180 / 415
第九節 迫りくる世界の闇・セイル編
第173幕 鍛錬の日々
しおりを挟む
副都ファロルリアのリアラルト訓練学校で兄貴と会ってから、どれだけの時間が過ぎただろう?
恐らく、二ヶ月くらいにはなるんじゃないだろうか。
俺の方はラグナスと一緒にいる間、剣の稽古や学問について教えてもらうことになった。
ただ剣を振るうだけでも筋肉を鍛えるだけでもなく、それを扱いこなせるだけの知恵をつける……。
それが俺の出した結論だった。
今のまま身体を鍛え続けるだけでは得られないものがそこにあると信じて、学園にいた時とはまるで違う事をしているというわけだ。
……正直、今まで学園で教わっていたことよりも難しい。
こちらでは教わってなかった魔人側の歴史を学ぶことになったり、魔方陣の構築を研究したりと……色々と大変だが、ラグナスやここにいる他の大人たちのおかげでなんとかついていけてる感じだ。
これも兄貴に会った時に使われた魔方陣のおかげなのかも知れない。
あれ以降、どこか頭の中がすっきりしたような、そんな感じすらしているからな。
くずはにはちょっと不気味がられたけど、兄貴――グレリアは言っていた。
『自分の在り方と向かい合って進め』って。
それが今はまだなにかわからない。
だけど……とりあえずグレリアの言う通りにしてみようと思ったんだ。
ただ従うとか、妄信するとか……そういうのじゃない。
何もわからず、何も知らずに考えることなんて出来ないと思ったからだ。
俺の進むべき道……それはまだ見えてこない。
だけれど、このまま前に進んでいけば、いつか見えてくる。
そう信じて、俺は前に進むことを決めた。
それが、くずはを護ることができると信じて。
……でも、ただ一つ。
どうしても気になることがあった。
それは――
――
「はぁ……はぁ……」
「精が出るねぇ」
森の中に隠された秘境――その中でも一際大きな建物の中にある小さな庭園の中で、ラグナスと一緒に剣の稽古をしていた俺は肩で息をしながら、呼吸を整えていた。
ここでは今まで違って魔人と戦う事をはない。
だからこそ、彼らに備えていた時間の全てを勉強と鍛錬に打ち込むことが出来た。
俺は兄貴のように強くない。
魔方陣を構築する事も得意じゃないし、別に魔力の量も多くない。
おまけに、大剣から拳での戦闘に切り替えてるからか、普通の剣なんて触ったことすらない。
なら、時間を掛けて訓練するしかない。
本当なら勇者であるくずはと一緒に、人の側に戻って魔人たちと戦わなければならないだろう。
だけど……俺たちはアリッカルに狙われている。
正確には少し違うだろうけど、仮に人の側に戻ったところで元の生活がおくれるようになるか? と問われれば、それはないだろう……と答えるしかないほどには状況は悪い。
それならここに留まって修行に勤しむことに、何のためらいもないということだ。
それに……ここに住んでいる魔人は、みんな良い人たちばかりだ。
そりゃあ、ラグナスへの礼儀にうるさい人もいて、少し煩わしく思うこともあるけど、ここは居心地がいい。
魔人とか人とか……そういう実体のないしがらみに囚われることなくさ、彼らは俺たちを迎えいれてくれたからだ。
「ああ、ラグナスのように剣の才能があるわけじゃないからな。
なら、努力あるのみ。ひたすら振るうのみってやつだ」
「ははっ、だからって毎日倒れるまでやらなくてもいいと思うんだけどね」
軽く笑うラグナスは剣を鞘に収め、手ぬぐいで汗を拭いている。
確かに俺の方が彼の倍以上動いていたのだけれど、それでも息一つ乱さないのを見るとちょっと悔しい思いもする。
「二人共、お疲れ様」
「くずは」
皮革の袋を二つ持って現れたくずはは、俺たちのところに歩み寄ってきて、笑顔を見せてくれている。
差し出されたそれは飲み口のような物がついていて、中身が溢れないように封がされていた。
その封を外して勢いよく中身を飲むと、つい先程まで冷やされていた水が火照った身体に心地よい。
「はい、ラグナスも」
「ありがとう、くずは」
汗をぬぐいながら片手で受け取るラグナスはどことなく格好いいオーラを撒き散らしながら、くずはから皮革の水筒を受け取っていた。
くずはの方も満更ではない様子でラグナスの事を見ていて……なんだかその姿が余計に面白くないと感じる。
そういえば、くずはもここに来て大分変わったように感じる。
なんというか、戦いを避けるようになってきた。
少し前までは勇者として頑張っていたはずなのに、ここに来てからというもの、剣の修業も……彼女の持つ能力すら全く見なくなっていた。
性格も前より丸くなったというか……以前よりも楽しそうに笑うようになった。
「どうしたの?」
「い、いや……なんでもない」
「そう? ならいいけど」
覗き込むように俺の事を見ているくずはに違和感がして、俺は彼女から逃げるように視線を逸らした。
対して気にしていない様子のくずはは、再びラグナスと楽しそうに話をしていた。
その彼女の姿が――勇者会合でヘルガに負けた時に見せたあの時の弱い少女の姿とどうしても重ならなくて……俺はその事に言いしれぬ不安を感じているのだった。
恐らく、二ヶ月くらいにはなるんじゃないだろうか。
俺の方はラグナスと一緒にいる間、剣の稽古や学問について教えてもらうことになった。
ただ剣を振るうだけでも筋肉を鍛えるだけでもなく、それを扱いこなせるだけの知恵をつける……。
それが俺の出した結論だった。
今のまま身体を鍛え続けるだけでは得られないものがそこにあると信じて、学園にいた時とはまるで違う事をしているというわけだ。
……正直、今まで学園で教わっていたことよりも難しい。
こちらでは教わってなかった魔人側の歴史を学ぶことになったり、魔方陣の構築を研究したりと……色々と大変だが、ラグナスやここにいる他の大人たちのおかげでなんとかついていけてる感じだ。
これも兄貴に会った時に使われた魔方陣のおかげなのかも知れない。
あれ以降、どこか頭の中がすっきりしたような、そんな感じすらしているからな。
くずはにはちょっと不気味がられたけど、兄貴――グレリアは言っていた。
『自分の在り方と向かい合って進め』って。
それが今はまだなにかわからない。
だけど……とりあえずグレリアの言う通りにしてみようと思ったんだ。
ただ従うとか、妄信するとか……そういうのじゃない。
何もわからず、何も知らずに考えることなんて出来ないと思ったからだ。
俺の進むべき道……それはまだ見えてこない。
だけれど、このまま前に進んでいけば、いつか見えてくる。
そう信じて、俺は前に進むことを決めた。
それが、くずはを護ることができると信じて。
……でも、ただ一つ。
どうしても気になることがあった。
それは――
――
「はぁ……はぁ……」
「精が出るねぇ」
森の中に隠された秘境――その中でも一際大きな建物の中にある小さな庭園の中で、ラグナスと一緒に剣の稽古をしていた俺は肩で息をしながら、呼吸を整えていた。
ここでは今まで違って魔人と戦う事をはない。
だからこそ、彼らに備えていた時間の全てを勉強と鍛錬に打ち込むことが出来た。
俺は兄貴のように強くない。
魔方陣を構築する事も得意じゃないし、別に魔力の量も多くない。
おまけに、大剣から拳での戦闘に切り替えてるからか、普通の剣なんて触ったことすらない。
なら、時間を掛けて訓練するしかない。
本当なら勇者であるくずはと一緒に、人の側に戻って魔人たちと戦わなければならないだろう。
だけど……俺たちはアリッカルに狙われている。
正確には少し違うだろうけど、仮に人の側に戻ったところで元の生活がおくれるようになるか? と問われれば、それはないだろう……と答えるしかないほどには状況は悪い。
それならここに留まって修行に勤しむことに、何のためらいもないということだ。
それに……ここに住んでいる魔人は、みんな良い人たちばかりだ。
そりゃあ、ラグナスへの礼儀にうるさい人もいて、少し煩わしく思うこともあるけど、ここは居心地がいい。
魔人とか人とか……そういう実体のないしがらみに囚われることなくさ、彼らは俺たちを迎えいれてくれたからだ。
「ああ、ラグナスのように剣の才能があるわけじゃないからな。
なら、努力あるのみ。ひたすら振るうのみってやつだ」
「ははっ、だからって毎日倒れるまでやらなくてもいいと思うんだけどね」
軽く笑うラグナスは剣を鞘に収め、手ぬぐいで汗を拭いている。
確かに俺の方が彼の倍以上動いていたのだけれど、それでも息一つ乱さないのを見るとちょっと悔しい思いもする。
「二人共、お疲れ様」
「くずは」
皮革の袋を二つ持って現れたくずはは、俺たちのところに歩み寄ってきて、笑顔を見せてくれている。
差し出されたそれは飲み口のような物がついていて、中身が溢れないように封がされていた。
その封を外して勢いよく中身を飲むと、つい先程まで冷やされていた水が火照った身体に心地よい。
「はい、ラグナスも」
「ありがとう、くずは」
汗をぬぐいながら片手で受け取るラグナスはどことなく格好いいオーラを撒き散らしながら、くずはから皮革の水筒を受け取っていた。
くずはの方も満更ではない様子でラグナスの事を見ていて……なんだかその姿が余計に面白くないと感じる。
そういえば、くずはもここに来て大分変わったように感じる。
なんというか、戦いを避けるようになってきた。
少し前までは勇者として頑張っていたはずなのに、ここに来てからというもの、剣の修業も……彼女の持つ能力すら全く見なくなっていた。
性格も前より丸くなったというか……以前よりも楽しそうに笑うようになった。
「どうしたの?」
「い、いや……なんでもない」
「そう? ならいいけど」
覗き込むように俺の事を見ているくずはに違和感がして、俺は彼女から逃げるように視線を逸らした。
対して気にしていない様子のくずはは、再びラグナスと楽しそうに話をしていた。
その彼女の姿が――勇者会合でヘルガに負けた時に見せたあの時の弱い少女の姿とどうしても重ならなくて……俺はその事に言いしれぬ不安を感じているのだった。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる