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第二節 勇者たちとの旅路編
第51幕 さすらいの日々
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――ビギィィンッッ!
ほとんど同時と言えるだろう。剣が鈍い音を立てて俺にその衝撃の強さを伝えてくれた。
頭の――脳の中央を直撃するコース。
直感を信じるのが少しでも遅ければ、間違いなく魔方陣を使うことになっただろう、鋭く早い一撃。
伝わった衝撃から、野原のどの位置からソレが飛んできたのかはわかるが、少なくともこちらが攻撃できない範囲に更に敵が潜んでいることは間違いない。
それを証拠に、最初の一撃を皮切りに森側以外の開けた場所からこちらに向けて、音もなく姿も見えにくい何か小さいものが攻撃の為に放たれているのが、今ではよくわかる。
最初の一撃はそれこそ俺を殺すために放たれてはいたが、今はどちらかと言うと俺の行動力を削ぐのが目的のようだ。
さっきよりも集中して周囲を警戒しているおかげで殺気……というか攻撃の気配のようなものを感じた瞬間、動けてはいる。
が、明らかに攻撃範囲が違いすぎる。
近づいて倒すというのが現実的な手だが、それをする手間を考えたらどれだけ敵が潜んでいるかもわからない以上、一箇所を倒している間に別の場所に敵が~といった事態に成りかねない。
ならば――俺はそのまま森の方にその身を投げ、茂みに隠れながら移動することにした。
馬車が既にここから逃げることに成功した以上、無理にこの場に留まって戦線を維持させる必要はないと判断したのだ。
周囲で何かが壊れるような音を聞きながら、そのまま俺は身を隠しながら森の奥へと進んでいく。
すぐに道に戻ってもまた狙われるのが見えているし、かといって留まり続けるのも得策ではない。
それなら敵を少しでも長く俺が隠れたところに惹きつけられるようにするべきだろう。
馬車と合流してすぐにその攻撃が飛んでくるという事態にならないよう。
――全く知らない地形を、ただ己の勘のみで進んでいくのだった。
――◇――
グレリアが馬車から降りて道を切り拓いてくれたおかげで、俺達は次に向かう予定だった町に辿り着くことが出来た。
そのまま数日、俺達はグレリアを待つという選択を取ったのだけれど……あいつはいつまで経ってもここに来ることはなかった。
「はぁ……もう、いい加減待つの止めないか?
これ以上待っても無駄だろ」
「なっ……なに言ってんだ! あいつは必ず来る! 戻ってくる!」
「んなこと言ってもこれ以上待ってたって仕方ないだろ。
そうじゃないかな? ミシェリさん」
司は自分が正しいんだとでも言うかのように得意顔でミシェリさんの方を見る。
ここ最近ずっとこんな感じだ。
最初の頃は司の奴もグレリアを心配しているようで、普段のすぐに町に繰り出すということはしなかったのだけれど、今では前と同じようにどこかをほっつき歩いている。
司はまるでグレリアは死んだみたいなことを思っているようだけど、そんなわけがない。
グレリアの事は俺とエセルカがよく知っているあいつはこんなところでくたばる奴じゃない。
あの狼の魔物にも果敢に戦いを挑んだ男が、そう簡単にやられるわけがないんだ。
だけどそれをミシェリさんは信じていないようで……。
「そうですね。これ以上待つのはこちらとしても……」
「そんな……」
「私達の一番の任務は勇者の方々を無事に国へと送り届けることです。
いつ再び襲撃があるかもわからない今、これ以上ここに留まっておくことをグレリア君が望んでいるかどうか……」
「その通り。おれも別に意地悪でそう言ってるわけじゃない。
だけど、あれだけの数がまた襲ってきた時、おれ達だけで対処することが出来るのか?」
それを言われてしまえば何も言えない。
俺達じゃ絶対に対処出来るわけがない。
あれはグレリアがあそこまでやってくれたからなんとか出来たんだ。
何も言えなくなった俺を得意顔で見やる司には腹立たしいけど、事実は事実。
それ以上、俺の言うことを聞いてくれることはなく、次の日には町から出ていくことに。
「セイルくん……グレリアくん、絶対無事だよね?」
「当たり前だろ。あいつがそう簡単にくたばってたまるか」
「そう、だよね。きっと帰ってくるよね!」
「ああ、それか俺達が迎えにいくとか、な!」
グレリアと合流するはずの町から遠ざかっていく俺達は、そうやって励まし合ってジパーニグへと帰路についた。
あれから襲撃は一度もなかった。
それこそあの襲撃がなにか勘違いでもあったかのように。
帰りの旅路は順調に進んでいき、途中で何度か町で泊まりつつも無事にルエンジャまで辿り着くことが出来た。
その後、司とミシェリさんはウキョウに。
くずはは司と一緒に帰っていったけど、すぐにルエンジャの学園で俺達と一緒に勉強するようになった。
くずは曰く「これ以上足手まといになりたくない」とのことだ。
本当のところはわからないけど、勇者として喚ばれた子がクラスメイトになるってことでクラス中が色めきだっていたな。
その後すぐに俺とくずはが付き合ってるとか付き合っていないとか茶化される日々に突入したんだけど、俺もくずはも特に気にせず、楽しい……楽しい日々を過ごすことになった。
そして……その日々のいつも中心にいたはずのグレリアは、とうとう戻ってくることはなかった。
ほとんど同時と言えるだろう。剣が鈍い音を立てて俺にその衝撃の強さを伝えてくれた。
頭の――脳の中央を直撃するコース。
直感を信じるのが少しでも遅ければ、間違いなく魔方陣を使うことになっただろう、鋭く早い一撃。
伝わった衝撃から、野原のどの位置からソレが飛んできたのかはわかるが、少なくともこちらが攻撃できない範囲に更に敵が潜んでいることは間違いない。
それを証拠に、最初の一撃を皮切りに森側以外の開けた場所からこちらに向けて、音もなく姿も見えにくい何か小さいものが攻撃の為に放たれているのが、今ではよくわかる。
最初の一撃はそれこそ俺を殺すために放たれてはいたが、今はどちらかと言うと俺の行動力を削ぐのが目的のようだ。
さっきよりも集中して周囲を警戒しているおかげで殺気……というか攻撃の気配のようなものを感じた瞬間、動けてはいる。
が、明らかに攻撃範囲が違いすぎる。
近づいて倒すというのが現実的な手だが、それをする手間を考えたらどれだけ敵が潜んでいるかもわからない以上、一箇所を倒している間に別の場所に敵が~といった事態に成りかねない。
ならば――俺はそのまま森の方にその身を投げ、茂みに隠れながら移動することにした。
馬車が既にここから逃げることに成功した以上、無理にこの場に留まって戦線を維持させる必要はないと判断したのだ。
周囲で何かが壊れるような音を聞きながら、そのまま俺は身を隠しながら森の奥へと進んでいく。
すぐに道に戻ってもまた狙われるのが見えているし、かといって留まり続けるのも得策ではない。
それなら敵を少しでも長く俺が隠れたところに惹きつけられるようにするべきだろう。
馬車と合流してすぐにその攻撃が飛んでくるという事態にならないよう。
――全く知らない地形を、ただ己の勘のみで進んでいくのだった。
――◇――
グレリアが馬車から降りて道を切り拓いてくれたおかげで、俺達は次に向かう予定だった町に辿り着くことが出来た。
そのまま数日、俺達はグレリアを待つという選択を取ったのだけれど……あいつはいつまで経ってもここに来ることはなかった。
「はぁ……もう、いい加減待つの止めないか?
これ以上待っても無駄だろ」
「なっ……なに言ってんだ! あいつは必ず来る! 戻ってくる!」
「んなこと言ってもこれ以上待ってたって仕方ないだろ。
そうじゃないかな? ミシェリさん」
司は自分が正しいんだとでも言うかのように得意顔でミシェリさんの方を見る。
ここ最近ずっとこんな感じだ。
最初の頃は司の奴もグレリアを心配しているようで、普段のすぐに町に繰り出すということはしなかったのだけれど、今では前と同じようにどこかをほっつき歩いている。
司はまるでグレリアは死んだみたいなことを思っているようだけど、そんなわけがない。
グレリアの事は俺とエセルカがよく知っているあいつはこんなところでくたばる奴じゃない。
あの狼の魔物にも果敢に戦いを挑んだ男が、そう簡単にやられるわけがないんだ。
だけどそれをミシェリさんは信じていないようで……。
「そうですね。これ以上待つのはこちらとしても……」
「そんな……」
「私達の一番の任務は勇者の方々を無事に国へと送り届けることです。
いつ再び襲撃があるかもわからない今、これ以上ここに留まっておくことをグレリア君が望んでいるかどうか……」
「その通り。おれも別に意地悪でそう言ってるわけじゃない。
だけど、あれだけの数がまた襲ってきた時、おれ達だけで対処することが出来るのか?」
それを言われてしまえば何も言えない。
俺達じゃ絶対に対処出来るわけがない。
あれはグレリアがあそこまでやってくれたからなんとか出来たんだ。
何も言えなくなった俺を得意顔で見やる司には腹立たしいけど、事実は事実。
それ以上、俺の言うことを聞いてくれることはなく、次の日には町から出ていくことに。
「セイルくん……グレリアくん、絶対無事だよね?」
「当たり前だろ。あいつがそう簡単にくたばってたまるか」
「そう、だよね。きっと帰ってくるよね!」
「ああ、それか俺達が迎えにいくとか、な!」
グレリアと合流するはずの町から遠ざかっていく俺達は、そうやって励まし合ってジパーニグへと帰路についた。
あれから襲撃は一度もなかった。
それこそあの襲撃がなにか勘違いでもあったかのように。
帰りの旅路は順調に進んでいき、途中で何度か町で泊まりつつも無事にルエンジャまで辿り着くことが出来た。
その後、司とミシェリさんはウキョウに。
くずはは司と一緒に帰っていったけど、すぐにルエンジャの学園で俺達と一緒に勉強するようになった。
くずは曰く「これ以上足手まといになりたくない」とのことだ。
本当のところはわからないけど、勇者として喚ばれた子がクラスメイトになるってことでクラス中が色めきだっていたな。
その後すぐに俺とくずはが付き合ってるとか付き合っていないとか茶化される日々に突入したんだけど、俺もくずはも特に気にせず、楽しい……楽しい日々を過ごすことになった。
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