283 / 415
第十五節・再び相見える二人
第266幕 空から現れたもの
しおりを挟む
司はなんとか俺から逃れようと後退りながら睨みつけている。その目はまだ何か策を持っているかのように見える。
「まさか、はぁ、はぁ……俺が追い詰められるとはな」
「お前がべらべらと喋ってくれたおかげだ」
痛いのか、顔を歪めながら睨みつけて来るその目を嘲りながら最後の一撃を見舞う為、剣を振り上げ――
「はっ! 何か忘れてねぇか?」
「命乞いならしても無駄だぞ」
「馬鹿が。俺が死んだら、またここを爆撃されるんだぞ? それでもいいのかよ!?」
――僅かな時間、その意味を今一度よく考え……そのまま何も言わずに司の左胸に深々と剣を突き刺した。
「あ、が? グ、レリ、ア……きさ、ま……」
ほんの少しの間、驚愕に染まり、すぐさま怒りの視線が俺を射殺そうするかのように突き刺さる。そんなものを気にすることもなく、『鋭』の魔方陣を剣に展開させて、半ば乱暴に司の首を狩った。なんの抵抗もなく、すんなりと斬れたソレは、無造作に転がる。そのまま無感情に『神』『炎』の魔方陣を展開してこれ以上、この男を野放しにしておくのは得策ではない。あまり見苦しいものを見たくなかったから骨すら残さず焼き払ってしまった。
「……どっちにしろ爆撃するんだろう。今更そういう問答をするつもりはない」
この男の考えてることくらいわかっているつもりだ。自分が助かりたいとか、そういう気で言ったんじゃない。どうせ死ぬなら、俺も道連れにしてやろうという魂胆だったのだろう。
わざわざ乗っかる必要なんてない。俺は司が完全にこの世から消え去ったのを確認した後、カッシェのところに駆け寄る。
「グ、レファ……あいつ、は……?」
「死んだ。お前のおかげだ」
カッシェが俺の後押しをしてくれたから迅速な行動を取ることが出来た。あれがなかったらもう少し司を始末する時間が必要だっただろう。
もしかしたらカッシェを失うことになっていたかもしれない。そう考えたら彼の勇気がこの結果を導き出したと言えるだろう。
「はっ……はは。よく、やった……」
「カッシェ、あまり喋るな。命に別状はないとしても、お前のその怪我は決して軽いものじゃない」
「ふっ……いや、もうダメ、だ。空からアレが、降って……きたら――」
「大丈夫だ。俺がなんとかしてやる。お前をここで死なせたりはしない」
この勇気ある青年を、俺は心底救いたいと思った。勇者なんて着飾った言葉で誤魔化された司なんかよりもずっと……彼は必要な男だ。だから力強く俺はカッシェに言い聞かせた。お前は安心していろ、と。
「ははっ、お前……いい、男、だよなぁ。ほんっと……」
安らかに微笑んだカッシェは、そのままゆっくりと意識を手放した。流石にこのままにしている訳にはいかないから、軽く血を止めてからどこかの家まで連れて行った。鎧を脱がせるのに多少手間取ったが、どうにかベッドに寝かせてやった。どうせ誰もいないんだし、なにか言われたら後で謝ればいい。
――
あらかたやることが終わり、俺の方も少し休息を取っていると……空の方で変な音が聞こえてきた気がして見上げてみると、なにかが上空を飛んでいるようだった。鳥のような、違うような……太陽のせいで黒い何かにしか見えなかった。
「……あれが爆撃ってやつをしてくるのか……?」
本当にそうなのかはわからない……が、あの黒い箱も変な音がしていた。遠くを飛んでいるから辛うじて聞こえる程度だが、ここで聞き間違いだと思わないほうが良い。大方、司が帰らないから襲撃してきたんだろう。
仮に間違いだったらそれも仕方ない。今は障害を排除するほうが先決だ。そう判断した俺は、すぐさま魔方陣を展開する。『神』『焔』では撃ち落とすのが難しそうだから、『神』『雷』の方を選んだ。
広範囲を一斉に攻撃すべく、大掛かりな魔方陣を作っていると……空の方が騒がしくなってきた。
「なんだ……?」
遠くの出来事だからあまり鮮明には見えないのだが、どうやら変な鳥と戦っている鳥がいるようだった。
あの変なのよりは小さいが、光によって黒く見えるその姿がそれを鳥だと教えてくれていた。
魔方陣を使っているのか、炎や氷が飛んでいるようにも見える。どうやら誰かが救援に来てくれたようだったが……俺の知ってるところでは空を飛ぶようなのはいなかったはずだ。
いくつもの変な鳥を相手にたった一匹で互角以上に渡り合っている。魔方陣を展開しながら、その行末を見届けていると……二匹くらい撃ち落とされた辺りで変な鳥の方は引き返していってしまった。
戦いが終わった後、しばらくこっちの様子を伺うように回っていたが、ゆっくりとこちらに向かって降下してきた。
徐々に姿が顕になっていって……それは大きな赤い鳥の姿をしていた。
「兄貴ー!」
「……ん?」
その呼び方には聞き覚えがある……が、鳥に兄貴と呼ばれるとは思わなかった。なんで鳥が俺の事を知ってるんだ? とよくよく見ていると、鳥に誰か乗っているように見えた。
あれは……もしかしてセイルか? なんであいつがこんなところにいるんだろうか。
ぶんぶんと片手を振って喜んでいる彼の姿がなんだか微笑ましくて、俺の方も苦笑いを浮かべながら手を振り返してやった。
「まさか、はぁ、はぁ……俺が追い詰められるとはな」
「お前がべらべらと喋ってくれたおかげだ」
痛いのか、顔を歪めながら睨みつけて来るその目を嘲りながら最後の一撃を見舞う為、剣を振り上げ――
「はっ! 何か忘れてねぇか?」
「命乞いならしても無駄だぞ」
「馬鹿が。俺が死んだら、またここを爆撃されるんだぞ? それでもいいのかよ!?」
――僅かな時間、その意味を今一度よく考え……そのまま何も言わずに司の左胸に深々と剣を突き刺した。
「あ、が? グ、レリ、ア……きさ、ま……」
ほんの少しの間、驚愕に染まり、すぐさま怒りの視線が俺を射殺そうするかのように突き刺さる。そんなものを気にすることもなく、『鋭』の魔方陣を剣に展開させて、半ば乱暴に司の首を狩った。なんの抵抗もなく、すんなりと斬れたソレは、無造作に転がる。そのまま無感情に『神』『炎』の魔方陣を展開してこれ以上、この男を野放しにしておくのは得策ではない。あまり見苦しいものを見たくなかったから骨すら残さず焼き払ってしまった。
「……どっちにしろ爆撃するんだろう。今更そういう問答をするつもりはない」
この男の考えてることくらいわかっているつもりだ。自分が助かりたいとか、そういう気で言ったんじゃない。どうせ死ぬなら、俺も道連れにしてやろうという魂胆だったのだろう。
わざわざ乗っかる必要なんてない。俺は司が完全にこの世から消え去ったのを確認した後、カッシェのところに駆け寄る。
「グ、レファ……あいつ、は……?」
「死んだ。お前のおかげだ」
カッシェが俺の後押しをしてくれたから迅速な行動を取ることが出来た。あれがなかったらもう少し司を始末する時間が必要だっただろう。
もしかしたらカッシェを失うことになっていたかもしれない。そう考えたら彼の勇気がこの結果を導き出したと言えるだろう。
「はっ……はは。よく、やった……」
「カッシェ、あまり喋るな。命に別状はないとしても、お前のその怪我は決して軽いものじゃない」
「ふっ……いや、もうダメ、だ。空からアレが、降って……きたら――」
「大丈夫だ。俺がなんとかしてやる。お前をここで死なせたりはしない」
この勇気ある青年を、俺は心底救いたいと思った。勇者なんて着飾った言葉で誤魔化された司なんかよりもずっと……彼は必要な男だ。だから力強く俺はカッシェに言い聞かせた。お前は安心していろ、と。
「ははっ、お前……いい、男、だよなぁ。ほんっと……」
安らかに微笑んだカッシェは、そのままゆっくりと意識を手放した。流石にこのままにしている訳にはいかないから、軽く血を止めてからどこかの家まで連れて行った。鎧を脱がせるのに多少手間取ったが、どうにかベッドに寝かせてやった。どうせ誰もいないんだし、なにか言われたら後で謝ればいい。
――
あらかたやることが終わり、俺の方も少し休息を取っていると……空の方で変な音が聞こえてきた気がして見上げてみると、なにかが上空を飛んでいるようだった。鳥のような、違うような……太陽のせいで黒い何かにしか見えなかった。
「……あれが爆撃ってやつをしてくるのか……?」
本当にそうなのかはわからない……が、あの黒い箱も変な音がしていた。遠くを飛んでいるから辛うじて聞こえる程度だが、ここで聞き間違いだと思わないほうが良い。大方、司が帰らないから襲撃してきたんだろう。
仮に間違いだったらそれも仕方ない。今は障害を排除するほうが先決だ。そう判断した俺は、すぐさま魔方陣を展開する。『神』『焔』では撃ち落とすのが難しそうだから、『神』『雷』の方を選んだ。
広範囲を一斉に攻撃すべく、大掛かりな魔方陣を作っていると……空の方が騒がしくなってきた。
「なんだ……?」
遠くの出来事だからあまり鮮明には見えないのだが、どうやら変な鳥と戦っている鳥がいるようだった。
あの変なのよりは小さいが、光によって黒く見えるその姿がそれを鳥だと教えてくれていた。
魔方陣を使っているのか、炎や氷が飛んでいるようにも見える。どうやら誰かが救援に来てくれたようだったが……俺の知ってるところでは空を飛ぶようなのはいなかったはずだ。
いくつもの変な鳥を相手にたった一匹で互角以上に渡り合っている。魔方陣を展開しながら、その行末を見届けていると……二匹くらい撃ち落とされた辺りで変な鳥の方は引き返していってしまった。
戦いが終わった後、しばらくこっちの様子を伺うように回っていたが、ゆっくりとこちらに向かって降下してきた。
徐々に姿が顕になっていって……それは大きな赤い鳥の姿をしていた。
「兄貴ー!」
「……ん?」
その呼び方には聞き覚えがある……が、鳥に兄貴と呼ばれるとは思わなかった。なんで鳥が俺の事を知ってるんだ? とよくよく見ていると、鳥に誰か乗っているように見えた。
あれは……もしかしてセイルか? なんであいつがこんなところにいるんだろうか。
ぶんぶんと片手を振って喜んでいる彼の姿がなんだか微笑ましくて、俺の方も苦笑いを浮かべながら手を振り返してやった。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる