217 / 415
第十二節 人の国・裏の世界 セイル編
第204幕 相対する女勇者
しおりを挟む
金髪縦ロールの女性は、まっすぐ俺を睨んで一気に鎌を地面から上に振り上げるように襲いかかってくる。
鋭く、空気を裂くように奔る刃が俺に向かって放たれるのだけれど……今の俺にはこれくらいならなんとか避けることができる。
冷静に『グラムレーヴァ』を抜き放ちながら、彼女の鎌の射程から離れるように遠ざか……ったんだけど、不意に嫌な予感がして目の前の攻撃を防ぐように剣を構えた。
するといつの間にか大鎌に風を纏わせていて、俺が避けたと同時に振り切った彼女の一撃から風の刃がこちらに向かって飛んできた。
それを防いでいる間にその女性は離れた間合いを詰め、今度はそのまま鎌を振り下ろしてきた。
再び避けようとすると、今度は俺の足に強烈な暴風が一瞬だけ吹き荒れて動きを阻害されてしまう。
その僅かな時間……瞬時に避けることから防ぐことに思考を切り替え、剣による防御に移ったことが功を奏した。
二度目の攻撃時には風を纏わないただの鎌が迫ってきただけで、なんとか防ぐ事に成功する。
ただ、その後すぐに息もつかさぬ程の怒涛の攻めを受け、こちらは完全に防戦一方に追いやられてしまう。
「随分と風を自在に操るな……!」
攻めに加えてこちらの行動を妨害するような風を繰り出され、思わず舌打ちしながらそんな風に愚痴ってしまう。
それでも彼女は何も言わずにただこちらに殺気を向けるばかりだ。
向こうからすると初対面ではないらしいのだけれど、これほどの苛烈な攻撃を仕掛けてくる人物に全く心当たりがない。
……いや、一人だけいたような気がする。
誰だっけか……彼女は……。
「戦闘中に考え事とは、随分と余裕ですわねっ!」
俺が色々と考えを巡らせながら、絶えない猛攻を避けては防いでいることが心外なのだろう。
女性はイラッとした表情で俺のことを見据え、自分から数歩程度距離を取ってきた。
「これだから、デリカシーのない殿方は……困り、ますわっ」
若干乱れた呼吸を整え、俺のことを睨みながら、忌々しげに吐き捨ててきた。
「もしかして……お前、ルーシーか!?」
そしてその言葉で、ようやく目の前の女性が誰なのか気づいた俺は、思わず大声で叫ぶように話してしまった。
なんでルーシーがこんなところに? という疑問がいっぱいで止まらなかったというのもある。
「改めて……久しぶりに会いますわね。
二年ぶり、と言ったところでしょうか」
結構驚いてる俺に対して、ルーシーの方はいやに冷静だ。
むしろ若干迷惑そうに顔を歪めてすらいる。
「お前は他の民の助けになりたいって一人だけ別の場所に行ったはずだ。
それなのに、どうしてここに? こんな……国に?」
「わたくし、悟ったのですわ」
「悟った……?」
それまでの殺気やら敵意に満ちた顔とは別の……自尊心に満ちた表情を浮かべて、彼女は語りはじめる。
「ええ。わたくし個人がどれだけの事をやったとしても、やがて限界が訪れます。
手の届かないところまで救おうと思うなら……国の力を借りるのが一番ですわ」
「だからシアロルにいる、と?」
「その通りですわ。
身体を鍛えるだけが取り柄の貴方には、分からないことかも知れませんがね」
……俺は正直、ルーシーとはあんまり話したことがなかった。
彼女と一緒にいた期間なんてそもそもジパーニグのダティオにいた間だけだ。
だから彼女はこうなんだ! とか具体的な事をはっきり言えるほど親しくはない。
……だけど。
「あんた、変わったな」
俺は自身の中から湧き上がる何かを止めることが出来なかった。
一緒にグレリアの兄貴の魔方陣講義を受けていたとは思えないほど、変わってしまったんだと思ったのだ。
「いいえ。貴方が変わらないだけですわ。
変わって生きていく事こそ人が生み出した処世術。
貴方はその流れに逆らっているだけに過ぎませんわ」
「……なら」
こうなった原因は彼女にある? いや、きっとそれだけじゃないはずだ。
考えたってきりがない。答えは無数にあるし、正解を探すには情報が足りない。
だったら、今の俺たちはただ……戦う事でしか分かり合えないのだろう。
「諦める事が変わるって事なら、俺は一生変わらないままで構わない」
「……そうですか。では、無知蒙昧な貴方に教えて差し上げますわ。
変わる事によって得られる力があるという事を……!」
ルーシーはそれだけ言い放つと、再度数歩俺から距離を取る。
何をするかはわからないが、今の彼女からあまり離れすぎるべきではないと考えた俺は、一気に距離を詰めようと走り出した。
「吹き荒れろ我が力。眼前に立ち塞がるあらゆる敵を切り刻め――」
ルーシーが唱えているのは……詠唱魔法?
しかし、彼女もすでにそれがあまり役に立たない事を知っているはずだ。
それなのになぜ、今この局面でそれを選択した? ……なにか、嫌な予感がする。
「【スラッシュサイクロン】!!」
――瞬間、魔方陣が同時に発動した。
俺に襲いかかるそれは、普通の詠唱魔法とは比べ物にならない程の力の込められた……全てをなぎ倒し切り刻む暴虐の竜巻だった。
鋭く、空気を裂くように奔る刃が俺に向かって放たれるのだけれど……今の俺にはこれくらいならなんとか避けることができる。
冷静に『グラムレーヴァ』を抜き放ちながら、彼女の鎌の射程から離れるように遠ざか……ったんだけど、不意に嫌な予感がして目の前の攻撃を防ぐように剣を構えた。
するといつの間にか大鎌に風を纏わせていて、俺が避けたと同時に振り切った彼女の一撃から風の刃がこちらに向かって飛んできた。
それを防いでいる間にその女性は離れた間合いを詰め、今度はそのまま鎌を振り下ろしてきた。
再び避けようとすると、今度は俺の足に強烈な暴風が一瞬だけ吹き荒れて動きを阻害されてしまう。
その僅かな時間……瞬時に避けることから防ぐことに思考を切り替え、剣による防御に移ったことが功を奏した。
二度目の攻撃時には風を纏わないただの鎌が迫ってきただけで、なんとか防ぐ事に成功する。
ただ、その後すぐに息もつかさぬ程の怒涛の攻めを受け、こちらは完全に防戦一方に追いやられてしまう。
「随分と風を自在に操るな……!」
攻めに加えてこちらの行動を妨害するような風を繰り出され、思わず舌打ちしながらそんな風に愚痴ってしまう。
それでも彼女は何も言わずにただこちらに殺気を向けるばかりだ。
向こうからすると初対面ではないらしいのだけれど、これほどの苛烈な攻撃を仕掛けてくる人物に全く心当たりがない。
……いや、一人だけいたような気がする。
誰だっけか……彼女は……。
「戦闘中に考え事とは、随分と余裕ですわねっ!」
俺が色々と考えを巡らせながら、絶えない猛攻を避けては防いでいることが心外なのだろう。
女性はイラッとした表情で俺のことを見据え、自分から数歩程度距離を取ってきた。
「これだから、デリカシーのない殿方は……困り、ますわっ」
若干乱れた呼吸を整え、俺のことを睨みながら、忌々しげに吐き捨ててきた。
「もしかして……お前、ルーシーか!?」
そしてその言葉で、ようやく目の前の女性が誰なのか気づいた俺は、思わず大声で叫ぶように話してしまった。
なんでルーシーがこんなところに? という疑問がいっぱいで止まらなかったというのもある。
「改めて……久しぶりに会いますわね。
二年ぶり、と言ったところでしょうか」
結構驚いてる俺に対して、ルーシーの方はいやに冷静だ。
むしろ若干迷惑そうに顔を歪めてすらいる。
「お前は他の民の助けになりたいって一人だけ別の場所に行ったはずだ。
それなのに、どうしてここに? こんな……国に?」
「わたくし、悟ったのですわ」
「悟った……?」
それまでの殺気やら敵意に満ちた顔とは別の……自尊心に満ちた表情を浮かべて、彼女は語りはじめる。
「ええ。わたくし個人がどれだけの事をやったとしても、やがて限界が訪れます。
手の届かないところまで救おうと思うなら……国の力を借りるのが一番ですわ」
「だからシアロルにいる、と?」
「その通りですわ。
身体を鍛えるだけが取り柄の貴方には、分からないことかも知れませんがね」
……俺は正直、ルーシーとはあんまり話したことがなかった。
彼女と一緒にいた期間なんてそもそもジパーニグのダティオにいた間だけだ。
だから彼女はこうなんだ! とか具体的な事をはっきり言えるほど親しくはない。
……だけど。
「あんた、変わったな」
俺は自身の中から湧き上がる何かを止めることが出来なかった。
一緒にグレリアの兄貴の魔方陣講義を受けていたとは思えないほど、変わってしまったんだと思ったのだ。
「いいえ。貴方が変わらないだけですわ。
変わって生きていく事こそ人が生み出した処世術。
貴方はその流れに逆らっているだけに過ぎませんわ」
「……なら」
こうなった原因は彼女にある? いや、きっとそれだけじゃないはずだ。
考えたってきりがない。答えは無数にあるし、正解を探すには情報が足りない。
だったら、今の俺たちはただ……戦う事でしか分かり合えないのだろう。
「諦める事が変わるって事なら、俺は一生変わらないままで構わない」
「……そうですか。では、無知蒙昧な貴方に教えて差し上げますわ。
変わる事によって得られる力があるという事を……!」
ルーシーはそれだけ言い放つと、再度数歩俺から距離を取る。
何をするかはわからないが、今の彼女からあまり離れすぎるべきではないと考えた俺は、一気に距離を詰めようと走り出した。
「吹き荒れろ我が力。眼前に立ち塞がるあらゆる敵を切り刻め――」
ルーシーが唱えているのは……詠唱魔法?
しかし、彼女もすでにそれがあまり役に立たない事を知っているはずだ。
それなのになぜ、今この局面でそれを選択した? ……なにか、嫌な予感がする。
「【スラッシュサイクロン】!!」
――瞬間、魔方陣が同時に発動した。
俺に襲いかかるそれは、普通の詠唱魔法とは比べ物にならない程の力の込められた……全てをなぎ倒し切り刻む暴虐の竜巻だった。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる