290 / 415
第十五節・再び相見える二人
第273幕・割れる意見
しおりを挟む
駐留場の中を突き進み、執務室に入ると、そこにはシグゼスが書類整理をしている最中だった。
「シグゼスさん! グレファの奴を連れてきましたよ」
「おお、無事だったか!」
顔を喜びに染めて立ち上がったシグゼスは両腕を広げて俺たちを迎え入れてくれた。
「シグゼスも。無事で良かったよ」
「……グレファ。貴様も随分無茶なことをしたな。あまり咎めはしないが、関心はしないぞ」
「……悪かったよ」
俺が兵士に伝言を頼んだ事について言いたいことはあるようだったが、シグゼスはそれについて追求することはなかった。
仕方ないなと苦笑いを浮かべた彼は、ゆっくりと座って疲れたように一つ息を吐いていた。
「……どうした? 随分と疲れてるみたいだが」
「なんとかここまで来たのはいいが、予想以上に国民の批判が強くてな」
頭を抑えて深い…….本当に深いため息をついた。心の底から疲れた者の表情だ。ここに来た時からわかっていたことだが、心労が絶えないのだろう。
「……あそこのテント張ってる連中が色々言ってきてんのか?」
「その通りだ。様々な不満や怒りの陳情があってな…….。おかげで寝不足の日々だ」
「あいつら……!」
カッシェの言いたいことはなんとなくわかるが、今は怒りを抑えて欲しいものだ。よくよく見たらシグゼスの目の下には多少隈が出来ているようだった。余程疲れているのだろう。
「それで、今残った騎士たちと話し合っている最中というわけだ。二人にも意見を聞かせて欲しい」
「シグゼスさん、あいつらこっちの事なんかわからず不平不満言ってるだけですよ。わざわざ俺たちが聞く必要……」
「それでも、我らは剣として、盾として彼らを守る義務がある。このような事態に陥ったのも、一重に我々に不足しているものが多かったからだ」
シグゼスの言う通りだ。攻撃機の事を知っていれば、もっと被害を抑えられただろう。上手くいけば、ここに逃げ延びる必要もなかったかもしれない。
だが、それがカッシェには弱気になってるように見えたようで、余計に肩を怒らせていた。
「そんなもの、対応しきれるわけがない! 俺たちだってやれる限度がある!」
「落ち着け。それは私もわかっている」
恐らく他の誰かにも似たような事を言われたのだろう。カッシェの言葉にうんざりするような視線をちらっと向けていた。
「…….正直、このままここに全員で留まるのは得策じゃない。不満は大きくなるだろうが、避難場所を複数に分けるべきだと思う」
「なるほど。だが、それは戦力の分散が必須。今この状況では……」
「しかし、シグゼスもわかってるはずだ。このままでは、本来ここに住んでる者にすら危害が及ぶ可能性も出てくる。食糧だって切り詰めても追い付かないだろうし、ここが戦場になったら、防衛は困難だぞ?」
いくら俺でも今の状態から一切の被害を出さずに敵を撃退するなんて出来るわけがない。実際、町を一つ落とされてる訳だからな。
「だからこそ、迷っている。デュロはテントの者たちが耐え切れなければ勝手に出ていくだろうと言っている。ロンドはグレファと似た考えのようだが……」
完全に意見が割れていて、ある程度は考えが通ってる。戦力の事を考えればデュロが。現状の打開を模索するならロンドや俺がある意味最善だ。
前者は暴動が起こる可能性があるし、後者は最悪各個撃破されてしまうかもしれない。
「カッシェはどう考える?」
「俺に聞きます? それ」
あー、と声を上げて後ろ頭を掻きながら悩んでいるようだった。ちらっと俺に救いの視線を向けてきたけど、それじゃあ自分の意見にならないだろ、とため息混じりに頭を振った。
不満そうに俺を睨んでたけど、結局唸りながら自分の力で考える事にしたようだ。
「俺は助けて貰っといて文句を言う奴は、正直嫌いです。ぶっ飛ばしてやりたいくらい。だけど、今のままじゃまずいってことくらい、伝わってきます。ロンドの意見には大賛成だけど……グレファたちの言うように、難民を分けた方がいいと思います」
少し前にテントを歩いてた時にした会話が功を奏したのか、カッシェはこっちよりの考えを示してくれた。彼のことだからロンドと同じ考え方をするだろうと思っていたから、これは本当にありがたい。
「そうか……わかった。ならばロンドには私が上手く伝えておこう。民たちをどう分けるかは早馬で我らが女王陛下にお伺いする。決まり次第行動する事になるだろうから、それまでに民たちの説得を頼むぞ」
「……え?」
カッシェは少しだけ間を置いた後、惚けた声を出していた。シグゼスの方は俺とカッシェに無言の圧力をかけ続けてきたものだから、断りきれず、退路もなかった。
「シ、シグゼスさん、は?」
「私は軍の再編やここに元々いる住民たちに色々と説明せねばならない。町長とも話し合って今後の支援を頼む必要もある。悪いとは思うが、任せたぞ」
……結局、何を言っても無駄だってことだ。進んで嵐に突っ込むような自殺行為にも思うが、こうなったらするしかないだろう。
ため息が止まらない事ばかり続くが、これもあの時兵士に伝言を頼んだ罰なのかも知れない。そう割り切らなければやってられなかった。
「シグゼスさん! グレファの奴を連れてきましたよ」
「おお、無事だったか!」
顔を喜びに染めて立ち上がったシグゼスは両腕を広げて俺たちを迎え入れてくれた。
「シグゼスも。無事で良かったよ」
「……グレファ。貴様も随分無茶なことをしたな。あまり咎めはしないが、関心はしないぞ」
「……悪かったよ」
俺が兵士に伝言を頼んだ事について言いたいことはあるようだったが、シグゼスはそれについて追求することはなかった。
仕方ないなと苦笑いを浮かべた彼は、ゆっくりと座って疲れたように一つ息を吐いていた。
「……どうした? 随分と疲れてるみたいだが」
「なんとかここまで来たのはいいが、予想以上に国民の批判が強くてな」
頭を抑えて深い…….本当に深いため息をついた。心の底から疲れた者の表情だ。ここに来た時からわかっていたことだが、心労が絶えないのだろう。
「……あそこのテント張ってる連中が色々言ってきてんのか?」
「その通りだ。様々な不満や怒りの陳情があってな…….。おかげで寝不足の日々だ」
「あいつら……!」
カッシェの言いたいことはなんとなくわかるが、今は怒りを抑えて欲しいものだ。よくよく見たらシグゼスの目の下には多少隈が出来ているようだった。余程疲れているのだろう。
「それで、今残った騎士たちと話し合っている最中というわけだ。二人にも意見を聞かせて欲しい」
「シグゼスさん、あいつらこっちの事なんかわからず不平不満言ってるだけですよ。わざわざ俺たちが聞く必要……」
「それでも、我らは剣として、盾として彼らを守る義務がある。このような事態に陥ったのも、一重に我々に不足しているものが多かったからだ」
シグゼスの言う通りだ。攻撃機の事を知っていれば、もっと被害を抑えられただろう。上手くいけば、ここに逃げ延びる必要もなかったかもしれない。
だが、それがカッシェには弱気になってるように見えたようで、余計に肩を怒らせていた。
「そんなもの、対応しきれるわけがない! 俺たちだってやれる限度がある!」
「落ち着け。それは私もわかっている」
恐らく他の誰かにも似たような事を言われたのだろう。カッシェの言葉にうんざりするような視線をちらっと向けていた。
「…….正直、このままここに全員で留まるのは得策じゃない。不満は大きくなるだろうが、避難場所を複数に分けるべきだと思う」
「なるほど。だが、それは戦力の分散が必須。今この状況では……」
「しかし、シグゼスもわかってるはずだ。このままでは、本来ここに住んでる者にすら危害が及ぶ可能性も出てくる。食糧だって切り詰めても追い付かないだろうし、ここが戦場になったら、防衛は困難だぞ?」
いくら俺でも今の状態から一切の被害を出さずに敵を撃退するなんて出来るわけがない。実際、町を一つ落とされてる訳だからな。
「だからこそ、迷っている。デュロはテントの者たちが耐え切れなければ勝手に出ていくだろうと言っている。ロンドはグレファと似た考えのようだが……」
完全に意見が割れていて、ある程度は考えが通ってる。戦力の事を考えればデュロが。現状の打開を模索するならロンドや俺がある意味最善だ。
前者は暴動が起こる可能性があるし、後者は最悪各個撃破されてしまうかもしれない。
「カッシェはどう考える?」
「俺に聞きます? それ」
あー、と声を上げて後ろ頭を掻きながら悩んでいるようだった。ちらっと俺に救いの視線を向けてきたけど、それじゃあ自分の意見にならないだろ、とため息混じりに頭を振った。
不満そうに俺を睨んでたけど、結局唸りながら自分の力で考える事にしたようだ。
「俺は助けて貰っといて文句を言う奴は、正直嫌いです。ぶっ飛ばしてやりたいくらい。だけど、今のままじゃまずいってことくらい、伝わってきます。ロンドの意見には大賛成だけど……グレファたちの言うように、難民を分けた方がいいと思います」
少し前にテントを歩いてた時にした会話が功を奏したのか、カッシェはこっちよりの考えを示してくれた。彼のことだからロンドと同じ考え方をするだろうと思っていたから、これは本当にありがたい。
「そうか……わかった。ならばロンドには私が上手く伝えておこう。民たちをどう分けるかは早馬で我らが女王陛下にお伺いする。決まり次第行動する事になるだろうから、それまでに民たちの説得を頼むぞ」
「……え?」
カッシェは少しだけ間を置いた後、惚けた声を出していた。シグゼスの方は俺とカッシェに無言の圧力をかけ続けてきたものだから、断りきれず、退路もなかった。
「シ、シグゼスさん、は?」
「私は軍の再編やここに元々いる住民たちに色々と説明せねばならない。町長とも話し合って今後の支援を頼む必要もある。悪いとは思うが、任せたぞ」
……結局、何を言っても無駄だってことだ。進んで嵐に突っ込むような自殺行為にも思うが、こうなったらするしかないだろう。
ため息が止まらない事ばかり続くが、これもあの時兵士に伝言を頼んだ罰なのかも知れない。そう割り切らなければやってられなかった。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる