リヴァイヴ・ヒーロー ～異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる～

第十二節 人の国・裏の世界 セイル編

第２１９幕 激戦の二人

「覚悟はいい？」

　相変わらず余裕そうなヘルガは、ありとあらゆる武器に包囲されている俺に上から目線で話しかけてくる。
　恐らく、彼女は俺の実力をある程度正確に把握して勝てない相手ではないと判断したのだろう。

　確かに今のヘルガに勝てるようなイメージが思いつかない。
　俺もかなり頑張ってきたつもりだけど、それでも彼女はその上を行っている。
　二人で身体強化の魔方陣を使いながら近接戦闘を行うならまだ可能性も残っているけど、そんな単純な力比べみたいな戦いなんて彼女がするわけがない。

　速度や身軽さに翻弄されたとしても、身体能力は俺の方が勝っている。
　だけど魔方陣の使い方や技術面に関しては完全にヘルガの方が上だ。

　今のこの現状に思わず歯噛みしてしまう。
　こっちが距離を取るために自爆してまでして呼び出した『命』の起動式マジックコードで呼び出した三匹の獣もこの攻撃で消し飛ぶかもしれない。

　つくづくヘルガとは相性が悪いなと感じる……んだが、彼女と相性の良い相手なんているのだろうか？
　まあいいか。少なくとも獣たちも一撃でやられるようなやわじゃない。

「覚悟か……そんなもん、とうの昔に出来てるさ。
　お前をぶっ倒すって覚悟がな！」

　俺は獣たちにそれぞれ命令をして、縦横無尽に駆け巡らせ、その間に魔方陣を展開させる。

「うおおおおおおっっ！！」

『身体強化』『防御』で次々と自分を強化していって、出来る限り獣たちの突破口を作るべく、『爆発』の魔方陣でヘルガの銃が出現仕掛けている魔方陣を二つ破壊する。

　俺は自分の手が届く範囲内で魔方陣を構築することは難なく出来るけど、それより離れると最大二つくらいしか構築することが出来ない。
　一回発動しきったらまた使う事ができるけど、そんなに何度も使えるだけの時間を与えてくれるような相手じゃない。

　残った銃火器の全てが俺に向けて発射される中、獣たちは辛うじて開いた二つの穴から抜けてヘルガの元へと突進する。
　それを見届け……歯を食いしばってグラムレーヴァを構え、可能な限り弾を逸らし、防ぎ、回避する。

　バズーカから放たれる魔力を帯びた光の弾は流石に当たる訳には行かないし、大きな回避を強要されるわ俺が動いたとしても銃身はそれに合わせるように動いてくれるから避けるのも一苦労だ。

　嵐のような銃弾をかいくぐり、爆発を避けて気を伺うんだけど……ヘルガの方は近距離の転移を何度も繰り返しながら獣たちの攻撃を避けているようだった。

　なんというか……恐ろしい魔力量だ。この女の奥底がまるで見えない。
　これほどの魔方陣を展開していたら、俺なんかあっという間に魔力切れでふらふらになるだろう。

　それがわかっているからこそ、魔力切れを狙って耐えていたのだけれど……あまりの攻めの苛烈さにそんなものは起こるのか？　という気持ちにすらなってくる。

　……いけない。今弱気になってしまったら間違いなくヘルガに漬けこまれる。
　案の定ギリギリ避けきれていた攻撃が左足を撃ち抜いて……バランスを崩してしまう。

　苦痛に顔が歪む。それだけならまだいいけど、足を撃たれたことで更に動きが鈍くなってしまう。
　結果、すぐ近くに着弾した魔法の弾が爆発して、俺は無様に転がってしまう。

　それでも後を追うように銃弾が飛んでくるんだから余計に酷い。
　肝心の爆発は『防御』の魔方陣で防ぐことは出来るけど、それ以上に弾幕が酷くてあっという間に魔方陣が壊れてしまう。

　身体強化の魔方陣をさらに重ねがけしてもこの弾幕を完全に回避することは無理だろう。
　というかこれだけの密度の魔方陣を展開するなんていい加減にしろと言いたい。
　左足の怪我を痛みを堪えながらなんとか避けるのだけど……これ以上はもはや不毛としかいいようがない。

　俺は覚悟を決めてヘルガのいる方向に突撃することに決めた。
　防御の魔方陣を出来るだけ強固に張り、怪我を気にすること無く走る。

　ヘルガの方もそれに気付いたのか、前方と後方……それと頭上に次々と魔方陣が展開されていって、マシンガンやら機関銃やらの激しい攻撃をする銃ばかりが出てきて、冷や汗が流れる。

　が、さっきよりもずっと魔方陣の展開数が少ない。
　ヘルガの方も攻撃しても倒れずに牙を剥いてくる獣たちに苦戦しているようだった。
　もう少し万全な状態だったらまだなんとか出来たかもしれないけど、正直俊敏に動くことはできない。

　案の定グラムレーヴァや防御の魔方陣では防ぎきれずにあっという間に追い詰められてしまう。
　右腕を撃ち抜かれてグラムレーヴァを地面に落としてしまい、次々身体に痛みが走り、なにか大切なものをなくしていくような感覚がある。

「くっ……」

　あくまで命を奪わないように四肢を狙って来たからか、銃撃が止んだ頃には全く動けない状態に陥ってしまった。
　獣たちも魔力の供給を絶たれて消えてしまい、ヘルガはこちらに歩みよってくる。

　完全に見下した視線を俺に向けてきてるけど、これでいい。
　こうでもしないと、魔方陣で攻撃するヘルガに近寄ることも出来ない。
　結構重傷を負ったけどその甲斐はありそうだ。

　俺がこの程度でくたばると思ったら大きな間違いだってことを思い知らせてやる……！