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第六節 リアラルト訓練学校編
第124幕 怖いけど、伝えたい
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「ちょっと、一緒に来てくれない?」
その後の展開はあっという間で、一人で訪ねてきたルルリナはそれだけ言って俺を食堂まで誘ってくれた。
……正直なところ、意外でしょうがなかった。
何しろ彼女は俺の本気を見て怯え……てはなかったが、恐れていた一人だったはずだからだ。
それなのに話がある、というのにさっぱり見当がつかない。
一体どんな話をしようとしているのか……。
――
付いてこようとしたシエラをやんわりと断り、俺はルルリナと一緒に寮一階の食堂までやってきた。
隣を歩きながらのんびりとした雰囲気……なんてことは決してなかった。
そりゃ、前のギスギスした空気ではなかったけど、気まずいのは相変わらずだ。
なんてったってここに来るまでの間、常に不機嫌な感情剥き出しで俺の前を歩いてたんだからな。
「で、何食べる?」
「あ、あー……何か甘いの、かな?」
不機嫌な割にはそういうことを聞いてくるもんだから、どういう風に接していいかわからず、つい曖昧な返答をしてしまう。
頷いたルルリナはさっさと注文しにカウンターの方まで行ってしまった。
妙に宙ぶらりんになってしまった状態でぽかんとしてしまったが、ひとまずここで黙って突っ立てるわけにはいかないだろう……とひとまずルルリナに付いていくことにした。
結局俺の方は生クリームのたっぷりと乗ったアップルパイ。
ルルリナは……なんだあれ? 初めて見るな……。
恐らくパイの一種なのには違いないが、容器の上をパイ生地で包んで焼いたように見える。
料理を受け取った俺たちは、適当なところに向かい合うように席に座り……互いに料理に手をつけずにただただ沈黙を保ったままでいる。
……なんという気まずさだろうか。
一緒に来いと言われて、そのまま食堂に向かった挙げ句、このなんとも言えない雰囲気……。
「……食べないの?」
「食べるさ。ルルリナは?」
俺の問に答えるようにスプーンをそのパイに突き刺すと、匂いが溢れ出てきて……中に入ってるのが濃厚なビーフシチューだということがわかった。
一口、二口と味わうように食べているが、ちらっと俺の方を見ると、どこか不満そうにこっちを睨む。
「……はぁ、なんであたしがあんたを誘ったのか……それが知りたいんでしょ?」
アップルパイに中々手を付けない俺のことを見かねてか、スプーンを置いて、改めて俺に向き合った。
……が、中々何も言わずに微妙な雰囲気だけが俺たちの周囲を包む。
「本当はね、あんたにお礼の一つでも言ってやろうと思ってた」
むしろ小言が口を突いて出そうな顔していてよく言う……というのは言わないようにしておいた。
余計に拗れることうけあいだったからだ。
「でも、やっぱり我慢ならないから言うけど、あんたなんであの時、自分がどんな顔してたかわかってないでしょ?」
「俺の……顔?」
あの時って言うと……カーターたちと戦った時のことか。
いきなりなにを言い出すかと思ったら……いやぐらいしか今ルルリナと話すこともないか。
「そう、あの時……勇者と戦ってた時のあんたはすごく冷たい目をしてた。
わかる? あんな普通どころじゃない、いつ死んでもおかしくないような状況でそんな目で見下されたのよ。あたしたち」
……そう、だったか。
俺は自分が本気で戦ってる時の顔なんざ全く知らなかった。
相手にどんな感情を与えているか……なんてことに興味もなかったからだ。
「戦いが終わった後、あんたはいつものことだから仕方ない……とか言うかのように諦めた表情を浮かべてたけど、当たり前じゃない。
守ってくれてるあんたがそんなふうな表情をあたしたちに向けられたら、怖いに決まってるでしょ!」
ばん、と軽く机を叩いて感情に訴えかけたルルリナの言葉で、ようやく俺はなんで助けた後の奴らがあんな……恐ろしいものを見るような表情でこっちを見ていたのかがわかった。
というか……今の今まで誰も言ってくれなかったもんだから気づきもしなかった。
「あんたには確かに感謝してる。それはシャルランだって同じ。
だけどね、あんな顔されて、それでも安心する……わけないでしょ」
「……悪かった」
「謝られてもねぇ……あたしたちはあんたに救われた。
それは事実だから。だからあれよ……あの時、学校長先生に全部言わなかったことで帳消し。
それでいいよね?」
「ああ。というか……気付いてたんだな」
ルルリナの言葉は、暗に俺が『ヒュルマと関わりを持っている』ことを黙ったんだから、これで命を救われた借りは返した……そういうことだろう。
だから思わずそんな言葉が出たんだが、ルルリナは首を横に振ってそれを否定した。
「気付いて教えてくれたのはシャルラン。
言っとくけど、あの子はまだあんたのこと怖がってるから近づかないでよね」
「わかってる」
それでシャルランのところまで行って礼を言う立場じゃないことくらい、俺だってわかってるさ。
「……あたしだって本当はまだ怖い。
でも、今言わなきゃ、あんたはまた繰り返しそうだから」
「……ありがとう。ルルリナ。お前、結構強いんだな」
それは本心での言葉。
ルルリナが教えてくれなかったら、俺はずっとそれを続けていただろう。
それでも怖さをはねのけて、わざわざ伝えてくれたんだろう。
よくよく見たら机を叩いた手は、まだ震えていた。
だから、そのことには……本当に感謝しかなかった。
「別に。ほら、さっさと食べる」
「ああ、そうだな」
最初はどうかとも思ったけど、今は……今のアップルパイはいつも以上に美味しかった。
そんな気がした。
その後の展開はあっという間で、一人で訪ねてきたルルリナはそれだけ言って俺を食堂まで誘ってくれた。
……正直なところ、意外でしょうがなかった。
何しろ彼女は俺の本気を見て怯え……てはなかったが、恐れていた一人だったはずだからだ。
それなのに話がある、というのにさっぱり見当がつかない。
一体どんな話をしようとしているのか……。
――
付いてこようとしたシエラをやんわりと断り、俺はルルリナと一緒に寮一階の食堂までやってきた。
隣を歩きながらのんびりとした雰囲気……なんてことは決してなかった。
そりゃ、前のギスギスした空気ではなかったけど、気まずいのは相変わらずだ。
なんてったってここに来るまでの間、常に不機嫌な感情剥き出しで俺の前を歩いてたんだからな。
「で、何食べる?」
「あ、あー……何か甘いの、かな?」
不機嫌な割にはそういうことを聞いてくるもんだから、どういう風に接していいかわからず、つい曖昧な返答をしてしまう。
頷いたルルリナはさっさと注文しにカウンターの方まで行ってしまった。
妙に宙ぶらりんになってしまった状態でぽかんとしてしまったが、ひとまずここで黙って突っ立てるわけにはいかないだろう……とひとまずルルリナに付いていくことにした。
結局俺の方は生クリームのたっぷりと乗ったアップルパイ。
ルルリナは……なんだあれ? 初めて見るな……。
恐らくパイの一種なのには違いないが、容器の上をパイ生地で包んで焼いたように見える。
料理を受け取った俺たちは、適当なところに向かい合うように席に座り……互いに料理に手をつけずにただただ沈黙を保ったままでいる。
……なんという気まずさだろうか。
一緒に来いと言われて、そのまま食堂に向かった挙げ句、このなんとも言えない雰囲気……。
「……食べないの?」
「食べるさ。ルルリナは?」
俺の問に答えるようにスプーンをそのパイに突き刺すと、匂いが溢れ出てきて……中に入ってるのが濃厚なビーフシチューだということがわかった。
一口、二口と味わうように食べているが、ちらっと俺の方を見ると、どこか不満そうにこっちを睨む。
「……はぁ、なんであたしがあんたを誘ったのか……それが知りたいんでしょ?」
アップルパイに中々手を付けない俺のことを見かねてか、スプーンを置いて、改めて俺に向き合った。
……が、中々何も言わずに微妙な雰囲気だけが俺たちの周囲を包む。
「本当はね、あんたにお礼の一つでも言ってやろうと思ってた」
むしろ小言が口を突いて出そうな顔していてよく言う……というのは言わないようにしておいた。
余計に拗れることうけあいだったからだ。
「でも、やっぱり我慢ならないから言うけど、あんたなんであの時、自分がどんな顔してたかわかってないでしょ?」
「俺の……顔?」
あの時って言うと……カーターたちと戦った時のことか。
いきなりなにを言い出すかと思ったら……いやぐらいしか今ルルリナと話すこともないか。
「そう、あの時……勇者と戦ってた時のあんたはすごく冷たい目をしてた。
わかる? あんな普通どころじゃない、いつ死んでもおかしくないような状況でそんな目で見下されたのよ。あたしたち」
……そう、だったか。
俺は自分が本気で戦ってる時の顔なんざ全く知らなかった。
相手にどんな感情を与えているか……なんてことに興味もなかったからだ。
「戦いが終わった後、あんたはいつものことだから仕方ない……とか言うかのように諦めた表情を浮かべてたけど、当たり前じゃない。
守ってくれてるあんたがそんなふうな表情をあたしたちに向けられたら、怖いに決まってるでしょ!」
ばん、と軽く机を叩いて感情に訴えかけたルルリナの言葉で、ようやく俺はなんで助けた後の奴らがあんな……恐ろしいものを見るような表情でこっちを見ていたのかがわかった。
というか……今の今まで誰も言ってくれなかったもんだから気づきもしなかった。
「あんたには確かに感謝してる。それはシャルランだって同じ。
だけどね、あんな顔されて、それでも安心する……わけないでしょ」
「……悪かった」
「謝られてもねぇ……あたしたちはあんたに救われた。
それは事実だから。だからあれよ……あの時、学校長先生に全部言わなかったことで帳消し。
それでいいよね?」
「ああ。というか……気付いてたんだな」
ルルリナの言葉は、暗に俺が『ヒュルマと関わりを持っている』ことを黙ったんだから、これで命を救われた借りは返した……そういうことだろう。
だから思わずそんな言葉が出たんだが、ルルリナは首を横に振ってそれを否定した。
「気付いて教えてくれたのはシャルラン。
言っとくけど、あの子はまだあんたのこと怖がってるから近づかないでよね」
「わかってる」
それでシャルランのところまで行って礼を言う立場じゃないことくらい、俺だってわかってるさ。
「……あたしだって本当はまだ怖い。
でも、今言わなきゃ、あんたはまた繰り返しそうだから」
「……ありがとう。ルルリナ。お前、結構強いんだな」
それは本心での言葉。
ルルリナが教えてくれなかったら、俺はずっとそれを続けていただろう。
それでも怖さをはねのけて、わざわざ伝えてくれたんだろう。
よくよく見たら机を叩いた手は、まだ震えていた。
だから、そのことには……本当に感謝しかなかった。
「別に。ほら、さっさと食べる」
「ああ、そうだな」
最初はどうかとも思ったけど、今は……今のアップルパイはいつも以上に美味しかった。
そんな気がした。
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