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第十三節 銀狼騎士団・始動編
第235幕 放たれた力
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俺と吉田は互いに間合いを確かめながら距離を取り……最初に仕掛けてきたのは彼の方だった。
身体強化の魔方陣はまだ発動している。俺の方が圧倒的に有利だという確信が俺にはあった。
だからこそ……目の前の彼が何かをしようとするの静観していた。
「我が内なる魔力よ。折り重なりし力に変わりて我が身体に全てを宿せ――【フィジカルアップ】」
吉田が詠唱魔法を唱えたと同時に身体に魔方陣が纏わり付き、重なり合って彼の動きを格段に上げる。
目測を誤った俺は、すぐさま剣で防御の姿勢を取り、こちらに迫っていた斬撃を受け止めた。
「これは……身体強化、だと?」
「お前たちが自分たちお得意の魔方陣に自惚れている間に、私たちはここまで進化した! 浄化陣で作られた魔法は、今までの比ではない!」
何度も剣の打ち合いをしながら、彼は一回、二回と【フィジカルアップ】を使用していき、やがて少しずつ俺の方が打ち負けるようになってきた。
同じ身体強化のはずなのに、明らかに吉田が使用した詠唱魔法の方が効果が高い。
俺の記憶が正しければ魔方陣よりも威力の低い魔法のはずなのだが……これが浄化陣と呼ばれている魔方陣の力か?
「はは、素晴らしい。これほどの力があれば……勇者にすら決して遅れを取ることはない!」
調子が出て来たのか、次々に斬撃を放ってくる吉田だけど、確かに今の彼は勇者に匹敵する力を持っている。
だが、それだけだ。俺はすかさず身体強化の魔方陣を重ねて彼の魔方陣の効力を上回っていく。
それが向こうにも実感として伝わって来ているのだろう。最初は押していた形勢が少しずつこちらに傾いていく。
「くっ……! これほどとは……」
「確かにお前は格段に強くなった。かつては拳すら交えるに値しないと思っていたが、今はこうして剣を交えるほどに成長したさ。だが……」
人には限界がある。身体強化の魔方陣は自身が扱える限界を超えるとそれが身体に直接反映されるようになっていく。それは魔法でも同じことだ。
今はまだいいだろう。思いの外、吉田は自らを強化しながらの戦いをこなしている。最早周辺を囲んでいる兵士たちの目には見えていないだろう速度でもついて来ている。
それは身体強化を使い始めた者では辿り着けない領域だ。最初の頃は、どうしても強化された身体に精神がついてこないからな。
吉田がどれだけ研鑽を積んで来たか、今のやりとりだけでもひしひしと伝わってくる。
「俺も怠けていた訳じゃない!」
自身を鍛えていたのはなにもお前だけではない。それを主張するように更に身体強化を重ねる。
「ちっ……我が内なる魔力よ。熱の一線を象りて我が眼前の敵を焼き払え――【バーンブラスター】」
このままでは押し負けると感じたのだろう。吉田はこちらから距離を取って魔法を詠唱しながら俺に向けて盾をかざした。
盾に刻まれた魔方陣が熱を帯びたかのように赤く光り、こちらに向かって巨大な熱線が放たれる。かなり速く広い範囲に向けて発動したそれは、距離を詰めようとしていた俺に対して逃げ場を与えない為のものだった。
一瞬、味方も巻き添えにするつもりかと正気を疑ったが、いつの間にか俺の後ろにいた兵士たちは退避を完了しており、魔法の射程範囲には俺一人が残される形になった。
……全く、やってくれる。ある程度の魔法は飛んでくると思っていたが、これほどのものとは。せっかく相殺しようと構築していた魔方陣も、これほどの規模のものを打ち消すのは不可能だ。
案の定、発動した炎の魔方陣は、吉田の魔法にぶつかった瞬間に掻き消えてしまった。
今から急いで魔方陣を構築しても間に合わないかもしれないな。
だが、それで諦めるような俺ではない。
目の前に迫って来ている脅威を前にして逃げ出していいほど、穏やかな日常を歩んだつもりはない!
「いくぞ……!」
誰に向けて言ったわけでもないが、呟いた俺は魔方陣を急いで構築していく。
正直、何かを使おうかと思案している余裕もなく、とっさに『神』『炎』の起動式を構築していく。時間に余裕があるのであれば『焔』の方が良かったのだが、あれの場合は構築している間に俺自身が焼かれて終わってしまうだろう。
発動出来る段階になった瞬間にそれを解き放つ。ギリギリ間に合ったそれは吉田の【バーンブラスター】に匹敵するほどの大きさの炎の玉を出現させ、迎え撃つ。
俺の『神炎』の魔方陣と吉田の【バーンブラスター】が激しくぶつかり合って、力の奔流が周囲に溢れ出していく。
――瞬間。互いの力が爆発し、炎と爆音を撒き散らしていく。
このときようやく、俺は自分の選択ミスに気付いた。とっさに魔方陣を発動したところまでは良かったのだが、『神』のちからを受けた『炎』は着弾と同時に爆発を引き起こす。
……そう。必然的に魔方陣をギリギリで解き放った俺の付近で。
吉田の魔法を相殺することには成功したが、その代償として、俺は自分の放った炎と吉田の【バーンブラスター】の炎に焼かれてしまうのだった――。
身体強化の魔方陣はまだ発動している。俺の方が圧倒的に有利だという確信が俺にはあった。
だからこそ……目の前の彼が何かをしようとするの静観していた。
「我が内なる魔力よ。折り重なりし力に変わりて我が身体に全てを宿せ――【フィジカルアップ】」
吉田が詠唱魔法を唱えたと同時に身体に魔方陣が纏わり付き、重なり合って彼の動きを格段に上げる。
目測を誤った俺は、すぐさま剣で防御の姿勢を取り、こちらに迫っていた斬撃を受け止めた。
「これは……身体強化、だと?」
「お前たちが自分たちお得意の魔方陣に自惚れている間に、私たちはここまで進化した! 浄化陣で作られた魔法は、今までの比ではない!」
何度も剣の打ち合いをしながら、彼は一回、二回と【フィジカルアップ】を使用していき、やがて少しずつ俺の方が打ち負けるようになってきた。
同じ身体強化のはずなのに、明らかに吉田が使用した詠唱魔法の方が効果が高い。
俺の記憶が正しければ魔方陣よりも威力の低い魔法のはずなのだが……これが浄化陣と呼ばれている魔方陣の力か?
「はは、素晴らしい。これほどの力があれば……勇者にすら決して遅れを取ることはない!」
調子が出て来たのか、次々に斬撃を放ってくる吉田だけど、確かに今の彼は勇者に匹敵する力を持っている。
だが、それだけだ。俺はすかさず身体強化の魔方陣を重ねて彼の魔方陣の効力を上回っていく。
それが向こうにも実感として伝わって来ているのだろう。最初は押していた形勢が少しずつこちらに傾いていく。
「くっ……! これほどとは……」
「確かにお前は格段に強くなった。かつては拳すら交えるに値しないと思っていたが、今はこうして剣を交えるほどに成長したさ。だが……」
人には限界がある。身体強化の魔方陣は自身が扱える限界を超えるとそれが身体に直接反映されるようになっていく。それは魔法でも同じことだ。
今はまだいいだろう。思いの外、吉田は自らを強化しながらの戦いをこなしている。最早周辺を囲んでいる兵士たちの目には見えていないだろう速度でもついて来ている。
それは身体強化を使い始めた者では辿り着けない領域だ。最初の頃は、どうしても強化された身体に精神がついてこないからな。
吉田がどれだけ研鑽を積んで来たか、今のやりとりだけでもひしひしと伝わってくる。
「俺も怠けていた訳じゃない!」
自身を鍛えていたのはなにもお前だけではない。それを主張するように更に身体強化を重ねる。
「ちっ……我が内なる魔力よ。熱の一線を象りて我が眼前の敵を焼き払え――【バーンブラスター】」
このままでは押し負けると感じたのだろう。吉田はこちらから距離を取って魔法を詠唱しながら俺に向けて盾をかざした。
盾に刻まれた魔方陣が熱を帯びたかのように赤く光り、こちらに向かって巨大な熱線が放たれる。かなり速く広い範囲に向けて発動したそれは、距離を詰めようとしていた俺に対して逃げ場を与えない為のものだった。
一瞬、味方も巻き添えにするつもりかと正気を疑ったが、いつの間にか俺の後ろにいた兵士たちは退避を完了しており、魔法の射程範囲には俺一人が残される形になった。
……全く、やってくれる。ある程度の魔法は飛んでくると思っていたが、これほどのものとは。せっかく相殺しようと構築していた魔方陣も、これほどの規模のものを打ち消すのは不可能だ。
案の定、発動した炎の魔方陣は、吉田の魔法にぶつかった瞬間に掻き消えてしまった。
今から急いで魔方陣を構築しても間に合わないかもしれないな。
だが、それで諦めるような俺ではない。
目の前に迫って来ている脅威を前にして逃げ出していいほど、穏やかな日常を歩んだつもりはない!
「いくぞ……!」
誰に向けて言ったわけでもないが、呟いた俺は魔方陣を急いで構築していく。
正直、何かを使おうかと思案している余裕もなく、とっさに『神』『炎』の起動式を構築していく。時間に余裕があるのであれば『焔』の方が良かったのだが、あれの場合は構築している間に俺自身が焼かれて終わってしまうだろう。
発動出来る段階になった瞬間にそれを解き放つ。ギリギリ間に合ったそれは吉田の【バーンブラスター】に匹敵するほどの大きさの炎の玉を出現させ、迎え撃つ。
俺の『神炎』の魔方陣と吉田の【バーンブラスター】が激しくぶつかり合って、力の奔流が周囲に溢れ出していく。
――瞬間。互いの力が爆発し、炎と爆音を撒き散らしていく。
このときようやく、俺は自分の選択ミスに気付いた。とっさに魔方陣を発動したところまでは良かったのだが、『神』のちからを受けた『炎』は着弾と同時に爆発を引き起こす。
……そう。必然的に魔方陣をギリギリで解き放った俺の付近で。
吉田の魔法を相殺することには成功したが、その代償として、俺は自分の放った炎と吉田の【バーンブラスター】の炎に焼かれてしまうのだった――。
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