いた後、ちらっとレグルを見たけど、彼の方も首を振ってミシェラに同調していた。
「やはり、グレリアさんには見えたのですね」
「……グルジェイド。これは一体」
「ミルティナ女王の家系に代々伝わる剣だそうです。最古の英雄と呼ばれるグレリア・エルデ様以降の時代に造られた一本だそうで……『メテオルダイム』と海の底に存在するという『ディシタルダイト』の二種類の鉱石を使われた……ということだけが伝わっている一本です。選ばれた者にしか見ることの出来ない起動式が存在するらしいのですが、我らが女王陛下以外に見ることが出来たのは貴方だけです」
グルジェイドが並べ立てるように説明してきているのを聞きながら、俺はじっくりとそれを眺め続けた。
「これほどの名剣がまだ残っていたとはな。なんで造られたのか……というのはわかっていないのか?」
「何分古い文献は大半が無くなってしまってますので……先人が暗号化してわかりにくくしているのも相まって、これ以上のことはわかっていません。少なくとも、グレリア様の時代に近い代物だとはわかっております」
ということは、これも長い年月を過ごしてきた一品ということになる。よくも今まで見つからずに済んだな。ミルティナ女王の事だから、こっそり隠していたのだろうけど。
それを俺に託してくれる……ということは、それだけ信頼してくれているのだろう。
「グルジェイドはこれからどうするんだ?」
「私は首都防衛の要の部隊を任される予定ですので、このまま帰ることになるでしょうね」
「なら、心配いらないな。俺が……必ず片をつける」
「……期待しておりますよ」
「ああ。女王陛下にも伝えてくれ。『貴女の思いは受け取りました』とな」
「ええ。しっかりお伝え致します」
これならばきっと『神』の魔方陣の効力に耐えることも可能だろう。それとは別の『古代』の起動式……。
きっと今後の――皇帝やヘルガとの戦いの時に力を発揮してくれることだろう。彼らが攻めて来る前にできる限りの事はしたい。この現状で何を鍛えたって、やりすぎってことは無いからな。
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