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第二十一節・凍てつく大地での戦い編
第352幕 懐かしき者
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シアロル・イギランス両軍との戦争を控え、俺たちも英気を養いながらそれぞれ準備をする事になった。
……俺の方は『グレリア』という名前が公になってしまったせいか、かなり注目されて結構気まずかったりもしたけどな。
エセルカたちは本来の名前を呼べると言って嬉しそうにしていたけど、畏れられたり崇められたりするこちらとしては複雑な気分だ。
今日も今日とてそんな妙に居心地の悪さを感じていた……そんな時だ。
「あ、おにいちゃんだ!」
懐かしい声がする方に顔を向けると、ミシェラとレグルがこっちに向かって来ていた。彼らとは訓練学校以来だから数年ぶりか。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「うん! おにいちゃんも色々話聞いたよ!」
「えーと……し、師匠……駄目だ。グレリアさん、お久しぶりっす」
「レグル。師匠呼びはもういいのか?」
「冗談きついですよ。貴方みたいな魔人を一時期でも師匠と呼んでた自分の無知が羨ましい」
ははは、と乾いた笑いを浮かべてるが、今はもう呼ばれない『師匠』にどこか寂しさも感じる。
「ルルリナちゃんとシャルランちゃんもここにいるんだよー」
「あいつらも一応訓練学校を出ましたから。俺らみたいに最前線じゃなくて、後方支援が主ですけど」
「ああ、やっぱり二人とも前線に出て来るんだな」
ここでばったり再会する時点で、なんとなく予想は出来ていた。
後方支援なんて彼らには向いていないだろうしな。
「あんなゴーレムには流石に敵わないけど、普通の兵士ぐらいなら戦えますからね。ミシェラは違うようですけど」
「ぼくは時間かければ倒せるんだよー。『とっておき』があるからね」
へへん、と誇らしげに胸を張ったミシェラに、俺は純粋に感心した。二人が言ってるのは多分新しい方のゴーレムだろう。俺が多少手こずった相手とはいえ、時間をかければ倒せると豪語したミシェラの成長は目覚ましいものがあるだろう。
「流石ミシェラ。G級だっただけはあるな」
「えへへ、そうでしょ?」
これであのどこかズレた感性が無くなっていれば言う事はないのだけれど……それは少し難しそうだな。
「ミシェラは相変わらずだけれど、レグルは大分変わったな。昔はそんな敬語を話して畏るような男じゃなかったと思うが」
「俺だって少しは成長してますよ。訓練学校と違って、軍隊ってのは上下関係に厳しいですから。その上位に位置する銀狼騎士団で功績めざましい上、あの英雄グレリアの生まれ変わりって……逆に今までの自分が恐れ多いくらいです」
「レグルくんってば、定期的に教育されたから、身に染みてるんだねぇ……」
「お前は逆にやり返されて諦められた側だもんな!」
なんというか、ミシェラらしいエピソードだな。微笑ましいような気がする。
「それより……グレリアさんは相変わらずみたいですね」
「凄い噂ばかり聞いてたから、ぼくらの知ってるおにいちゃんじゃなかったらどうしようって思っちゃったよ!」
気軽にぺたぺたと触ってくるミシェラは心底嬉しそうに笑っていて、こっちもついつい笑顔になってしまう。これが戦闘中でも変わらないんだから恐ろしくもあるけれどな。
「あ、そうだ。おにいちゃんに伝えなきゃいけないことがあったんだ」
「俺に?」
「うん!」
ミシェラとレグルが……ということは、俺と二人の関係を知ってる者からの伝言って訳か。そうじゃなきゃ、わざわざこの二人を選ぶ必要ないしな。
「ミルティナ女王様がお呼びということですよ。なんでも、貴方に渡したいものがあるのだとか」
「……ミルティナ女王が?」
渡したいもの……というのは一体なんだろうか? というより、女王がこの最前線に近い町にいるという事実に驚いた。普通、一番奥の安全な場所でどっしり腰を落ち着かせているのが最高権力者というものじゃないだろうか?
「うん。正確にはミルティナ女王様の使いの魔人……だけどね」
「あ、こら。言ったら駄目だろうが。ミルティナ女王様だって『そう言ったら急いでくるからって』」
「……レグルくん、全部言ったら駄目だよ」
ミシェラが呆れた声でため息を吐いていたけど、どっちもどっちだ。あの方もあんまりだけどな。
「……わかった。とりあえずその使いの魔人に会いに行けば良いんだな?」
「うん! ほら、こっちだから一緒に行こう?」
身体ごと手にまとわりついて引っ張ってくるミシェラ。もしこれが女の子だったら……と一瞬思ったが、すぐにエセルカの顔が頭の中に思い浮かんで、考えるのをやめることにした。そういうことを考えたら申し訳ないというか……複雑な気分にさせられるからだ。
「どうしました?」
「いや……それより、行くから引っ張るのはやめてくれないか?」
「えー」
「ミシェラ、グレリアさんを困らせるな」
咎めるような視線を送るレグルに、諦めたように肩を落としながら離れていくミシェラを眺めながら、懐かしさを感じていた。
なんだかんだ言って彼らの事は気になっていたからな。元気な姿を……いや、俺の事を恐れていなかった。それがなにより嬉しかった。
……俺の方は『グレリア』という名前が公になってしまったせいか、かなり注目されて結構気まずかったりもしたけどな。
エセルカたちは本来の名前を呼べると言って嬉しそうにしていたけど、畏れられたり崇められたりするこちらとしては複雑な気分だ。
今日も今日とてそんな妙に居心地の悪さを感じていた……そんな時だ。
「あ、おにいちゃんだ!」
懐かしい声がする方に顔を向けると、ミシェラとレグルがこっちに向かって来ていた。彼らとは訓練学校以来だから数年ぶりか。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「うん! おにいちゃんも色々話聞いたよ!」
「えーと……し、師匠……駄目だ。グレリアさん、お久しぶりっす」
「レグル。師匠呼びはもういいのか?」
「冗談きついですよ。貴方みたいな魔人を一時期でも師匠と呼んでた自分の無知が羨ましい」
ははは、と乾いた笑いを浮かべてるが、今はもう呼ばれない『師匠』にどこか寂しさも感じる。
「ルルリナちゃんとシャルランちゃんもここにいるんだよー」
「あいつらも一応訓練学校を出ましたから。俺らみたいに最前線じゃなくて、後方支援が主ですけど」
「ああ、やっぱり二人とも前線に出て来るんだな」
ここでばったり再会する時点で、なんとなく予想は出来ていた。
後方支援なんて彼らには向いていないだろうしな。
「あんなゴーレムには流石に敵わないけど、普通の兵士ぐらいなら戦えますからね。ミシェラは違うようですけど」
「ぼくは時間かければ倒せるんだよー。『とっておき』があるからね」
へへん、と誇らしげに胸を張ったミシェラに、俺は純粋に感心した。二人が言ってるのは多分新しい方のゴーレムだろう。俺が多少手こずった相手とはいえ、時間をかければ倒せると豪語したミシェラの成長は目覚ましいものがあるだろう。
「流石ミシェラ。G級だっただけはあるな」
「えへへ、そうでしょ?」
これであのどこかズレた感性が無くなっていれば言う事はないのだけれど……それは少し難しそうだな。
「ミシェラは相変わらずだけれど、レグルは大分変わったな。昔はそんな敬語を話して畏るような男じゃなかったと思うが」
「俺だって少しは成長してますよ。訓練学校と違って、軍隊ってのは上下関係に厳しいですから。その上位に位置する銀狼騎士団で功績めざましい上、あの英雄グレリアの生まれ変わりって……逆に今までの自分が恐れ多いくらいです」
「レグルくんってば、定期的に教育されたから、身に染みてるんだねぇ……」
「お前は逆にやり返されて諦められた側だもんな!」
なんというか、ミシェラらしいエピソードだな。微笑ましいような気がする。
「それより……グレリアさんは相変わらずみたいですね」
「凄い噂ばかり聞いてたから、ぼくらの知ってるおにいちゃんじゃなかったらどうしようって思っちゃったよ!」
気軽にぺたぺたと触ってくるミシェラは心底嬉しそうに笑っていて、こっちもついつい笑顔になってしまう。これが戦闘中でも変わらないんだから恐ろしくもあるけれどな。
「あ、そうだ。おにいちゃんに伝えなきゃいけないことがあったんだ」
「俺に?」
「うん!」
ミシェラとレグルが……ということは、俺と二人の関係を知ってる者からの伝言って訳か。そうじゃなきゃ、わざわざこの二人を選ぶ必要ないしな。
「ミルティナ女王様がお呼びということですよ。なんでも、貴方に渡したいものがあるのだとか」
「……ミルティナ女王が?」
渡したいもの……というのは一体なんだろうか? というより、女王がこの最前線に近い町にいるという事実に驚いた。普通、一番奥の安全な場所でどっしり腰を落ち着かせているのが最高権力者というものじゃないだろうか?
「うん。正確にはミルティナ女王様の使いの魔人……だけどね」
「あ、こら。言ったら駄目だろうが。ミルティナ女王様だって『そう言ったら急いでくるからって』」
「……レグルくん、全部言ったら駄目だよ」
ミシェラが呆れた声でため息を吐いていたけど、どっちもどっちだ。あの方もあんまりだけどな。
「……わかった。とりあえずその使いの魔人に会いに行けば良いんだな?」
「うん! ほら、こっちだから一緒に行こう?」
身体ごと手にまとわりついて引っ張ってくるミシェラ。もしこれが女の子だったら……と一瞬思ったが、すぐにエセルカの顔が頭の中に思い浮かんで、考えるのをやめることにした。そういうことを考えたら申し訳ないというか……複雑な気分にさせられるからだ。
「どうしました?」
「いや……それより、行くから引っ張るのはやめてくれないか?」
「えー」
「ミシェラ、グレリアさんを困らせるな」
咎めるような視線を送るレグルに、諦めたように肩を落としながら離れていくミシェラを眺めながら、懐かしさを感じていた。
なんだかんだ言って彼らの事は気になっていたからな。元気な姿を……いや、俺の事を恐れていなかった。それがなにより嬉しかった。
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