上 下
255 / 415
第十三節 銀狼騎士団・始動編

第240幕 対魔人用兵器

しおりを挟む
『総員! 抜剣!』

 シグゼスの指示で、兵士たちが全員剣を抜き、盾を持っている重装兵を先頭に立たせてこちらに向かってくるシアロル軍との距離を縮めていく。
 流石にカッシェも戦闘直前というわけで引き締まった顔をしていた。

 俺の方は空中に魔方陣を構築していき、シグゼスの指示が出た瞬間に敵軍に無差別攻撃を仕掛けようと準備していく。
 様々な起動式マジックコードで展開されている魔方陣は、念入りに緻密な構築と魔力を練り上げることが出来た為、一つで敵軍の出鼻をくじくことが出来る威力を秘めている。

「それがあのヒュルマの奴らをぶっ飛ばした魔方陣なのか?」
「今回はちょっと違いますね。カッシェさんもやろうと思えば出来ると思いますよ?」
「ははっ、カッシェでいいさ。俺にも出来るってよくそんな事言いきれるよな」

 無理無理と笑って済ませているカッシェだけど、今の俺が構築している魔方陣の数々は、本気で修行を重ねた者なら扱うことが出来るものしかない。ただ、同時展開をするのはまた違った技術が必要になるんだけどな。

「二人共、そろそろだぞ」

 前方に注意を向けていたロンドがこっちにそう呼びかけると同時に『拡声』の魔方陣で声を大きく響かせたシグゼスの声が聞こえてきた。

『魔方兵、前へ! 魔方陣による攻撃後、敵の銃による遠距離攻撃を警戒しつつ突撃を開始せよ!』

 その指示を受けて、俺の方も自分に身体強化の魔方陣を重ねながら、いつでも飛び出せるようにする。
 俺以外の兵士たちも魔方陣を次々と展開していって、ちょっとした壮観な光景が現れる。

『発射!』

 シグゼスの掛け声と同時に展開されていた魔方陣が次々と発動していき、炎の玉が次々と飛んでいく。
 俺の方も魔方陣を発動して、他の兵士たちよりも二回りほど大きな炎の槍や、雨のような小さな粒のような雷が一斉に出現して続々と打ち込まれていくのは圧巻としかいいようがなかった。

 本来だったらこれほどの魔方陣を防ぐには相応の力を要求する。だからこそ俺たちは疑ってなかった。自分たちの魔方陣による強烈な一撃が被害尾を多く与える事を確信していたからだ。
 しかし――

「な、なに……?」

 周囲の空気が冷え込むように下る。当然だ。かなりの損害を初手で味わわせてやろうという思惑があったそれらを受けても平気な顔でこちらに進軍してくる敵の姿に逆にこちらに動揺が走ってしまう。

「ど、どういうことだ?」
「俺の魔方陣が効かないってわけか?」
『怯むな! 総員、敵の動きに注意して突撃せよ!』

 本当に効いてるのかいないのかわからないシグゼスは、魔方兵を後ろに遠ざけ、重装兵の盾を全面に出して、守りながら攻めに行くという戦い方をするように決めたようで、一瞬動揺していた兵士たちはすぐに与えられた命令をこなしていき、激突の瞬間に備えた。
 対する俺は、気になることがあってこっそり軍から抜けてどれか一人でシアロル軍のところに走っていった。

 両軍が迫ってきている地域から一旦大きく外れ、『姿』『消失』の起動式マジックコードを構築して、自らの姿を視認しにくくなる魔方陣を発動させる。
 これによってある程度近くに来なければ俺の事を見つけることも出来ないというわけだ。

『索敵』など、何かを探す系統の魔方陣とは相性が悪いが、向こうがそれをしていないことは大体わかっている。
 だからこそ、今のうちにこちらの魔方陣が効かなかったという事実を正確に把握しなければ、不利な戦いを強いられるような予感があったからだ。

 この状態では他の魔方陣を構築するわけにもいかない為、先程のように念入りに構築するなんて出来ないが……それでもすぐさま展開出来るものでも十分だ。

 潜伏して機会を伺っている間にシアロル軍の兵士たちが銃を取り出し、お返しだと言わんばかりにこちらの前線に向かって射撃を行っているけど、分厚い盾に阻まれて上手くいっていないようだ。

 もうすぐゴーレムを含めたシアロル軍の最前線とぶつかる……という前にそちらの方に近づき、改めてゴーレムの方はしっかりと姿を確認する。
 全体的に薄水色の丸いフォルムをしていて、見るからに機動性よりも防御性を重視しているようだった。だけど、動きは普通に早い。恐らく、鍛えられた兵士と同じように戦えるんじゃないかと思う。

 これだけの近距離まで近づいて魔方陣を叩き込めば、なぜ効果がなかったのかがわかるはずだ。
 すぐに離脱できるように常に周囲を警戒しながら、俺はゴーレムに向かって『炎』『球』の二つと『土』『槌』の二つの起動式マジックコードを構築した魔方陣を発動させた。

 どちらかが効けばそれで良い。そう思って発動したのだが……ゴーレムが淡い緑色の光を放ったかと思うと、俺が生み出した炎の球も土のハンマーもゴーレムの中心に吸い取られていく。

「なに…….?」

 一瞬頭が追いつかなかったが、敵兵の叫び声で放たれた銃撃を避けている内に一つの結論に辿り着いた。
 あれは『魔力を吸収する』ゴーレムなのだということだ。

 そしてその事実は、魔人を圧倒的に不利に追いやるには十分なものだった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...