273 / 415
第十四節 奸計の時・セイル編
第258幕 悲しき再会
しおりを挟む
女王と真剣な話し合いをしてから数日……俺たちは相変わらず彼女が取ってくれていた宿屋で身体を休めていた。
正直、何をすればいいのかわからないというのが本音だ。くずはを押し付けるように預けて数年。今更彼女にどんな顔して会えばいいかわからないし、どうにも部屋から出るのがもどかしい。たまにスパルナが外に連れ出せってせがむから外に出る……そんな日々が続いていた。
束の間の平和。いつ崩れるかわからない崖の上に立っているような感覚。これは実際に戦車を目にした者にしかわからない絶望だろう。
この国の命は吹けば飛ぶようなもので、俺たちはそれをどうにかしたい。だけどどうすれば? そういう問答を繰り返しながら時間は過ぎていった……。
――
「お兄ちゃーん、遊びに行こうよー」
「相変わらず元気良いな。スパルナは」
のんびりとスラヴァグラードで手に入れた本を読んでいるところに、退屈そうな顔をしたスパルナが乱入してきた。
部屋の扉を勢いよく開けて、大きく手を振りながら駆けてくる彼はまるで子犬だ。尻尾があったらぶんぶん振り回していただろう……という考えまでして、頭の中に思い浮かんだのは鳥の状態のスパルナが尾を振ってる姿なのだから笑えてくる。
「? どーしたの?」
「なんでもない。行くぞ」
ぽんぽん、と軽く頭を撫でるように叩いた後、本を閉じて袋の中にしまう。
スラヴァグラードの事は話したけど、そこで手に入れた服や本なんかについては、女王との話し合いの時に一切話題にはしなかった。話せば間違いなく欲しがる…….というか何かしらの口実をつけられて没収されることは目に見えている。まだ読んだことのない本を取られるなんて嫌だし、スパルナのお気に入りの絵本や服まで没収されるのは可哀想だ。
というわけで俺やスパルナ自身が見聞きしたことは全て話しはしたけど、手に入れたものについては黙秘を貫いて、大事なものは大体持ち歩くようにしている。流石に服やかさばる物は置いていってるけどな。
そんなわけで本はまた適当な場所で読むことにして、俺はスパルナに手を引っ張られるように外に出ていった。相変わらず天気がよく、散歩するにはいい感じだ。
スパルナは遊びに行きたいとは言ってたけど、特に行きたい場所はなかったらしく、適当にぶらぶらすることになった。屋台のホットドッグを買ってやると、スパルナは喜んで食べるんだけど、口にトマトソースを付けながら嬉しそうに食べていた。
「ほら、口」
「んっ!」
返事だけは一人前だけど、行動が全く伴ってないところはこの子らしい。しょうがないから食べ終わったのを見計らって拭ってやると、更に嬉しそうにしていた。
……全く、世話が焼けるな。なんて思っていると、不意に視線を感じてそっちの方を向くと……そこにいたのはくずはだった。
「……セイル?」
「く、くずはか?」
久しぶりに会ったくずはは、なんというか成長してより綺麗になってる気がする。昔は軽鎧を付けてる姿ばっかり見ていた気がするけど、今は普通に私服だ。
「……お兄ちゃん? 知ってる女の人?」
「ん、ああ。スパルナ、ちょっと一人で遊んでくれないか?」
「はーい」
「悪い魔人には気をつけろよ」
「うん!」
たったったっと音がしそうなほど元気よく掛けていくスパルナを手を振って見送ると、くずはは複雑そうな顔をしていた。
「それにしても本当に久しぶりだな。元気にしてたか?」
「……うん。セイルも元気そうね」
どこか……というか、ラグズエルとの戦い以降会ってないからすごく気まずい。こういう時、どんな顔をしたらいいのかわからない。
それはくずはも同じようで、なんとも言えない顔をしている。
「……えーっと」
「あたし、今、城の兵士としてここにいるの。と言っても、一人っきりなんだけどね。一応、人の国の勇者だし」
くずはは、どこか寂しそうに現状を語ってくれた。これは多分勇者だと知られないように、そして知られた時の為の対策だろう。そういうところに気を使ってくれてるのはわかるのだけれど、これじゃあくずはが仲間外れにされてるような感じもする。
「そ、そうか。俺はもっと強くなる為に色んな場所を巡ったよ。人の国にも行ったしな」
「……それで、新しい彼女を見つけたの? 随分幼いけど」
ぶすっとした顔でそんな事を言われてしまった。それが一瞬誰の事を言ってるのかさっぱりわからなかった。すぐにスパルナの事だとわかったんだけど、くずははそれで更に不機嫌な顔をしてしまった。
「ああ、今一緒にいたスパルナの事か?」
「へー、スパルナっていうの。可愛い子じゃない」
「あのさ、何を勘違いしてるのか知らないけど……」
「勘違い!? そう、セイルは知らない子にあんな風に出来るってわけ? そりゃあ子どもと大人くらいの差があるけど、エセルカよりは高いし、あり得ないことないわよね?」
ああ、駄目だ。完全にスパルナが俺の恋人かなにかだと思ってる。というかエセルカと比べてやったら結構可哀想な気がするんだけどな。
彼女は俺から見ても小さかったし、くずはの口ぶりからもあんまり成長してないようにしか聞こえない。
正直スパルナは明らかに俺の好みから外れてる……というか彼は男だ。
それを言っても聞き入れる雰囲気じゃないし、さてどうしたものか……。
相当悪いタイミングに出会ってしまったものだと頭を抱えてしまいたくなるけど、それもすることは出来ない。とりあえずなんとかこの場を切り抜けなければならないだろう。
正直、何をすればいいのかわからないというのが本音だ。くずはを押し付けるように預けて数年。今更彼女にどんな顔して会えばいいかわからないし、どうにも部屋から出るのがもどかしい。たまにスパルナが外に連れ出せってせがむから外に出る……そんな日々が続いていた。
束の間の平和。いつ崩れるかわからない崖の上に立っているような感覚。これは実際に戦車を目にした者にしかわからない絶望だろう。
この国の命は吹けば飛ぶようなもので、俺たちはそれをどうにかしたい。だけどどうすれば? そういう問答を繰り返しながら時間は過ぎていった……。
――
「お兄ちゃーん、遊びに行こうよー」
「相変わらず元気良いな。スパルナは」
のんびりとスラヴァグラードで手に入れた本を読んでいるところに、退屈そうな顔をしたスパルナが乱入してきた。
部屋の扉を勢いよく開けて、大きく手を振りながら駆けてくる彼はまるで子犬だ。尻尾があったらぶんぶん振り回していただろう……という考えまでして、頭の中に思い浮かんだのは鳥の状態のスパルナが尾を振ってる姿なのだから笑えてくる。
「? どーしたの?」
「なんでもない。行くぞ」
ぽんぽん、と軽く頭を撫でるように叩いた後、本を閉じて袋の中にしまう。
スラヴァグラードの事は話したけど、そこで手に入れた服や本なんかについては、女王との話し合いの時に一切話題にはしなかった。話せば間違いなく欲しがる…….というか何かしらの口実をつけられて没収されることは目に見えている。まだ読んだことのない本を取られるなんて嫌だし、スパルナのお気に入りの絵本や服まで没収されるのは可哀想だ。
というわけで俺やスパルナ自身が見聞きしたことは全て話しはしたけど、手に入れたものについては黙秘を貫いて、大事なものは大体持ち歩くようにしている。流石に服やかさばる物は置いていってるけどな。
そんなわけで本はまた適当な場所で読むことにして、俺はスパルナに手を引っ張られるように外に出ていった。相変わらず天気がよく、散歩するにはいい感じだ。
スパルナは遊びに行きたいとは言ってたけど、特に行きたい場所はなかったらしく、適当にぶらぶらすることになった。屋台のホットドッグを買ってやると、スパルナは喜んで食べるんだけど、口にトマトソースを付けながら嬉しそうに食べていた。
「ほら、口」
「んっ!」
返事だけは一人前だけど、行動が全く伴ってないところはこの子らしい。しょうがないから食べ終わったのを見計らって拭ってやると、更に嬉しそうにしていた。
……全く、世話が焼けるな。なんて思っていると、不意に視線を感じてそっちの方を向くと……そこにいたのはくずはだった。
「……セイル?」
「く、くずはか?」
久しぶりに会ったくずはは、なんというか成長してより綺麗になってる気がする。昔は軽鎧を付けてる姿ばっかり見ていた気がするけど、今は普通に私服だ。
「……お兄ちゃん? 知ってる女の人?」
「ん、ああ。スパルナ、ちょっと一人で遊んでくれないか?」
「はーい」
「悪い魔人には気をつけろよ」
「うん!」
たったったっと音がしそうなほど元気よく掛けていくスパルナを手を振って見送ると、くずはは複雑そうな顔をしていた。
「それにしても本当に久しぶりだな。元気にしてたか?」
「……うん。セイルも元気そうね」
どこか……というか、ラグズエルとの戦い以降会ってないからすごく気まずい。こういう時、どんな顔をしたらいいのかわからない。
それはくずはも同じようで、なんとも言えない顔をしている。
「……えーっと」
「あたし、今、城の兵士としてここにいるの。と言っても、一人っきりなんだけどね。一応、人の国の勇者だし」
くずはは、どこか寂しそうに現状を語ってくれた。これは多分勇者だと知られないように、そして知られた時の為の対策だろう。そういうところに気を使ってくれてるのはわかるのだけれど、これじゃあくずはが仲間外れにされてるような感じもする。
「そ、そうか。俺はもっと強くなる為に色んな場所を巡ったよ。人の国にも行ったしな」
「……それで、新しい彼女を見つけたの? 随分幼いけど」
ぶすっとした顔でそんな事を言われてしまった。それが一瞬誰の事を言ってるのかさっぱりわからなかった。すぐにスパルナの事だとわかったんだけど、くずははそれで更に不機嫌な顔をしてしまった。
「ああ、今一緒にいたスパルナの事か?」
「へー、スパルナっていうの。可愛い子じゃない」
「あのさ、何を勘違いしてるのか知らないけど……」
「勘違い!? そう、セイルは知らない子にあんな風に出来るってわけ? そりゃあ子どもと大人くらいの差があるけど、エセルカよりは高いし、あり得ないことないわよね?」
ああ、駄目だ。完全にスパルナが俺の恋人かなにかだと思ってる。というかエセルカと比べてやったら結構可哀想な気がするんだけどな。
彼女は俺から見ても小さかったし、くずはの口ぶりからもあんまり成長してないようにしか聞こえない。
正直スパルナは明らかに俺の好みから外れてる……というか彼は男だ。
それを言っても聞き入れる雰囲気じゃないし、さてどうしたものか……。
相当悪いタイミングに出会ってしまったものだと頭を抱えてしまいたくなるけど、それもすることは出来ない。とりあえずなんとかこの場を切り抜けなければならないだろう。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
魔王復活!
大好き丸
ファンタジー
世界を恐怖に陥れた最悪の魔王ヴァルタゼア。
勇者一行は魔王城ヘルキャッスルの罠を掻い潜り、
遂に魔王との戦いの火蓋が切って落とされた。
長き戦いの末、辛くも勝利した勇者一行に魔王は言い放つ。
「この体が滅びようと我が魂は不滅!」
魔王は復活を誓い、人類に恐怖を与え消滅したのだった。
それから時は流れ―。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる