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第三節 英雄の道 セイル編
第52幕 少年、探求の時
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イギランスからジパーニグに戻る道中でグレリアがいなくなってから一年。
長くもあり、短くも感じる日々が過ぎて……16になった時。
授業も終わり、寮に戻る最中の出来事。
入り口には兵士が待っていたのを見て、訝しげに見るくずは。
それに気づいた兵士はこっちに近寄ってきて、王からの命令でくずはが帰ってくるのを待っていたらしい。
なんでも重要な話があるから、王城の方に一度戻ってきてほしいということだった。
「それって、あたしの信用してる人たちも一緒に連れてきていいの?」
「もちろんです。ただし、実力がある方だけお誘いいただければと思います。
駐屯所で待っておりますので、準備が整ったのであれば、いつでもお伺いください」
「……わかった」
そんなやり取りを俺とエセルカの前でした後、そのまま兵士の方は去っていった。
「二人共、というわけだから……一緒に来てくれない?」
「俺は良いけどよ、くずははそれで良いのか?」
俺の問いかけに一にも二にもなく頷いたくずはは、やけに神妙な面持ちだったように見える。
「ええ、二人が一緒に来てくれるなら心強いし……あたしも気が楽だしね」
「私は大丈夫だよ。くずはちゃん、あの時そうだったけど、弱いところあるからね」
「ちょ、ちょっと……もうそれは過ぎた話でしょ!?」
エセルカが一年前のボロ負けした時にふさぎ込んでいた時の事を思い出したのだろう。
少しからかうように笑い、それに気づいたくずはは、照れるように顔を赤くしてつりがちの目を一層つりあげて焦っている。
そうだ。あれからもうそんなに経つんだ。
グレリアがいなくなって、エセルカもしばらく弱気になっていた。
こいつはグレリアに惚れてる節があったからな。
もちろんそれは俺も同じだ。
グレリアは俺にとって、英雄だった。
いや今もあいつは英雄だ。
あの時、人であろう黒ローブを乗せた狼の魔物の群に、たった一人で立ち向かったその姿は今でも強く印象に残っている。
誰よりも雄々しく、誰よりも果敢に戦うその姿に、俺は心打たれ、同時に自分がとてつもなく情けない存在だと痛感した。
俺がもっと強ければ……魔法の勉強もきちんとしていれば、もっと有利に立ち回れていたのかも知れない。
くずはに守ると言い、俺自身もそれが出来ると思っていた。
だけどそれは――グレリアの保護下のみだったんだと、あの日司に言われた時に思い知った。
結局あの時あいつがいなかったら俺達は全員死んでいたんだから。
だから、俺は必死で研鑽を積んだ。
皆との交流も大切にしていたけど、なによりももっと強く誰よりも先に行けるように。
もっと色んな事を知って、あの日見た英雄の背中に追いつくために、何度も何度も危険を犯した。
だから――今の俺がいる。
たった一年でどこまで俺があいつに近づけたのかはわからない。
だけれど、諦めなければいつか絶対追いつく事が出来るはずだ。
あの日の後悔を、憧れを引き連れて俺は本物の英雄を目指すと決めたのだから。
それはエセルカも同じようで、俺とは違う方法だけど、自分なりに腕を磨いていたようだった。
もっとも身長の方は相変わらずちっこい――グレリア風に言うと小動物のままだったけどな。
もちろんそれはくずはにも言えることで、皆それぞれの方法であの日の自分を超える為に一生懸命の一年だった。
それがわかってるからこそ、これだけの軽口が叩けるってわけだ。
「あはは、ごめんね」
「もう……それじゃ、明日……いや、明後日からかな。
ウキョウに行けるように鳥車を手配しておくから、二人共送れないように来てね」
「明日でいいんじゃないか? 今日の夕方に手配すれば間に合わせてくれるんじゃないか?」
「……それだと兵士の人に迷惑がかかるでしょ?
それに……女の子には色々準備しなきゃならないことがあるの。察しなさい」
『これだから男は……』という声が聞こえてきそうなほど深いため息をつかれてしまう。
しっかし、男の俺に女の子の準備なんて言われてもさっぱりよくわからないんだが……。
「駄目だよ。
セイルくんはそういうの疎いんだもん……」
「ああ、そうだったわね。
汗だくでも平気で部屋にいたりするものね……」
「なっ……そんなことはないぞ。
ただ筋トレしすぎて部屋が少し汗臭くなってるだけだろ?」
……なんで二人共そんなに可哀想なものを見る目で俺を見てるんだろうか?
確かにグレリアがいなくなってから暇があったら体を鍛えたりしてたけど……最低限気を使ったはずなんだが……。
「よくグレリアもこいつと一緒の部屋にずっといれたわね」
「グレリアくんは優しいから」
妙に納得顔のエセルカとくずはは、もう諦めたとでも言うかのようにさっさと寮の中に入っていってしまった。
……どこか釈然としないが、まあいいか。
明日は休みで、行くのが明後日ってことは、明日の昼頃まではじっくりと修行に勤しむ事ができるだろう。
せっかくだ。近場の森で魔物を相手にしながら一晩でも過ごそうか。
自身を研鑽する時間はいくらあっても足りない。
少しでもグレリアに追いつくため――いや、追い越して更に先へ行くために、やれることはなんでもやらないとな。
「……よしっ」
小声で気合を入れた俺は、早速行動に移そうとウキョウへ行く準備と森へ行く準備……両方をこなす為に部屋に帰るのだった。
長くもあり、短くも感じる日々が過ぎて……16になった時。
授業も終わり、寮に戻る最中の出来事。
入り口には兵士が待っていたのを見て、訝しげに見るくずは。
それに気づいた兵士はこっちに近寄ってきて、王からの命令でくずはが帰ってくるのを待っていたらしい。
なんでも重要な話があるから、王城の方に一度戻ってきてほしいということだった。
「それって、あたしの信用してる人たちも一緒に連れてきていいの?」
「もちろんです。ただし、実力がある方だけお誘いいただければと思います。
駐屯所で待っておりますので、準備が整ったのであれば、いつでもお伺いください」
「……わかった」
そんなやり取りを俺とエセルカの前でした後、そのまま兵士の方は去っていった。
「二人共、というわけだから……一緒に来てくれない?」
「俺は良いけどよ、くずははそれで良いのか?」
俺の問いかけに一にも二にもなく頷いたくずはは、やけに神妙な面持ちだったように見える。
「ええ、二人が一緒に来てくれるなら心強いし……あたしも気が楽だしね」
「私は大丈夫だよ。くずはちゃん、あの時そうだったけど、弱いところあるからね」
「ちょ、ちょっと……もうそれは過ぎた話でしょ!?」
エセルカが一年前のボロ負けした時にふさぎ込んでいた時の事を思い出したのだろう。
少しからかうように笑い、それに気づいたくずはは、照れるように顔を赤くしてつりがちの目を一層つりあげて焦っている。
そうだ。あれからもうそんなに経つんだ。
グレリアがいなくなって、エセルカもしばらく弱気になっていた。
こいつはグレリアに惚れてる節があったからな。
もちろんそれは俺も同じだ。
グレリアは俺にとって、英雄だった。
いや今もあいつは英雄だ。
あの時、人であろう黒ローブを乗せた狼の魔物の群に、たった一人で立ち向かったその姿は今でも強く印象に残っている。
誰よりも雄々しく、誰よりも果敢に戦うその姿に、俺は心打たれ、同時に自分がとてつもなく情けない存在だと痛感した。
俺がもっと強ければ……魔法の勉強もきちんとしていれば、もっと有利に立ち回れていたのかも知れない。
くずはに守ると言い、俺自身もそれが出来ると思っていた。
だけどそれは――グレリアの保護下のみだったんだと、あの日司に言われた時に思い知った。
結局あの時あいつがいなかったら俺達は全員死んでいたんだから。
だから、俺は必死で研鑽を積んだ。
皆との交流も大切にしていたけど、なによりももっと強く誰よりも先に行けるように。
もっと色んな事を知って、あの日見た英雄の背中に追いつくために、何度も何度も危険を犯した。
だから――今の俺がいる。
たった一年でどこまで俺があいつに近づけたのかはわからない。
だけれど、諦めなければいつか絶対追いつく事が出来るはずだ。
あの日の後悔を、憧れを引き連れて俺は本物の英雄を目指すと決めたのだから。
それはエセルカも同じようで、俺とは違う方法だけど、自分なりに腕を磨いていたようだった。
もっとも身長の方は相変わらずちっこい――グレリア風に言うと小動物のままだったけどな。
もちろんそれはくずはにも言えることで、皆それぞれの方法であの日の自分を超える為に一生懸命の一年だった。
それがわかってるからこそ、これだけの軽口が叩けるってわけだ。
「あはは、ごめんね」
「もう……それじゃ、明日……いや、明後日からかな。
ウキョウに行けるように鳥車を手配しておくから、二人共送れないように来てね」
「明日でいいんじゃないか? 今日の夕方に手配すれば間に合わせてくれるんじゃないか?」
「……それだと兵士の人に迷惑がかかるでしょ?
それに……女の子には色々準備しなきゃならないことがあるの。察しなさい」
『これだから男は……』という声が聞こえてきそうなほど深いため息をつかれてしまう。
しっかし、男の俺に女の子の準備なんて言われてもさっぱりよくわからないんだが……。
「駄目だよ。
セイルくんはそういうの疎いんだもん……」
「ああ、そうだったわね。
汗だくでも平気で部屋にいたりするものね……」
「なっ……そんなことはないぞ。
ただ筋トレしすぎて部屋が少し汗臭くなってるだけだろ?」
……なんで二人共そんなに可哀想なものを見る目で俺を見てるんだろうか?
確かにグレリアがいなくなってから暇があったら体を鍛えたりしてたけど……最低限気を使ったはずなんだが……。
「よくグレリアもこいつと一緒の部屋にずっといれたわね」
「グレリアくんは優しいから」
妙に納得顔のエセルカとくずはは、もう諦めたとでも言うかのようにさっさと寮の中に入っていってしまった。
……どこか釈然としないが、まあいいか。
明日は休みで、行くのが明後日ってことは、明日の昼頃まではじっくりと修行に勤しむ事ができるだろう。
せっかくだ。近場の森で魔物を相手にしながら一晩でも過ごそうか。
自身を研鑽する時間はいくらあっても足りない。
少しでもグレリアに追いつくため――いや、追い越して更に先へ行くために、やれることはなんでもやらないとな。
「……よしっ」
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