280 / 415
第十五節・再び相見える二人
第263幕 不意を突かれた者たち
しおりを挟む
休憩がてら、しばらく箱の様子を見ていたけど、動く気配が全くない。
『索敵』の精度を上げると、残っているのはこの箱自体が帯びているであろう大きな魔力一つだけで、固まって乗っていた三つの魔力の反応はなかった。
一体どうやって動かしてるのだろうか? そんな好奇心が少し湧いてくる。多分この箱のどこかに馬車のように乗り込める場所があるのだろう。これがゴーレムのように魔力で動かすのであれば、わざわざ誰かが入る必要もないし、兵士たちは外でお供としてついて回ればいい。
それを三人も使って動かしてるんだ。相当大掛かりに違いない。
興味は尽きないがこれ以上ここにいるのも不味い。一応兵士に伝達してはいるけど、あまり離れすぎて心配掛けるのも良くはないだろう。
――ドォォォォッッン!!
いきなり遠くから大きな音が響いて、思わず魔方陣を展開する。しかし『索敵』『地図』の起動式で魔方陣を発動させても何の反応もない。魔力の反応も、ここにある戦車だけだ。
……心当たりがあるとしたら、『妨害』か『隠蔽』のどちらかだ。上手く魔力を隠して接近してきたというわけだ。
つまり……こいつらは俺を含めた兵士たちをおびき寄せる為にわざとゆっくりと行軍してきたことになる。それにしても、動きが早すぎる。こういうのは事前に時間や日を決めて、そのとおりに行動するのがセオリーだ。一体どんな手段を使っているのか……? そこも気になるが、今はそれよりも町に戻るほうが先だ。
考えることは後で出来る。そこまで思考がたどり着いた俺は『身体強化』を発動させて一気に町の方へと戻っていった。
――
なるべく早く戻ってきたそこには……火の海があった。周囲は所々地面が抉られていて、建物が吹き飛んだかのように瓦礫の山と化していた。世界に黒煙が立ち込め、赤と黒が光景ばかりが目につく。
「……なんだ? どうなってる?」
「グレファ!」
息を切らせてやってきたカッシェは少し煤で汚れていた。俺の姿を見て多少安堵したように息を吐いた。
呆然としていた俺は、片膝をついて疲れた顔をしているカッシェの方に駆け寄った。
「何があった?」
「て、敵だ。上から何かが降ってきて……それが地面に触れると、全部吹っ飛んで……!」
「落ち着け!」
少し冷静さを失ったカッシェを叱りつけるように声を張り上げると、彼はビクッと一際大きく震え、まじまじと俺の顔を見てきた。
未知への恐怖。現状についていけてない困惑。様々な負の色が、カッシェの目から読み取れる。それでもこれだけで済んでいるのだから騎士として訓練の賜物と言えるだろう。
「わ、悪い」
「それで、どうなった? 戦況は!?」
「ま、まだ戦闘中だ。今は止んでいるが、いつまた攻撃してくるかわかったものじゃない。後……」
言いづらそうに顔を伏せたカッシェの仕草で騎士の誰かが死んでしまったことを察してしまった。戦闘をしているということは、辛うじて軍は機能しているということだろう。ということはシグゼスはまだ生きているはずだ。
「残ってる騎士は俺とお前と……シグゼスさんだけだ。それだけじゃない。ここに住んでいただけの魔人も大勢。敵の目標が民家から離れていたおかげで難を逃れた奴も多い。今は町から避難中なんだけど、このままじゃ……」
「わかった。カッシェはシグゼスの指示を仰いでくれ」
「……お前はどうする?」
「俺は……ここに残って敵を迎え撃つ」
「その必要はないぜぇ」
俺とカッシェの会話に割り込むように聞いたことのある声が響いた。その方向へと顔を向けると、そこにいたのは……司だった。
「久しぶりだな。グレリアよ。俺の事、覚えてるか?」
「司……」
「ははっ! 覚えてくれて嬉しいぜ!」
腹を抱えて笑うその様は、こんな血と煙の世界では酷く歪んで見えた。というか、奴が俺の事を『グレリア』と呼んだせいでカッシェは目を見開いて俺の事を見ている。またこいつは……頭を悩ませることをしてくれやがって、と内心で軽く文句を言っておく。口に出しても、喜ぶだけだろうからな。
「必要はないってのはどういう事だ」
「はっ、知りたいのか? なあ?」
しばらく見ない間に随分と鬱陶しい成長を遂げてくれたものだ。大げさに両腕を広げている姿なんて本当に酷い。
俺の顔は知らずと嫌な物を見るような表情を浮かべていたようで、期待通りの反応をしてくれたと言わんばかりの満足げな顔をしているところなど、更に苛立たせてくれる。
「……いい加減、言ったらどうだ?」
「はっはっはっ、もう少し楽しませてくれよ。久しぶりの再会じゃあないか。……ま、いいか。教えてやるよ。俺がここにいるからさ」
「何の冗談だ?」
この男がここにいるから攻撃が止んだ、なんて頭がおかしくなったのか? とも思ったが、そう言えばこの男は人の国の勇者だったな……と思い出した。言動や行動が全く合ってないけどな。
「今は別の場所に待機してるってわけだ。俺の指示か……魔力反応が途切れたらまた爆撃を再開する手はずになっている。わかるか? お前と戦う為に、わざわざ手配してやったんだよ」
ありがたく思えと恩着せがましい事を言ってるが、たかだかそれだけの為に戦いを中断しているとは思えない。仕方ない。この男の言葉一つで再びこのような事になるというのなら、今は受けてやるしかないだろう。それで状況が好転するとは思えないが、何の力も持たない町民を巻き添えにすることだけはしてはいけない。避難が済むまで存分にやってやるさ。
『索敵』の精度を上げると、残っているのはこの箱自体が帯びているであろう大きな魔力一つだけで、固まって乗っていた三つの魔力の反応はなかった。
一体どうやって動かしてるのだろうか? そんな好奇心が少し湧いてくる。多分この箱のどこかに馬車のように乗り込める場所があるのだろう。これがゴーレムのように魔力で動かすのであれば、わざわざ誰かが入る必要もないし、兵士たちは外でお供としてついて回ればいい。
それを三人も使って動かしてるんだ。相当大掛かりに違いない。
興味は尽きないがこれ以上ここにいるのも不味い。一応兵士に伝達してはいるけど、あまり離れすぎて心配掛けるのも良くはないだろう。
――ドォォォォッッン!!
いきなり遠くから大きな音が響いて、思わず魔方陣を展開する。しかし『索敵』『地図』の起動式で魔方陣を発動させても何の反応もない。魔力の反応も、ここにある戦車だけだ。
……心当たりがあるとしたら、『妨害』か『隠蔽』のどちらかだ。上手く魔力を隠して接近してきたというわけだ。
つまり……こいつらは俺を含めた兵士たちをおびき寄せる為にわざとゆっくりと行軍してきたことになる。それにしても、動きが早すぎる。こういうのは事前に時間や日を決めて、そのとおりに行動するのがセオリーだ。一体どんな手段を使っているのか……? そこも気になるが、今はそれよりも町に戻るほうが先だ。
考えることは後で出来る。そこまで思考がたどり着いた俺は『身体強化』を発動させて一気に町の方へと戻っていった。
――
なるべく早く戻ってきたそこには……火の海があった。周囲は所々地面が抉られていて、建物が吹き飛んだかのように瓦礫の山と化していた。世界に黒煙が立ち込め、赤と黒が光景ばかりが目につく。
「……なんだ? どうなってる?」
「グレファ!」
息を切らせてやってきたカッシェは少し煤で汚れていた。俺の姿を見て多少安堵したように息を吐いた。
呆然としていた俺は、片膝をついて疲れた顔をしているカッシェの方に駆け寄った。
「何があった?」
「て、敵だ。上から何かが降ってきて……それが地面に触れると、全部吹っ飛んで……!」
「落ち着け!」
少し冷静さを失ったカッシェを叱りつけるように声を張り上げると、彼はビクッと一際大きく震え、まじまじと俺の顔を見てきた。
未知への恐怖。現状についていけてない困惑。様々な負の色が、カッシェの目から読み取れる。それでもこれだけで済んでいるのだから騎士として訓練の賜物と言えるだろう。
「わ、悪い」
「それで、どうなった? 戦況は!?」
「ま、まだ戦闘中だ。今は止んでいるが、いつまた攻撃してくるかわかったものじゃない。後……」
言いづらそうに顔を伏せたカッシェの仕草で騎士の誰かが死んでしまったことを察してしまった。戦闘をしているということは、辛うじて軍は機能しているということだろう。ということはシグゼスはまだ生きているはずだ。
「残ってる騎士は俺とお前と……シグゼスさんだけだ。それだけじゃない。ここに住んでいただけの魔人も大勢。敵の目標が民家から離れていたおかげで難を逃れた奴も多い。今は町から避難中なんだけど、このままじゃ……」
「わかった。カッシェはシグゼスの指示を仰いでくれ」
「……お前はどうする?」
「俺は……ここに残って敵を迎え撃つ」
「その必要はないぜぇ」
俺とカッシェの会話に割り込むように聞いたことのある声が響いた。その方向へと顔を向けると、そこにいたのは……司だった。
「久しぶりだな。グレリアよ。俺の事、覚えてるか?」
「司……」
「ははっ! 覚えてくれて嬉しいぜ!」
腹を抱えて笑うその様は、こんな血と煙の世界では酷く歪んで見えた。というか、奴が俺の事を『グレリア』と呼んだせいでカッシェは目を見開いて俺の事を見ている。またこいつは……頭を悩ませることをしてくれやがって、と内心で軽く文句を言っておく。口に出しても、喜ぶだけだろうからな。
「必要はないってのはどういう事だ」
「はっ、知りたいのか? なあ?」
しばらく見ない間に随分と鬱陶しい成長を遂げてくれたものだ。大げさに両腕を広げている姿なんて本当に酷い。
俺の顔は知らずと嫌な物を見るような表情を浮かべていたようで、期待通りの反応をしてくれたと言わんばかりの満足げな顔をしているところなど、更に苛立たせてくれる。
「……いい加減、言ったらどうだ?」
「はっはっはっ、もう少し楽しませてくれよ。久しぶりの再会じゃあないか。……ま、いいか。教えてやるよ。俺がここにいるからさ」
「何の冗談だ?」
この男がここにいるから攻撃が止んだ、なんて頭がおかしくなったのか? とも思ったが、そう言えばこの男は人の国の勇者だったな……と思い出した。言動や行動が全く合ってないけどな。
「今は別の場所に待機してるってわけだ。俺の指示か……魔力反応が途切れたらまた爆撃を再開する手はずになっている。わかるか? お前と戦う為に、わざわざ手配してやったんだよ」
ありがたく思えと恩着せがましい事を言ってるが、たかだかそれだけの為に戦いを中断しているとは思えない。仕方ない。この男の言葉一つで再びこのような事になるというのなら、今は受けてやるしかないだろう。それで状況が好転するとは思えないが、何の力も持たない町民を巻き添えにすることだけはしてはいけない。避難が済むまで存分にやってやるさ。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる