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第十五節・再び相見える二人
第261幕 絶えない人形
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あの宴会の席からどれだけ時間が経っただろうか?
初めてゴーレムと一戦を交えた事を皮切りに頻繁にそれらは侵略を繰り返していた。
朝早くやってきたり、夜遅くに現れたり……絶えずこちらにプレッシャーを与え続けてくる。向こう側は数人の兵士に数多くのゴーレムという編成でこちらに侵攻してくるものだから、その勢いは衰える事を知らない。
徐々に後退していった俺たちは、いよいよ拠点にしている町を防衛することで精一杯になった……そんなある日のことだった。
――
連日の侵攻で兵士たちはすっかり参ってしまった。幸い、ゴーレムは自身へ向いた魔力は吸収するが、それ以外は防ぐ事が出来ない。穴を作って落とすようになったのは初めてゴーレムが現れてから三日後の夜だった。
それからというもの、敵兵を俺や他の騎士が抑えている間にゴーレムを無力化するという方法が取られたのだけど……それでも向こうは昼夜問わず攻めてきては散発的に攻撃を繰り返して撤退をしている。人的被害がないせいか、完全にやりたい放題やっている。
町には壁もなく、防衛する為に少し離れた場所に四方にテントを張って駐留しているのも原因の一つだろう。ただでさえ少ない兵力を分散するのは得策ではないのだが、相手はどこから侵攻してきても良い上にこっちは対応する為に戦力を分散させるという負のスパイラルに陥ってしまっている。
それを打開しようと、一度俺だけ離れて彼らの拠点を叩いたのだが、向こうも複数中継用の拠点を設けているようで、一つ二つ潰したところでなんの効果もなかった。
もっと遠くにある場所を潰しに行かなければと単独行動を提案したのだが、シグゼスはそれに対して否定的だった。
彼が言うには、そうやって俺をここから遠ざけて隔離する為なのかも知れないという事だった。
しかし、そうやって足止めしている可能性だって十分考えられると進言すると、どうにも渋った顔をしてしまった。
結局女王からの援軍が届くまでの間は現状維持という事になった。幸い、こちらも人的被害はほとんどない。強いて言えば精神的疲れで倒れた者が出始めたくらいだ。
そんな中、俺は……少し鬱憤が溜まっていた。一人だったらもっと迅速に処理できたはずだと。シグゼスは俺を頼る事があっても、頼りきりになる事はない。他の兵士たちと同じようにローテーションを組み、なるべく体を休め、ゴーレムとの戦いも決して無茶をさせない。拠点潰しだって相当否定的だった。
騎士として、彼はかなり出来た男なのだろう。だが……それではこの戦い、決して勝てはしないだろう。あれだけの力を見せた俺を持て余している彼では。
それでもここでは彼が指揮官だ。上官の命令に逆らえるほど、この国は緩くない。女王を守護する騎士であるからこそ、上下関係ははっきりさせなければならない。
下の者にも示しがつかないし、一度これを破れば、他の兵士も命令を聞かなくなる恐れがある。
だからこそ、進言はするが、反対されれば大人しく引き下がった。自分の中に嫌な気持ちが溜まっていくのを感じても、だ。
そして――徐々に疲弊していく中、『索敵』『地図』の起動式で魔方陣を展開して周囲を監視していたある日のこと。この町からかなり離れたところで妙な敵の動きがあった。
普通ならゴーレム数体と兵士が三~四人くらい。多くてもその倍といったところだった。
だけど今回は…….三つの生き物が一つのところに固まって、ゆっくりとこちら向かって進んできているのだ。
反応からして兵士なのには間違いないけど……今までこんな事はなかった。それも十数体くらいあって、馬車で移動している可能性をそれだけで潰している事がわかった。
ぞわっとした悪寒を感じ、なにか嫌な汗が流れるのも、それを助長している。これをシグゼス指揮官に報告した方がいいだろうか?
「……いや、それでは遅いかも知れない。準備を待っていたら不味い事になりそうだ」
一瞬だけ湧き上がった感情を難なく斬り捨て、自分に言い聞かせるように呟いた言葉を噛みしめ、納得していた。
シグゼスならば、これから他の騎士に招集をかけ、一通り魔方陣で検証し、俺の言ってることが正しいとわかった時のみ動く事だろう。
彼は仲間を一人で行かせるような事はほとんどしない。特例を認める事はあるが、この状況ではそれも望めないだろう。かと言って何も知らせないというのも不味い。
さてどうしようかと思っていた時、一人の兵士が通りかかったのを発見して、チャンスだと思った。
「ちょっといいか?」
「……? はい。どうされましたか?」
鎧のない軽装の魔方兵と比べ、彼はしっかり着込んでいる。『索敵』関連の魔方陣の精度はあまり高くないと見てまず間違いないだろう。
「俺の『索敵』に怪しい物が引っかかった。確かめに行くからシグゼスに報告を頼む」
「それは構いませんが……危なくはないですか? 斥候でしたら近くの魔方兵にでも……」
「大丈夫だ。ちょっと気になっただけだし、それであまり大事にはしたくない。危険なことはしないから、俺が長いこと戻らなかった時の事を考えて、だからさ」
「……わかりました」
とりあえず後から適当に言い訳できそうな体裁を取ってから、あまり返事を聞かずにさっさと行くことにした。
奇妙な動き……これが一体何を意味するのか? それを確かめるために。
初めてゴーレムと一戦を交えた事を皮切りに頻繁にそれらは侵略を繰り返していた。
朝早くやってきたり、夜遅くに現れたり……絶えずこちらにプレッシャーを与え続けてくる。向こう側は数人の兵士に数多くのゴーレムという編成でこちらに侵攻してくるものだから、その勢いは衰える事を知らない。
徐々に後退していった俺たちは、いよいよ拠点にしている町を防衛することで精一杯になった……そんなある日のことだった。
――
連日の侵攻で兵士たちはすっかり参ってしまった。幸い、ゴーレムは自身へ向いた魔力は吸収するが、それ以外は防ぐ事が出来ない。穴を作って落とすようになったのは初めてゴーレムが現れてから三日後の夜だった。
それからというもの、敵兵を俺や他の騎士が抑えている間にゴーレムを無力化するという方法が取られたのだけど……それでも向こうは昼夜問わず攻めてきては散発的に攻撃を繰り返して撤退をしている。人的被害がないせいか、完全にやりたい放題やっている。
町には壁もなく、防衛する為に少し離れた場所に四方にテントを張って駐留しているのも原因の一つだろう。ただでさえ少ない兵力を分散するのは得策ではないのだが、相手はどこから侵攻してきても良い上にこっちは対応する為に戦力を分散させるという負のスパイラルに陥ってしまっている。
それを打開しようと、一度俺だけ離れて彼らの拠点を叩いたのだが、向こうも複数中継用の拠点を設けているようで、一つ二つ潰したところでなんの効果もなかった。
もっと遠くにある場所を潰しに行かなければと単独行動を提案したのだが、シグゼスはそれに対して否定的だった。
彼が言うには、そうやって俺をここから遠ざけて隔離する為なのかも知れないという事だった。
しかし、そうやって足止めしている可能性だって十分考えられると進言すると、どうにも渋った顔をしてしまった。
結局女王からの援軍が届くまでの間は現状維持という事になった。幸い、こちらも人的被害はほとんどない。強いて言えば精神的疲れで倒れた者が出始めたくらいだ。
そんな中、俺は……少し鬱憤が溜まっていた。一人だったらもっと迅速に処理できたはずだと。シグゼスは俺を頼る事があっても、頼りきりになる事はない。他の兵士たちと同じようにローテーションを組み、なるべく体を休め、ゴーレムとの戦いも決して無茶をさせない。拠点潰しだって相当否定的だった。
騎士として、彼はかなり出来た男なのだろう。だが……それではこの戦い、決して勝てはしないだろう。あれだけの力を見せた俺を持て余している彼では。
それでもここでは彼が指揮官だ。上官の命令に逆らえるほど、この国は緩くない。女王を守護する騎士であるからこそ、上下関係ははっきりさせなければならない。
下の者にも示しがつかないし、一度これを破れば、他の兵士も命令を聞かなくなる恐れがある。
だからこそ、進言はするが、反対されれば大人しく引き下がった。自分の中に嫌な気持ちが溜まっていくのを感じても、だ。
そして――徐々に疲弊していく中、『索敵』『地図』の起動式で魔方陣を展開して周囲を監視していたある日のこと。この町からかなり離れたところで妙な敵の動きがあった。
普通ならゴーレム数体と兵士が三~四人くらい。多くてもその倍といったところだった。
だけど今回は…….三つの生き物が一つのところに固まって、ゆっくりとこちら向かって進んできているのだ。
反応からして兵士なのには間違いないけど……今までこんな事はなかった。それも十数体くらいあって、馬車で移動している可能性をそれだけで潰している事がわかった。
ぞわっとした悪寒を感じ、なにか嫌な汗が流れるのも、それを助長している。これをシグゼス指揮官に報告した方がいいだろうか?
「……いや、それでは遅いかも知れない。準備を待っていたら不味い事になりそうだ」
一瞬だけ湧き上がった感情を難なく斬り捨て、自分に言い聞かせるように呟いた言葉を噛みしめ、納得していた。
シグゼスならば、これから他の騎士に招集をかけ、一通り魔方陣で検証し、俺の言ってることが正しいとわかった時のみ動く事だろう。
彼は仲間を一人で行かせるような事はほとんどしない。特例を認める事はあるが、この状況ではそれも望めないだろう。かと言って何も知らせないというのも不味い。
さてどうしようかと思っていた時、一人の兵士が通りかかったのを発見して、チャンスだと思った。
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「……わかりました」
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