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第八節 ヒュルマの国・動乱編

第151幕 取り戻すために

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「兄貴、都合がいいことばかり言ってるのはわかってるけど、頼む。
 俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ」
「だったら……お前に預けた剣を返してもらえないか?」

 セイルたちと分かれた時、俺は『グラムレーヴァ』を彼に預けていた。
 お守り代わりに持たせたつもりだったけど……こうなってしまったら俺が持っておいた方がいい。

 今回の戦い、ジパーニグや他の国の勇者と戦うことになる可能性がある。
 下手をしたら、カーターの時以上の戦いになるかもしれない。

 いざとなった時の為の保険の一つとして、『グラムレーヴァ』は自分の手元に戻しておきたい……そう思ったのだ。

「あ、ああ……こいつか」

 今もきちんと腰に提げているようだけれど……どうにも様子がおかしい。
 俺に渡していいものかどうか困っているような、そんな悩みが感じられる。

「……どうした? なにか問題でもあるのか?」
「……今俺が世話になっている魔人がこの剣を欲しがってるんだ。
 首都に保管されている物とは色が違うけれど、造形がそのままだから……もしかしたら英雄グレリアが使っていた剣なんじゃないか? って」

 それからセイルに詳しい話を聞いてみると、ラグナスと呼ばれている男がヘルガとの戦いで傷ついたセイルとエセルカを助けてくれたらしい。
 そのまま流れで彼らの世話になっているようで、セイルの持っている剣に興味を示しているのはその彼らだということだ。

 目を覚ました時はあまり聞いてこなかったそうだが、完全に調子を取り戻した辺りによく聞かれるようになったんだとか。

 おまけにラグナスは『グレリア・ファルト』の正当な血を引く末裔だと言っているらしい。
 今の俺からしたら見るからに怪しいが、かといって今の少ない情報でそう言い切ってしまうわけにもいかない。

 後手に回りがちな俺たちにとってこれはネックとなるだろう。
 なんとかしなければならないのはわかってるのだが……。

 ひとまずはセイルが助けてもらった人物なのだから、警戒する程度にとどめておくのがベストだろう。

「一応今はグレリアの剣を模した剣をお守り代わりに譲ってもらった……ということで納得してもらってるんだけど、もしこれが俺の元からなくなってしまったら……」
「本物を誰かに渡したかもしれない……ってことになるのか」

 確かにこのままセイルが『グラムレーヴァ』を手放した状態で帰れば、間違いなく怪しまれる。

 最初は本当にお守り代わりとして作られている模造剣を代わりに持たせるのも手かとも思ったが……首都に保管されているぼろぼろの『グラムレーヴァ』を参考にして作られてる物だから、結構たかが知れてる出来栄えだ。

 所詮土産物程度の物で誤魔化しきれというのも無理な話だ。

 ……仕方がない。
 こればっかりは今すぐなんとか出来る問題じゃない。
 新しく模造品を調達するにしても、職人を探す時間や作ってもらう期間を考えると……エセルカ救出はしばらく待たざるを得ないだろう。

 その間に彼女がどれだけ危険に晒されるのか……恐らく、今優先すべきは、エセルカを助けることだ。
『グラムレーヴァ』はまた次の機会にするべきだろう。

「わかった。それはもうしばらくセイルが持っていてくれ。
 ただ……なにか危険があったら必ずそれを使え。
 そして、誰にもその『グラムレーヴァ』を渡さないようにしてほしい」
「……わかった。俺もこの剣は絶対に守ってみせる。
 例えラグナスであっても、渡さないと誓う」

『グラムレーヴァ』に視線を落としたセイルは、改めて決意するように俺の顔をまっすぐに見てそう言ってくれた。
 俺の方に若干不安要素が残る結果となったが、セイルの手元に『グラムレーヴァ』があるのはあながち悪いことでもない。

 あの剣は所有者に対しての魔力による精神的攻撃を防いでくれる。

 所有する前に攻撃を受けていたならどうしようもないが、今ならなにも問題はないだろう。

 もちろん『グラムレーヴァ』の能力はそれだけではないのだけれど、今はセイルがこれ以上干渉を受けない事実さえあればいい。

「最後に一つ……セイル。
 強くなりたいなら、自分の意思で行動するんだ。
 難しい事だが、自分で聞いて、判断して……本当の強さを身につけろ。
 誰かに教わるのは悪い事じゃない。
 誰かに従うことに信念があるなら、それは立派なことだ。
 常に前を向き、自分の在り方と向かい合って進め。
 誰かに盲目的に頼らず、自身の信念を持って行動できれば……お前が本当に進むべき道が見えてくる」

 これは俺の言葉も鵜呑みにせず、考えて生きて欲しい……そういう願いを込めた言葉だった。
 誰かを信じることと、妄信することは違う。

 頼ることと甘えることが……寄り添うことと流されることが違うように、常に自分自身を意思を持ち続けて欲しいという願いでもあった。

 それがセイルにどこまで理解できたのかはわからないが……少なくとも反芻するように呟いて、ゆっくりと頷いたあいつの顔は、信じるに足るものだった。

 それから俺たちは現在の互いの居場所、状況を軽く交換しあい、別れた。
 それぞれに進むべき道へと向かって――
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