聖黒の魔王

灰色キャット

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第10章・聖黒の魔王

300・魔王様、集結する

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 それからしばらくお茶やお菓子を楽しんでいると、一人……また一人と魔王の面々が集まってきて、最後にセツキが来た時点でようやくフラフを除いた全員が集合した。

 彼女はそもそもここには来ないという返事を受けていたから、仕方ないだろう。
 あの時は戦後すぐ、ということで出席したらしいけど……元々私の下についているような形だから、と断られてしまったというわけだ。

「どうやら俺様が最後のようだな」

 なんて言いながらセツキはにやっと不敵に笑って部屋に入り、どっかりと腰を降ろした。
 後ろにはカザキリとコクヅキを控えさせているようで……どうやらオウキの方は今回セツオウカに留守番のようだ。

 ……まあ、向こうは国の再建がかなり進んでいるとはいえ、まだまだ復興中と言ったところだし、むしろよく来れたというべきか。
 パーラスタのせいで一つの都市がほぼ壊滅してしまい、ラスキュス女王との戦いの爪痕が未だ深いということだろう。

「……全員揃ったことだし、始めるとしましょうか」

 しばらく互いに沈黙を保っていたけど、ここは私が切り出さないといけないだろう。
 そう思って声を上げると、一斉に視線が私の方に向く。
 というかこの空気……明らかに私に色々と押し付けるようなものを感じる。

「えー……手紙に書いた通り、ヒューリ王による被害と彼の手に入れていた領土が大体把握できたから今回集まってもらったわ。
 まず領土の分配だけど……南東地域はセツキに。南西・西地域と中央セントラルのそちら側よりの領土は基本的に私が。
 中央セントラルでも北地域に隣接している部分はフワロークとマヒュムでそれぞれ話し合って分けてちょうだい。
 最後に……中央セントラルの中心とも言えるクレドラルを保有しているドラフェルトは北側の領土を収縮して、その分別方向の土地を――」
「ちょっと待った」

 私がなるべく纏めながら今回の結論を口にしていると、早速抗議気味の声がフワロークから上がった。
 大体予想通りで、次に何を言うかも大まかだが予測出来る。

「ドラフェルトは前の戦いでこっちに戦いを挑んできたのに……それはちょっと通らないんじゃないかな?」
「そうね。貴女たちは直に国土を侵略されたんだから、もっと厳しく……そういうことでしょう?」
「う、うん。攻められたこちら側からしたら、ドラフェルトがほとんど何もなかったかのように領土を拡大させる……というのは少し間違いなんじゃないかと思うんだけど?」

 確かに、これはフワロークの言う通りだ。
 レイクラドが目立った功績あげなければ私だってもっと厳しくやっていた。
 それこそ北地域にレイクラド王を含め、竜人族全体で責任を取らせることが正しいこととも言えるだろう。

 だけれど、彼はこちら側に加勢してくれたし、レイクラドがいなければ南西地域の私たちの国は、もっと酷い状況だっただろう。
 その事も考えて出した結論だったのだけれど……全部言う前に頭ごなしに否定されたこともあってか、少し私はイラッとしてしまった。

「だけど、ヒューリ王との一戦で彼が空中を制してくれたからこそ、私たちは被害を少なくすることが出来た。
 あの戦争の功労者の一人として数えても十分だと判断したわ」
「あたしもそれはわかってる。だからクレドラルをドラフェルトの国だと認めた。
 それだけで十分なんじゃない?」

 フワロークは本当に納得いかないのだろう。
 下手をしたら彼女の国はレイクラドに攻め滅ぼされていたかもしれない……それこそが彼女にとっての事実なのだから。

 それでも、全部言う前に遮るなんて真似が許されるというわけでもないのだけれど。

「フワローク、少し落ち着いた方がいい。このままでは話が進みませんよ?」

 マヒュムが静かにフワロークを諭すと、渋々というかのように引き下がってしまった。
 ものすごく文句を言いたそうな目で私の事を見ているけど、一瞬……喧嘩に負けた子どもみたいな顔をしていると思ってしまうと、不思議と落ち着くことが出来た。

 ここは冷静に話し合いをする場所で、感情をぶつけ合う場所じゃないのだから。

「こほん……フワロークの言うことも尤もだけれど、レイクラドのおかげで援軍を送ることも出来たし、戦争の被害も、全体的に抑えることが出来た。
 だからこそ、イルデルの支配していた領域を新しいドラフェルトの領土にしようと思ってるわ」

 私がそれを最後まで言うと、フワロークの方は若干驚いた表情をした後……まだ少しなにか言いたい素振りを見せたけど、結局それは言わずじまいにした。

 それもそうだ。
 イルデルの……ということは私が今まで放置してきた領土をレイクラドに渡す、という形になるからだ。
 私自身が全く管理していなかったせいで、恐らくあそこはかなり酷いことになっているだろう。

 だけど作物を育てる土壌はきちんとあるし、しっかりと管理できるのなら暮らしてはいけるだろう。

 ……問題は、報告によるとかなり荒れ果てている、ということだ。
 しばらくは復興に終始する必要もあるし、ある意味セツオウカ以上に復興は大変かもしれない。

 本当はもう少しまともな領土を与えたかったけど、それをしたら今度はフワロークだけじゃなく、マヒュムもこぞって文句を言っていただろう。

 対してここであればすぐに使うことも出来ず、うまくすれば、ドラフェルトとの交易でお金儲けをすることだって出来る。
 安易に否定するよりも、どう利用するか考えたほうが都合がいい……ということで二人共納得したのだろう。

 うまく行けばただ領土を手に入れる以上の収穫を得られるかもしれないんだしね。

 というか、むしろ今回完全に割を喰らった形になったのはフェーシャなんだけど……彼は今のままでいいということだったから、その分を私の方に割り振って、ケルトシルにはこちら側が交易である程度優遇するという形になった。

 ……私の方もそうなんだけど、フェーシャも今回の領土を貰ったって飛び地になることは目に見えている。
 ただ、こちらはどうしても西地域を抑えて置かなければならなかったから、支配領域が地続きになるように采配しただけだ。

 それに、なんだかんだ言って一番得をしているのは北地域側なのだから文句を言うのも筋違いだ。
 セツキのところはもぬけの殻となったスロウデルにスライムたちが戻っていくことはいいとしても、セツオウカが受けた傷は未だ深い。

 私のところは自分じゃ管理しきれないほどの広い領土を手にしてしまった上、西地域は毒か薬か……と言われれば猛毒だと答えざるを得ないぐらい何もない。
 最悪、食事はヒューリ王一人分を賄って、後は適当にしていい彼らのいたところだけあって、まずは土壌再生を長い目で見ながらやっていくしかないのだ。

 リアニット王の忘れ形見である子どもとリフェア王妃にはフェリアルンデをこちらの属国にするという形で国を存続させるという事を了承してもらっているし、いずれ中央セントラルの国樹がある付近は彼らに任せることになるだろう。

 そう考えたら、私が貰った領土は実質西地域だけだろう。

「それで……土地に関して、これ以上なにか言うことはあるのかしら?」
「……ない」

 フワロークも、私があそこをほったらかしにしていることは手紙で知っているし、状況だって載せてある。
 気軽に文句の言える空気ではない以上、彼女も黙らざるを得ないだろう。

 だけど視線が私に『もっと早く教えてくれれば、文句も言わなかったのに……』という感情がありありだ。
 だから人の話は最後まで聞けと言うのに……。

「それでは、次の議題を――」

 それから先はフワロークもしっかりとこちらの意見を聞いてくれるようになって、会議はスムーズに進んだ。
 時折衝突するようなこともあったけど、互いに打開策を提示したりして、最終的には折り合いをつけることに成功する。

 もちろん、どうしても無理な場合もある。
 そういう場合は一旦後回しにして、解決出来る話を出来る限り優先していく……。

 一日中話し合い、日が暮れて月が出始めた時、会議の方もようやく終わる。
 最終的には大筋合意したようなもので、これで私もずっと背負っていた肩の荷が降りた気分になった。
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