上 下
29 / 415
第二節 勇者たちとの旅路編

第29幕 英雄召喚

しおりを挟む
 グレリアがアストリカ学園に入学してから一年が過ぎたある日のこと。

 ジパーニグの首都ウキョウ。
 近代的な文化と中世の入り混じった町並みのルエンジャよりもより近代化が進んだ場所。
 ルエンジャでは貴族と平民の格差を生み出すために敢えて不便に作られているビルの方も、乗ってパネルを操作するだけで板が上下に移動する道具――エレベーターが設置されてあったりする、そんなところだ。

 この世界ではかなり近代的なジパーニグの首都である中央の城にて、国王クリムホルンは決断を迫られていた。

「国王様……」

 周囲で不安そうな顔をしているのは大臣や公爵などの重鎮達。
 更にその後ろに控える兵士たちも皆、一様に顔が固くなっていて、緊張しているように見える。

 それも当然のことだろう。
 この半月前に魔王と思しき力を持ったアンヒュルの出現。
 それに伴いアンヒュルたちの勢力は活性化していたからだ。

 まだジパーニグの方には被害は出ておらず、軍事国家であるシンアロルの田舎周辺と魔法王国のナッチャイスの田舎の方に被害が出始めているという報告が上がってきている。
 このままでは、ここジパーニグの方に被害が及ぶのも時間の問題。
 活気づいたアンヒュル達が攻め入ってきて、国に影響が出る前に対抗策を練り上げなくてはならないのだ。

 最も、それは本音ではないだろうが。
 少なくとも国としての対応は大まか言えばそんな感じだ。

 ……そして、どういった方法を取るかは既に決まっている。
 むしろ最初からこれ以外の選択肢など、存在するのか?
 というほど当たり前な選択――【英雄召喚】だ。

「新たな英雄を呼ぶしかあるまい」

 その一言で周囲の人達の雰囲気は華やいだ。
 自分たちの時代に【英雄召喚】を行い、新たな英雄を呼ぶ――。
 それは一種のステイタスのようなものであり、新たな恩恵を得られる絶好の機会なのである。

 国王の方もそれがわかっているのだが……それ以上に彼は不安になっているたのだ。
 何しろ国内で【英雄召喚】をあつかれる程の使い手は、ちょうど四人しかいない。

 つまり、ただ一人だけでも欠けてしまえば、もしくは一人だけでもついてこれなかったら、その魔法は失敗し、暴発する。
 最悪、他の国に借りを作る羽目になりかねないのだ。
 そういう重圧がのしかかってきたからこその悩んだ表情なのであった。

「魔道士たちの準備は?」
「はい。すぐにでも行動がお超えるように、既に英霊の間にて待機中でございます」

 ゆったりとしたローブを着込んだ初老の男性が臣下の礼を取りながら報告してきたことに。

 ――英霊の間とは歴代の英雄たちを呼び寄せた場所であり、例えアンヒュルから襲撃を受けたときでも避難所として扱えるように頑丈に作られている……いつの時代であっても安心して英雄たちを呼び寄せることが出来るところだ。

 国王は神妙な表情をして頷いた後、立ち上がってバッ、っと手を大きく掲げた。

「それでは、これより【英雄召喚】を執り行う! デンセル、クロンクは私と共に付いてまいれ!」
「「ははっ!」」

 デンセルとよばれた先程の初老の男と、クロンクとよばれた公爵の男は片膝を付いて臣下の礼を取ったかと思うと、国王と共に英霊の間へと向かう。
 そこには既に四人の魔道士が、地面に描かれたの上に立っていた。
 これは召喚陣と呼ばれているものであり、アンヒュルたちの使う魔方陣とは違うものである、と彼らは認識している。

「全員、準備は良いか?」

 四人の魔道士の顔を順々に見回し、それぞれの決意を確かめる。
 その後、彼らはその魔方陣に己の魔力を注ぎ込む。自身が正しいと思っているやり方で。

「王よ、無事英雄はやってくるのでしょうか?」
「わからぬ。失敗した事例も確かに存在するからな。その時は――」

 その時は間違いなく暴発し、魔道士の誰かが命を落とす。
 その言葉を国王はグッと飲み込み、ただ静かに見守ることにした。ここで不吉なことを言ってしまえば、それが確かなものになってしまうと思ったのだろう。

 魔方陣が淡く光りはじめ、その光は徐々に強く輝いていき――魔道士の中でも一番力を持つ、白髪の男性が言葉を紡ぎ出す。

「我らが魔力を捧げることで生み出されし召喚陣よ。我らが願いを叶え給え。異世界よりこの世界を救いし者……今こそこの場に顕現せよ! 【英雄召喚】!!」

 力強い言葉とともに放たれた魔法は、とうとう目が開けていられないほどの強い光を放ったかと思うと……徐々に光が止んで、二人の男女が姿を現した。

 男の方はこげ茶色の髪に似たような目の……若干軽薄そうな少年。一体何が起きたのかときょろきょろ周囲を見回していて、国王の方に目がいくと、不思議そうにはしていたものの、非常に嬉しそうな様子だ。

 対する女の方は夕焼けのような茜色の髪をしていて、短くまとめている。目が少し釣り上がっていて、ちょっと勝ち気な印象を受ける少女だ。
 こっちの方は不機嫌そうな目で戸惑いながら周りを見回していたが、国王たちを見つけた途端、より一層不機嫌そうになる。

「よくいらっしゃいました英雄方。いや、貴方達風に言えば勇者と言えばよいのでしょう。
 どうぞこちらに。ここがどういった場所か、あなた方がなぜここにいるのか……詳しく説明いたしましょう」

 二人が機嫌を損ねないように下手に出る国王に対し、少年はまるで何が起きるのかわかってるかのように愉快そうに。
 少女は不服だが現状を知りたくて仕方なく……と言った様子で案内を受けることになった。

 ――そうして勇者と呼ばれた英雄二人は、新しくジパーニグに迎え入れられることになった。
 そして、これが新しい物語の始まりを告げることになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...