聖黒の魔王

灰色キャット

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第10章・聖黒の魔王

291・魔王様、招待状を受け取る

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 西地域への遠征を終えた私は、素早くワイバーンの手配をして、資材を搬入してもらうことにした。
 遠征部隊にはなるべく早く村としての体裁を整え、本格的に西地域を探索出来るようにしてもらいたい。
 聖黒族が最後に生きていた証……ヒューリ王が何を残したのか、探さなくてはならない。

 それがあの日、聖黒族として、全ての頂点に立つと決めた私がしなければならないことだろう。

 ……そんな事を考えながら日々を過ごしていき……いつの間にやら11の月ズーラの14の日になっていた。
 日が変わろうが月が変わろうが、戦後処理にヒューリ王が制圧していた領土の整理に、各国の魔王と再び集まるための調整やら……これは本当に終わることが出来るのだろうか? と疑問に思ってしまうほどの量の仕事をこなしていると、なにかえらくかしこまった手紙が一通届いていた。

「……なに? これ?」

 少々豪華な黒い手紙で、金色の文字で『招待状』と書かれており、裏側はしっかりと封蝋されていた。
 全く心当たりのない私はなんで招待状が届いたのか? と思って間違えたのかと結論づけようとしたのだけれど……よくよく見たら宛名には『ティファリス・リーティアス様』と書かれていて、差出人は『フェーシャ・ケルトシル』と書かれていた。

 封蝋の方も王冠の下に肉球のマークというものすごく特徴的なものだったし、よくよく見たら、これを送ってきたのがフェーシャだということはすぐわかることだったか。

 他の国に比べて、アールガルムの次に近いんだし、ワイバーンもあるんだから直接会って話せばいいのに……とも思ったのだけれど、かしこまって招待状だなんて書かれているんだし、そういう問題でもないか。

「全く、せめてどんな『招待状』なのか書いておきなさいよ……」

 なんだか微笑ましく思えるような書き方だけど、実に彼らしい手紙だ。
 それにしても……なんの招待状なんだろう?

 いざ封を切って開けてみると……それに書かれていたのはなんと【結婚式】への招待状だった。
 どうやらフェーシャとノワルが結婚するらしく、ケルトシル式の結婚式を行う為、私に手紙を出したみたいだった。

 式の予定はいくつか月をまたいだ2の月アジラの22の日に決めたのだそうだ。
 手紙の中には理由も綴られていて、どうやら222にゃんにゃんにゃんらしい。

 なんというか……実にフェーシャらしい決め方だ。
 元々彼らは語尾に『にゃ』だの『にゃん』だの付けて喋るのが特徴的だし、普段そういう風に話しているからか、手紙や重要な書類にすらそれが現れている始末だ。

「フェーシャが、ね……」

 ふと執務室から外の景色眺めると、いい感じの風が吹いてきて、太陽が暖かく世界を包んでいるように感じる。
 まさに絶好の日向ぼっこびよりと言っても過言ではないだろう。

 思えば、フェーシャと初めて会った時の印象は最悪だったなぁ……なんて思い出していた。
 あの時、確か彼はパーラスタの魔王であるフェリベル王の策略によって操られていたんだっけ。

 最初は本当に馬鹿猫って言っても差し支えないほどの酷い魔王だった。
 なんだっけ……『わがはいの【メス】ににゃるのニャ!』って言われてたんだっけか。

 今思えばとんでもない暴言を私に向かって吐いていたんだなと思う。
 あれからケルトシルの猫人族と接することになってからわかったんだけど、昔の猫人族は性別を【メス】【オス】と表していたらしい。

 だけど今はそれも時の流れとともに過去のものとなってしまい、現在はむしろ蔑称として呼ばれるようになってしまったのだとか。

【オス】っていうのはまあ……そっちの方面しか頭にない馬鹿って意味だ。
【メス】の方は……要は『お前は俺の所有物』って感じらしい。
 本当はもっと酷い意味らしいけど、私にそれを説明するのは度胸がいるとかなんとかで、ケットシーでさえ教えてくれなかった。

 まあ今ではいい思い出なのかもしれない。
 あの馬鹿猫時代のフェーシャから随分と成長したもんだ。
 これをネタにからかってやろうかなって一瞬でも思ったけど、そんなことをした瞬間、フェーシャがすごい勢いで本気の謝罪をしてきそうな光景が容易く想像出来たからやめておくことにした。

 流石に新婚さんにそんな冗談にならないことをする気は起きないというものだ。
 これは思い出の中に留めておくのが一番だろう。

 それにしても……。

「……結婚式、か」

 もちろん、リーティアスにも結婚式の作法は存在する。
 ……のだけれど、それは基本的に異性で行うものだ。

 ちなみに過去の歴史では本妻一人と後妻三人と……それぞれ結婚式をあげた馬鹿も存在するのだそうだ。
 ……その血を引いてる子孫が私なのだから、多少頭が痛くなってくるものだけれど。

 セツオウカでも独自の結婚式があって、【婚姻式】と呼ばれているらしい。
 こちらも基本的に異性と……というか、そもそも同性で結婚する場合、魔王と契約スライムのペアになるから滅多に行われないというのが本当のところだろう。

 だけど結婚式か……。
 もちろん、私にだってそういう願望くらいもっている。
 前世と言ってもいい、転生前のローランの記憶を受け継いでるとは言え、この身体も精神も、ティファリス・リーティアスという少女なのだ。

 ただ、綺麗なドレスを着て……という随分曖昧な願望だったと思う。
 子供の頃も特に男の子と遊ぶことなんてなかったし、異性で知ってると言えばお父様くらいしかいなかった。
 だからあんな漠然とした夢を見てたのかもしれない。

 どちらかと言うと、ドレス姿のお母様がすごく綺麗で、幸せそうな顔をしていたから、それに憧れていたのかもしれないな。

 今の私は昔夢見た自分とは違っているかもしれないけれど、それでも今が幸せなことには変わらない。

 それでも、フェーシャからこんなものが届いてきてしまったものだから、思わず『私も……』と意識してしまう。
 アシュルは……どう思っているのだろうか?

 もし機会があったら、一度ちゃんと聞いてみるといいかもしれない。

 ――それでもし……アシュルがやりたいと言ってくれたなら……。

 とまでは思ったのだけれど、ここで一つ、気になる事があった。
 それは、どっちがドレスを着て、どっちがスーツを着るのか? だ。

 思わず自分の胸あたりを見て、アシュルの胸を思い出す。

「……どっちかと言うと、私のほうがスーツかな」

 なんて虚しいことを思わず呟いたりしてしまったけど、よくよく考えたら別に二人共ドレスでもいいはずだと思い直した。

 まあ、そんな決まってない未来の話を考えるより、具体的な未来について考えたほうがいいだろう。

 せっかく招待状を送ってもらったのだから、なるべく行ってあげたい。
 幸い、今は11の月ズーラだ。

 結婚式は2の月アジラだし、三ヶ月後……といったところか。
 それぐらいだったらなんとか調整がつくだろう。

 リーティアスからそう遠い場所でもないし、カヅキやフェンルウに任せても問題ないだろう。
 せっかくだからアシュルとフレイアールも誘って行こう。

 後は……ベリルちゃんも連れて行った方がいいだろう。
 ここで彼女を置き去りにしたら、しばらく怒って機嫌を損ねかねないからだ。

 結構な大所帯にはなるけど、フレイアールだったら三人くらい余裕で乗せることが出来るだろう。
 そうと決まったら、張り切って仕事をこなしていかなければならないだろう。

 なんだかんだ言ってリーティアスが滅亡の危機に瀕していたときからの長い付き合いなんだから、なんとしてでも行ってあげたい……そう、思うからだ。
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