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第十八節・嵌められた者たち セイル編
第315幕 一時の休息
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ジパーニグのクリムホルン王を倒した俺は、しばらくの間意識を失っていたようで、目を覚ました時には既に王が崩御した事実が地下都市全体に広まっていた。
誰が殺した――なんて俺に直接繋がるような事は公表されなかったけど、地下で戦った軍官たちは俺たちのことを探しているだろう。
地上でも今は混乱が起きている程度かも知れない。だけど、時間が掛かれば脱出が困難になるかも知れないと結論を出した俺は、スパルナと一緒に素早く脱出を図った。
幸い大騒ぎになる直前と言った感じだったので、上手く地上に戻ってくる事が出来た……が、流石に身体が万全じゃなかったのか、都を離れてすぐのところで力が抜けて立てなくなってしまった。
その後はスパルナが鳥になって、出来るだけ遠くの町に行って、しばらくの間身体を休めることにした。
次もジパーニグと同じように苦戦するかも知れない。そう思ったら無理に根を詰めることはないと判断したという訳だ。
「お兄ちゃん、これからはどこに行くの?」
ジパーニグでやれる事は大体終わった。スパルナもそう思ったから次の行き先を聞いてきたのだろう。
「次は……イギランスに行こうと思う。ジパーニグの二つ先。ナッチャイスと隣国だな」
「そのナッチャイスの方には行かないの?」
これについては俺も大分悩んだ。順当に行けばナッチャイスに乗り込むのが筋なのだろうけど、あそこに因縁なんて特にないし、むしろ勇者会合があったイギランスに行った方が良いと思ったのだ。
……ルーシーと出会う可能性も高いだろうけど、二つのどちらかにラグズエルがいる……そんな気がした。
「あそこは兄貴たちに任せよう。俺たちはただ、攻めるのみって事だ」
「……大丈夫かなぁ」
「そんなに心配するな。俺たちも……兄貴も、十分強い。今は信じよう」
「うん、そう、だね」
どこか歯切れの悪い返事なのは、それでもどこか胸に残るものがあるからだろうけど……こればっかりは気にしても仕方ない。
「スパルナ。それよりもホットケーキ食べるか?」
「うん! でもお兄ちゃん、材料は?」
「前に買った分が残ってる。お前に作ってやる分くらいはあるさ」
「でもそれじゃ、お兄ちゃんの分が……」
「お前が美味しく食べてくれればそれでいいよ」
頭にぽんぽん、と手を置いて撫でてやると、スパルナは嬉しそうに微笑んでいた。全く、こういう事で喜んでくれるんだからな。なら、せめてこれくらいしてやらないとな。
――
ゆっくりと休んでいる時間。俺たちは情報を集めながら現状を把握する事に努めることにした。
どうやら今ジパーニグには兄貴とシエラが来ていて、色々と問題が起きてるようだった。アリッカルから使者として来ていたと聞いているから、多分、中央を抑えたのだろう。アリッカル側は今でもごたごたが続いてるらしいし、王都を抑えてここまで……ってことはあまり時間が経過してないはずなのにここにいるってことになる。もしかして、兄貴たちも大分急いでるってことなのかも。
グランセストの情報はこっちには全く入ってこないんだもんな。ただ、アリッカルは今内乱状態で、下手に近寄らない方が良いとは聞いた。ジパーニグの方も大騒ぎしてるところも多いし、まだまだ混乱は続くだろう。月……いや、年単位で取り組まないと纏まらないだろうなぁ……なんて考えながら、適当な店でパンを齧っていると、スパルナが不思議そうに話しかけてきた。
「なんで、人って幸せになりたがらないんだろ?」
「急にどうしたんだ」
スパルナの顔は純粋に疑問に思った顔をしていて、スープを飲みながら上目遣いをしていた。
「だって、痛いのも苦しいのも、本当はしたくないはずだよ? でも、みんなしてる。なんでなんだろう?」
「……さあてな。案外、それが幸せになれる近道だって信じてるのかも」
魔人がいなくなれば、人は脅威を感じずに幸せに暮らしていける。昔はそう考えていた。
でも、本当の幸せって何なんだろう? 考えることを避けていたけど、改めて考えると頭が痛くなってくる。
「こうして美味しいもの食べてるだけで幸せなのにね」
そんな風に笑って飯を食べてるスパルナのお手軽さが少し羨ましい。俺ももう少し……昔のように一直線に考えられたら良かったんだけど、大人になるってのは案外難しいものだな。
……だけど、そんな疑問を口にしているスパルナも多くの人を手に掛けている。その事実が残酷なような気がした。この子がそれについて何を思ってるのかは知らないけど、俺を慕ってついてきてるのは確かだ。
「……そうだな」
嬉しそうにしているスパルナを横目に、彼が言っていた事を考える。
痛いのも苦しいのも、誰も望んでいなかったはずだ。だけど……それでも、今戦ってるのはより良い未来の為。なんとも矛盾した考えだけど、それが生きてるってことなのかもしれない。
せめて……スパルナにはその先の未来を見せてあげたい。戦わずに、幸福に暮らせる未来ってやつを。
そのために血に濡れるのが大人の俺の責務なのかもな。
誰が殺した――なんて俺に直接繋がるような事は公表されなかったけど、地下で戦った軍官たちは俺たちのことを探しているだろう。
地上でも今は混乱が起きている程度かも知れない。だけど、時間が掛かれば脱出が困難になるかも知れないと結論を出した俺は、スパルナと一緒に素早く脱出を図った。
幸い大騒ぎになる直前と言った感じだったので、上手く地上に戻ってくる事が出来た……が、流石に身体が万全じゃなかったのか、都を離れてすぐのところで力が抜けて立てなくなってしまった。
その後はスパルナが鳥になって、出来るだけ遠くの町に行って、しばらくの間身体を休めることにした。
次もジパーニグと同じように苦戦するかも知れない。そう思ったら無理に根を詰めることはないと判断したという訳だ。
「お兄ちゃん、これからはどこに行くの?」
ジパーニグでやれる事は大体終わった。スパルナもそう思ったから次の行き先を聞いてきたのだろう。
「次は……イギランスに行こうと思う。ジパーニグの二つ先。ナッチャイスと隣国だな」
「そのナッチャイスの方には行かないの?」
これについては俺も大分悩んだ。順当に行けばナッチャイスに乗り込むのが筋なのだろうけど、あそこに因縁なんて特にないし、むしろ勇者会合があったイギランスに行った方が良いと思ったのだ。
……ルーシーと出会う可能性も高いだろうけど、二つのどちらかにラグズエルがいる……そんな気がした。
「あそこは兄貴たちに任せよう。俺たちはただ、攻めるのみって事だ」
「……大丈夫かなぁ」
「そんなに心配するな。俺たちも……兄貴も、十分強い。今は信じよう」
「うん、そう、だね」
どこか歯切れの悪い返事なのは、それでもどこか胸に残るものがあるからだろうけど……こればっかりは気にしても仕方ない。
「スパルナ。それよりもホットケーキ食べるか?」
「うん! でもお兄ちゃん、材料は?」
「前に買った分が残ってる。お前に作ってやる分くらいはあるさ」
「でもそれじゃ、お兄ちゃんの分が……」
「お前が美味しく食べてくれればそれでいいよ」
頭にぽんぽん、と手を置いて撫でてやると、スパルナは嬉しそうに微笑んでいた。全く、こういう事で喜んでくれるんだからな。なら、せめてこれくらいしてやらないとな。
――
ゆっくりと休んでいる時間。俺たちは情報を集めながら現状を把握する事に努めることにした。
どうやら今ジパーニグには兄貴とシエラが来ていて、色々と問題が起きてるようだった。アリッカルから使者として来ていたと聞いているから、多分、中央を抑えたのだろう。アリッカル側は今でもごたごたが続いてるらしいし、王都を抑えてここまで……ってことはあまり時間が経過してないはずなのにここにいるってことになる。もしかして、兄貴たちも大分急いでるってことなのかも。
グランセストの情報はこっちには全く入ってこないんだもんな。ただ、アリッカルは今内乱状態で、下手に近寄らない方が良いとは聞いた。ジパーニグの方も大騒ぎしてるところも多いし、まだまだ混乱は続くだろう。月……いや、年単位で取り組まないと纏まらないだろうなぁ……なんて考えながら、適当な店でパンを齧っていると、スパルナが不思議そうに話しかけてきた。
「なんで、人って幸せになりたがらないんだろ?」
「急にどうしたんだ」
スパルナの顔は純粋に疑問に思った顔をしていて、スープを飲みながら上目遣いをしていた。
「だって、痛いのも苦しいのも、本当はしたくないはずだよ? でも、みんなしてる。なんでなんだろう?」
「……さあてな。案外、それが幸せになれる近道だって信じてるのかも」
魔人がいなくなれば、人は脅威を感じずに幸せに暮らしていける。昔はそう考えていた。
でも、本当の幸せって何なんだろう? 考えることを避けていたけど、改めて考えると頭が痛くなってくる。
「こうして美味しいもの食べてるだけで幸せなのにね」
そんな風に笑って飯を食べてるスパルナのお手軽さが少し羨ましい。俺ももう少し……昔のように一直線に考えられたら良かったんだけど、大人になるってのは案外難しいものだな。
……だけど、そんな疑問を口にしているスパルナも多くの人を手に掛けている。その事実が残酷なような気がした。この子がそれについて何を思ってるのかは知らないけど、俺を慕ってついてきてるのは確かだ。
「……そうだな」
嬉しそうにしているスパルナを横目に、彼が言っていた事を考える。
痛いのも苦しいのも、誰も望んでいなかったはずだ。だけど……それでも、今戦ってるのはより良い未来の為。なんとも矛盾した考えだけど、それが生きてるってことなのかもしれない。
せめて……スパルナにはその先の未来を見せてあげたい。戦わずに、幸福に暮らせる未来ってやつを。
そのために血に濡れるのが大人の俺の責務なのかもな。
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