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第十節 女王の誓い・決別編

第193幕 話し合いの末

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 それから俺たちは長い……長い話をした。
 シエラの事、人の国の事……本当に色々とだ。

 それはある種、ラグズエルの呪縛から逃れるようでもある。
 自身の記憶を掘り起こすように、真実を手に入れるかのように。

 随分と長い間話し込んでしまったのか、気付いたら喉の渇きを強く感じるほどだった。

「ふむ……お互いの情報を公開し合う為とはいえ、些か疲れたな」

 ミルティナ女王は疲労が溜まったような笑いを浮かべ、自らの手で肩を揉んでいた。
 確かに、ずっと喋っていた。

 おかげで様々な事が聞けたけどな。
 今、魔人と人の国の関係性もだ。

 その全てをまとめ上げると……今の戦争の全てが茶番劇だったということもわかる。
 ミルティナ女王の言葉が真実であるならば、人というのはラグズエルによって記憶を上塗りされた魔人から産み出されたものであり、彼らの子孫が現在のヒュルマの姿なのだというわけだ。

 さらに勇者は全てがこの戦争に現実味を持たせるための駒であり、役に立たないものは排除されるか、都合の良いように作り替えられてしまうということだ。

 これもくずはやソフィア、それとカーターも該当するか。
 記憶を書き換え、他者の性格を捻じ曲げてまで何を成そうとしているのかはわからないが、この歪みは正さなければならない。

 ここで湧き上がってくる問題は、やはり人の国の王たちのことだろう。
『英雄召喚』という物を使って駒である勇者を喚んでいる以上、捕らえる等の生ぬるいことは出来ない。
 確実に彼らの生命を奪わなければならないだろう。

 それに魔王の選定を行っているのも彼らであり、『邪魔な者の中でも王を冠するに相応しい者』という皮肉を込めた呼び名をつけ、勇者たちに討伐させるなんてことをやっているのだから尚更だ。
 ちなみに勇者は『勇気なき操り人形足る愚者』ということらしく、最初から、こんなことは必要なかったのだ。

 実に人を馬鹿にした、くだらない考え方だ。
 そしてそんな奴らが国を動かしている。
 ミルティナ女王もその一端を担っており、ラグズエルの指示に従って国に不要な者のリストをまとめ上げ、彼に記憶を弄らせた後、隔離して監視下に置くという役目を与えられていたらしい。

 それ以外の時は国の治めなければならない上、ミルティナ女王自身は完全に彼らの仲間というわけではなかったため、あまり多く干渉することはなかったそうだ。
 だが、彼女自身は王族の生まれでもなんでもなく、シエラ――アイシェラを守る為に戦闘に関する技術や知識、最低限な教養は教わったらしいが、王としての話し方や知恵など……今の彼女を形成する大部分はラグズエルが寄越した男に習ったのだとか。

 そんなミルティナ女王がなぜ彼らを裏切ることを決意したのか?
 それは彼女は元々、シエラの安全と引き換えにラグズエルたちに協力する道を選んだからだ。
 最初はシエラ=アイシェラというのはにわかに信じがたかったが、髪色以外は幼いアイシェラが成長した姿にしか見えないというのと、彼女がやはりアルトラ姓を名乗っており、俺の娘と似ているところがあるといったところだろう。

 それらはどれも確信に迫ることの出来ない……根拠の弱いものだけれど、どれもが俺やミルティナ女王でなければ気付けないことだ。

 一番なのはシエラの記憶を魔方陣で元に戻すことだろう。
 本当にアイシェラであるならば、記憶を塗り替えられていることは確実。
 問題は……彼女より期間の短いくずはですら、回復しきれていないことが現状だということだ。

 そして、ラグズエルの能力は『相手を屈服させること』であり、現状、シエラの家族……つまりファルト姓の者だが、ミルティナ女王によると全員殺されているそうだ。

 死体を彼女自身が見ているそうだから、まず間違いないと言っていた。
 恐らく、ファルト姓の者たちはシエラを屈服させるのに使のだろう。
 俺としては……正直辛い結果になってしまったが、魔人の中で俺以外のファルト姓がいない時点で可能性としては考えなかったことはない。

 シエラが本当にアイシェラなのであれば、まだ彼女が生き残っているだけ救いだと言えるだろう。

「敢えて呼ばせてもらうが、グレファ。
 そなたはどうする? わしの話をどこまで信じるかはそなた次第。
 そして……それらを本当に確かめる術は――」
「貴女と共に歩むこと。そういうことでしょう?」

 うむ、と頷き、どこか安堵するようなため息を一つついた。

「そなたがいれば、シエラは安全であろう。
 わしも、あの方があやつらの元にいないのであれば遠慮する必要もない。
 だが……一つだけ、そなたに伝えておきたいことがある」

 ミルティナ女王は真剣な眼差しをこちらに向けた後……すごく申し訳無さそうな顔で若干視線を伏せてしまった。

「わしの信頼出来る者たちは銀狼騎士団の者にしかおらぬ。
 故に――わしがラグズエルと敵対することになるのであれば、人の国だけではない。
 このグランセストの国民からすら恨まれるかもしれぬ。
 下手をすれば、わしやそなたは魔王とその配下として悪名を残すことになるだろう。
 それでも……力を貸してくれるか?」
「……私は今の国の現状を完全に否定することは出来ません。
 国民たちは自由に生き、アンヒュルとの戦いがなければ幸せを築く事ができるでしょう。
 ですが、茶番で作られた平和はいずれ壊れる。
 ならば、私は剣を取り、敢えて自らが打ち砕きましょう」

 ――それこそが、神様が俺に課した使命なのだろうから。
 この世界を守る為なら……俺はどんな泥を被る結果になってしまっても全てを受け入れよう。
 どんな形になっても、絶えず続いてきた歴史を終わらせないために。
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