上 下
75 / 415
第四節 魔人の国・探求編

第74幕 疑問と尋問

しおりを挟む
 ルーシーと兵士たちを倒した俺は、ひとまず縄でぐるぐる巻きにしてやった後、兵士たちはその場に放置。
 ルーシーだけは一緒に宿屋に連行した。

「兵士たちは良かったの?」
「あいつらは邪魔になるだけだし、勇者もいない。兵士もいないじゃぶつけるところがないからな」

 今言った事もそうだが、それ以上に兵士の方は何も話しそうにないと判断したからでもある。
 国への忠誠心に溢れていそうなのより、そういうのが薄そうなルーシーを連れて行くのが一番だと判断したというわけだ。

 そしてそのまま俺達は宿屋の方に入り、三人では多少狭いがこの際仕方あるまい。
 部屋自体はどうせ一人一部屋取ってるわけだし、これはシエラとルーシーにでも使わせればいいだろう。

「はああああ……ようやく一息つける……」
「おいおい、あまりだらしない顔をするなよな」

 部屋に入った途端、疲れたようにベッドダイブを敢行するシエラに対し、少しはそういう子供っぽいところを控えろというように咎めたのだけど、本人には全く効果がなかったようだ。

「それにしても……」

 そのまま仰向けになってぼーっと天井を見ているところを見ると、俺の話を聞くつもりは全く無いらしい。
 というか、せめて着替えてから寝転がらないと、服がしわになるだろう。

「なんでこんなところに勇者がいたんだろう?」
「それは……こいつに聞いてみないことにはなんとも言えないな」

 何を憶測したところでルーシーとその兵士たち以外がそんな理由知ってるわけがない。
 地図的には確かにイギランスの近くにはあるんだが……。

 なんにせよ、全てはルーシーが起きてからだ。
 村の連中には安全であることは伝えたし、一応ルーシーはこちらが首都の方に移送する手はずになった。
 傷ついた駐留兵達を酷使するわけにもいかないし、一般人に運ばせて万が一があっては困るといった建前もある以上、村長の方も断ることはなかった。

 むしろ俺達の申し出に歓迎してくれていたからな。
 そのかわりに兵士たちはそのまま彼らに預けることになったが、これはもう仕方のないことだろう。

 さて、兵士の事をいくら考えても仕方がない。
 ルーシーが目覚めるまでの間、適当に時間を潰すとするか……。


 ――


 しばらく各々自由な時間を過ごし、食事をして部屋に戻ると、ルーシーは目を覚ましていて……なぜか獣を見るような冷たい目で俺を見ていた。

「よう、お目覚めのようだな」
「ええ、おかげで最悪な目覚めになりましたわ。
 よくもどうもありがとう」

『よくも』の部分を随分と強調してくれたところを見ると、まだまだ心の方は折れていないようだ。
 くずはだったら多分参っていただろうと考えると、このルーシーってのは結構強い部類に入るだろうな。

 なんてのんびり考えてたらシエラの方は嫌そうに顔をしかめていて、『助けなきゃよかった』という感じが表情にあふれていた。

「どういたしまして。それで、聞きたいことがあるんだが……」
「……よくそうやって平気で返せますわね。
 それと、わたくしがそれに答えると思ってますの?」
「答えたくなければ答えなくていい」
「いいの? そういうこと言うと、何も喋らなさそうだけど……」

 俺が答えなくていいといったのが意外だったんだろう。
 シエラが思いっきり目を見開いて俺とルーシーを交互に見ていた。

 対してルーシーの方は訝しむようにこちらを見ていたが……まさかそんな返し方をされるとは思っても見なかったのだろう。

「わかっておりますの? 『答えなくていい』ということは、わたくしは一切答えないということも出来ますのよ?」
「わかっていってるさ。ただ、その場合は解放できないがな」

 まるで喋らなければずっとそのままだと言うかのように言ったが、例え話したとしても、今の状況では解放することなんて出来るわけがない。
 イギランスがこの女勇者を隠した理由……少なくともそれを知るまではなんとも言えないだろう。

「……脅しても無駄ですのよ? それでもよろしいのでしたら、どうぞお好きにしてくださいな」

 こちらの態度に開き直ったかのように笑うように鼻を一つ鳴らして、どこかそっぽを向いてしまう。

「よし、なら一つ。
 まず、なんでお前はここに来たんだ? ここには何も……まあ、畑や家畜ぐらいならいるな。
 だが他には何もないだろう。どうしてわざわざこんなところに……」
「ここは元々、わたくしを召喚した国の――イギランスの領土だと国王陛下からお伺いしましたわ。
 そしてそれを解放することこそ、アンヒュルから人を救う足がかりにされる、と」

 随分と素直に答えてくれたが、これくらいなんともないってことだろうか。
 ルーシーの言葉に反応したのは、やっぱりシエラだった。

「な、何を言ってんのよ!
 ここは昔からグランセストの領土だったのよ!?
 それをヒュルマに奪われてようやく取り戻して……ここまで復興したっていうのに、また奪うって……そういうの!?」

 勢いよく詰め寄って、まくしたてるシエラのあまりの剣幕に押されたルーシーは、縛られているその身を精一杯よじらせながら引いている。
 食ってかからんとしているシエラをなんとか抑えて、彼女が落ち着くまで宥めてやることになった。


 ――


「……ごめんなさい」

 シエラはそれだけポツリと呟いて、そのまま黙ってしまった。
 ルーシーの方もすっかり警戒してしまって迂闊なことは言えないだろうと思ったのか……それとも答えていい範囲がそれだけだったのかは知らないが、こちらの方もだんまりを決め込んでしまった。

 こうなっては仕方がない。
 元々どれだけ話してくれるかわからなかったし、むしろ一つだけでも聞けただけで十分だろう。
 後は……あまりこの手を使いたくはなかったが、一度ジパーニグに戻り、くずはや司経由で彼女から話を聞くという手だ。

 もちろん確実というわけではないし、下手をすれば俺は魔人として討伐対象にまでなるかもしれない。
 だから、あくまで行くのはジパーニグとグランセストの境目付近の村町だ。

 運が良かったら、再びセイルたちに会えるかもしれない。
 そんな淡い期待を抱いて、俺は再びジパーニグに戻ることを決意した。

 ……もっとも、シエラを説得するのに時間がかかってしまったのだが、彼女もなんとか納得してくれたようだ。
 それまでルーシーを縛ったまま、というのも無理があったから、彼女には俺の監視付きということ限定で縄を解いて行動を共にすることにした。

 おおよそ、一年越しとなるジパーニグへの帰還だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...